CO2 enrichment increases carbon

Slides:



Advertisements
Similar presentations
気候 - 海・陸炭素循環結合モデルを用い た 地球温暖化実験の結果 吉川 知里. 気候 - 海・陸炭素循環 結合モデル.
Advertisements

地球環境史(地球科学系) 現代地球科学(物理系学科)
点対応の外れ値除去の最適化によるカメラの動的校正手法の精度向上
レーダー画像のコヒーレンス解析による、地形変化個所の抽出
落葉層の厚さと実生サイズの違いが 実生の発生・定着に及ぼす影響 北畠 琢郎
格子間炭素とイエロールミネッセンスの相関について
  個人投資家向け株式分析   と予測システム A1グループ  劉 チュン.
東京23区の気温分布と リモートセンシングを用いた 緑被面積率の関係
昼ゼミ Seeing the forest for the trees: long-term exposure to elevated CO2 increases some herbivore density 著者Stiling P., Moon D., Rossi A., Hungate.
実証分析の手順 経済データ解析 2011年度.
磁気トルカ較正試験結果 宇宙機ダイナミクス研究室 D2 宮田 喜久子.
仙台管区気象台 気象防災部 地球環境・海洋課 池田 友紀子
外来植物の侵入・拡大モデル 都市社会工学科 保全生態学研究室  秋江 佳弘.
星の明るさと等級 PAOFITS WG 開発教材 <解説教材> 製作: PaofitsWG <使い方> ①「実習の方法」についての説明に使う
気候-陸域炭素循環結合モデルの開発 加藤 知道 地球環境フロンティア研究センター 22nd Sep 2005.
山口市における ヒートアイランド現象の解析
資源の空間的不均一性がプランクトン群集の共存に与える影響: 格子モデルシミュレーションによる予測
1 フッ化物は自然界に多く含まれる フッ化物は以下のものにも含まれる 土壌 植物 動物 全ての上水道.
スパッタ製膜における 膜厚分布の圧力依存性
人工ゼオライトによる 作物の生育効果に関する研究
「Constraining the neutron star equation of state using XMM-Newton」
CMIP5マルチ気候モデルにおける ヤマセに関連する大規模大気循環の 再現性と将来変化(その2)
図表で見る環境・社会 ナレッジ ボックス 第2部 環境編 2013年4月 .
動学的一般均衡モデルについて 2012年11月9日 蓮見 亮.
地球温暖化と森林 西浦 長谷川 馬場 曵地 藤田.
Bottom-UpとTop-Down アプローチの統合による 単眼画像からの人体3次元姿勢推定
共生第3(生態系)研究の構造 温帯地域 寒 帯地 域 地上観測 タワー観測 リモートセンシング 生態系モデル(Sim-CYCLE) 共生第3(生態系)研究の構造  サブ課題1 温帯地域 寒 帯地 域 地上観測 タワー観測 サブ課題2 日本 東シベリア.
第8回(山本晴彦) 光学的計測法による植物の生育診断
光環境と植物 第10回 光量と植物の生長について
海洋研究開発機構 地球環境フロンティア研究センター 河宮未知生 加藤知道・佐藤永・吉川知里
2.温暖化・大気組成変化相互作用モデル開発 温暖化 - 雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価
炭素循環モデルグループの進捗状況 吉川知里 共生2連絡会議   C. Yoshikawa.
生物情報計測学 第7回 植物の生育・水分状態の計測.
酸欠状態におかれた森林土壌の強熱減量および撥水性 ○ 小渕敦子・溝口勝・西村拓・井本博美・宮崎毅 東京大学大学院農学生命科学研究科
リモートセンシングデータによる佐鳴湖汚濁状況の把握
衛星生態学創生拠点 生態プロセス研究グループ 村岡裕由 (岐阜大学・流域圏科学研究センター).
配偶者選択による グッピー(Poecilia reticulata)の カラーパターンの進化 :野外集団を用いた研究
ソースコードの特徴量を用いた機械学習による メソッド抽出リファクタリング推薦手法
窒素が増えると樹木の 葉っぱはどうなるの?
トンネル栽培における 水消費メカニズムの解明
植物と大気汚染 ー研究の概略ー 1)大気汚染のバイオモニタ  リングへの利用 2)大気汚染物質の分解除去.
共生第二課題における 陸域生態系炭素循環モデルの研究計画 名古屋大学大学院 環境学研究科地球環境科学専攻 市井 和仁
<JP3-079> 光環境の違いに対するエゾマツとトドマツの生理・形態・器官量配分反応
三春ダムにおけるヤナギ類の生態調査プロジェクト Reseaerching Salix Subfragilis in Miharu dam
事業リスク分析をベースとした 意思決定・事業評価手法
太陽フレアと彩層底部加熱に関する 観測的研究
サブテーマ4: 混獲・漁業被害軽減手法の開発と持続型漁業の 社会経済学的評価
1.目的 サプライチェーンにおいて重要なこと ・商品のコスト ・商品の充填率 需要が予測できれば、 充填率を下げずに在庫が減らせる 在庫
文化財のデジタル保存のための 偏光を用いた透明物体形状計測手法
風害後50年間の落葉広葉樹林の林分回復過程 主要12樹種について個体数動態、胸高直径と樹高の頻度分布、 考察 はじめに 調査地と方法 結果
生態地球圏システム劇変のメカニズム 将来予測と劇変の回避
ダスト-気候-海洋系のフィードバック 河宮未知生.
ナイキストの安定判別に基づく熱音響システムの自励発振解析における発振余裕と 定常発振状態における圧力振幅の関係
北大MMCセミナー 第75回 附属社会創造数学センター主催 Date: 2017年9月28日(木) 16:30~18:00
Daniel Roelke, Sarah Augustine, and Yesim Buyukates
配偶者選択による グッピー(Poecilia reticulata)の カラーパターンの進化 :野外集団を用いた研究
大学院ガイダンス(柏キャンパス) 2011年6月11日 岸本 康宏
地球観測実習  草津白根山における 比抵抗構造探査 新谷 陽一郎   森真希子     指導教員   小河 勉 飯高 隆.
海洋研究開発機構 地球環境フロンティア研究センター 河宮未知生 吉川知里 加藤知道
風速 風向 気温・湿度 クローズドパス システムBOX 32m 積雪深 純放射量 m 地温 土壌水分量 地中 熱流量 cm 5cm ×4地点 水蒸気密度 吸気口 オープンパス 二酸化炭素濃度 三次元風速.
サハリン開発と天然ガス 新聞発表 5月14日 上野 雅史 坂中 遼平 松崎 翔太朗 河原塚 裕美 .
スケールモデルサイトにおける 「風の道」の野外実験
Effects of a thinning regime on stand growth in plantation forests using an architectural stand growth model by Yukihiro Chiba 佐野 友紀 (B3) 森林施業支援システムー多様な森林を誘導するための育林診断ー 千葉幸弘.
高地におけるγ線エアシャワー地上観測のシミュレーション
The Plant Cell, vol. 14, , February 2002
太陽光の分配1(直接光) 木本 葉群を垂直10センチ間隔のレイヤーに区切り、各葉群レイヤーの南中時における直接光を左図の要領で算出する。この南中時における光量を元に、1日の積算入射光量を推定する。 下の方の葉群レイヤーほど自己被陰の効果が強くなる。また仮想林分の境界を越えた光線は反対から方向に入射されるとした。
<PC48> エゾマツ・トドマツ稚樹群の動態に 環境条件が与える影響
エゾマツの定着に適した 倒木の条件の検討 ~4年間の生残動態による評価~
落葉広葉樹林流域における 水文特性の比較 人工針葉樹林流域と 水利環境学研究室 久田 重太.
沿道植物中のEROD活性による 大気汚染のバイオモニタリング ー研究の概略ー.
Presentation transcript:

