高エネルギー加速器研究機構/ 総合研究大学院大学 岡田安弘 2006年6月14日 KEK総研大夏期実習

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高エネルギー加速器研究機構/ 総合研究大学院大学 岡田安弘 2006年6月14日 KEK総研大夏期実習 これからの素粒子物理学 高エネルギー加速器研究機構/ 総合研究大学院大学 岡田安弘 2006年6月14日 KEK総研大夏期実習

素粒子物理学 物質は何でできているか。 どんな力が働いているか。 宇宙はどのように始まりどう進化してきたか。 はじめの二つの答えは時代とともに変わってきた。 ビッグバン宇宙の証拠の発見により、宇宙論と素粒子物理は結びつく

エネルギーと距離 エネルギー(E) ~ 運動量(p) ~ 1/波長 (x) 相対論 量子力学 エネルギー ~ 1/距離 陽子の質量 ~ エネルギー ~ 1/距離  陽子の質量 ~ 陽子の半径 ~ 

ビッグバン宇宙と素粒子法則 ビッグバン宇宙 「距離」 「エネルギー」 「温度」 「時間」 の関係 宇宙の過去を知るには より小さな距離の 「距離」 「エネルギー」 「温度」 「時間」 の関係 宇宙の過去を知るには より小さな距離の 素粒子法則を知らなければならない。

素粒子像の変化 100 GeV ぐらいの素粒子像 素粒子標準模型 1GeV 以下の素粒子像 20世紀半ばの素粒子像 素粒子    素粒子標準模型 1GeV 以下の素粒子像 20世紀半ばの素粒子像 素粒子 陽子、中性子、π中間子 電子、ミュー粒子、ニュートリノ 力 強い相互作用 弱い相互作用 電磁相互作用 重力 光子 ゲージ粒子 (光子、W粒子、Z粒子、グルーオン) ヒッグス粒子 現代の素粒子像 素粒子 クォーク、レプトン  三つのゲージ相互作用 重力 力 湯川相互作用 ヒッグス相互作用 加速器技術の進展によって素粒子像が変化してきた。

どのようにしてこの描像に到達したか(1) 強い相互作用 1.核力の導入 原子核は陽子と中性子でできている。 それらをクーロン反発力に抗してくっつけて いるには別の力が必要。  2.湯川中間子 核力は中間子という粒子の交換によって 生じる。 p p,n p,n p 中間子の発見

現代の素粒子像 (1) b t s c d u nt t nm m ne e 物質の基本はクォークとレプトン 三世代発見されている。 現代の素粒子像 (1) 物質の基本はクォークとレプトン 三世代発見されている。 b t s c d u quark nt t nm m ne e lepton

現代の素粒子像(2) 力はゲージ粒子によって媒介される。 電磁気学の一般化 3つの相互作用の違いはゲージ理論の性質として説明できる。 強い相互作用 弱い相互作用 電磁相互作用 電弱理論 SU(2)xU(1) SU(3) gluon W, Z photon ゲージ粒子

強い相互作用はこれで終わりではなかった。 3.様々なハドロンの発見。    ストレンジネスの量子数の導入。 様々な中間子やバリオンが発見 され、もはや陽子、中性子、π中間子などは最も基本的な粒子とは考えられなくなった。 4.クォーク、パートン模型  ハドロンはクォークからできている。 クォークをハドロンに閉じ込めている機構は何か?

5.QCD の導入 強い相互作用はSU(3) ゲージ理論である、QCDによって理解できる。 強い相互作用: 量子色力学 (QCD) 強い相互作用の結合常数のエネルギー依存性 強い相互作用: 量子色力学 (QCD) グルーオン クォーク τ粒子崩壊 反クォーク LEP LEPII 光子、Z粒子 電子 陽電子 漸近的自由の性質を示す TRISTAN 長距離では引力が強くなりクォークの閉じ込めをおこす。 Gross-Wilczek-Politzer

どのようにしてこの描像に到達したか(2) 弱い相互作用 弱い相互作用は19世紀の終わりに元素の変換として発見される。 フェルミ理論 Weak boson の交換 d u W e 湯川中間子と同様に 弱い相互作用も粒子の交換 で生じる。

