Daniel Roelke, Sarah Augustine, and Yesim Buyukates

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Daniel Roelke, Sarah Augustine, and Yesim Buyukates 多種競争系の根本的予測性: 大規模攪乱の影響 Fundamental Predictability in Multispecies Competition: The Influence of Large Disturbance Daniel Roelke, Sarah Augustine, and Yesim Buyukates Am. Nat.(2003), vol.162, no.5 pp.615-623 論文紹介セミナー040121 発表者:かとう

あらすじ 実際の生態系では複雑な振る舞いが殆んどない。これは撹乱のせいではないか? (1)モデル研究 (2)実験研究  ・従来の数値モデルに攪乱を加えてみた (2)実験研究  ・非撹乱・撹乱環境の両方でプランクトンを飼ってみた 撹乱によって複雑な振る舞いは(だいたい) 抑制された ⇒高い予測性の為には、撹乱を考慮する必要あり

複雑な振る舞いとカオス 二つの側面 "divergence of nearby trajectories” 初期値への鋭敏な依存性 バタフライ効果 非ランダムな要素の相互作用によって、ランダムに見える振る舞いがおきる 非周期的遷移 過去のデータから将来の予測ができない

生態系と複雑な振る舞い(1) 鋭敏な初期値依存性と非周期的遷移 生態系と複雑な振る舞い(1) 鋭敏な初期値依存性と非周期的遷移 青⇒A  黄⇒B 連続環境では、種2,4の初期バイオマスのわずかな違いが共存種を変える。また、群集遷移は一時的には非周期的であった。 (from Huisman & Weissing (2001), Am. Nat. vol. 157, pp488-494)

生態系と複雑な振る舞い(2) 理論と現実のすれ違い 生態系では、経験的証拠はほとんどない ‐‐‐‐Why? 生態系の構成要素は複雑すぎて、データのノイズで複雑な振る舞いが見えなくなる (Cushing et al. 2003) 複雑な振る舞いは、きわめて限定された条件でしかおきない (競争者の性質,資源や競争者の数,特別な関数…; Scheffer 1991他,多数) 応用生態学的分野では重要になる(はず) 保全・リスク調査・資源管理・etc.の分野では、モデルによる予測が重要 理論の上での複雑な振る舞いが、モデルによる予測を困難にする したがって、理論の上での複雑な振る舞いが、実際の系で現れる要因/抑えられる要因についての理解が必要

生態系と複雑な振る舞い(3) この研究のアプローチ(仮説) 生態系では、経験的証拠はほとんどない ‐‐‐‐Why? 生態系の構成要素は複雑すぎるため、データのノイズで複雑な振る舞いが見えなくなる 複雑な振る舞いは、きわめて限定された条件でしかおきない 複雑な振る舞いは撹乱によって抑制されるのではないか? 複雑な振る舞いは撹乱に弱いかもしれない 撹乱は多くの一般的な生態系で普遍的にみられる

研究内容 (1) 数値モデルによるシミュレーション プランクトン系について、従来のモデルと撹乱があるモデルとで結果の比較を行った。 (1) 数値モデルによるシミュレーション プランクトン系について、従来のモデルと撹乱があるモデルとで結果の比較を行った。 (2) 野外プランクトン集団の室内培養実験 プランクトンの室内マイクロコズム実験で、非撹乱環境と撹乱環境との結果を比較した

モデルの内容 藻類5種の資源競争系 [連続+パルス]で資源 流入を与えて、パルス の割合(%)を撹乱の強 さとした pulsed 藻類5種の資源競争系 [連続+パルス]で資源 流入を与えて、パルス の割合(%)を撹乱の強 さとした パルスの割合(%)と頻 度(day-1)を変えて藻類 系の動態を比較した 流入 流出

モデルの結果 0 撹乱がないと初期値への依存性は非常に鋭敏 モデルの結果 0 撹乱がないと初期値への依存性は非常に鋭敏 青⇒A  黄⇒B 撹乱の無い連続環境では、初期値のわずかな違いに対する依存性は、非常に鋭敏であった。 (from Huisman & Weissing (2001), Am. Nat. vol. 157, pp488-494)

