シェル型の超新星残骸G330.2+1.0からの非熱的X線放射の発見 内田裕之、蓮池和人、鳥居研一、常深博(大阪大学)、山口康広、柴田晋平(山形大学) 市吉謙彦、中野真樹、森浩二(宮崎大学) ASCAによってSN1006のシェルから非熱的X線スペクトルが発見されて以来(Koyama, et al. 1995)、同様のスペクトルを示すシェル型の超新星残骸(SNR)がいくつか見つかってきた。これらの天体からの非熱的X線放射は衝撃波におけるフェルミ粒子加速の観測的証拠であり、宇宙線の起源を解明する上で重要な手がかりである。 今回我々は、シェル型の超新星残骸G330.2+1.0をX線で観測し、非熱的なスペクトルを示すことを発見したので報告する (Torii, Uchida, Hasuike, & H.Tsunemi, 2006, PASJ 58, L11)。我々はASCAのデータから、シェルのスペクトルが輝線を含まないべき関数型(γ~2.8)であることを明らかにし、XMM-Newtonの観測からもこれを裏付ける結果を得た。さらに、X線と電波の表面輝度が反相関していることを見出した。南西のシェルでX線の表面輝度が高く、べき型スペクトルを示す放射のほとんどはこの部分からの寄与であると見なせる。一方、分子雲と相互作用していると考えられる北東の領域では電波が強くX線の表面輝度が低い。これは、同一の初期条件から出発しても周辺物質の条件で加速効率が異なることを示しており、加速機構を解明する重要な手がかりになる。 高エネルギー宇宙線の起源 ASCA による観測 Background region G330.2+1.0 Compact Source Model: power-law 図1(右): ASCAのGISによるG330.2+0.1のX線画像(カラー)。MOSTによる電波強度図(Whiteoak & Green 1996)を等高線で重ねて表示してある。 図2(上): G330.2+1.0のシェル全域(図1の緑円で囲んだ領域)のスペクトルをべき関数でフィットしたもの。 超新星残骸衝撃波面における粒子加速 最初の観測的証拠 ASCAの観測によるSN1006シェルからの非熱的放射の検出 (Koyama, et al. 1995) 左図: SN1006のChandraによるX線画像。非熱的なX線放射が検出されたのは図で明るく輝いている東西のシェルである。 http://chandra.harvard.edu/photo/2005/sn1006/より 数例が見つかっている: 非熱的SNRの発見は粒子加速機構を解明する上で重要 これ以降発見された非熱的SNR TeV領域での放射も確認されている RX J1713-3946 (Koyama, et al. 1997) RX J0852-4662 (Slane, et al. 2001) etc. G330.2+1.0のX線観測 下表に本研究で使用したデータの観測の概要を示す。 327.6 / 390 327.5 / 391 χ2 / dof 9.1x10-12 1.85 (1.62-2.12) < 0.17 2.99 (2.53-3.50) --- mekal 1.6 x 10-11 2.58 (2.24-2.94) 2.82 (2.61-3.04) power-law Flux* nH (1022 cm-2) Abundance kT (keV) Photon Index Model 表1: G330シェル全域のスペクトルを2種類のモデル(power-law, mekal)でフィットした場合のパラメタの比較 * 0.7 – 10.0 keV におけるunabsorbed flux (erg s-1 cm-2) 観測衛星 観測日 観測時間 ASCA 1999年9月11-12日 68 ksec (GIS) XMM-Newton 2004年8月10日 9.7 ksec (MOS) XMM-Newton による観測 解析結果 G330.2+1.0: ASCAの解析はシェル全域について行った(図2)。まず、スペクトルから明らかな輝線は見出せない(図1)。このスペクトルをpower-lawとmekalの2つのモデルでフィットした結果(表1)、カイ二乗検定からはどちらのモデルがより適しているかを決定することができない。しかし、シェルからの放射が熱的だと仮定した場合、温度が非常に高いことから、自由膨張段階にある若い超新星残骸であると考えられるが、通常現れるFe, Ca, Ar, S, Si, Mg等のK線がいずれも見られないことから、このモデルを妥当であるとする根拠は薄い。