「JSEPTIC-BW ICU における体重測定の意義」 経緯と今後 JSEPTIC-CTG 活動報告 「JSEPTIC-BW ICU における体重測定の意義」 経緯と今後
研究の背景 多くの集中治療室では、体重測定を実施して いる。 しかし、人的、時間的な負担も大きく、患者 を不安定な状態に曝し、ライン類の誤抜去の危 険がある。 測定した体重結果が正確で、医師の診療や 看護実践に活かされ、患者にとって 真に有益であるかは明らかにされていない。 多くの集中治療室では、患者の基本的情報として体重測定を実施しています。 しかし、人的、時間的な負担も大きく、患者を不安定な状態に曝し、ラインやチューブの誤抜去のリスクを増やす可能性があります。このような状況下で測定した体重結果が正確で、医師の診療や 看護実践に活かされ、患者にとって真に有益であるかは明らかにされていません。
目 的 集中治療室における体重測定の実態を把握し、今後の研究の基礎情報とする目的にアンケート調査を実施した。 今回はその安全性について焦点を当て、検討した。 §研究目的 「我が国の集中治療室における 体重測定の安全性を検討する」 そこで、我々は集中治療室における体重測定の実態を把握し、今後の研究の基礎情報とする目的にアンケート調査を実施しました。今回はその安全性について焦点を当て検討しました。
研究方法 §対象 ; 郵送またはMLで呼びかけた 急性・重症患者看護専門看護師 集中ケア認定看護師 救急看護認定看護師 合計 1,320名 §方法 ; 郵送回答またはweb上の 合計21問からなるアンケート調査 §研究期間;2012年2月3日~3月6日 対象は、郵送又はMLで呼びかけ急性・重症患者看護専門看護師、救急看護認定看護師、集中ケア認定看護師、合計1,320名です。 郵送またはweb上で回答できる合計21問からなるアンケート調査を実施しました。
結 果 1 アンケート回答数525名 アンケート回収率39.7% 内訳 急性・重症患者看護専門看護師7% 集中ケア認定看護師61% 救急看護認定看護師32% アンケート回答数は525名、回収率は39.7%でした。
結果 2 ; 体重測定間隔 毎日全患者に行う 入室時 ⇒ 全患者 入室後 ⇒ 必要時 必要に応じて行う 全く行わない 結果 2 ; 体重測定間隔 毎日全患者に行う 入室時 ⇒ 全患者 入室後 ⇒ 必要時 必要に応じて行う 全く行わない まず、体重測定間隔の結果です。「毎日全患者測定する」という回答9%を含め、多くは集中治療室入室中に体重を測定していることがわかりました。一方で「全く測定しない」という回答も8%ありました
結果 3 ; 適応 心臓血管外科術後 胸部外科術後 腹部外科術後 熱傷・外傷 中枢神経疾患者 循環器疾患急性期 人工呼吸患者(NPPV含む) 結果 3 ; 適応 心臓血管外科術後 胸部外科術後 腹部外科術後 熱傷・外傷 中枢神経疾患者 循環器疾患急性期 人工呼吸患者(NPPV含む) 次に、体重測定を実施する患者の適応ですが、血液浄化法中の患者が最も多く、次いで循環器系の患者、熱傷患者を測定するという回答が多い結果でした。 血液浄化法施行患者 その他
結果 4 ; 体重測定方法 吊上げ式体重計 VS. 体重測定機能付きベッド 全て吊り上げ式 ほとんど吊り上げ式 全て体重測定機能付き ベッド ほとんど体重測定機能付き ベッド 無回答 体重測定の方法についてですが、吊り上げ式体重測定計と体重測定機能付きベッドの使用の割合はほぼ同じでした。全国的に体重測定機能付きベッドの普及が高くなってきていることがわかりました。
結果 5 ; 体重測定に伴う看護師の負担感 かなり負担 少し負担 あまり負担でない 全く負担でない 無回答 次に、体重測定に伴う負担感ですが、半数以上の看護師が「負担である」と感じています。
結果6 ; 測定方法の相違による 看護師の負担の有無 結果6 ; 測定方法の相違による 看護師の負担の有無 負担あり 負担なし 吊り上げ式 体重計 180 52 体重測定 機能付きベッド 121 吊り上げ式体重計と体重測定機能付きベッドで負担感を比較すると、ベッドでは看護師の感覚が分かれていますが、カイ二乗検定によって分析すると吊り上げ式体重計では有意に負担感が高いという結果になりました。 オッズ比3.462 95信頼区間2.326‐5.51 χ2=38.891 p=0.000
結果 7 ; 経験した合併症 チューブ・ラインの事故抜去 血行動態の不安定化 呼吸状態の不安定化 疼痛の出現 合併症の危険は全くない 他の患者にアクシデント インシデンドが発生 合併症の危険は全くない 体重測定に伴い経験した合併症についての結果です。ご覧のように血行動態の不安定化とチューブやラインの事故抜去が最も多く、次いで、疼痛の出現、呼吸状態の不安定化、など、患者の病態に大きく影響を及ぼす合併症を多く経験していることがわかりました。 その他
