多人数対応型地球温暖化 デモンストレーション実験機 日本科学教育学会 科学教育研究 Vol.35 No.3 pp.1-1 多人数対応型地球温暖化 デモンストレーション実験機 川村康文 田代佑太 2005 発表者:入野寿洋 東京理科大学 川村研究室
Ⅰ はじめに 地球温暖化 1997年 地球温暖化防止京都会議(COP3) →世界中で注目され続けている問題 原因 Ⅰ はじめに 地球温暖化 1997年 地球温暖化防止京都会議(COP3) →世界中で注目され続けている問題 原因 CO2をはじめとする温室効果ガスの 大気中への大量排出 CO2が温室効果ガスであるということを 児童・生徒が実験を通して確認するような 学習はなされてきたであろうか?
中学校理科 学習指導要領(H21年4月1日~) 第1・2分野共通の最終項目 「自然環境の保全と科学技術の利用」 →地球温暖化に触れることが明記 ・地球温暖化問題 ・CO2等の温室効果ガスによる温室効果 に対する学習の広がりが求められている 地球温暖化問題、温室効果ガスについて より多くの児童・生徒が効果的に 学べる教材が求められている
川村先生 地球温暖化デモンストレーション実験機 を製作、改良 問題点 実験機のそばで しかも少人数でしか 実験できない 図1 地球温暖化 デモンストレーション実験機 多人数対応型地球温暖化 デモンストレーション実験機の開発
Ⅱ 多人数対応型地球温暖化 デモンストレーション実験機 Ⅱ 多人数対応型地球温暖化 デモンストレーション実験機 1 概要 熱源 地球モデル モニター 図2 地球温暖化デモンストレーション実験機(モニタータイプ)
熱源:赤外線ランプ ランプごとに放出する熱量がばらつく →地球モデルを周囲に周回させ2つの 地球モデルが単位時間に受ける熱量を同等に 地球モデル:透明半球 ・5 Lのガラス製フラスコ2個…熱容量が異なる →透明プラスチック製の半球2個 ・穴を空けノズルを使って気体を注入 →普通の空気のままの地球モデル 温室効果ガスが充満した地球モデル
大型モニター・スクリーンを活用しホールなどの 温度計測ユニット ・0.01℃まで読み取れるデジタル温度計 →より精度の高い温度測定が可能に ・回転する実験機上の 温度計を直接読み取り 続けるのは至難の業 →無線式の車体カメラを 搭載し、数値を無線で テレビモニターに飛ばす 大型モニター・スクリーンを活用しホールなどの 広い会場でも演示が可能に 図3 温度計測ユニットの 模式図
2 地球モデル内部の温度の測定方法 ①実験機をセットし、片側の地球モデルにCO2などの温室効果ガスを注入する。 ②モーターを回転させ、両方の地球モデル 内部の温度をそろえる。 ③そろった温度を記録し、赤外線ランプの スイッチをONにし、測定を開始する。 (回転周期2~3秒) ④30秒ごとに空気とCO2の温度を記録・グラフ化していく。測定は6分程度行う。
3 測定結果の例 純度95%の実験用CO2ガスを使用 測定時間10分間 CO2が空気より 0.8℃高くなった 計測後の2つの気体の温度差は 3 測定結果の例 純度95%の実験用CO2ガスを使用 測定時間10分間 CO2が空気より 0.8℃高くなった 計測後の2つの気体の温度差は 測定の度に異なるが、 CO2が空気よりも温度が より高くなることには変わりない 図4 CO2を封入した地球モデルと普通の空気を封入した地球モデルの温度の時間変化
Ⅲ 実践報告 (1)東京理科大学オープンキャンパス 日時:2009年8月9日(日) 場所:東京理科大学 対象:高校生中心 Ⅲ 実践報告 (1)東京理科大学オープンキャンパス 日時:2009年8月9日(日) 場所:東京理科大学 対象:高校生中心 (2)東京理科大学サイエンス夢工房 日時:2009年11月22日(日) 対象:小学生・中学生など (3)こどもの理科大学 日時:2009年11月29日(日) 場所:テクノプラザかつしか 対象:小学生中心
学習指導の流れ 測定開始 ↓ ・実験内容と測定原理の説明 ・CO2の温室効果の説明 ・赤外線ランプが地球放射に対応していることを強調 ・平均気温の上昇やそれによる懸念(海面上昇や気候 システムの乱れなど)の説明 ・2つの地球モデルの温度の差を読み取ってもらう ・CO2の赤外線吸収による温室効果の説明 CO2の排出量を抑制するための試みの解説
