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ユーロ圏危機 一橋大学商学部 小川英治 マクロ金融論 2016
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ユーロ為替相場の動向 マクロ金融論 2016 2
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先進諸国の財政収支悪化 世界金融危機 ⇒①金融機関の B/S の毀損⇒資本注入 ②世界同時不況⇒ G20 における財政刺激の国際 協調 世界各国で財政赤字増大。 きっかけは、ギリシャ政権交代による財 政上の統計処理の不備(実際の財政赤字 拡大)⇒財政当局の信認の失墜⇒財政危機 ソブリン・リスクが他のユーロ圏へ波及 マクロ金融論 2016 3
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ユーロ圏諸国の財政赤字 Data: Eurostat マクロ金融論 2016 4
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Data: Eurostat ユーロ圏諸国の一般政府債務残高 マクロ金融論 2016 5
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ギリシャの財政危機 世界金融危機によって 2008 年に EU 各国の財政赤字が拡大。 ギリシャ:銀行への資本注入 50 億ユーロ、新規融資への政府 保証 150 億ユーロ、銀行への流動性供給 80 億ユーロ⇒総計 280 億ユーロ( GDP の 12% )の財政負担。 EU27 カ国で最悪。 2009 年 10 月の政権交代(新民主主義党のカラマンリス政権⇒ 全ギリシャ社会主義運動のパパンドレウ政権)をきっかけに 財政に関する統計処理の不備が発覚 財政赤字 GDP 比( 2008 年: 5% →7.7% 、 2009 年見通し: 3.7% → 12.7% → 13.6% ) 公的債務 GDP 比( 2009 年末: 99.6% → 115.1% ) ⇒財政赤字の数字そのものだけではなく、財政当局の信認を失 墜。 *複数均衡:ソブリン・バブル⇒ソブリン危機 マクロ金融論 2016 6
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ユーロ圏諸国の一般政府債務残高( 2010 年末) Data: Eurostat マクロ金融論 2016 7
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ギリシャの一般政府債務残高の推移 Data: Eurostat マクロ金融論 2016 8
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長期金利( 10 年物国債利回り) 2009 年 10 月ギリシャ財政危機 マクロ金融論 2016 9
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財政危機の波及 欧州財政危機 ギリシャ(ユーロ圏 GDP の 2.7 %)の財政危機が IIPS ( GIIPS: ユーロ圏 GDP の 35 %)への波及の現実化。 背景 ①ユーロ圏の財政主権が統合されていないことに起因 するユーロ圏諸国の足並みの乱れが露呈。 ②リスボン条約に規定された「財政移転禁止」が制約。 ドイツ憲法裁判所の合憲性審理によって、 2012 年 7 月に予定し ていた欧州安定メカニズム ESM の設立が 2012 年 10 月に遅れた。 対応 EU と ECB と IMF (トロイカ)による金融支援(+ FRB から ECB へドル流動性供給)。 マクロ金融論 2016 10
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財政危機の波及メカニズム (1) ギリシャ国債の価格暴落⇒投機家による他の(財政 赤字の多い)国債価格暴落の予想⇒空売りによる投 機⇒他の国債価格暴落 (2) ギリシャ国債の価格暴落⇒投資家の国際ポートフォ リオに占めるギリシャ国債のシェアの現象⇒ポート フォリオ調整による他の(財政赤字の多い)国債の 売却⇒他の国債価格暴落 (3) ギリシャ国債のデフォルト / 債務リストラ⇒欧州金融 機関の B/S 悪化⇒他の(財政赤字の多い)国債の売 却⇒他の国債価格暴落 (4) 上記 (1) ~ (3) の予想⇒他の(財政赤字の多い)国債 の売却⇒他の国債価格暴落【自己実現的投機】 マクロ金融論 2016 11
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財政危機対応の 3 点セット ①財政危機国の緊縮財政・財政再建 ⇒財政規律確立とモラルハザード防止によるソ ブリン・リスク縮小 ②深刻な財政危機国の債務削減 ⇒債務負担削減による債務持続性( debt sustainability )増大とソブリン・リスク縮小 ③金融機関へのセイフティネット ⇒債務削減によってバランスシートを毀損した 金融機関への波及を抑制。 マクロ金融論 2016 12
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ユーロ圏における財政危機対応 ギリシャへの第 1 次金融支援( 2010 年 5 月) ①緊縮財政のみ。 ③セイフティネットの整備がなく、②債務削減も なし。 ギリシャへの第 2 次金融支援( 2012 年 3 月) ③セイフティネット( EFSF と ESM )が整備され たことから、①緊縮財政に加えて、②債務削減を実 施。 EFSF ・ ECB による国債買上げ+各国政府による 資本注入が金融危機への発展を抑制。 マクロ金融論 2016 13
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ユーロ圏危機に対するトロイカの対 応 ユーロ圏危機国(ギリシャ、アイルランド、ポルト ガル、キプロス)が IMF の支援を要請した際に、中 東欧での EC と IMF との合同プログラムでの経験は有 用であった。もう一つのパートナーとして ECB が加 わって、支援体制(「トロイカ」)の協調が拡大し た。 EU 諸国は、ギリシャへトロイカの金融支援の 2/3 の 資金を提供した。 IMF は残りの 1/3 の金融支援を提供 した。 IMF は、危機管理において主要な役割を果た すのが一般的であるが、ユーロ圏危機のケースでは マイナーな貸し手となった。そのために、トロイカ の運営に難しさが残っている。 マクロ金融論 2016 14