電弱理論の提唱 Glashow-Weinberg-Salam 電磁相互作用と弱い相互作用はSU(2) x U(1) ゲージ理論で“統一”される。 3種類のゲージ粒子の存在を予言。 ヒッグス機構 光子 (質量なし)-> 電磁相互作用 W粒子 (質量約 80GeV, 電荷 1)     -> 弱い相互作用 Z粒子 (質量約91GeV, 電荷無し)     -> 新しい中性カレント相互作用  クォーク/ レプトン 反クォーク/ 反レプトン Z粒子 1980年代にW、Z粒子発見 1990年代にZ粒子の大量生成実験 (LEP実験) ゲージ相互作用の精密検証が行われた。 陽電子 電子 ‘tHooft-Veltman

LEP実験でZ粒子のLine shape の測定 軽いニュートリノの世代数を3と決めた

標準模型の実験的検証 u,d,s e,m,n photon t (SPEAR) bottom gluon W, Z bosons quark lepton ゲージ原理 ヒッグス機構 (質量生成機構) u,d,s e,m,n photon 1970 標準模型の提案 charm (SPEAR,AGS) t (SPEAR) bottom (FNAL) gluon (PETRA) 1980 W, Z bosons ( ) gluon-coupling (TRISTAN) 1990 top (TEVATRON) gauge-interaction (SLC, LEP) 2000 CPの破れ関する 小林 益川 機構 (KEKB, PEP-II) 実験的には未検証

ヒッグス機構 標準模型では、ヒッグス場の存在を仮定。 クォーク、レプトン、W粒子、Z粒子はヒッグス場との相互作用がなければ質量を持たない。 ヒッグス場の量子としてヒッグス粒子が存在する。(現代素粒子物理の重要な予言。) ヒッグス粒子の質量、いくつあるか、本当に存在するのかなど、実はよくわかっていない。

ヒッグス機構の意義 弱い相互作用がなぜ弱いのかの理解。   物質から放出されたゲージ粒子は背景にたまっているヒッグス場との相互作用によって質量を持つので、短距離力になる。 Fermi定数と真空期待値の関係

David J. Miller (University College London) 氏の ヒッグス粒子の解説

ヒッグス粒子の質量 素粒子は質量は大きいほど、ヒッグス場との結合力は大きい。 ヒッグス粒子の質量もヒッグス場自身の自己相互作用が大きいほど大きくなる。 ヒッグスの質量は標準模型を超える物理への手がかり。 現在の実験の下限は 115 GeV (LEP 実験による)。 

ヒッグスポテンシャル 素粒子の質量公式 ヒッグス粒子 トップクォーク W粒子 Z粒子 ヒッグス場の真空期待値

LHC 実験: ヒッグス粒子の発見  LHC 実験: CERNで2007年に実験開始される最高エネルギー実験。 重心系のエネルギーが14TeV(14000GeV)の陽子・陽子衝突加速器。 ヒッグス粒子の発見が主要な目的のひとつ。 ヒッグス粒子 グルーオン 陽子 陽子 LHC実験では ヒッグス粒子の質量に関わらず発見できると期待されている。

標準模型のヒッグス粒子の分岐比     なるべく重い粒子に壊れる

LHC 実験では 標準模型のヒッグス粒子は必ず発見できる。 LHC実験(ATLAS)での ヒッグス粒子発見 LHC でのヒッグス粒子の発見の例 標準模型のヒッグス粒子 mH= 130 GeV LHC 実験では 標準模型のヒッグス粒子は必ず発見できる。

電子陽電子リニアーコライダー: ヒッグスファクトリー 次世代高エネルギー加速器 International Linear Collider (ILC) 重心系エネルギー 500GeV  -> 1000 GeV (第二期) 2010年代中ごろ実験開始をめざす。 ヒッグス粒子を大量に作りその性質を詳しく調べる。

ILC実験の主要な目的のひとつがヒッグス物理 10万個のヒッグス粒子生成 スピン、パリティーの決定 質量の精密測定 分岐比、生成断面積の精密測定 ヒッグス粒子 Z粒子 ヒッグス粒子とほかの素粒子の結合常数の決定 素粒子の質量生成機構の解明

ILC実験におけるヒッグス粒子の生成と崩壊過程 ヒッグス生成過程 崩壊過程 =>分岐比の精密測定 

素粒子の質量生成機構の検証 ヒッグス粒子とクォーク、レプトン、 ゲージ粒子の相互作用の結合定数 を決める。 → 素粒子の質量生成機構の検証。 ILC 実験後の予想 質量と結合常数の関係

さらなる素粒子物理の課題 ヒッグス場は何からできているのか。 電弱対称性の破れの原因は。 三つのゲージ力は統一されるか。(大統一理論)   電弱対称性の破れの原因は。 三つのゲージ力は統一されるか。(大統一理論)   重力とゲージ力は統一されるか。(超弦理論) ニュートリノの質量の原因は。 宇宙の進化と素粒子物理の関係は。 =>標準模型を超える物理の存在を示唆する。 

