全球モデルにおける中緯度下層雲の鉛直構造の解析

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全球モデルにおける中緯度下層雲の鉛直構造の解析 第11回ヤマセ研究会 2015年2月27日 全球モデルにおける中緯度下層雲の鉛直構造の解析 気象研究所気候研究部 川合秀明

下層雲スキームの改良 Kawai (2013) GSMでは、中緯度の夏季の海上下層雲が十分に表現されていなかった。(ヤマセ現象にとっても、こうした中緯度海上下層雲の表現は極めて重要である。) 下層雲の雲頂での乾燥空気の流入の起こりやすさを判定する条件をスキームに用いることにより、これまで過剰に起きていた中緯度の下層雲の雲頂における乾燥空気の流入(、及び雲水の消散)を抑えることができ、中緯度の下層雲がより増加した。 さらに、雲水から降水への過剰な変換を抑制する(変換における雲水量の閾値を大きくする)ことで、下層雲水量(、雲量)が増加した。   →これらにより、短波放射の大きなバイアスはある程度改善された。 本発表では、GSMにおける、ヤマセ雲などの北太平洋の下層雲・移流霧の鉛直構造や、それらに対する上記のスキーム改良の影響を示す。

ISCCPの、上の雲に隠されていない部分に占める観測下層雲量 GSM下層雲量 (7月) ISCCPの、上の雲に隠されていない部分に占める観測下層雲量 これまでの現業スキーム 新下層雲スキーム [%] 新下層雲スキーム - 従来スキーム 以下、モデルデータ、観測データ共に、3年分の各月の平均を描画している。 モデルは、TL159L60。 [%] 北太平洋北部の下層雲は増加して、観測に近づいた!

大気上端上向き短波放射誤差 (7月) これまでの現業スキーム 短波放射誤差は、かなり減った。 新下層雲スキーム 大気上端上向き短波放射誤差 (7月) これまでの現業スキーム 短波放射誤差は、かなり減った。 新下層雲スキーム 新スキーム - 従来スキーム 新下層雲スキーム&qc,crit 新スキーム&qc,crit - 従来スキーム [W/m2] [W/m2]

雲の鉛直構造 7月 現業下層雲スキーム 新下層雲スキーム 新下層雲スキーム&qc,crit 雲量 雲水量 雲量は、いずれの変更でも増加 [%] [mg/kg] [hPa] 雲量は、いずれの変更でも増加 雲水量も、いずれの変更でも増加 170E−170W 平均 等値線:温位

風向きによる雲の鉛直構造の違い (雲量) 7月 現業下層雲スキーム 新下層雲スキーム&qc,crit 北よりの風 南よりの風 風向きによる雲の鉛直構造の違い (雲量) 7月 現業下層雲スキーム 新下層雲スキーム&qc,crit [hPa] 海面から離れた下層雲 よくかき混ざった混合層 改良版では、雲層の雲量が増加 (ヤマセの雲はこのタイプ) 北よりの風 海面に接した移流霧 海面近くから安定層 改良版では、北緯50°以北の雲層の雲量が増加 南よりの風 (>3m/s) 170E−170W 平均 等値線:温位 谷本ら(2006)などの船舶観測データとも整合的 [%]

冬には、移流霧はできないのか? 7月 1月 北よりの風 南よりの風 (>3m/s) 北よりの風 南よりの風 (>3m/s) 雲量 [hPa] 雲量 [%] 相対湿度 170E−170W 平均 等値線:温位 [%] 南風がちょっとくらい吹いても、難しい 改良版スキーム

移流霧の頻度は改良版ではどう変わったか 南よりの風 参考 北よりの風 (>3m/s) (>3m/s) 北太平洋 (7月) 北太平洋 (7月) [K] [%] 南大洋 (1月) [K] [%] 海面水温 第1層の雲量  (=霧の頻度) 海面水温 第1層の雲量  (=霧の頻度) 170E−170W 平均 現業下層雲スキーム 新下層雲スキーム 新下層雲スキーム&qc,crit SST 帯状平均 霧の発生頻度の変化は、新下層雲スキームではそれほど変わらないが、変換閾値を大きくすると、わずかに増加する 霧の発生頻度の変化は、統計誤差も大きく、はっきりしない

