T2Kオフアクシスビームによる ミューオンニュートリノ消失モードの測定

Slides:



Advertisements
Similar presentations
Belle 実験における 新型シリコン検出器を用い た低運動量粒子の検出 物理学科 渡辺研究室藤山 幸生.
Advertisements

K2K-SciBar 検出器を用いた 低エネルギーニュートリノの エネルギー・スペクトルの測 定 大阪大理 田窪洋介 他 K2K-SciBar グループ K2K 実験 SciBar 検出器 低エネルギー イベント選択 まとめ 内容.
MEG 実験全データを用いた μ + → e + γ 探索解析 金子大輔 他 MEG コラボレーション 東京大学 素粒子物理国際研究センター.
1 T2K experiment 2: T2K 前置ニュートリノ検出器での ニュートリノビーム測定 大谷 将士 ( 京都大学 ) 特定領域「フレーバー物理の新展開」研究会 1.On-axis 検出器 INGRID 2.Off-axis 検出器.
東海-神岡ニュートリノ実験 T2K 2010年8月5日 小林 隆.
HERMES Dual-Radiator RICH Detector について
タウ粒子崩壊τ-→ωπ-ντにおける セカンドクラスカレントの探索
タウ粒子崩壊τ-→ωπ-ντにおける セカンドクラスカレントの探索
科研費特定領域第二回研究会 「質量起源と超対称性物理の研究」
μ→e+γとμ→e+γ+νe+νμ を探索する
J-PARCでのニュートリノ実験 “T2K” (東海to神岡) 長基線ニュートリノ振動実験
T2K実験におけるニュートリノビームモニター(INGRID)の開発
柴田政宏(KEK) for T2K collaboration
MEG実験2009 陽電子スペクトロメータの性能評価
Determination of the number of light neutrino species
J-PARC E15実験 A search for deeply bound kaonic nuclear states
東京大学 理学系研究科 物理学専攻 吉原 圭亮 35-096116
相対論的重イオン衝突実験PHENIX におけるシミュレーションによる charm粒子測定の可能性を探る
山崎祐司(神戸大) 粒子の物質中でのふるまい.
LHC Run-2 進展状況 [1] Run-2に向けたアトラス検出器の改良 [0] Run-2 LHC
T2K-2km実験における 水チェレンコフ型前置検出器のための 有効体積キャリブレーションの研究
Super-Kamiokande –I および II における 大気ニュートリノ L/E 振動解析
T2K実験 前置検出器のための 光検出器MPPC/SiPMの性能評価
γコンバージョン事象を用いた ATLAS内部飛跡検出器の物質量評価
SK-Iにおける過去の超新星からの νflux探索 現状と展望
新型光検出器MPPCと その読み出しエレクトロニクスの開発
10MeV近傍の2H(p,pp)n反応におけるQFS断面積異常探索
論文講読 Measurement of Neutrino Oscillations with the MINOS Detectors in the NuMI Beam 2009/11/17 Zenmei Suzuki.
New Limit for the Lepton-Family-Number Nonconserving Decay μ+→e+γ
SciBooNE実験 1 実験の現状とニュートリノ反応の物理
ニュートリノ振動実験OPERAにおけるECC内のガンマ線サーチ
A Study of Low Energy Spectrum in Accelerator-based Neutrino Oscillation Experiment K2K実験における 低エネルギー・スペクトルについての研究 ’05 12/19 田窪洋介 ニュートリノ振動 K2K実験と低エネルギー・スペクトル.
FPCCDバーテックス検出器における ペアバックグラウンドの評価 4年生発表 2010/03/10 素粒子実験グループ 釜井 大輔.
Super-KamiokandeにおけるΘ13探索の現状 と JHF-SK Neutrino 実験における探索の可能性
2018年夏までの成果:ヒッグス粒子発見から精密測定へ
まとめ 素粒子実験領域、素粒子論領域合同シンポジウム “2010年代のフレーバー物理” 岡田安弘(KEK)
ATLAS実験における高速飛跡トリガーシステムの開発と構築3
MICE実験用SciFi飛跡検出器の性能評価(2)
3次元位置感応型ガンマ線検出器と それに必要なデバイス
HERMESの横偏極水素標的用磁場の影響の評価と補正
ILC実験における ヒッグス・ポータル模型での ヒッグス事象に関する測定精度の評価
ATLAS検出器におけるFake Leptonの割合と Higgs・SUSY粒子探索に与える影響の研究
OPERA原子核乾板のFLOW 名古屋大学理学研究科F研究室 M1 中塚裕司.
シミュレーションサンプルを用いた光子コンバージョン再構成
Z(mm)イベントを用いた ATLAS LVL1 Muon Trigger Systemのコミッショニング
大気上層部におけるm、陽子、 及びヘリウム流束の測定
B物理ゼミ Particle Detectors:Claus Grupen, Boris Shwartz (Particle id
Dark Matter Search with μTPC(powerd by μPIC)
SciFi を用いたΣ+p散乱実験での (ほろ苦い)思い出
ダークマター検出器の だあくまたん 低圧ガスでの動作パラメータの最適化 京大理 中村 輝石 NEWAGE 低圧ガス ラドン除去システム
K. Hiraide (Kyoto Univ.) J-PARC-n ND280m meeting December 26, 2003
2013年夏までの成果:ヒッグス粒子発見から精密測定へ
μ+N→τ+N反応探索実験の ためのシミュレーション計算
京大理 身内賢太朗 平成20年度東京大学宇宙線研究所 共同利用研究成果発表会
京大理 身内賢太朗 平成22年度東京大学宇宙線研究所 共同利用研究成果発表会
ガスの低圧化による ダークマター検出器の高感度化
Measurement of the absolute branching ratio for the dominant KL decays, the KL lifetime, and Vus with the KLOE detector 2008/11/06 Tohoku Y.Sato.
(RHIC-PHENIX実験における粒子放出の方位角異方性の測定)
京大理 身内賢太朗 平成18年度東京大学宇宙線研究所 共同利用研究成果発表会
SciBooNE実験 1 実験の現状とニュートリノ反応の物理
T2K実験前置on-axis検出器INGRID によるニュートリノビーム測定
HERMESの横偏極水素標的の 深非弾性散乱におけるハドロン 測定による Single Spin Asymmetry
2017年夏までの成果:ヒッグス粒子発見から精密測定へ
(K-, J-PARC 理化学研究所 大西 宏明.
理論的意義 at Kamioka Arafune, Jiro
2015年春までの成果:ヒッグス粒子発見から精密測定へ
Report about JPS in Okayama-University
高計数率ビームテストにおける ビーム構造の解析
KOPIO実験のための中性子不感型光子検出器の設計
τ-→π-π-π+ντ及び τ-→K-K-K+ντの崩壊分岐比の測定
Presentation transcript:

