電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 5/28, 6/4講義分 物質中でのMaxwell方程式 電磁波の反射と透過 山田 博仁
物質中でのMaxwell方程式の解 教科書p.189~190 構造関係式 オームの法則 式(1)の両辺の rotation をとる 式(2)を代入 式(7)を代入 式(5)を代入 ベクトル恒等式より 媒質中に真電荷が存在しなければ、式(3), 式(5)より、divE = 0 従って、 の関係式が導かれる 同様にして、式(2)の両辺の rotation をとってやると、磁場に関する関係式 も導ける
物質中でのMaxwell方程式の解 式(8), (9)を電信方程式と呼ぶ。 参考) 伝送線路の電信方程式 → 参考) 伝送線路の電信方程式 → 絶縁体媒質(誘電体なども)や真空中の時、σ = 0であるから、式(8), (9)は各々、 となり、電磁波の波動方程式が得られる。 一方、導体中(金属など)では、式(8), (9)において左辺第3項が無視できるようになる。 Eは、E(x, t) = E(x)e jωt のように表されるので、左辺第2項と第3項の大きさを比較すると、 通常の金属において、導電率 σ の値は、 誘電率 ε の値は、 マイクロ波帯においても ω の値は、 従って、σ >> εω の関係が成り立っており、 式(8), (9)において左辺第3項は第2項に対して無視できるくらい小さな値となる。
導体中の電磁場の式 従って、導体中において式(8), (9)は、以下の式に簡略化できる。 準定常電流、即ち交流回路では、変位電流の寄与を無視していることと、オームの法則が成り立つことを仮定している 式(8”)に式(7)の関係を代入してやると、 の関係も導ける。 式(8”), (9”), (10)は、拡散方程式と呼ばれている。 式(8”), (9”)は、Maxwell方程式において、変位電流の項を無視することによっても得られる。つまり、式(2)の右辺において、第1項の伝導電流に比べて第2項の変位電流の寄与が無視できる場合、式(2)は式(2’)となり、これを用いて解いてやっても求められる。 変位電流が伝導電流に対して無視できるのは、先の σ >> εω の条件が成り立つ場合であり、このときの伝導電流を準定常電流と呼んでいる。電気回路における交流回路は、この準定常電流の場合を扱っている。
導体中の電磁場と表皮効果 z 真空 金属導体 導体中での電場は、式(8”)で与えられ、その解として、 δ x の形の平面電磁波を仮定すると、 真空中から導体中への電磁波の入射 また、複素数の公式 を用いた ここで、δ は表皮の深さ(Skin depth)と言い、電磁波が金属導体中に侵入できる深さである。 このように、電磁場が金属導体の内部深くには侵入できない現象を、表皮効果(Skin effect)と呼ぶ。 例えば銅の場合、導電率 σ = 5.8×107 S/m なので、表皮の深さ δ は、 1GHzで約 2.1 μm
異なる媒質の界面における境界条件 誘電率 e1, e2 の異なる媒質が接している界面 界面には真電荷が面密度 se にて存在 n −n 5.3 (教科書p.64) の復習 誘電率 e1, e2 の異なる媒質が接している界面 界面には真電荷が面密度 se にて存在 n −n 単位法線ベクトル + 界面での 真電荷密度 se 界面 e1 e2 S D1 界面での電束密度 D に対して、どのような条件が満たされなければならないか? D2 電場に関するGaussの法則を、界面に 存在する高さが無限小の円柱に適用 Gaussの定理 従って、 上式は、任意の面 S に対して成り立つことから、 表面電荷 se が存在しなければ、