アンケート結果(回答者数57名) 1(全くそう思わない)~5(とてもそう思う) 図5 アンケート結果 全ての質問項目で4点を超えた
図6 アンケート自由記述の一部
Ⅳ メタンガスによる温室効果実験 受講生の声 「CO2以外の温室効果ガスでも温室効果が確認できるのか?」 Ⅳ メタンガスによる温室効果実験 受講生の声 「CO2以外の温室効果ガスでも温室効果が確認できるのか?」 →CO2の代わりにメタンガスの温室効果が確認できるか確かめた 天球の違いや温度計の違いなど、他の要因を除くため、天球を入れ替えて複数回測定 →再現性が確認できた
メタンガスの温室効果も実験機で確かめられた 図7 メタンを封入した地球モデルと普通の空気を封入した地球モデルの温度の時間変化 メタンガスの方が空気よりも高い温度を示した メタンガスの温室効果も実験機で確かめられた
→ CO2を注入した地球モデルとメタンガスを 注入した地球モデルで測定 →実験機でそれが確かめられるか? → CO2を注入した地球モデルとメタンガスを 注入した地球モデルで測定 結果 メタンガスの温室 効果がCO2の21倍という結果にはならなかった →気体の寿命、比率 図8 CO2を封入した地球モデルとメタンを封入した地球モデルの温度の時間変化
Ⅴ 考察 210秒付近で 温度差がピーク ↓ 外気との熱交換が平衡状態に達するため 一番温度差が大きくなる 5分~6分で測定を終えればよい Ⅴ 考察 210秒付近で 温度差がピーク ↓ 外気との熱交換が平衡状態に達するため 図7 メタンを封入した地球モデルと普通の空気を封入した地球モデルの温度の時間変化 一番温度差が大きくなる 5分~6分で測定を終えればよい
表1 空気、CO2、メタンのモル比熱C〔JK-1mol-1〕 実験結果を熱で解釈 気体は赤外線ランプからの熱量Qを受け取り、 Q=CΔt に従って温度変化をする →気体の温度は外気との熱交換が平衡状態に達する温度に漸近 表1 空気、CO2、メタンのモル比熱C〔JK-1mol-1〕 CO2の方が空気より温度が上がりにくい 熱のやり取りでは実験結果を説明できない
赤外線…波長0.75~1000 μm (波数13000~10 cm-1)の電磁波 赤外線のエネルギーと分子の振動または回転の エネルギーが同じ領域にある →分子により赤外線が吸収される 基準振動 …分子を構成する原子が全て同じ振動数で連動して 運動する 振動数や振動形は原子の質量・幾何学的配置・ 原子間にはたらく力によって決まる 基準振動と同じ振動数で分子の電気双極子モーメント が振動する →分子の電気双極子モーメントと赤外線の電場とが 相互作用し、その結果として赤外線が吸収される
表2 二酸化炭素の基準振動
温室効果 …温室効果ガス分子が地球放射を吸収し、 再放射することで起こる (太陽放射と地球放射のバランスが 再放射することで起こる (太陽放射と地球放射のバランスが とれていれば気温は一定に保たれる) 図9 温室効果の原理
CO2の温度上昇率が大きくなった 多目的分光放射計で ・赤外線ランプのスペクトル強度 ・封入したCO2・空気の吸収スペクトル を測定 ・赤外線ランプのスペクトル強度 ・封入したCO2・空気の吸収スペクトル を測定 波長2 μm付近で赤外線吸収 ↓ 逆対称伸縮 振動の2倍振動 図10 多目的分光放射計で計測したスペクトル強度 (ガラス容器) CO2の温度上昇率が大きくなった
メタン分子はCO2より多くの基準振動をもつ →より多くの赤外線吸収が行われるため、CO2を 封入した地球モデルより温度上昇率が大きくなる 封入した地球モデルより温度上昇率が大きくなる 表3 メタンの基準振動
Ⅵ おわりに 本研究では ・メタンの温室効果を確かめられる ・温室効果についての学習を、学校教育に おいても実験を通して行える Ⅵ おわりに 本研究では ・メタンの温室効果を確かめられる ・温室効果についての学習を、学校教育に おいても実験を通して行える ・ホールなどの広い会場でも演示できる 本実験機によって学習者自らが 観察・実験をすることで、中高生が 科学と社会との関わりについて 主体的・意欲的に学ぶことが可能になる
今後の展望 ・演示実験においても生徒の活動を積極的に取り入れていく ・環境問題を扱う際には「自分たちがどう行動していくか」というところまで考えさせる