高エネルギー加速器研究機構/ 総合研究大学院大学 岡田安弘 2006年8月10日 日本物理学会科学セミナー

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高エネルギー加速器研究機構/ 総合研究大学院大学 岡田安弘 2006年8月10日 日本物理学会科学セミナー 素粒子標準模型の彼方 高エネルギー加速器研究機構/ 総合研究大学院大学 岡田安弘 2006年8月10日  日本物理学会科学セミナー

素粒子物理学 物質は何でできているか。 どんな力が働いているか。 宇宙はどのように始まりどう進化してきたか。 はじめの二つの答えは時代とともに変わってきた。 ビッグバン宇宙の証拠の発見により、宇宙論と素粒子物理は結びつく

内容 距離とエネルギー 4つの力とゲージ理論:素粒子標準模型 ヒッグス粒子 標準模型を超える課題   (ヒッグス、統一、宇宙)

エネルギーと距離 エネルギー ~ 1/距離 物理学の二つの原理、相対論と量子論によれば、エネルギーと距離 の間には反比例の関係がある。 エネルギー ~ 1/距離  ~陽子の質量 ~陽子の半径 

加速器の発達と素粒子物理 Livingston’s plot より細かい構造を見るためには高いエネルギーの加速器実験が必要となる。

ビッグバン宇宙と素粒子法則 ビッグバン宇宙 「距離」 「エネルギー」 「温度」 「時間」 の関係 宇宙の過去を知るには より小さな距離の 「距離」 「エネルギー」 「温度」 「時間」 の関係 宇宙の過去を知るには より小さな距離の 素粒子法則を知らなければならない。

現代の素粒子像 物質の基本はクォークとレプトン 四つの力のうち重力を除いた電磁力、強い力、弱い力はゲージ理論で表される。 1970年代に提唱され現在までいろいろな実験的な検証を受けている。 3世代分のクォークとレプトン

ゲージ力 力はゲージ粒子によって媒介される。 量子電気力学の一般化。くり込み可能性が主導原理となった。 電磁力、弱い力、強い力それぞれに対応するゲージ粒子が導入される。 ゲージ粒子 クォークやレプトン

どのようにしてこの描像に到達したか: 強い力 ラザフォード散乱(1911年) 原子核の発見 原子の中心には小さな正電荷を持った 核がある。 核力の導入 原子核は陽子と中性子でできている。 それらをクーロン反発力に抗してくっつけて いるには別の力が必要。 

湯川中間子 核力は中間子という粒子の交換によって生じる。 力の及ぶ領域は粒子の質量の反比例する。 (1934年) p 湯川中間子  核力は中間子という粒子の交換によって生じる。 力の及ぶ領域は粒子の質量の反比例する。 (1934年) p,n p 100MeV(=0.1 GeV)程度の質量の 粒子があるはず。 p 中間子の発見

強い力の理論はこれで終わりではなかった。 様々なハドロンの発見。  ストレンジネスの量子数の導入。 様々な中間子やバリオンが発見 され、もはや陽子、中性子、π中間子などは最も基本的な粒子とは考えられなくなった。 クォーク、パートン模型  ハドロンはクォークからできている。 クォークをハドロンに閉じ込めている機構は何か?

QCD の導入 強い力はSU(3) ゲージ理論である、QCDによって理解できる。 強い力: 量子色力学 (QCD) グルーオン クォーク 強い力の結合常数のエネルギー依存性 強い力: 量子色力学 (QCD) グルーオン クォーク τ粒子崩壊 反クォーク LEP LEPII 光子、Z粒子 電子 陽電子 漸近的自由の性質を示す TRISTAN 長距離では引力が強くなりクォークの閉じ込めをおこす。 Gross-Wilczek-Politzer (1973年)

どのようにしてこの描像に到達したか: 弱い相互作用 b線の発見 弱い相互作用は19世紀の終わりに元素の変換として発見される。 b 線 = 原子核からの電子線 フェルミ理論(1934年) 原子核中の中性子が陽子と電子およびニュートリノに 崩壊する。

Weak boson の交換 u d 湯川中間子と同様に 弱い相互作用も粒子の交換 で生じる。 W e 力が働く領域が狭いため。 π中間子中のクォークと反クォークはたまたま非常に近づいたときのみ 崩壊できる。そのためこの荷電π中間子の寿命は 10-6 秒程度で強い力で 崩壊する粒子より15桁ぐらい長い。 π中間子の大きさ ~10-13 cm 弱い力の及ぶ範囲 10-15cm

電弱理論 Glashow-Weinberg-Salam 電磁力と弱い力の統一理論。 SU(2) x U(1) ゲージ理論で“統一”される。 二つの重要な予言 (1)Z粒子 (弱い力を伝える中性ゲージ粒子)の存在 電磁力と弱い力をゲージ理論の枠組みで統一しようとするともうひとつゲージ粒子 を導入することが必要。 光子 (質量なし)-> 電磁力 W粒子 (質量約 80GeV, 電荷 1)-> 弱い相互作用 Z粒子 (質量約91GeV, 電荷無し)-> 新しい中性カレント相互作用  クォーク/ レプトン 反クォーク/ 反レプトン 1980年代にW、Z粒子発見 1990年代にZ粒子の大量生成実験 (LEP実験) ゲージ力の精密検証が行われた。 Z粒子 陽電子 電子

(2)ヒッグス場の存在 W 粒子やZ粒子に質量が生じるためには、ヒッグス場を導入し その場が宇宙のいたるところで一様な値を取っていると仮定する。 たとえは次のようなポテンシャルを持った場を考える。 真空中で一定の値を持つ。

