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第5章 家計に関する統計 ー 経済統計 ー
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この章の内容 Ⅰ 家計に関する統計調査 Ⅱ 家計調査の特徴と問題点 Ⅲ 家計収支の分析 Ⅳ 消費構造の分析 Ⅴ 所得や資産の格差
Ⅰ 家計に関する統計調査 家計収支・貯蓄に関する統計調査 消費の動向に関する統計調査 Ⅱ 家計調査の特徴と問題点 調査方法の特徴 家計調査における過少性の問題 Ⅲ 家計収支の分析 収支バランス 可処分所得・消費・貯蓄 Ⅳ 消費構造の分析 消費関数 エンゲル関数 Ⅴ 所得や資産の格差 ローレンツ曲線 ジニ係数 <おもなポイント> 家計に関する統計にどのようなものがあり、家計調査はどのような特徴をもつか。 家計調査の結果は、経済学における「所得・消費・貯蓄」にどのような対応しているか。 家計調査を使った分析によって、どのようなことがわかるか。 格差社会を表す指標としてどのようなものがあるか。 など
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Ⅰ 家計に関する統計調査
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a) 家計収支・貯蓄に関する統計調査 家計調査(基幹統計、総務省統計局)
経済学で Y(所得)=C(消費)+S(貯蓄) という関係がある。最初に、所得が消費と貯蓄にどのように振り分けられるかの統計を取り上げる。 家計調査(基幹統計、総務省統計局) 全国約9000世帯を選び、毎月実施する。 被調査者が家計簿をつけ、総務省統計局でこれを集計する。 各世帯は6ヶ月間(単身世帯は3ヶ月間)継続して調査され、毎月6分の1ずつ入れ替えられる。 → ローテーションシステム ※ 1999年6月以前は、2人以上の非農林漁家世帯のみが調査対象であった。長期のデータを見るときは、その点に注意すること。
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全国消費実態調査(基幹統計、総務省統計局)
5年に1度、西暦の末尾が4と9の年の9月から11月までの3か月間実施、全国約6万世帯を選ぶ、大規模標本調査。 被調査者は、家計調査と同様に3ヶ月間(単身世帯は2ヶ月間)家計簿をつけるほか、貯蓄の状況、耐久消費財の購入状況などの調査票にも記入する。
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b) 消費の動向に関する統計調査 消費動向調査(一般統計、内閣府) 家計消費状況調査(一般統計、総務省統計局)
消費について、より詳細に見た調査を取り上げる。 消費動向調査(一般統計、内閣府) 毎月実施、3, 6, 9, 12月は調査事項が増える。平成15年度より民間の調査機関に委託(標本数 約6720世帯) 消費者の意識に重点をおいた調査 家計消費状況調査(一般統計、総務省統計局) 毎月民間の調査機関に委託して実施(標本数 約3万世帯) IT関連商品・サービスや購入頻度の少ない高額商品の購入状況などを調査 家計調査で十分把握できないものを補うための調査
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Ⅱ 家計調査の特徴と問題点 a) 調査方法の特徴 家計調査の特徴として、おもに以下の2点があるが、それぞれ問題点もある。
Ⅱ 家計調査の特徴と問題点 a) 調査方法の特徴 家計調査の特徴として、おもに以下の2点があるが、それぞれ問題点もある。 家計簿を自ら記入する方式 長所 - 消費支出の詳細なデータが得られる 短所 - 記入者の負担が大きい 6ヶ月間継続し、6分の1ずつ入れ替えるローテーションシステム 長所 - 標本の入れ替えによる変動が少ない 短所 - 学習効果による消費抑制 → 家計簿をつけていない他の世帯とのズレ
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b) 家計調査における過少性の問題 家計調査における消費支出は過少性を持つといわれる。
家計調査における消費支出は過少性を持つといわれる。 被調査者の負担が大きく、消費のうちいくらかが抜け落ちる → つけ忘れなどの影響もあるが、自動車などの高額な耐久消費財を購入した場合などは、それを毎日の家計簿に書くことには抵抗感がある。そのため抜け落ちる可能性がある。 ⇒ 家計消費状況調査の結果をうまく用いることができれば、補うことができるであろう。 学習効果によってムダを抑える → この過少性の問題は、国民経済計算の結果と比較していわれる。
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Ⅲ 家計収支の分析 勤労者世帯 勤労者世帯以外 2人以上世帯 単身世帯 総世帯 勤労者世帯 勤労者世帯以外
Ⅲ 家計収支の分析 平成19年までは、2人以上世帯について、農林漁家世帯を含む結果と含まない結果が両方表象されていた。 現在、農林漁家世帯を含まない結果は一部に残るのみである。 勤労者世帯 勤労者世帯以外 2人以上世帯 単身世帯 総世帯 勤労者世帯 勤労者世帯以外 勤労者世帯(世帯主がサラリーマン) - 収入と支出の両面を調査 勤労者世帯以外(世帯主が自営業など) - 支出と年間収入のみを調査 平成19年までは、勤労者世帯と勤労者世帯以外をあわせたものを、 「全世帯」と表していた。
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a) 収支バランス 収入総額 = 実収入 + 実収入以外の収入 + 繰入金 ∥ 支出総額 = 実支出 + 実支出以外の支出 + 繰越金
収入総額 = 実収入 + 実収入以外の収入 + 繰入金 (預貯金引出、保険配当金など) ∥ 支出総額 = 実支出 + 実支出以外の支出 + 繰越金 (預貯金、保険掛金など)