したがって、この天体のスペクトルが超新星残骸衝撃波で加速された電子のシンクロトロン放射であると考えるのが自然である。 XMM-Newtonの解析結果もこのことを支持している。XMM-Newtonの解析は特に表面輝度の高いシェル南西の領域について行った(図4)。ASCAと同様、スペクトルは平坦で明らかな輝線は見られない(図3)。また、2種類のモデルのスペクトルパラメータ(表2)からは、熱的なモデルでは重元素の輝線が有意に検出されず、ASCAと同様の結論が得られた。 Model: power-law 図3: XMM-Newtonによるシェル南西部分 (緑の楕円で囲んである領域)のスペクトル。べき関数でフィットした。 図4: XMM-NewtonのMOSによるG330.2+0.1のX線画像。緑色で囲んだシェル南西の縁が特に明るい。 シェル南側の点源: ASCAのスペクトル(図5)は、べき関数でよくフィットしており、この天体がG330.2+1.0から飛び出した回転駆動型のパルサーである可能性も否定できない。しかし、XMM-NewtonのPNによるスペクトル(図6)から、高階電離した鉄輝線が検出されたことでこの可能性は否定される。白色わい星連星系か背後の活動銀河核が視野内に存在しているものと考えるのが妥当である。 今回この天体の正体を特定することはできなかったが、いずれにしても、この点源はG330.2+1.0とは無関係であると結論できる。 Model Photon Index kT (keV) Abundance nH (1022 cm-2) χ2 / dof power-law 2.25 (1.91-2.74) --- 2.60 (2.10-3.49) 84.2 / 60 mekal 4.84(3.00-7.10) < 0.11 2.08 (1.78-2.81) 80.4 / 58 * 0.7 – 10.0 keV におけるunabsorbed flux ( erg s-1 cm-2) 表2: G330シェル南西部分のスペクトルを2種類のモデル(power-law, mekal)でフィットした場合のパラメタの比較 シェル南側の点源 ASCA XMM-Newton PN Model: power-law Model: mekal 参考文献 図5:ASCA によるシェル南側の点源(赤い円で囲んである領域)のスペクトル。power-law モデルでフィットした。 1) K.Koyama, R.Petre, E.V.Gotthelf, U.Hwang, M.Matsuura, M.Ozaki & S.S.Holt Nature 378, 255 (1995) 2) J.B.Z.Whiteoak, & A.J.Green A&AS 118, 329 (1996) 3) K.Koyama, K.Kinugasa, K.Matsuzaki, M.Nishiuchi, M.Sugizaki, K.Torii, S.Yamauchi & B.Aschenbach PASJ 49, L7 (1997) 4) P.Slane, J.P.Hughes, J.Edgar, P.P.Plucinsky E.Miyata, H.Tsunemi & B.Aschenbach ApJ 548, 814 (2001) 5) 山口康広 修士論文「X線天文衛星ASCAによる超新星残骸G330.2+1.0の観測的研究」,山形大学 (2003) 6) K.Torii, H.Uchida, K.Hasuike, & H.Tsunemi PASJ 58, L11 (2006) 図6: XMM-Newton PN によるシェル南側の点源(赤い円で囲んである領域)のスペクトル。mekal モデルでフィットした。 Energy (keV) 317.0 / 346 χ2 / dof 1.30×10-11 1.92 (1.81-2.03) 0.30 (0.23-0.38) 5.27 (4.71-5.89) mekal Flux* nH (1022 cm-2) Abundance kT (keV) Model 表3: XMM-Newton PN のデータからG330シェル南側の点源についてmekalモデルでフィットした場合のパラメタ * 0.7 – 10.0 keV におけるunabsorbed flux ( erg s-1 cm-2)