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財政危機波及の防止策としての ESM リスボン条約第 122 条第 2 項に基づいて、自然災害 と同等の「制御できない例外的な事態」に備えるた めに欧州金融安定化ファシリティ( EFSF )を設立。 しかし、リスボン条約では財政移転禁止のため、リ スボン条約の改正によって欧州安定メカニズム ( ESM )の設立が必要。 ESM の設立を1年前倒しして、 2012 年 7 月に設立を 予定したが、ドイツ憲法裁判所にて合憲の判決を 待ったために 2012 年 10 月に設立が延期。 EFSF を 2013 年半ばまで存続させ、 2012 年 10 月から 2013 年半ばまでは ESM と EFSF の両者によって財政 危機に対応することとなった。 EFSF や ESM から直接に銀行へ資本注入を可能に。 15 マクロ金融論 2016 15
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財政当局の信認回復のための措置 2011 年 12 月 8 ・ 9 日の EU 首脳会議 経済同盟の強化、とりわけ、「財政安定同 盟」( “Fiscal Stability Union” )に向けた動き に基本合意 (イギリスとチェコを除く)。 ①財政規律を強化するために新しい財政ルー ルを含む財政協定( Fiscal Compact ) ②セーフティネットとしての欧州安定メカニ ズム( ESM )の早期設立( 2013 年 7 月⇒ 2012 年 7 月実際には 2012 年 10 月) 16 マクロ金融論 2016 16
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財政安定同盟の下の財政協定 さしあたり、めざすものは、「財政安定同盟 ( Fiscal Stability Union )」であって、「財政同盟 ( Fiscal Union )」ではない。 財政規律を強化するために新しい財政ルールを含む 財政協定( Fiscal Compact )につくる。 ①一般政府予算を均衡。 景気変動に影響を受ける循環的赤字を除いた、構造的赤字に ついて GDP の 0.5% 以下。 ②財政ルールを、各国の憲法あるいはそれに相当する法律で規 定。 ③欧州委員会によってある国の財政赤字の上限超過を認められ たならば即時に、ユーロ圏諸国の反対がないかぎり、自動的 に過剰財政赤字手続きが適用される自動修正メカニズムを導 入。 マクロ金融論 2016 17
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銀行同盟 単一監督メカニズム( SSM = Single Supervisory Mechanism ) 単一破綻処理メカニズム( SRM = Single Resolution Mechanism ) 預金保険制度( DGS = Deposit Guarantee Scheme ) マクロ金融論 2016 18
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単一監督メカニズム( SSM = Single Supervisory Mechanism ) ECB がユーロ圏内の銀行に対する単一の監督権を持つという 仕組み。 ECB が直接監督する対象は、 EU 内の銀行のうち、影響力の大 きい 300 億ユーロ超の資産を持つ銀行、あるいは母国の GDP 比で少なくとも 20% の資産を持つ銀行で、銀行同盟に加わる 約 6,000 の銀行の中の、主としてユーロ圏にある約 130 行。 ECB は既定の自己資本要件に違反した、あるいは違反する危 険性のある銀行に対して、早期に介入し、是正を要求するこ とができる。その他の銀行については、各国当局が直接監督 し、 ECB は間接的に監督する。ただし、 ECB はこれらの銀行 についても、いつでも直接監督し、保護する権限を持つ。 SSM は、 2014 年 11 月 4 日、正式に稼動を開始。 マクロ金融論 2016 19
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単一破綻処理メカニズム( SRM = Single Resolution Mechanism ) 危機の際、迅速な意思決定と破綻処理を行い、他のユーロ圏 の国々への伝播を防ぐ仕組み。一元的に意思決定を行うこと により、各国で破綻処理を行うよりも効率的な対処が可能と なり、金融への悪影響を最小化する。 SRM の対象となるのは単一監督メカニズムの対象行で、銀 行の破綻処理の決定は、 ECB の代表、欧州委員会、当該国の 当局 で構成される単一破綻処理委員会( Single Resolution Board )の提案に基づき、欧州委員会が行う。 SRM の資金源は単一破綻処理基金( Single Bank Resolution Fund )。銀行同盟内の全銀行により、 2016 年から 8 年かけて 総額約 550 億ユーロが積み立てる。 SRM は 2016 年 1 月から完全運用。 マクロ金融論 2016 20
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預金保険制度( DGS=Deposit Guarantee Scheme ) 預金保険制度( DGS=Deposit Guarantee Scheme ) については、 EU 共通のルールとして各国が預金者 一人あたり 10 万ユーロまで保護し、銀行破綻から 7 日以内に支払うことが義務付けられる。 今のところ、単一の預金保険制度という枠組みがで きるわけではないが、ルールでは EU 各国が自発的 に、互いの基金を融通しあうことなども想定してい る。 DGS は、法案が間もなく可決される見通しである。 マクロ金融論 2016 21
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再燃するギリシャ問題 2015 年 1 月 25 日:ギリシャ総選挙、反緊縮財政政 策の急進左派連合(チプラス党首)が圧勝。 2015 年 6 月 30 日:ギリシャ、 IMF への返済(約 15 億ユーロ)延滞 2015 年 7 月 5 日:反緊縮財政を国民投票。 2015 年 7 月 16 日:ギリシャ議会、財政改革案を可 決。 ⇒財政規律&モラルハザード vs. 債務負担軽減 マクロ金融論 2016 22
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IMF によるギリシャ公的債務持続可能性分析 IMF, “Preliminary Public Debt Sustainability Analysis,” IMF Country Report, June 26, 2015. 基礎的財政収支黒字目標の下落(対 GDP の 2.5% ) と民営化の遅れと GDP 成長率の低下(年率 1% )に よって、 2014 年 5 月の第 5 回レビューに比較して、 委譲許的融資及び債務削減がない場合には、一般 政府債務と必要資金調達総額が増大。 ギリシャ融資ファシリティ全額の債務削減( 531 億 ユーロ)と譲許的融資によって一般政府債務と必 要資金調達総額を軽減。 マクロ金融論 2016 23
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