各物理過程の加熱率 (改良版スキーム) 7月 雲量 加熱率 北よりの風 南よりの風 (>3m/s) 短波放射は、雲層などで加熱 各物理過程の加熱率 (改良版スキーム) 7月 雲量 加熱率 [hPa] [hPa] 短波放射 長波放射 積雲対流 層雲過程 乱流 移流 短波放射は、雲層などで加熱 長波放射は、雲頂などで冷却 層雲過程は、雲層で加熱 乱流は、境界層内で加熱 移流は、境界層内で冷却 北よりの風 [K/day] [%] 長波放射は、雲頂・霧頂などで冷却 層雲過程は、雲層・霧層で加熱 乱流は、境界層内で冷却 移流は、大気下層で加熱 南よりの風 (>3m/s) 170E−170W ・ 38N − 48N 領域平均

各物理過程の加湿率 (改良版スキーム) 7月 雲水量 加湿率 北よりの風 南よりの風 (>3m/s) 移流は、水蒸気を減らす 各物理過程の加湿率 (改良版スキーム) 7月 雲水量 加湿率 [hPa] [hPa] 積雲対流 層雲過程 乱流 移流 移流は、水蒸気を減らす 乱流は、境界層に水蒸気を供給 層雲過程は、雲層で水蒸気を消費 北よりの風 [mg/kg] [g/kg/day] 移流は、水蒸気を供給 乱流は、霧層などに水蒸気を供給 層雲過程は、雲層・霧層で水蒸気を消費 南よりの風 (>3m/s) 170E−170W ・ 38N − 48N 領域平均

雲頂高度の検証 (現業スキームと改良版スキームを比べると、改良版スキームの方が、補正された下層雲量は増加し、観測と近い。) 165E−165W 平均 黒線:補正下層雲量 色: 雲頂相対発生頻度 雲頂高度の検証 CALIPSO 観測 JMA-GSM [m] 現業スキーム 改良版スキーム [%] 補正された下層雲量 北太平洋(7月) [m] [%] 北太平洋(1月) 補正された下層雲量 [%/240m] (現業スキームと改良版スキームを比べると、改良版スキームの方が、補正された下層雲量は増加し、観測と近い。) 雲頂高度は、改良版スキームは、北太平洋7月は現業スキームより低くなり、やや観測に近づいているが、1月では、改良版スキームは、観測に比べて低い現業スキームよりさらにやや低い傾向がある。

まとめ 北太平洋で、北風と南風の場合で分けて、生成する雲の鉛直構造を調査。 北風の場合の下層雲と、南風の場合の移流霧がはっきり表現されている。 各物理過程がどのように働いているのかも理解。 下層雲スキームの改良(Kawai 2013)の、鉛直構造に対するインパクトも調査。 中緯度海洋下層雲の雲頂高度の特徴を、CALIPSOにより観測されたデータ (Hagihara et al. 2010)と比較した。  (Kawai et al. (2014) も参考) 改良版のインパクトも調査したところ、夏は少し高すぎるのがやや改善。冬は、 低すぎるのがやや改悪。 今後 GSMの冬の下層雲の高さが低すぎるのは、改善していくべき大きな課題。

参考文献 Kawai, H., 2013: Improvement of a Stratocumulus Scheme for Mid-latitude Marine Low Clouds. CAS/JSC WGNE Research Activities in Atmospheric and Oceanic Modelling/WMO, 43, 0403-0404. Kawai, H., S. Yabu, and Y. Hagihara, 2014: The Evaluation of the Vertical Structures of Marine Boundary Layer Clouds over Mid-Latitude. CAS/JSC WGNE Research Activities in Atmospheric and Oceanic Modelling/WMO, 44, 0611-0612. Hagihara, Y., H. Okamoto, and R. Yoshida, 2010: Development of a combined CloudSat-CALIPSO cloud mask to show global cloud distribution. J. Geophys. Res., 115, D00H33, doi:10.1029/2009JD012344. 谷本陽一,時長宏樹,甲斐浩平,2006:黒潮続流域における大気直接観測,月刊海洋,44(号外),75-80.