デザイン行為における 思考プロセスの視覚化方法の提案: 時系列に着目した 単語の連想関係の結合

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デザイン行為における 思考プロセスの視覚化方法の提案: 時系列に着目した 単語の連想関係の結合 北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科 永井研究室 s0750020  佐藤圭一 

背景 通常、人の思考において、連想というものは無意識的、意識的に行われるものであり、人がものを考える際に、重要な役割を果たしている デザインを考える場合も同様に、連想とデザイン行為の思考プロセスに関連があることが指摘されている 概念合成によるコンセプトのデザインと連想:概念の連想数と動作概念の役割(森田ら,印刷中)

背景 森田らは、デザインプロセスにおける発話プロトコルを分析し、単語間の連想関係の視覚化を試みている この視覚化における問題点として、単一の単語同士の連想関係のみを推定している 本来、単語というものは、文脈から生起されるものであり、他の単語との一対一の関係で生み出されるものではない

背景 思考プロセス中の言葉を相互につなげ視覚化する手法として、リンコグラフィが提案されている (Goldschmidt, 1990) ‘design move’という単位で言葉を区切り、相互に関係     あるものを結び付けている リンコグラフィを描く際には、手動で行われている 手動で描かれているので、多量のデータを視覚化するには適しているとは言えない

連想関係図 本研究では、リンコグラフィを基に、発話プロトコル内の単語を時系列に並べ、複数の単語間で連想関係にあるものを互いに結んだ図を連想関係図とした 図を描く際に、ツールを用い、図を描く工程が手動であったリンコグラフィに対し、本研究においては半自動化をした

連想関係図の描き方(1) 録音した課題中の発話を書き起こし、発話プロトコルから、“茶筌”を用いて、名詞、動詞、形容詞を抽出する 抽出した単語を時系列に並べ、発話プロトコル内での互いの連想関係を、連想概念辞書(岡本・石崎,1999)を用いて調べる 発話プロトコルを縦列と横列に並べ、同じ単語が交わる部分を線で結んでいく 6 6

連想関係図の描き方(2) 互いに連想関係にある単語が交わる部分を頂点とし、単語同士を直線で結んでいく 7 7

連想関係図 高さ 8 思考の始まり 思考の終わり 8

研究目的 デザイン行為における思考プロセスを、連想の観点から視覚化することで、人間の思考プロセスにおける特徴を探る 標準的なデザイン課題における、発話プロトコルを分析対象とする 連想関係図から読み取れる、思考プロセスにおける特徴を探索的に検討する 9

前回の実験課題 私達の生活において、自転車は馴染みのある移動手段です。近年では、自転車の持つ様々なメリットに焦点が当たり、改めて注目されるようになりました。同様に、自転車のもつデメリットもあらわれています。ここでは、そうした自転車の持つメリットやデメリットを踏まえた、人の生活のあり方を創り出す、画期的な自転車をデザインしてください。

実験方法 実験全体の教示(3分) 練習課題(20分) デザイン課題(40分) 被験者 知識科学、情報科学、材料科学を専攻する 大学院生10名 実験の目的の説明、音声を録音することへの同意 練習課題(20分) 覆面算というパズルを提示し、発話に慣れてもらうために、思考を話しながらパズルを解いてもらう デザイン課題(40分) 課題から、自転車の外観、デザインのコンセプトを考え、最終的に課題シートに記述してもらう 被験者 知識科学、情報科学、材料科学を専攻する          大学院生10名 デザイン課題において、被験者に思考を発話してもらい、それを録音したものを、書き起こして発話プロトコルとした

実験結果 -分析手法- 中心性(一つの単語と連想関係にある単語数)の時間的な変化の調査 中心性の高い語の分布により、思考の特徴が読めるのでは 課題シート中に使われている語の中心性と発話全体の中心性の比較 課題シートに使われる単語は発話の中において中心性の高い言葉から作られているのか リンクの高さ(単語がどれだけ時間的に離れた単語とつながっているのか)と、その頻度の変化の調査 通常、時間的に隣接して発話される単語ほど、連想関係が強くなり、リンクの高さは低い