T2Kオフアクシスビームによる ミューオンニュートリノ消失モードの測定 大谷 将士(京大D3)        2012/2/22 イントロ ニュートリノ振動実験T2K νμ →νx振動モードの測定結果 まとめ

ニュートリノ質量と混合 νに質量がある場合、 フレーバー固有状態 質量 固有状態 UPMNSは牧・中川・坂田行列で、 三つの混合角θ12, θ23, θ13とCP位相δで記述される。 2

ν振動 νが飛行中に、フレーバーが変化する現象 時間発展: μ+ e+ π+ νμ νe N 2世代近似の場合、フレーバーαからβへ変化する確率は、 ν振動の測定⇒混合角θと質量二乗差Δm2の測定 3

これまでの理解と未解決問題 これまでの理解: 問題1:UPMNSと小林・益川行列(≒単位行列)の違いの理解 素粒子標準理論では理解不能で、新たな物理を切り開く鍵。 特に“最大混合”のθ23が謎。 問題2:CPは破れているのか?(δCP≠0?) 物質優勢宇宙を説明する手がかり。 δCP測定の第一歩はθ13 の探索 (下式参照) 4

T2K(Tokai-to-Kamioka)実験 νμ? νe? νμ νμ消失モード(νμ→νx)によってθ23 とΔm232 を精密測定 νe 出現モード(νμ → νe )によってθ13を探索 5

νμ→νx測定原理 Super-Kで予想されるνμ エネルギー分布 νμ→νx振動ナシ νμ→νx振動アリ ・νμ イベント数(NSK)の減少 ・νμエネルギー分布 (ΦSK)の歪み νμ→νxの測定⇒ 6