異なる媒質の界面における境界条件 誘電率 e1, e2 の異なる媒質が接している界面 e1 e2 界面 Dh Dl t: 単位接線ベクトル DS C Faradayの電磁誘導の法則を、図のように界面の一部を囲む高さ Dh が無限小の長方形 DS に適用 ここで、B/t は境界面の近くで有限であるから、DS→0の極限で右辺の積分はゼロになる 一方、Stokesの定理を用いると左辺は、 従って、 上式は、任意の Dl の長方形に対して成り立つことから、
異なる媒質の界面における境界条件 透磁率 m1, m2 の異なる媒質が接している界面 単位法線ベクトル 9.4 (教科書p.146) の復習 透磁率 m1, m2 の異なる媒質が接している界面 界面での磁束密度 B に対して、どのような条件が満たされなければならないか? n −n 単位法線ベクトル m1 m2 界面 S B1 B2 磁場に関するGaussの法則を、界面に 存在する高さが無限小の円柱に適用 Gaussの定理 従って、 上式は、任意の面 S に対して成り立つことから、 よって、
異なる媒質の界面における境界条件 透磁率 m1, m2 の異なる媒質が接している界面 ie: 界面での 伝導電流密度 ie Dh Dl t: 単位接線ベクトル t H1 界面での磁場 H に対して、どのような条件が満たされなければならないか? C H2 DS Ampere-Maxwellの方程式を、図のように界面の一部を囲む高さ Dh が無限小の長方形 DS に適用 ここで、界面に表面電流が存在しない限り、ie も D/t も境界面の近くで有限であるから、DS→0の極限で右辺はゼロになる 一方、Stokesの定理を用いると左辺は、 従って、
異なる媒質の界面における境界条件 E1 E2 e1 e2 電場の接線成分は連続 電束密度の法線成分は連続 D1 D2 e1 e2 表面電荷が 存在しない場合 t は界面に平行な単位接線ベクトル n は界面に垂直な単位法線ベクトル H1 H2 m1 m2 磁場の接線成分は連続 磁束密度の法線成分は連続 B1 B2 m1 m2 表面電流が 存在しない場合
界面での反射と透過 2種類の媒質が x-y 平面 (z = 0) を境に接しており、 z > 0 を媒質Ⅰが、 z < 0 を媒質Ⅱが満たしている。平面電磁波が媒質Ⅰから媒質Ⅱに入射角 qi で斜め入射し、その一部が反射角 qr で反射され、またその一部が透過角 qt で媒質Ⅱ内に透過する場合を考える。 x z 媒質Ⅰ 媒質Ⅱ Ei Hi Er Hr ki kr kt Ht Et y qi qr qt 入射波、反射波および透過波の波数ベクトルと角周波数をそれぞれ (ki, wi), (kr, wr) および (kt, wt) とし、電場ベクトルは図の様に x-z 平面上にあり、磁場は y 成分のみとする。 波の位相は、 入射波 反射波 透過波
補) 波の表記 入射波 反射波 透過波 波の複素数表示(フェーザ表示) 電気回路学 電圧 オイラーの公式により 複素平面上でその虚軸への投影
界面での反射と透過 境界面 (z = 0) 上の全ての点で、任意の時刻に波の位相が等しくなるので、 この条件が成立しなければならない の関係より、媒質Ⅰ内で電磁波の速度 v1 は入射波、反射波に共通なので、 ならば、 v1 v2 媒質Ⅰ 媒質Ⅱ qi qr qt ki kr kt 従って、 (反射の法則) (Snellの法則) v1 と v2 は、それぞれ媒質Ⅰ、Ⅱ内を進む電磁波の速度 比誘電率 n1, n2は各々、媒質Ⅰ, 媒質Ⅱの屈折率
界面での反射と透過 入射波 x z 媒質Ⅰ 媒質Ⅱ Ei Hi Er Hr ki kr kt Ht Et y qi qr qt 反射波 透過波 Z1, Z2は、それぞれ媒質1, 2の電磁インピーダンス
界面での反射と透過 次に、電磁波の振幅について考えると、界面での電場 E および磁場 H の接線成分の連続性より、 従って、 上式から Et を消去すると、 ここで、θi = θr の関係を用いている (電界反射係数) 上式から Er を消去すると、 (電界透過係数)