考察 中心性の分析 リンクの高さの分析 中心性の高い単語が定期的に発話されている 特徴的な偏りが見られなかった 中心性の高い単語が 課題シートに記述されている 思考されたことと成果物が一致していた リンクの高さの分析 時間的に離れた距離の連想関係が少なく、距離の近いもの、より遠い距離での思考の推移が見られた

実験結果より 被験者の思考プロセスは、従来の創造的思考の研究において指摘されている、収束的思考と類似していると思われる 連想関係図からは、思考の収束や発散が読み取れる可能性がある

実験(2) 実験課題を、前回のものより思考が発散すると考えられるような課題に変更して実験を行った 課題を変更したのみで、実験手順、分析方法は以前と変えていない 被験者:1名

課題の変更 メリット、デメリットについての課題文の変更 自転車の形や機能についての言及 被験者の思考が自転車のデメリットの改善に向けられることが多く、既存の技術に目が向けられる 自転車の形や機能についての言及 今までに大きな変化がないと教示することで、そこから逸脱したものを考えようとさせるため

実験課題 私達の生活において、自転車は馴染みのある移動手段です。また、昔から現在に至るまで、その形や機能において、大きな変化はありませんでした。そこで、今後の私達の生活において、自転車の新たな位置づけがなされるような、今までにない、画期的な自転車をデザインしてください。

実験から描いた連想関係図

前回の連想関係図例(頂点表示)

結果-中心性による分析- 中心性の高い言葉は、課題(自転車)に関連したものだけではない(言葉・必要・充電) 今回の実験 前回の実験の被験者例 中心性の高い言葉は、課題(自転車)に関連したものだけではない(言葉・必要・充電) 前回の被験者と比べ、中心性にはっきりとした波がある

結果-課題シートとの中心性の比較- 表:中心性の比較 今回の被験者の課題シートと全体での中心性の平均をみると、シートの中心性のほうが倍近い 前回の実験の全被験者の平均と比べた場合、全体では中心性が低く、課題シートにおいては高くなっている

結果-高さの分析(1)- 近隣で連想関係にある言葉が少なく、遠距離で連想関係にあるものが多い

結果-高さの分析(2)- 今回の実験(上:最小を高さ1、下:最大を高さ1) 前回の実験(上:最小を高さ1、下:最大を高さ1 ) 低い 高い

結果-高さの分析(3)- リンクの高さが一番低いものを“高さ1”とした場合、高さが低いものの頻度が前回の被験者よりも、かなり低くなっている リンクの高さが一番高いものを“高さ1”としてみた場合、前回の被験者よりも高さが高いものの頻度がかなり高くなっている

考察 中心性について リンクの高さが高いものの頻度が特に高い グラフに波があり、自転車に関連する言葉以外も中心性が高かった 課題シートの中心性が、全体の中心性よりも高い 偏った思考をしていない リンクの高さが高いものの頻度が特に高い 距離の近い近隣の連想が少なく、遠距離での連想による思考の推移が見られた

まとめ・今後の展開 課題を変更したことで、被験者の思考プロセスに変化が生じたのではないかと考えられる 被験者を増やし実験を行い、前回の実験結果と比較することで、連想関係図と思考の収束や発散との関係性が見出せるのではないか 連想関係図の随時改良

参考文献 Goldschmidt, G. (1990). Linkography:Assessing design productivity. In. Trappl, R. (Ed.), Cybernetics and systems 90 (pp.291-298). Singapore: World Scientific 森田 純哉, 永井 由佳里, 田浦 俊春, 岡田 亮士. (認知科学). 概念合成によるコンセプトのデザインと連想:概念の連想数と動作概念の役割. 認知科学会 岡本 潤,石崎 俊(1999). 概念辞書の構築と概念空間の定量化: 連想実験による概念空間の抽出.『情報処理学会自然言語研究会』,13, 81–88.