北大MMCセミナー 第82回 附属社会創造数学センター主催 Date: 2018年4月26日(木) 16:30~18:00 Speaker: 梶田真司 (東京大学生産技術研究所) Masashi Kajita(Tokyo University) Place: 電子科学研究所 中央キャンパス総合研究棟2号館 5F北側講義室(北12条西7丁目) Title: 化学反応の非線形応答性から捉える免疫T細胞の抗原識別 Immune T cell ligand discrimination from a viewpoint of nonlinear response of chemical reaction networks アブストラクト: 等高線法を用いた結晶のスパイラル成長の数理モデルを用いて、共回転対と呼ばれる、 同じ回転方向を示すらせん転位の対による結晶表面の成長速度について考察する。 Burton-Cabrera-Frankによると、対の距離がある臨界距離より遠い場合は 単独のらせん転位による結晶表面の成長と見分けが付かないとされる。 他方その臨界距離より近い場合は、対を限りなく近づけた時の成長速度が 単独のらせん転位の2倍になるとされるが、その中間の距離において 成長速度がどうなるかという評価式は与えられていない。 そこで上記の事実について数値計算実験を行った結果、臨界距離にずれがあることを発見した。 そこで共回転対による成長速度の評価を行い、その観点から臨界距離の新しい定義とその数値を与え、 これが数値計算実験の結果と非常に良く合うことを報告する。 評価と臨界距離の改善において重要な役割を果たしたのは単独のらせん転位により 与えられるスパイラルステップの回転速度で、Burton-Cabrera-Frankはこれを アルキメデスのらせんによる近似から計算していた。この結果をより精度の良いものに 改めることによりある程度の指標となる成長速度の評価式を得ることができた。 Abstract: 細胞は環境中の分子濃度を検知し情報処理することで、化学走化性、分化、アポトーシスなどの意思決定を行う。これまで細胞の意思決定システムとしては、分子濃度に情報がコードされており、その分子濃度に対して非線形応答することで意思決定を行う現象が注目されてきた。その結果、分子濃度に対して非線形応答する反応ネットワークやその数理的メカニズムについては、実験的にも理論的にも解明が進んでいる。一方、環境中には情報をコードする標的分子に類似した非標的分子も存在しうる。もし細胞が非標的分子を標的分子と誤認識した場合、細胞は環境に対して適切に応答できない。実際の細胞の意思決定現象としては、分子濃度だけでなく分子種に情報がコードされている状況を扱うのが自然であるが、分子濃度に対する細胞の意思決定メカニズムに比べて分子種に対する細胞の意思決定メカニズムの理解は十分でない。本発表では分子種に対する細胞の意思決定モデルとして、発表者が提案した類似分子間の差(親和性)に非線形応答する化学反応ネットワークモデルを紹介する[M.K.Kajita, et al. PRE (2017)]。このモデルによって、これまで説明が困難であった免疫T細胞の抗原分子識別にみられる複数の特性を再現できることを示す。 連絡先: 北海道大学電子科学研究所 附属社会創造数学研究センター 人間数理研究分野 長山 雅晴 内線: 3357 nagayama@es.hokudai.ac.jp