CO2 enrichment increases carbon and nitrogen input from fine roots In a deciduous forest Iversen CM, Ledford J, Norby RJ. New Phytol 179: 837-847 (2008) 伊藤寛剛 (M1)

動機 現在、札幌FACEにて高CO2環境下における根の動態について研究中 →過去の知見が少ない分野 近年、画像解析を用いた観測手法が発達 野外で根の研究: 測定や解析が困難 →過去の知見が少ない分野 近年、画像解析を用いた観測手法が発達 →この手法を用いて、高CO2環境下の樹木の根を対象とした研究を発見!!

C貯留とN利用にどのような影響を及ぼすか? 本日のお話 高CO2環境下で樹木の細根は、土壌中の C貯留とN利用にどのような影響を及ぼすか? Oak Ridge FACEでSweetgum(モミジバフウ)の  人工林を用いた実験 地中を撮影するカメラで樹木の細根を追跡     (ミニライゾトロン法)

変動環境下(ex;大気中のCO2増加)では、 土壌にCを供給する細根の役割はますます重要に!? はじめに 細根(Fine Roots)とは? 主に直径2mm以下の根で、養水分の吸収が活発 根の中でも、炭水化物や窒素を多く含む( Guo et al., 2004; Gordon & Jackson, 2000) 葉と比べて比較的寿命が短い(数週間~数日) 陸上生態系の純生産量の1/3を占める(Jackson et al., 1997) →森林土壌は主要な炭素貯留場所 変動環境下(ex;大気中のCO2増加)では、 土壌にCを供給する細根の役割はますます重要に!?