素粒子の質量生成 W粒子やZ粒子はもともとは質量を持たない。しかし、ヒッグス場の中を 進むとき場と力をやり取りして遅くなる。=>質量生成 実はクォークやレプトンももともとは質量を持たないが、ヒッグス場との相互作用によって質量を獲得する。 ヒッグス機構 W 粒子、Z粒子 クォーク、レプトン W粒子に質量を持たせる唯一の理論的に正当なやり方はヒッグス機構によるもの。 くり込み理論が重要な役割を果たす。  ‘tHooft-Veltman (1971年)

標準模型の実験的検証 u,d,s e,m,n photon t (SPEAR) bottom gluon W, Z bosons quark lepton ゲージ原理 ヒッグス機構 (質量生成機構) u,d,s e,m,n photon 1970 標準模型の提案 charm (SPEAR,AGS) t (SPEAR) bottom (FNAL) gluon (PETRA) 1980 W, Z bosons ( ) gluon-coupling (TRISTAN) 1990 top (TEVATRON) gauge-interaction (SLC, LEP) 2000 CPの破れ関する 小林 益川 機構 (KEKB, PEP-II) 実験的には未検証

ヒッグス粒子 ヒッグス場の真空からの揺らぎに対応する粒子。 ヒッグス粒子  ヒッグス場の真空からの揺らぎに対応する粒子。 真空にエネルギーを集中させてやれば励起されるはず。(コライダー実験でのヒッグス粒子の生成) ヒッグス粒子がいくつあるか、その質量はいくらかは、実はよくわかっていない。最も簡単な模型の場合は中性のヒッグス粒子がひとつだけ存在するはず。 ヒッグス粒子

LHC 実験: ヒッグス粒子の発見  LHC 実験: CERNで2007年に実験開始される最高エネルギー実験。 重心系のエネルギーが14TeV(14000GeV)の陽子・陽子衝突加速器。 ヒッグス粒子の発見が主要な目的のひとつ。 ヒッグス粒子 グルーオン 陽子 陽子

ヒッグス粒子 Z 4つの電子 (陽電子)または ミュー粒子 LHC でのヒッグス粒子の発見の例 ヒッグス粒子 光子 LHC 実験では 標準模型のヒッグス粒子は必ず発見できる。

電子陽電子リニアーコライダー: ILC ヒッグスファクトリー 次世代高エネルギー加速器 International Linear Collider (ILC) 重心系エネルギー 500GeV  -> 1000 GeV (第二期) 2010年代中ごろ実験開始をめざす。 目的のひとつがヒッグス粒子を大量に作りその性質を詳しく調べる。 30-40 km

ILC実験におけるヒッグス粒子の生成と崩壊過程 ヒッグス粒子は重い粒子ほど強く結合する。なぜなら、ヒッグス場は素粒子に 質量を与える場だから。 ヒッグス生成過程 崩壊過程 =>分岐比の精密測定 

素粒子の質量生成機構の検証 ヒッグス粒子とクォーク、レプトン、 ゲージ粒子の相互作用の結合定数 を決める。 → 素粒子の質量生成機構の検証。 ILC 実験後の予想 質量と結合常数の関係 (最も簡単な模型の場合)

さらなる素粒子物理の課題 ヒッグス場は何からできているか。 力は統一されるか。 宇宙の進化と素粒子物理の関係は。 =>標準模型を超える物理の存在を示唆する。 

ヒッグス機構の背後にある物理は何か ヒッグス場が登場して、それが真空で一定値を取るにはまだ知られていない 力が関与しているはず。 超弦理論 複合ヒッグス模型 ヒッグス粒子 ~ より基本的な素粒子 超弦理論 重力子、光子、ヒッグス粒子 ヒッグス粒子はひもの一自由度 たとえば二つの考え方でヒッグス粒子はまったく違うもの。

力の統一 LEP実験などで決定された三つのゲージ結合定数をインプットにすると、超対称性というボソン フェルミオン間の対称性を導入したときのみ結合定数の大統一がおきる。 ニュートリノが小さな質量を持つことともうまく合う。(シーソー機構) 超対称性が無い場合 超対称性がある場合

宇宙のエネルギー組成 最近のWMAP衛星による宇宙背景輻射の揺らぎの精密測定により宇宙のエネルギー組成が決まった。 約2割は未知の物質(暗黒物質) 約3/4は宇宙項(暗黒エネルギー) 超対称模型では暗黒物質の候補となる粒子がある。 コライダー実験での暗黒物質を同定することが可能。

1TeV=103GeV 100 GeV 1019 GeV 弱い力 標準模型 ヒッグス物理 電磁力 強い力. 重力 大統一理論 超対称性 シーソー ニュートリノ 複合ヒッグス模型など 100 GeV 暗黒物質 物質優勢宇宙 インフレーション宇宙 宇宙項 1019 GeV 超弦理論 LHC/ILCの物理。素粒子物理のこれからの方向を決めるのに決定的な役割を果たす。

まとめ 20世紀の素粒子物理学は4つの力を理解することを中心にして進展した。素粒子標準模型は重力を除いた3つの力をゲージ力の枠組みで統一的に記述することに成功した。その際、くり込み理論が指導原理となった。 標準模型のゲージ理論の性質は実験的に検証され、素粒子模型を考えるうえで、揺るぎない原理となった。 もうひとつの原理である、ヒッグス機構はまだ実験的な検証がなされていない。そのために、LHC実験が来年から開始され、ILC実験が計画されている。 ヒッグス機構の背後にある物理は何か、力は統一されるか、宇宙の暗黒物質の正体は何かなどの問いは、標準模型を超える物理ではじめて答えが得られる。LHC実験により始まるTeVスケールの物理の探索は素粒子物理の進む方向を決める分かれ目になるはずである。