T2Kセットアップ&実験感度 π+ νμ (sub-GeV) 陽子標的 & 電磁ホーン 前置検出器 μ μモニター 118m 280m 118m 280m 295km p(30GeV) 陽子を標的に照射し、生成πを電磁ホーンで収束 μモニターで間接的にνμビームをモニター 前置検出器で生成直後のνビームを観測 後置検出器Super-Kで295km飛行後のνビームを観測 実験感度: これまでの実験から一桁以上の改善 δ(sin22θ23)~0.01, δ(Δm223)~1x10-4eV2, search (sin22θ13) > 0.006 7

感度向上の手法&キーポイント ビーム中心をSuper-Kから故意にズラす(オフアクシスビーム) オフアクシス角 θOA (2.5°に設定) ほぼ単色エネルギーのニュートリノビームを実現 Eν ピーク = 振動確率最大 バックグラウンド反応 (CC1π, NC 1π) を減少、シグナル反応(CCQE)を増加 Eν ピークがθOAに激しく依存 キーポイント: ビーム中心はT2K実験感度を左右する重要な測定。目標感度達成には1mrad精度のビーム中心の測定が必要 8

前置検出器 ニュートリノ生成点から約280m下流に2台の前置検出器 ND280 ビーム方向 Super-K方向 INGRID ND280 INGRID(Interactive Neutrino GRID) @ ビーム中心軸 ビーム中心の測定 etc. ND280 @ Super-K方向軸 イベントレートの測定 etc. 9

INGRID 目的: ビーム方向の測定・モニター 同一構造モジュール×16台から構成 ビーム中心まわり (±5m) x (±5m) をカバー 各モジュールは ~ 1m3, ~10 ton, 鉄とシンチレータートラッキングプレーンのサンドイッチ構造 VETO ±5m ν beam designed Beam center iron Tracking plane ±5m 10

νμ→νx 振動モードの測定結果 データセット INGRIDのビーム中心測定結果 ND280のイベントレート測定結果 Super-Kのνμ イベント測定結果 νμ→νx振動モードの解析方法と結果 11

データセット RUN-1(Jan. ‘10 – June ‘10) RUN-2(Nov. ‘10 – Mar. ‘11) ・最大145kW運転 ・合計POT(protons on target) = 1.4x1020 12

ビーム中心の測定@INGRID νμ ビームに同期した長い粒子飛跡をνイベントと同定 水平(垂直)モジュールでニュートリノイベントを数えて、X(Y)ビームプロファイルを再構成。 プロファイル中心のピークをビーム中心と同定。 νμ μ シンチレーター エネルギー損失 n p W± 典型的なνイベント ビームに同期した粒子飛跡を再構成 -5m +5m 0m # of events プロファイルピーク →ビーム中心 13

結果 99.6%のデータを安定して取得し、ビーム中心を測定した。 Y Profile in Apr. 2010 Monthly profile center ビーム中心は安定。要求精度1mradよりも十分良い精度の測定に成功 X direction = -0.014±0.025(stat.)±0.33(syst.) Y direction = -0.107±0.025(stat.)±0.37(syst.) 14

ND280によるイベントレートの測定 νμ νμ FGDとTPCでイベントレートを測定。 FGD: Fine Grained Detector ν標的 (有効質量= 1.6ton) ν反応点の同定 TPC: Time Projection Chamber 飛跡の再構成 曲率から運動量の測定、dE/dx測定と組み合わせてPID νμ CCイベントレート(purity~90%)を測定 15

イベントレートの測定結果 CCQE反応を仮定して再構成したニュートリノエネルギー データとMCはよく一致 データ/MC = 1.036±0.028(stat.) (syst.)±0.037(phys.) +0.042 - 0.036 16

後置検出器Super-K 41.4m 39.3m 295km飛行後のビームニュートリノを観測 大型水チェレンコフ検出器@神岡鉱山内地下1km ビームニュートリノ到達予想時間±500usecのデータ取得 Outer Detector(OD) - 50kton - 1185 PMTs Inner Detector(ID) - 11129 PMTs 41.4m Fiducial Volume(FV) - ID壁から2m - 22.5kton 39.3m 17