結果 8 ; 体重測定によるその他合併症 1. 患者の落下事故 体重計の故障による患者の落下 2. 身体の損傷 専用シートによる皮膚損傷 1. 患者の落下事故 体重計の故障による患者の落下 2. 身体の損傷 専用シートによる皮膚損傷 専用の板による裂傷 3. 体温管理中の体温変動 また、少数ではありますが、吊り上げ式体重計による落下事故や患者の身体損傷といった非常に重篤な合併症も経験していることがわかりました。
結果 9 ; 体重測定方法の相違による 合併症の割合 結果 9 ; 体重測定方法の相違による 合併症の割合 チューブ・ラインの事故抜去 血行動態の不安定化 呼吸状態の不安定化 すべて 吊り上げ式 疼痛の出現 他の患者にアクシデント インシデンドが発生 すべて 体重測定 ベッド 合併症の経験は 全くない これらの合併症について、体重測定方法よる発生の相違について分析しました。表にお示しするようにこちらの青いところが吊り上げ式、赤いところが体重測定機能付きベッド使用による合併症です。全体的に吊り上げ式の方が多い割合で発生していますが、体重測定機能付きベッド使用でも発生が認められています。 その他
結果10 ; 測定方法の相違による 合併症経験の有無 結果10 ; 測定方法の相違による 合併症経験の有無 合併症 経験あり 合併症 経験なし 吊り上げ式 体重計 300 41 体重測定 機能付きベッド 175 39 合併症の発生が体重測定方法に関連性があるか、カイ二乗検定にて分析しました。結果、合併症の経験には統計学的には有意な関連が認められました。つまり、吊り上げ式体重計の方が合併症の率が高いということです。しかし、体重測定機能付きベッドによる測定のこの合併症の発生数を決して低いとは言い切れません。 オッズ比 1.63 95信頼区間1.015‐2.619 χ2=4.098 p=0.043
考 察 ; 体重測定の安全性 吊り上げ式体重測定計は合併症が多い 体重測定機能付きベッドも安全性が高いとは言えない。 落下事故などのリスクがある。 体重測定機能付きベッドも安全性が高いとは言えない。 信頼性が高く、患者の回復に寄与する情報として活用されているかは不明。 考察です。多くの集中治療室では体重測定を日常的に実施されており、特に、血液浄化法中の患者や循環器疾患を有する患者に対しては多くの施設で行われていました。しかし、看護師は体重測定の実施に対して、心理的負担を抱えていました。その背景には、過去に体重測定に伴って多くの重篤な合併症を経験しているからであると考えます。特に、吊り上げ式体重計では、合併症を経験する比率が高く、さらには、少数であるものの落下事故という非常に重篤な合併症も発生しており、リスクの高い身体計測であることを再認識できました。 また、広く普及してきている体重測定機能付きベッドですが、合併症の経験は吊り上げ式体重測定計に比べて少ないものの認められており、安全性が高いとは決して言い切れません。看護師は、感じている負担に比べて合併症のリスクが高いため、体重測定機能付きベッドでの測定でも十分に合併症の出現の可能性があることを認識して実施しなければなりません。 これまで、日常的に行われてきた体重測定ですが、重篤な合併症発生の高いリスクを抱えながら測定した結果が、信頼性が高く、患者の回復に寄与する情報として活用されているのか改めて検討する必要性があると考えます。 実際、わずかではありますが、「全く体重測定しない」と回答した看護師も存在しており、体重測定しないことによる影響や弊害の有無という視点から考えてもよいかもしれません。
結 語 我が国の集中治療室において体重測定は 広く行われている 看護師は重篤な合併症を経験し、心理的 負担を多く抱えていた。 結 語 我が国の集中治療室において体重測定は 広く行われている 看護師は重篤な合併症を経験し、心理的 負担を多く抱えていた。 今後、多施設観察研究を行い、体重測定の 安全性と必要性を検討する必要がある。 結語です。我が国の集中治療室において体重測定は広く行われているが、看護師は、重篤な合併症を経験し、心理的負担を多く抱えていました。 明らかになった体重測定に伴う合併症の発生を踏まえ、測定した体重結果が診療や看護実践に活かされて患者回復に寄与しているのか、リスクとベネフィットを検討した上で体重測定の必要性を明らかにする必要があると考えます。 今後は、多施設研究を行う予定です。 今回の調査に当たり、アンケートご協力いただいた全国の急性・重症患者看護専門看護師、救急看護認定看護師、集中ケア認定看護師の皆様に深く感謝いたします。