中性子ブラッグエッジ透過分光法による 引張鉄板の歪・組織のその場観察

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第2章.材料の構造と転位論の基礎. 2-1 材料の種類と結晶構造 体心立方格子( bcc ) 稠密六方晶格子( hcp ) 面心立方格子( fcc ) Cu 、 Ag 、 Au 、 Al 、 Ni 等 Mg 、 Zn 、 Ti 等 Fe 、 Mn 、 Mo 、 Cr 、 W 、 大部分の鋼 等 充填率.
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中性子ブラッグエッジ透過分光法による 引張鉄板の歪・組織のその場観察 (中性子イメージング専門研究会 2011/1/7) 中性子ブラッグエッジ透過分光法による 引張鉄板の歪・組織のその場観察 (北海道大学)   加美山隆、佐藤博隆、鬼柳善明 (茨城大学) 岩瀬謙二 (原子力機構) ステファヌス ハルヨ,相澤 一也,高田 慎一、伊藤崇芳

ブラッグエッジ透過分光イメージング 中性子分光型ラジオグラフィ 広い空間領域上の中性子透過スペクトルを一度に測定 → スペクトルの解析により、画像上には現れない情報を非破壊で可視化する。 実際の空間と対応した結晶構造、組織、歪、核種、温度、….の分布 ブラッグエッジ透過分光イメージング  PSDを用いた透過測定により、ブラッグエッジスペクトルの2次元実空間分布が一度に測定可能。 =歪分布・結晶組織情報分布の可視化に優れる。 本研究の目的 J-PARC中性子源を用いて、実際の負荷による歪・組織の変化に関する情報 をブラッグエッジ透過法により探る。

工学材料回折装置 「匠(TAKUMI)」 J-PARC MLF BL19 工学材料回折装置「匠」 陽子ビーム出力:120kW 中性子源:高分解能型水素減速材(20K) 繰り返し周波数:12.5Hz (中性子波長7.9Å付近まで利用可能) 減速材-試料間距離(L1):40m 回折用検出器:1次元シンチレーション検出器 試料-回折用検出器間距離(L2’):2m 飛行時間チャンネル幅:5μs 引っ張り試験機をターンテーブル上に設置 透過測定用検出器:256ピクセル型 飛行時間分析幅:5μs 試料-検出器間距離(L2):0.09m(90mm) 透過測定配置 試料厚み方向の情報が得られる。 (回折配置のNorth方向と等価) スリット幅:幅20mm、高さ40mm(全開) 位置分解能:3mm×3mm 測定時間:3時間/回

測定時のセッティング状況 測定試料 鉄、厚さ5mm、幅20cm、高さ10cm 引っ張り荷重: 張力無し、張力10kN、20kN、25kN、27.5kN、 30kN、32.5kN、40kN、49kN、応力開放(20N)

フィッティングにより ブラッグエッジの位置 ~面間隔dを決定 測定された透過スペクトルの例 試料中央部の1ピクセルで得られたブラッグエッジスペクトル {211} {200} {110} フィッティングにより ブラッグエッジの位置 ~面間隔dを決定

ブラッグエッジ領域の断面積 a-Fe (BCC) @ 293.6 K 透過率の飛行時間スペクトル 全断面積 干渉性 非弾性 非干渉性 非弾性 吸収 干渉性弾性散乱断面積. 非干渉性 弾性.

ブラッグエッジ形状の詳細解析 ブラッグエッジに関係する干渉性弾性散乱断面積 結晶配向関数PhklとしてMarch- 分解能関数 結晶配向関数 一次消衰効果関数 V0:単位結晶格子の体積、dhkl:結晶格子面間隔、Fhkl:結晶構造因子、 結晶配向関数PhklとしてMarch- Dollase関数を用いると、 結晶配向一次消衰効果関数Fhklとして Sabine関数を用いると、 March-Dollase係数 R0 ‥‥ 1で等方的、1から離れるほど配向性が発達 優先方位 <HKL> ‥‥入射ビームに対しR0<1の場合は平行、 R0>1の場合は垂直 結晶子サイズKD (入射ビーム軸に沿った方向) a-Fe (BCC) simulation calculation w/o texture(R0 = 1) <110> R0 = 0.5 <211> R0 = 0.45 <111> R0 = 0.45 a-Fe (BCC) simulation calculation KD = 1 mm KD = 5 mm KD = 10 mm w/o extinction

