テキスト理解,論点設定, 論述のスキルを高める アクティブ・ラーニング 寺尾 敦 青山学院大学
1.はじめに 重要なアカデミックスキル こうしたスキルの向上を目的とした授業は,どのようにデザイ ンできるだろうか? 文章を読んで理解する 論点を見出す 自分の考えを論述する こうしたスキルの向上を目的とした授業は,どのようにデザイ ンできるだろうか?
青山学院大学社会情報学部で2年生以上の学生を対象に開講さ れている「認知心理学」の授業で,アクティブ・ラーニング型 の授業を実施した. 授業の目的: (読書の習慣をつける.) テキストの内容を理解し,論点を見出し,論述を行うスキルを高める. 目的が達成できたかどうかを,学生が提出したレポートと,学 習についての質問紙調査をもとに検討した.
2.授業実践の方法 授業の構成 1回90分15週 第2回から第7回は『まぐれ』.1回の授業あたり2章あるいは3章 を扱った. 第9回から第15回は『誰のためのデザイン』.1回の授業あたり1 章を扱った.
予習:授業で扱う章を読み,レポートを作成して提出 要約 自分で論点を設定しての論述 1回の授業の構成 テキストの内容の解説 グループでのディスカッション リアクションペーパーの作成(論点を設定しての論述) テキストの内容に基づいて,そこから何らかの発展のあるディ スカッションと論述を求めた.
学生が書いた3種類のレポート(要約,論述,リアクション ペーパー)は,授業担当者によって添削され,5点満点の点数 がつけられて学生に返却された.
受講登録者は60名.ただし,実質的な受講者はせいぜい40名. 『まぐれ』を終えた第8回と,最終回の授業で,この授業での 学習に関する質問紙調査を実施した.回答者はそれぞれ36名, 両方の調査に回答したのは34名であった.
3.実践の評価 授業1回あたりの予習に費やした時間は? 大学設置基準での単位規定では1回の授業あたり4時間の授業 外学習が必要とされている. 『まぐれ』:平均3.4時間,中央値4.0時間,標準偏差1.3時間 『デザイン』:平均3.1時間,中央値3.0時間,標準偏差1.3時間 大学設置基準での単位規定では1回の授業あたり4時間の授業 外学習が必要とされている. これには平均して1時間ほど満たないものの,比較的長い時間 を授業外学習に費やしたと言える.
学習時間と3つのレポート(要約,論述,リアクションペー パー)との相関はほとんど認められなかった. RP 『まぐれ』 .24 .10 .02 『デザイン』 .08 .14 -.02
テキストのおすすめ度は?(アマゾンで星いくつ?) 『まぐれ』:平均3.4個,中央値3.5個,標準偏差0.7個 『デザイン』:平均3.9個,中央値4.0個,標準偏差0.6個 テキストとして用いたどちらの書籍も,学生には肯定的に受け 入れられたと言える.
解説ウェブを利用した?(『まぐれ』のみ) 「まったく利用しなかった」8名(22%) 「1回か2回の授業」6名(17%) 「3回か4回の授業」6名(17%) 「ほぼ毎回(全6回)」16名(44%) 3つのレポート(要約,論述,リアクションペーパー)との相 関係数はそれぞれ,.11,.23,.20であり,あまり明確な関係は 認められなかった.
ディスカッションへの関与 5件法での「まったくあてはまらない」を1点,「非常によくあては まる」を5点として点数化した. 『まぐれ』 平均 標準偏差 中央値 積極的に発言した 3.6 0.8 4.0 議論は楽しかった 3.7 0.9 自分の考えを深めることができた 3.9 他の人の発言に感心あるいは納得した 4.1
ディスカッションへの関与 5件法での「まったくあてはまらない」を1点,「非常によくあては まる」を5点として点数化した. 『デザイン』 平均 標準偏差 中央値 積極的に発言した 3.6 0.9 4.0 議論は楽しかった 3.8 自分の考えを深めることができた 0.7 他の人の発言に感心あるいは納得した 4.3 4.5
平均的には,学生はディスカッションに積極的に関与していた と言える. しかし,ディスカッションへの関与と3つのレポートの点数と の間には相関が認められなかった.
優秀なリアクションペーパーは参考になった?(『デザイン』 のみ) 6件法での「まったく参考にならなかった」を1点,「とても参考に なった」を6点として点数化した. 平均4.6点,中央値4.0点,標準偏差0.8点 ほとんどの学生は肯定的な回答であった. リアクションペーパーが参考になった程度と,リアクション ペーパーの点数とに,相関は認めらなかった.(r = -.02)
反転授業および「認知心理学」の授業評価 5件法での「まったくそう思わない」を1点,「とてもそう思う」を 5点として点数化した. 『まぐれ』 平均 標準偏差 中央値 大学では,伝統的な講義よりも,反転学習での授業を積極的に行うべきだ 3.9 0.7 4.0 反転授業を行う授業があれば,ぜひ履修したい 3.7 0.6 この認知心理学の授業を履修してよかったと思う 4.1 0.8 この認知心理学の授業を受講を後輩にすすめたい 3.4 1.0 3.0
反転授業および「認知心理学」の授業評価 5件法での「まったくそう思わない」を1点,「とてもそう思う」を 5点として点数化した. 『デザイン』 平均 標準偏差 中央値 大学では,伝統的な講義よりも,反転学習での授業を積極的に行うべきだ 3.8 0.8 4.0 反転授業を行う授業があれば,ぜひ履修したい 0.7 この認知心理学の授業を履修してよかったと思う 4.3 この認知心理学の授業を受講を後輩にすすめたい 3.7 0.9
評価の平均値は3.4から4.3であり,かなり高い値であった. 反転授業の形式,および,反転授業で行われた「認知心理学」 の授業を,学生は肯定的に評価していたと言える.
レポートの点数は向上した? 受講者ごとに,『まぐれ』でのレポートから『デザイン』でのレポー トの平均点の変化量を計算した. 変化量の母集団平均が0であるという帰無仮説の下で,有意水準を5% (両側)として,有意性検定を行った. リアクションペーパーでの変化量が有意であり,論述での変化量に有 意な傾向が見られた. レポートにはいくらかの改善が認められたと言える.ただし,採点を 行ったのは授業者なので,点数の向上にはバイアスがかかっているか もしれない.
4.考察 学生は授業を肯定的に評価しており,おおむね授業者が意図し たように学習を進めていた. しかし,レポートの点数の変化を除けば,目的とするスキルの 向上にこの授業での学習が寄与したという明確な証拠を見出す ことはできなかった.