はじめに 高CO2環境下での細根 細根の生産量が増加する(Gill & Jackson, 2000; Norby & Jackson, 2000) ターンオーバー(Turnover; 発生から枯死まで)が早い(Gill & Jackson, 2000; Norby & Jackson, 2000)

はじめに 細根のターンオーバー測定 ミニライゾトロン法 地下の成長プロセス・・・隠れていて見えない 根の成長・・・大小様々な根が複雑に枝分かれ →野外での観測が非常に困難 従来の研究: 根を採集して推定・・・観測は一度きり ミニライゾトロン法 地中に透明なチューブを埋設して、カメラで根を撮影し  画像解析を行う。非破壊なので、長期観測が可能

仮説 枯死した根が土壌へ供給するCやNの量は、 長期のCO2付加でどのような応答を示すか? 多量の細根が富栄養な有機物として供給される →土壌中で利用できるNが増加する or 細根中のCの割合が増え、土壌中のC量も増加 →土壌中でNが利用しにくくなる

材料と方法 場所: Oak Ridge FACE(USA) 期間: 1998年~2006年(9年間) 使用樹種: Sweetgum (Liquidambar styraciflua L.) CO2処理: 対照区(380ppm)×3 高CO2区(560ppm)×2 ※1998年から10年生(12m)の sweetgum にCO2付加を開始

ミニライゾトロンの設置 内径5.1cmのチューブを各サイト5本ずつ埋設 各チューブ幅12.4mm×長さ18mm×91枚撮影 4月~10月は2週に1回、    それ以外は月1回撮影 画像解析ソフトで根の    長さと直径を算出する 60° 深さ60cm

材料と方法 バイオマス量とN含量の推定 →根直径と相対関係にある(Pregitzer, 2002) 土壌コアサンプラーを用いて深さ30cmまで採集し、根を分別してスキャナーで撮影・画像解析 →総根長・体積・重量を算出し、根バイオマス量の推定式を作成 →根を直径別に分類し、N含量を測定

図2. 得られた推定式 根直径と (a)RML(根重/根長) (b)窒素含量 の関係を表す (白丸:対照区、 赤丸:高CO2区) P<0.0001 図2. 得られた推定式 根直径と (a)RML(根重/根長) (b)窒素含量 の関係を表す (白丸:対照区、 赤丸:高CO2区) r2=0.65 P<0.0001

材料と方法 処理(2段階)・深さ(4段階)で解析(ANOVA) 細根の根直径、生産量、現存量 細根のターンオーバー (=総細根枯死量/現存量の最大値) ※通常は枯死量でなく生産量を使う

結果 図1. 細根の直径と観測された割合 (白丸:対照区、赤丸:高CO2区) 9年間の画像から得られた2mm以下の細根(約14000本)のうち、99%が1mm以下 ※根直径の構成割合に、処理よる変化無し(P>0.1)

結果 処理、深さによる変化なし 根直径(P>0.08, P>0.3) RML (根重/根長)(P>0.05, P>0.05) N含量(P>0.05, P>0.05) ※細根の密度・CN比に変化なし 高CO2によって細根の生産量・現存量が2倍に増加(P<0.003, P<0.003)

結果 図3. バイオマス供給量(枯死量) (白丸:対照区、赤丸:高CO2区) 高CO2で約2倍に増(P<0.005) 年によって、枯死量の多い深さが異なる →2001年以降は30cm以下の枯死量が増加 →9年間を平均すると、深さごとの枯死量に差はない

結果 図4. 枯死細根によるN供給量 (白丸:対照区、赤丸:高CO2区) 高CO2で約2倍に増(P<0.01) 年によって、N量は変化

結果 図5. 細根のターンオーバー (白丸:対照区、赤丸:高CO2区) 高CO2で減少(P<0.05) ※2001年までは測定回数・期間が少ないため、正確に枯死量が見積もれず ・・・機器の機能上、冬季に撮影できず 高CO2で減少(P<0.05)

考察 高CO2によって細根の生産量が約2倍に増加 落葉後の細根枯死量が、全体の65%に至る年もあり ・・・札幌は積雪で大変ですが →高CO2でターンオーバーは減少したが、供給するバイオマス量及びN量は2倍に増加 落葉後の細根枯死量が、全体の65%に至る年もあり →可能な限り、冬季も撮影&撮影間隔を短くするべき!! ・・・札幌は積雪で大変ですが 冬も頑張る予定です!!

考察 高CO2によるターンオーバーの減少 →30cm以下の細根が増加したため ※深いところでは養分の環境も悪く、呼吸量も減るため、根が長生きになる! →根が深くなるほどターンオーバーが減少し、土壌へのC・Nの供給は遅れる

考察 →しかし、生産性を抑制させるわけでは無い(Norby et al., 2005など) 高CO2下で土壌へのC供給が続くと、N利用効率が低下(Luo et al., 2004) →しかし、生産性を抑制させるわけでは無い(Norby et al., 2005など) ※細根のCN比にも変化が見られない →細根の枯死量増加によって、土壌に新鮮な有機物を供給し、微生物を活性化? →実際のところ、生態系内の窒素供給と無機化の関係を表せるモデルが未発達のため、将来予測は難しい…

まとめ 高CO2下において、細根が土壌のC・N量に与える影響は? →土壌へ供給されるC・N量は増加 供給後の行方は、モデルの発達に期待! 細根の生産量・現存量・枯死量が約2倍に増加 ターンオーバーは減少する(深度による影響) 細根のCN比には変化なし →土壌へ供給されるC・N量は増加 供給後の行方は、モデルの発達に期待!