RITSによるブラッグエッジフィッティングの例 {110}面

負荷によるブラッグエッジ位置の変化 {110}面ブラッグエッジ位置の負荷に対する変化(試料中央部の1ピクセル) 引っ張り試験機荷重による巨視的歪の変化

面間隔dの分布イメージ 荷重0kN(引っ張り試験前)の面間隔分布 {110}面 {200}面 {211}面 以降の歪は、この荷重0Nの結晶格子面間隔をd0として計算

引っ張り荷重10kN時の歪分布 {110}面 {200}面 {211}面 引っ張り試験機で 記録された巨視的な歪

引っ張り荷重20kN時の歪分布 {110}面 {200}面 {211}面 引っ張り試験機で 記録された巨視的な歪

引っ張り荷重25kN時の歪分布 {110}面 {200}面 {211}面 引っ張り試験機で 記録された巨視的な歪

引っ張り荷重27.5kN時の歪分布 {110}面 {200}面 {211}面 引っ張り試験機で 記録された巨視的な歪

引っ張り荷重30kN時の歪分布 {110}面 {200}面 {211}面 引っ張り試験機で 記録された巨視的な歪

引っ張り荷重32.5kN時の歪分布 {110}面 {200}面 {211}面 引っ張り試験機で 記録された巨視的な歪

引っ張り荷重40kN時の歪分布 {110}面 {200}面 {211}面 引っ張り試験機で 記録された巨視的な歪

引っ張り荷重49kN時の歪分布 {110}面 {200}面 {211}面 引っ張り試験機で 記録された巨視的な歪

応力開放時の歪分布 {110}面 {200}面 {211}面 引っ張り試験機で 記録された巨視的な歪

荷重0kN(引っ張り試験前)の組織情報イメージング March-Dollase係数 結晶子サイズ 面間隔分布{110}面 以降に示す歪は、この荷重0Nの結晶格子面間隔をd0として計算

引っ張り荷重10kN時の組織情報イメージング March-Dollase係数 結晶子サイズ {110}面の歪 引っ張り試験機で 記録された巨視的な歪

引っ張り荷重20kN時の組織情報イメージング March-Dollase係数 結晶子サイズ {110}面の歪 引っ張り試験機で 記録された巨視的な歪

引っ張り荷重25kN時の組織情報イメージング March-Dollase係数 結晶子サイズ {110}面の歪 引っ張り試験機で 記録された巨視的な歪

引っ張り荷重27.5kN時の組織情報イメージング March-Dollase係数 結晶子サイズ {110}面の歪 引っ張り試験機で 記録された巨視的な歪

引っ張り荷重30kN時の組織情報イメージング March-Dollase係数 結晶子サイズ {110}面の歪 引っ張り試験機で 記録された巨視的な歪

引っ張り荷重32.5kN時の組織情報イメージング March-Dollase係数 結晶子サイズ {110}面の歪 引っ張り試験機で 記録された巨視的な歪

引っ張り荷重40kN時の組織情報イメージング March-Dollase係数 結晶子サイズ {110}面の歪 引っ張り試験機で 記録された巨視的な歪

引っ張り荷重49kN時の組織情報イメージング March-Dollase係数 結晶子サイズ {110}面の歪 引っ張り試験機で 記録された巨視的な歪

応力開放時の組織情報イメージング March-Dollase係数 結晶子サイズ {110}面の歪 引っ張り試験機で 記録された巨視的な歪

RITSによるフィッティングパラメータの負荷依存性 March-Dollase係数と結晶子サイズの変化は歪とまったく異なる傾向を示す =40kNまでほぼ一定、49kNで大きく変化し、 負荷開放時にも影響が残る ⇓ <40kN:結晶粒の向きが変わらないまま 結晶格子内に歪が蓄積 >40kN:塑性変形による転位の増殖が、 結晶子サイズと結晶方位に影響

まとめ J-PARC MLF実験装置「匠」の歪実験時に得たパルス中性子透過分光 スペクトルの解析をRITSコードにより行った。 透過法による面間隔分布測定から歪分布をイメージングした結果、負荷がかかるにつれ、切り欠き位置から歪みが拡大していく様子が観察できた。また、異なる結晶面毎の歪変化も可視化できた。 March-Dollase係数と結晶子サイズは負荷40kNまでは殆ど変化せず、49kNになったとき大きく変化し、その変化は負荷開放によっても残留した。→40kNまでは歪が格子内に蓄積される。 →鉄の塑性変形により、結晶の向きや結晶子として成立する範囲の サイズが大きく変わったことを示す。 塑性変形により全体的にMarch-Dollase係数も結晶子サイズも小さくなった。 →塑性変形による格子欠陥の増加と関係する可能性がある。