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b) 可処分所得、消費、貯蓄 可処分所得 = 実収入 - 非消費支出(税金、社会保険料など) 可処分所得 = 消費支出 + 貯蓄 (黒字)
可処分所得 = 実収入 - 非消費支出(税金、社会保険料など) 可処分所得 = 消費支出 + 貯蓄 (黒字) 所得(Y) 消費(C) 貯蓄(S) 平均消費性向= 消費支出 可処分所得 ×100 (各世帯が可処分所得のうち、消費にむける平均的な割合)
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年間における平均消費性向の動きは右のようになる。
経済学における貯蓄率に対応するものは、 黒字率= 黒字 可処分所得 ×100 によってあらわされる。 平均貯蓄率= 貯蓄純増 可処分所得 ×100 と混同しないように。
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Ⅳ 消費構造の分析 a) 消費関数 家計収支の分析において、 可処分所得 = 消費支出 + 貯蓄 (黒字)
Ⅳ 消費構造の分析 a) 消費関数 家計収支の分析において、 可処分所得 = 消費支出 + 貯蓄 (黒字) 所得(Y) 消費(C) 貯蓄(S) という関係をみた。経済学において、もう1つ次のような関係がある。 所得↑ → 消費↑ この関係を数学の用語を用いて表現すると、 「消費は所得の関数である」 といえる。
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これを数式の形で表したものが消費関数であり、代表的なものがケインズ型消費関数である。 Y(消費) = a + b X(所得) ↑ ↑
Y(消費) = a + b X(所得) ↑ ↑ 結果 原因 Y(消費) Y=a+bX X(所得)
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家計調査のデータを用いれば、この消費関数の関係が成り立っているかどうかを検証することができる。
1. クロスセクション分析 年間収入階級別のデータなどを用いればクロスセクションの消費関数を求めることができる。 Y= X
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2. 時系列分析 毎年のデータなどを用いれば時系列の消費関数を求めることができる。 限界消費性向 - Xが1単位増加するときのYの増分、この時系列分析では0.716となる。 Y= X
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b) エンゲル関数 年間収入5分位階級別の消費支出のデータについて、各費目(大分類)について、折れ線グラフを描いてみる。
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このグラフを見ることによって、各費目を分類することができる。
所得が高いほど構成比が小さいもの(右下がりのグラフ) 食料、住居、光熱・水道、保健医療 → 必需品 所得が高いほど構成比が大きいもの(右上がりのグラフ) 被服および履物、教育、教養・娯楽、その他 → ぜいたく品 所得によって構成比が変わらないもの(横ばいのグラフ) 家具・家事用品、交通通信 ※ エンゲル係数 - 食料費の消費支出に占める割合 所得が高くなるほど、エンゲル係数が低くなるというエンゲルの法則が成立している。
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各費目について、より詳しく分析するために、エンゲル関数を用いることができる。
エンゲル関数は消費支出を横軸に、各費目別支出を縦軸にとり、回帰分析をおこなって求める。
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一般的にE = a + bC と表すと、a や b の符号によって、各費目は次のように分類される。
この結果 E = C という関数が推計された。 一般的にE = a + bC と表すと、a や b の符号によって、各費目は次のように分類される。 傾き b …消費支出が変化したとき、その費目にふり分けられる支出の割合 b > 0 のとき 消費↑ → 費目別支出↑ (上級財(正常財)) b < 0 のとき 消費↑ → 費目別支出↓ (下級財(劣等財))
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となる。この左辺は各費目の構成比となる。C>0なので、Cが増加したとき、左辺の構成比が増加するかどうかはaの符号によって決まる。
切片a … E = a + b C の両辺をCで割ると となる。この左辺は各費目の構成比となる。C>0なので、Cが増加したとき、左辺の構成比が増加するかどうかはaの符号によって決まる。 a > 0 のとき 消費↑ → 構成比↓ (必需品) a < 0 のとき 消費↑ → 構成比↑ (ぜいたく品) 以上の結果から 必需品 食料、住居、光熱・水道、家具・家事用品、保健医療、交通・通信 ぜいたく品 被服および履物、教育、教養・娯楽、その他 𝐸 𝐶 = 𝑎 𝐶 +𝑏
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エンゲル関数の推計結果
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食料費の支出弾力性 - 消費支出が1%増加した時に、食料費が何%増加するか(ここでは、それをηで表す)である。
※ 支出弾力性 食料費の支出弾力性 - 消費支出が1%増加した時に、食料費が何%増加するか(ここでは、それをηで表す)である。 として求める。 (例) 消費支出(C) 20万円 → 28万円 28−20 20 = 8 20 =0.4 ⇒ 40%増加 食料費(E) 5万円 → 6万円 6−5 5 = 1 5 = ⇒ 20%増加 このとき、 𝜂= Δ𝐸 𝐸 Δ𝐶 𝐶 食料費の変化率 消費支出の変化率 𝜂= Δ𝐸 𝐸 Δ𝐶 𝐶 = 6− − = = 1 5 × 5 2 = 1 2 =0.5 消費支出が40%増加した時に、食料費は20%増加するので、消費支出が1%増加したときには、食料費は0.5%増加する。