界面での反射と透過 因みに、磁界に対する反射係数および透過係数を求めてみると、 真空中での光の速度 c と媒質中での光の速度 v の比は、 で表され、 特に媒質が非磁性の場合には、 μ = μ0 、即ち μr = 1 が成り立ち、上式は となり、これが媒質の屈折率 n である。 また特に媒質が非磁性の場合には、 それぞれの媒質の屈折率は真空の固有インピーダンス Z0 を用いて、 と表せる。 従って、反射係数と透過係数は、媒質の屈折率を用いて、 と表せる。
界面での反射と透過 垂直入射の場合には、qi = qt = 0 とすることにより反射係数と透過係数は、 n1 n2 t r i 入射波のエネルギー流に対する反射波と透過波のエネルギー流の比をそれぞれ反射率 R および透過率 T という。 入射波、反射波、透過波のエネルギー流は、各々に対するポインティングベクトルの 大きさの界面に垂直方向成分であるから、 Z1 Z2 媒質Ⅰ 媒質Ⅱ qi qr qt 入射波 反射波 透過波 入射エネルギー流 Si Sr 反射 エネルギー流 St 透過エネルギー流
界面での反射と透過 従って、反射率 R と透過率 T は、 反射係数と反射率、透過係数と透過率をしっかり区別して理解すること !! 屈折率 n1, n2 で表せば、反射率 R と透過率 T は、
界面での電磁波の反射と透過 x z 媒質Ⅰ 媒質Ⅱ Ei Hi Er Hr Z1 Ht Et y qi qr qt Z2 これまでは、入射波の電場ベクトルは x-z 平面内にのみ存在し、磁場ベクトルは y 方向成分のみを有するとするとして、電界反射係数および電界透過係数を求めた。 つまり、磁場(ベクトル)が界面に平行に入射した場合の電界反射係数として、 p.210 (12.62式) 磁場(ベクトル)が界面に平行に入射した場合の電界透過係数として、 p.210 (12.62式) ただし、Z1, Z2は、それぞれ媒質1, 2の固有インピーダンス
界面での電磁波の反射と透過 x z 媒質Ⅰ 媒質Ⅱ Hi Ei Er Hr Ht Et y qi qr qt Z1 Z2 次に、図に示すように入射波の磁場ベクトルが x-z 平面内に存在し、電場ベクトルは y 方向成分のみを有する場合について考えると、 入射波 反射波 透過波 Z1, Z2は、それぞれ媒質1, 2の電磁インピーダンス
界面での反射と透過 界面での電場 E および磁場 H の接線成分の連続性より、 従って、 電場(ベクトル)が界面に平行に入射した場合の電界反射係数として、 例題12.3 (p.212) 電場(ベクトル)が界面に平行に入射した場合の電界透過係数として、 例題12.3 (p.212) が求まる。ただし、Z1, Z2は、それぞれ媒質1, 2の固有インピーダンス
界面での電磁波の反射と透過 12.57式(Snellの法則)と12.63式より、 従って、 この関係を用いると、 磁場(ベクトル)が界面に平行に入射した場合の電界反射係数は、 磁場(ベクトル)が界面に平行に入射した場合の電界透過係数は、
界面での電磁波の反射と透過 電場(ベクトル)が界面に平行に入射した場合の電界反射係数は、 電場(ベクトル)が界面に平行に入射した場合の電界透過係数は、 つまり、反射係数や透過係数は、入射角 θi と透過角 θt のみで表わせる。これらは Fresnelの式と呼ばれている。 ここで、p, sは光の媒質への入射状態を表し、電界成分が入射面(入射光線と反射光線が作る面)に平行(parallel)な光を p波、垂直(senkrecht)なものを s波と呼んでいる。 因みに地震波では、縦波であって早く到達する第一波を p波(primary wave)、横波で強い揺れを引き起こす第二波を s波(secondary wave)と呼んでいる。
S波とP波 入射波 電界 磁界 反射波 入射波 入射面 磁界 電界 反射波 入射面 p波(光の場合は p偏光) s波(光の場合は s偏光)