モデルの結果 1-1 系の鋭敏な初期値依存性は、大きな撹乱によってなくなった モデルの結果 1-1 系の鋭敏な初期値依存性は、大きな撹乱によってなくなった 25% 撹乱なし (カオス的) 撹乱大 (確定的) パルスの割合が増えると、鋭敏な初期値依存性は抑制された 85% すべて3day-pulsed

モデルの結果 1-1(補足) 系の鋭敏な初期値依存性は、大きな撹乱によってなくなった モデルの結果 1-1(補足) 系の鋭敏な初期値依存性は、大きな撹乱によってなくなった 供給がパルス的になると、初期値バイオマスの大きな種がより早く資源を独占した 0% sp.2>sp.4 100% sp.4>sp.2

モデルの結果 1-2 系の鋭敏な初期値依存性は、撹乱に対してかなりロバストだった モデルの結果 1-2 系の鋭敏な初期値依存性は、撹乱に対してかなりロバストだった 25% 完全に抑さえるためには、流入の85%以上がパルスである必要があった 85%-pulsed以下では初期値への鋭敏な依存性が残った 85%

モデルの結果 2 系の非周期的遷移は、大きな撹乱によってなくなった モデルの結果 2 系の非周期的遷移は、大きな撹乱によってなくなった 種の時間交代による共存(A,B) 遷移は非周期的(=カオス的) 競争排除則に従った“古典的“な共存(C,D) 競争排除則に従った完全排除(E) 遷移は単に流入パルスの関数となっている(=非カオス的)

モデルの結果 2(補足:カオス性判定) 系の非周期的遷移は、大きな撹乱によってなくなった モデルの結果 2(補足:カオス性判定) 系の非周期的遷移は、大きな撹乱によってなくなった 3-day pulsedではストレンジアトラクタ(=カオス的) 9-day pulsedでは平衡点 アトラクタ(=非カオス的)

モデル研究のまとめ 系の鋭敏な初期値依存性は、大きな撹乱によってなくなった 系の非周期的遷移は、大きな撹乱によって(ほぼ)なくなった とはいえ、その鋭敏性は撹乱に対してかなりロバストだった 系の非周期的遷移は、大きな撹乱によって(ほぼ)なくなった とはいえ、撹乱が大きくても非周期的になることがあった。

研究内容 (1) 数値モデルによるシミュレーション プランクトン系について、従来のモデルと撹乱があるモデルとで結果の比較を行った。 (1) 数値モデルによるシミュレーション プランクトン系について、従来のモデルと撹乱があるモデルとで結果の比較を行った。 (2) 野外プランクトン集団の室内培養実験 プランクトンの室内マイクロコズム実験で、非撹乱環境と撹乱環境との結果を比較した

実験内容 連続環境と撹乱環境で、野外で採取したプランクトン集団を、それぞれ3レプリケートずつ培養した。 [撹乱なし] 連続流入 [撹乱あり] パルス(100% per 3days)

実験結果 [撹乱なし] [撹乱あり] 初期値の僅かな違いが、群集動態と種構成を大きく変えた 試行間の違いは無かった 大きく違う 違わない

実験研究のまとめ これらはモデルの予測と一致する 撹乱のない環境では、初期値に対する鋭敏な依存性(=複雑な振る舞い)がみられた 撹乱環境では、複雑な振る舞いが抑えられた これらはモデルの予測と一致する

まとめ Q. プランクトン系や一般的な生態系では、複雑な振る舞いが見られないのはなぜか? A. 断定は出来ないが、複雑な振る舞いは撹乱によって抑制される(かもしれない)。 つまり、予測のためには撹乱を考慮していく必要がある

発展 この研究で用いたモデル以外でもテストする必 要がある。 流入を操作することで、藻類ブルームが抑制で きた。(Roelke et al. 1999; Roelke 2000) この研究によって、管理的アプローチはより望ま しいものが選べるように改善されるだろう。