超対称性:有力な一つの可能性 ボソン フェルミオン間の対称性 相対論の一般化 超弦理論に備わっている対称性 ボソン フェルミオン間の対称性 相対論の一般化 超弦理論に備わっている対称性 超対称模型 = 超対称性を持つよう拡張した素粒子模型            超対称粒子の導入

超対称大統一理論 LEP実験などで決定された三つのゲージ結合定数をインプットにすると、超対称大統一理論のときのみ結合定数の大統一がおきる。 超対称性が無い場合 超対称性がある場合

大統一理論の特徴 三つのゲージ対称性をより大きい群で統一。SU(5), S0(10) など。 クォークとレプトンをより大きな群表現として統一。なぜ 陽子と電子の電荷の大きさが等しいかの説明。 ニュートリノが小さな質量を持つこととうまくあう。 シーソー機構。

超対称理論の検証 LHC、ILC での超対称粒子の直接探索。 LHC では 超対称粒子の質量が約2 TeV まで発見できる。 軽いヒッグス粒子の質量の上限。(135GeV 以下に存在。) Bファクトリー実験、ミュー粒子実験、電気双極子能率などに対する超対称粒子の間接的効果。 陽子崩壊実験。 などなど。

超対称粒子の直接探索 LHC LC 陽子 電子 陽電子 陽子 LHCはスクォーク・グルイーノからのカスケード崩壊。 LCは低バックグランドで精密測定可能。

素粒子論と宇宙との関係 WMAPによる宇宙背景輻射の揺らぎの観測などにより、現在の宇宙の組成が決まった。 宇宙のエネルギー組成  暗黒エネルギー 74%  暗黒物質     22%  バリオン       4% 三つとも素粒子物理にインパクトがある。

暗黒エネルギー 宇宙項の問題 観測的には 理論的には どうしたらよいかわからない。 重力の正しい定式化まで先送り?

暗黒物質 暗黒物質の候補 WIMP (weakly interacting massive particle) 安定な中性粒子  安定な中性粒子 高温で熱平衡にあったWIMPは宇宙が冷えるとともに対消滅。ある温度で対消滅の相互作用が凍結する。 対消滅の断面積が大きいほどWIMPの残存量は少ない。 ちょうど 質量が0(100)GeVだとうまくあう。 最も軽い超対称粒子は安定で、暗黒物質の有力候補になる。

コライダー実験での暗黒物質の同定 LHC実験やILC実験で暗黒物質の候補粒子を生成しその質量や相互作用の強さ を測ることによって、暗黒物質かどうかが判定できる。 暗黒物質の候補粒子

バリオン数生成 現在の宇宙のバリオン数とエントロピーの比 (元素合成時期でも同じぐらい)       (元素合成時期でも同じぐらい) 最も単純な標準模型では十分なバリオン数は作れない。(インフレーション宇宙では必ずバリオン数はどこかで作る必要あり) バリオン数生成には、(1)Bの破れ(2)CおよびCPの破れ(3)熱平衡からのはずれの3条件が必要。 実は標準模型は高温ではバリオン数は保存していない。 B-L のみが保存。 GUTスケールでバリオン数かレプトン数をつくるシナリオと電弱相転移でバリオン数を作るシナリオがある。

Leptogenesis シーソーニュートリノ模型に於けるバリオン数生成機構 宇宙初期に重いニュートリノの崩壊によってレプトン数が生じ、電弱相転移の前にバリオン数に変化する。(高温ではB+L保存しない) Leptogenesisがうまくいくインフレーション再加熱温度と 重いニュートリノの範囲 G.F.Guidice, A.Notari, M.Raidal, A.Riotto,,A.Strumia

電弱バリオン数生成 電弱相転移の時にバリオン数が生成される。 ヒッグスセクターの拡張が必要。(強い一次相転移) 100GeV付近にヒグッスセクターに関連する新粒子、新しい相互作用があるはず。

まとめ 現在の素粒子物理の最大の課題はクォーク、レプトン、ゲージ粒子の質量生成の機構を解明すること。 そのためには、ヒッグス粒子を発見し、ほかの素粒子との結合を決める必要がある。LHC 実験と将来のILC実験で実現する。 さらに高いエネルギースケールでは標準模型を超える物理が拓かれていると考える理由がある。 標準模型を超える物理の解明は、暗黒物質は何かバリオン数がどのように生成されたかなどの宇宙論の問題の解決に深い関係がある。