界面での電磁波の反射と透過 以上で求めた rp, rs を、入射角 qi に対して図示すると、右図のようになる。 1 -1 Z1 > Z2のとき 反射率は、 rp rs 入射角(θi) 反射率 Rs Rp Brewster 角 これを図示すると、 以上の結果から分かるように、磁場ベクトルが界面に対して平行に入射した場合(p波)の電界反射係数 rpは、入射角 qi と透過角(屈折角) qt の和がちょうど直角になる時にゼロ、つまり無反射となる。この時の入射角度 qi のことを Brewster 角という。
界面での電磁波の反射と透過 以上の結果から分かるように、磁場ベクトルが界面に対して平行に入射した場合(p波)の電界反射係数 rp (従って反射率も)は、入射角 qi と透過角(屈折角) qt の和がちょうど直角になる時にゼロ、つまり無反射となる。この時の入射角度 qi のことを Brewster 角という。 Brewster 角qi は、 x z 媒質Ⅰ 媒質Ⅱ Ei Hi Er Hr Z1 Ht Et y qi qr qt Z2 Brewster角 Snell の法則より、 直角 従って、 Brewster 角qi は、 また、入射角と Brewster 角との大小関係により、電界反射係数の符号が反転する つまり、 Brewster 角を挟んで、反射波の電場ベクトルの向きが反転する
Brewster 角の物理的意味 このような Brewster 角が存在する物理的意味は ? 電磁波が反射するメカニズムは、入射波によって界面に誘起された誘電分極からの電磁波の放射と考えることができる Brewster 角で媒質Ⅱに入射する電磁波は、媒質Ⅱ内の界面付近に分極を生じるが、その分極は反射角の方向には電磁波を放射できないため x z 媒質Ⅰ 媒質Ⅱ y qi qr qt Brewster角 Ei この方向には、電磁波を放射できない Brewster 角を利用して偏光を分ける偏光ビームスプリッタ
演習: 界面での反射と透過 x z 媒質Ⅰ 媒質Ⅱ Ei Hi Er Hr ki kr kt Ht Et y qi qr qt 図に示す様に、2種類の媒質が x-y 平面 (z = 0) を境に接している。今、平面電磁波が媒質Ⅰから媒質Ⅱに入射角 qi で斜め入射する場合を考える。 入射波、反射波および透過波の波数ベクトルと角周波数をそれぞれ (ki, wi), (kr, wr) および (kt, wt) とし、電場ベクトルは図の様に x-z 平面上にあり、磁場は y 成分のみ(p波)とする。 電場、磁場ベクトルの向きを教科書とは違えております 波の位相は、 入射波 反射波 透過波 境界面 (z = 0) 上の全ての点で、任意の時刻に波の位相が等しくなるので、 この条件が成立しなければならない
演習: 界面での反射と透過 入射波 x z 媒質Ⅰ 媒質Ⅱ Ei Hi Er Hr ki kr kt Ht Et y qi qr qt 反射波 透過波 Z1, Z2は、それぞれ媒質1, 2の電磁インピーダンス
演習: 界面での反射と透過 界面での電場 E および磁場 H の接線成分の連続性より、 従って、 上式から Et を消去すると、 ここで、θi = θr の関係を用いている (電界反射係数) 反射係数や透過係数の値は、電界や磁界ベクトルの取り方によって異なる 上式から Er を消去すると、 (電界透過係数) この場合、磁界に対する反射係数および透過係数は、
参) 工学部と理学部での表記の違い 工学部 理学部 E の呼び方 電界 電場 H の呼び方 磁界 磁場の強さ B の呼び方 磁束密度 磁場 工学部と理学部とでは、文化の違いによって以下のような表記や呼び方の違いがある 工学部 理学部 E の呼び方 電界 電場 H の呼び方 磁界 磁場の強さ B の呼び方 磁束密度 磁場 電流の表記 i, I J 虚数単位 j i 波の時間回転 e+jωt 時間は複素平面上を反時計回り e−iωt 時間は複素平面上を時計回り 従って、工学部出身の先生が書かれた教科書と理学部出身の先生が書かれた教科書にも、そのような表記の違いがあるので、要注意。