多様性の生物学 第11回 多様性の整理 和田 勝 東京医科歯科大学教養部
分類学は 神の作った秩序 リンネの分類学 ダーウィンの 進化論 進化論を取り入れた分類学 進化してきたのだから、当然類縁関係(系統)がある
系統分類学 伝統的な分類学は、系統を反映した「自然分類」を目指した。 伝統的な分類法では、いくつかの形態の類似性を主観的に選んで(形質に重み付けをする場合もある)、これを手がかりに分類をおこなう。 科学的ではないと批判される。
客観的であろうとする努力 1)形質の評価に主観が入り込まないよ うに、なるべく多数の形質を使う。 2)原始形質と派生形質を認識し、派生 ●表型分類学(phenetic classification) 2)原始形質と派生形質を認識し、派生 形質を共有する種を同じグループに する。 ●分岐分類学(cladistics)
分岐分類学 進化してきたのだから、原始形質と派生形質により系統関係を配列できる。 原始形質(original character) 派生形質(derived character)
分岐分類学 スズキ カエル ヤモリ 四足 四足なし 派生形質 脊椎骨 原始形質 スズキ カエル ヤモリ 四足
分岐分類学 上のような包含関係からリンネ式階層構造に落とし込む。
分岐分類学
分岐論 A,B,Cの3つの種が、Xという共通の原始形質を備えているとする。 このような場合、A,B,Cは単系統であると言う。A,B,Cの関係は次の4つ。
分岐論 次に形質Yは、AとCにだけに備わった派生形質だとする。 Yの置き方は、上の4つになる。
分岐論 ここで、オッカムの剃刀を使う(最節約法)。 最も少ない1回の変化で説明できるので、この分岐図を選ぶ事にする。
このような分岐図を作る根拠 個体群が地理的障壁によって2つに分けられたとしよう。 それぞれの個体群で、自然選択、遺伝的浮動、遺伝子流、非ランダム交配によって別々に進化
根拠(続き) 個体群間の差が大きくなり、さらに生殖行動や外部生殖器の差にも現われ、生殖隔離がさらに有効に作用。
自然選択の種類 分断化する自然選択
たとえば
たとえば
実際には 外群を置く 過去の派生形質は見えない。
マトリックスの作製 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 n y 冷 温 スズキ シーラカンス サンショウウオ カエル カメ ヒト 温 ヤモリ ヘビ ワニ セキセイインコ
マトリックスの作製 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 0 スズキ シーラカンス サンショウウオ カエル カメ ヒト ヤモリ ヘビ ワニ セキセイインコ
分岐図の作成 形質1(羊膜)は、スズキ、シーラカンス、サンショウウオ、カエルにはない。 カメ、ヒト、ヤモリ、ヘビ、ワニ、セキセイインコには備わっている。 羊膜という派生形質を持つので、後者を一つのグル-プ(クレイド、枝)とすることができる。
分岐図の作成 カメ、ヒト、ヤモリ、ヘビ、ワニ、セキセイインコ 羊膜 このように、共有派生形質を持つものは一つのグループにすることができる。
分岐図の作成
分岐図の作成 グループのメンバーが多いところから始めるとよい(上の例では5と6)。 5と6
分岐図の完成
分岐図の完成 クレイド ノード
分岐図は 分岐図には時間の要因は含まれていない。 それぞれの枝の長さは、枝分かれしてからの時間の長さをあらわしていはいない。 分岐図は祖先形質と共有形質の極性から、それぞれの種の関係を求めたものであり、系統樹と同義とする。
分岐分類 単系統群と姉妹群関係を、リンネ式階層構造に書き換えたものとする。 ただし、変形分岐分類学派はそうは考えず、分類群の包含関係を示したものとする。
分岐分類の強み 1)単純なルール(共有派生形質)だけ を用いている 2)多くの仮定を置かず、派生形質を共 有するグループは進化の歴史を反 を用いている 2)多くの仮定を置かず、派生形質を共 有するグループは進化の歴史を反 映していると考える 3)どのような種にも適応することがで きる
分岐分類の弱点 1)形質を分析するためにはかなりの 専門的知識が必要 2)多くのデータを無視 3)進化の過程は必ず二つに分かれて 専門的知識が必要 2)多くのデータを無視 3)進化の過程は必ず二つに分かれて いくことを前提 4)外群を適切に選ぶことが非常に重 要
表型分類学 なるべく多数の形質を選んで総体的に比較する。 コンピューターの発達によって、多数の形質をマトリックスにして、コンピューターを使ったクラスター分析などをおこなう数量分類学として発展した。 類似度をもとに、それぞれの種間の距離を計算して類縁図を作る。
表型分類学
表型分類の強み 1)たくさんの形質をもとに相互の関係 を求める 2)分析手法が改良されれば、解析の 精度が良くなる 3)外群を必要としない
表型分類の弱点 1)進化のことは考えないので、それぞ れのグループは系統を反映しない 2)検証が不可能な多くの仮定を立て なければならない れのグループは系統を反映しない 2)検証が不可能な多くの仮定を立て なければならない 3)どれにでも適用できる標準的なアプ ローチ法がない
分子系統学 タンパク質のアミノ酸配列、遺伝子DNAの塩基配列を明らかにすることが比較的容易になると、直接これらを比較したほうがよい。
分子系統学 そこで、タンパク質やDNAの置換率を手掛かりに、表型分類の手法を用いて樹形図を求める。 分子系統学では初めから進化のことを考えているので、得られた樹形図は分岐図と表型図の合いの子のようになった。外群を設けることも多い。
分子系統学の例 有蹄類(ウシ目、偶蹄目とウマ目、奇蹄目)の分類を例に取ってみよう。
クジラの位置
クジラの位置 そこでミルクに含まれるタンパク質であるβカゼインをコードする遺伝子DNAから60の塩基配列を取り出して並べて比較 同じ塩基は手掛かりとはならないが、桃色のバーで示した部分は共有派生形質としてクレードに分ける手掛かりになる。
クジラの位置
分類と系統、進化 一つのやり方だけで結論を出すのは危険。複数の方法を組み合わせて、より正しい系統図を作る努力を続けていかなくてはいけないのだと思う。 すべての種についてDNAのデータが揃っているわけではないので、分子系統学の手法を適用できるわけではない。
分類と系統、進化 形態を指標にして分岐論に基づいた分岐分類 DNAに基づく分子系統学の手法の適用 リファランスとして化石のデータは重要
分類と系統、進化 ところで、進化という言葉をキーワードにWEBサイトを検索してみると実にさまざまなページがあることが分かる。デジタル進化論のように、明らかに「進化」を「進歩」と同じ意味で使っている。もちろん日常用語としてはもう仕方がないのかもしれないが、生物学で系統とか進化という言葉を使うときは、よくよく注意をして使うようにしよう。