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であり、これは logE = a + b logC という回帰分析をおこなったときの、bの値である。
なお、 であり、これは logE = a + b logC という回帰分析をおこなったときの、bの値である。 𝜂= Δ𝐸 𝐸 Δ𝐶 𝐶 = Δ log 𝐸 Δ log 𝐶 ※ 数学的補足 (初学者はとばしてください) logXをXで微分すると 𝑑 log 𝑥 𝑑𝑥 = 1 𝑥 となる。 したがって、 𝑑 log 𝑥 = 𝑑𝑥 𝑥 である。 このことから 𝑑 log 𝐸 𝑑 log 𝐶 = 𝑑𝐸 𝐸 𝑑𝐶 𝐶 であることがわかる。 この値はΔC→0としたときの、弾力性の極限の値であり、弾力性の値に等しい。
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支出弾力性は次のように解釈できる。 支出弾力性の解釈 0<η<1: Eの増加率はCの増加率より小さい(必需品)
食料、光熱・水道、保健医療 η>1: Eの増加率はCの増加率より大きい(ぜいたく品) 家具・家事用品、被服および履物、交通・通信、教育、教養・娯楽、その他 η<0: Cが増加するとEは減少する(劣等財) 住居
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Ⅴ 所得・資産の格差
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「少数のお金持ちと多数の一般人」 所得や資産のヒストグラムを見ると、 がいることが分かる。(特に資産の分布)
このような状態は不平等であると考える。 すべての人の所得や資産が等しい状態を平等とし、そこからどの程度離れているかを知りたい。
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5人兄弟が遺産を相続するとき、 † 5人兄弟の遺産相続の例 (a) は、5人兄弟がそれぞれ5分の1ずつ相続するという例。
† 5人兄弟の遺産相続の例 5人兄弟が遺産を相続するとき、 (a) は、5人兄弟がそれぞれ5分の1ずつ相続するという例。 (b) は、5人兄弟がそれぞれ異なった取り分を相続する例。 (c) は、長男がすべての遺産を相続するという例。 (a) は、5人が平等に相続しているのに対して、(b)や(c) は、不平等である。
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この3つのパターンについて、取り分の小さい順に並べかえ、人数の比率と金額(遺産の取り分)の比率の累積を計算してみた。
累積-それ以前のものをすべて加えるということ。 (例) (b)の三男の累積金額比率 「五男の取り分」+「四男の取り分」+「三男の取り分」となるので、1/15 + 2/15 + 3/15 = 6/15 となる。
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横軸に累積人数比率を、縦軸に累積金額比率をとり、線でつないだものが下の図である。
a) ローレンツ曲線 横軸に累積人数比率を、縦軸に累積金額比率をとり、線でつないだものが下の図である。 この曲線は、ローレンツ曲線とよば れ、不平等の度合いを表す曲線であ る。 45度線が完全平等線といわれる。 (この例では(a)のグラフが該当する。) 不平等度が大きいほど、グラフが完 全平等線から右下方に離れる。 → (b)より(c)の方が不平等
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ローレンツ曲線の完全平等線からの離れぐあいを数値で表したもの 完全平等線とローレンツ曲線で囲まれる部分の面積を2倍したもの
b) ジニ係数 ローレンツ曲線の完全平等線からの離れぐあいを数値で表したもの 完全平等線とローレンツ曲線で囲まれる部分の面積を2倍したもの この面積の2倍 灰色の四角の面積が1なので、0と1の間の値をとり、1に近いほど不平等度が大きい
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残りの部分を台形に分割し、正方形から引く
ジニ係数の計算方法 残りの部分を台形に分割し、正方形から引く 台形の面積の公式 (上底+下底)×高さ÷2 を使う。 下底 上底 高さ
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このような台形(1番左は直角三角形)の面積を全部加え、その2倍を正方形から引く
遺産相続の例 (b) 0.267 遺産相続の(b)で、次のような台形がある。 上底 - 三男までの累積金額比率(6/15) 下底 - 次男までの累積金額比率(10/15) 高さ - 三男と次男の累積人数比率の差(1/5) この台形の面積は (6/ /15)×1/5÷2 = 8/75 このような台形(1番左は直角三角形)の面積を全部加え、その2倍を正方形から引く 1-(1/ /75 + 3/50 + 8/75 + 1/6) × 2 = 1-11/30×2 = 4/15 = 0.2666…
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年間収入の例 (平成23年 家計調査 2人以上世帯)
(例) ( )×( )÷2 = ジニ係数 1- ×2 =
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資産のローレンツ曲線 年間収入のローレンツ曲線 ジニ係数 ジニ係数
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