ニュートリノイベント@Super-K W W π± n p e-like (edgeがぼやける) μ-like CCQE反応 (シグナル) CC1π反応 (バッググラウンド) チェレンコフ リング n W μ(e) p νμ(νe) W μ(e) νμ(νe) π± Eν再構成が可能 e-like (edgeがぼやける) μ-like  νμ (νe )CCQEイベント数・エネルギーを測定 18

νμ イベント選択&結果 FCFVイベント@ビームタイミング Single μ-likeリング pμ > 200 MeV/c リングPIDの性能を保障するため 崩壊電子数 < 2 再構成できなかった π±(→μ→e) イベント除去 # of decay-e distribution Result of the νμ selection Selection # of events FCFVイベント @ビームタイミング 88 Single μ-like リング 33 pμ > 200 MeV/c 崩壊電子数 < 2 31 19

νμ→νx 振動の解析方法 Likelihood for Number of events (Poisson probability) Likelihood for the energy spectrum (product of PDF of the spectrum) Constraint on f (Gaussian of the estimated error) 20

SKでの予想イベント数:NSKexp Error[%] ν beam +4.8 -4.8 ν cross-section +4.9 -4.5 Final state interaction +6.7 -6.7 Super-K +10.3 -10.3 Near detector +6.2 -5.9 Total +15.4 -15.1 21

エネルギー分布 Reconstructed νμ energy spectrum Best fit syst. parameters データは(sin22θ23, Δm223)=(0.99, 2.6×10-3 eV2)での予想と良く一致 22

νμ→νx 振動の解析結果 Feldman-Cousins法によって90%CL intervalsを見積もった 90% confidence level contour 現行実験にならぶ高精度の測定に成功 *今回用いたデータはT2K goalの2%, MINOS(4003イベント), T2K(31イベント) 23

まとめ ν振動は素粒子標準模型の枠を超えた新現象であり、 新たな物理を切り開く鍵である。 混合角θ23の精密測定は、CKM行列とPMNS行列の違いを 理解するキーポイントである。 混合角θ13の探索は新たなCPの破れを探索するために 必要不可欠である。 長基線ニュートリノ振動実験T2K実験は、大強度オフアクシスビームによって世界最高精度のθ23測定、世界最高感度のθ13探索を目指す実験である。 T2Kは、初物理データ(2010/1~2011/3)を用いてνμ→νx振動を測定し、これまでの実験に並ぶ高精度のθ23測定に成功した。 θ13については次の講演。 24

Backup 25

イベントレート測定結果 イベントレートは統計誤差(~1.7%)の範囲内で安定 average イベントレートは統計誤差(~1.7%)の範囲内で安定 vertex and track angle of selected events データとMCで各分布はほぼ一致 Nobs/NMC= 1.06±0.001(stat.)±0.037(syst.) 26

Horizontal profile Data MC Width = 441.7cm Width = 433.2cm Vertical profile Data MC Width = 462.1cm Width = 457.0cm 27

28

展望 今後のデータ取得によって、世界最高感度δ(sin22θ23)~0.01で測定可能(もちろん、系統誤差の改善も必要) 29

30

*200kW x 1day ~ 3.7e18 31

Event selection Hit cluster Pre-selections Tracking Timing cut Reject accidental noise event Tracking Reject cosmic-ray Timing cut Reject beam induced muon Veto and fiducial volume cuts Neutrino event Efficiency @ Eν=0.6 GeV ~ 40% BG contamination = 0.4% 32

33

TPC(Time Projection Chamber) MicroMEGAS(x,y)読み出し ドリフト時間(z) →トラックを再構成 磁場(0.2T)で運動量測定 ガス中のdE/dxでμ/e識別 ビーム上流からTPC1, FGD1, TPC2, FDC2, TPC3 x z y 34

FGD(Fine Grained Detector) 184cm 1層192本 ν シンチレータートラッカーの多層構造 ν標的 & シンチレーターでのエネルギー損失から反応点付近の粒子を識別 ⇒ν反応の識別 FGD1:シンチレーター1 ton FGD2:シンチレーター0.5ton + 水0.5ton 1チャンネルのコンポーネント プラスチックシンチレーター(1cm2断面) 波長変換ファイバー MPPC 35