依田高典『不確実性と意思決定の経済学』日本評論社 1997年

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1 依田高典『不確実性と意思決定の経済学』日本評論社 1997年
『ミクロ経済分析入門』 意思決定の経済学(経済心理学)(1) 時間選好編 参考文献: 依田高典『不確実性と意思決定の経済学』日本評論社 1997年 第1章「時間選好の意思決定理論」 京都大学大学院経済学研究科 助教授 依田高典

2 0 新古典派経済学と経済心理学 新古典派ミクロ経済学の超合理性の仮定は非現実的 経済心理学の学問的意義 私の博士論文は経済心理学
0 新古典派経済学と経済心理学  新古典派ミクロ経済学の超合理性の仮定は非現実的 この批判は批判で正しい。しかし、だからどうした、ならどうしたいと言われると、人は言葉に詰まる。  経済心理学の学問的意義 人間は確かに新古典派経済学が想定するほど合理的ではない。かといって、全くでたらめに振る舞うわけでもない。そこには「体系的な偏り(systematic bias)」が存在する。だから、その法則性を学問的に研究できる。  私の博士論文は経済心理学 それはそれで面白いが閉塞感がつきまとう分野であった。そこで「転向」。御陰様で日本トップクラスの情報通信経済学者になりました。しかしパラレルワールドに住み、そのまま経済心理学を続け、世に埋もれたまま研究を続けている自分を想像しないわけではない。  ところが2002年度ノーベル経済学賞はKahnemanに! 開いた口塞がらず。最近ゲーム理論家や契約理論家がなにかと経済心理学に言及するのを耳にするにつけ、隔世の感有り。 『芸術家は処女作に向かって永久に回帰する』

3 1 新古典派理論の三位一体命題 「資本限界生産力(収益率)=時間選好率=市場利子率」 MRS=MRT=1+r or TPR=CPR=r
1 新古典派理論の三位一体命題 「完全資本市場における利子率は、資本の限界生産力と消費者の限界時間選好率とを均等化させ、パレ−ト社会最適性が達成されるという古典的概念に基づいて、今なお利子率の規範的議論は行われている。」(Feldstein1964) 「資本限界生産力(収益率)=時間選好率=市場利子率」 MRS=MRT=1+r or TPR=CPR=r

4 2 私的割引率と社会的割引率 現在世代と将来世代のウェイト(マーグリン)
2 私的割引率と社会的割引率  現在世代と将来世代のウェイト(マーグリン) 私的割引率=[自分の現在世代の消費の限界効用] /[将来世代の消費の限界効用]ー1 社会的割引率= [自分以外の現在世代の消費の限界効用] /[将来世代の消費の限界効用]ー1  通常、私的割引率>社会的割引率が成立。  その場合、利子率(私的割引率)を割引率に用いると、公共プロジェクトの過小投資の危険性。  人口成長率と経済成長率(フェルドシュタイン) 社会厚生(社会全体の消費水準、一人あたりの消費水準)  一人あたりの消費水準の限界社会厚生は逓減するが、社会全体の消費水準の限界社会厚生は逓減するとは限らない。  社会全体の消費水準の限界社会厚生が一定であるならば、一人あたり消費水準の成長率が社会的時間選好率に影響する。

5 3 粗時間選好率と純粋時間選好率 限界代替率(MRS)の定義: β:純粋時間選好率
3 粗時間選好率と純粋時間選好率  限界代替率(MRS)の定義: β:純粋時間選好率  MRS>1つまり粗時間選好率が「+」である2つの典型例  C1>C0 with β=0:限界効用逓減(U"<0)の仮定のもと、純粋時間選好率が0である一方で、第1期の消費が第0期の消費よりも大きいケース。  β>0 with C1=C0:第0期の消費が第1期の消費と等しい一方で、純粋時間選好率が正であるケース。  粗時間選好率=純粋時間選好率が成立するのは45°線上だけ。

6 4 時間選好率の測定実験(1) ベンジオン、ラポポート、ヤジルによる204名の経済学部生・大学院生を対象とした経済心理学的実験。
4 時間選好率の測定実験(1)  ベンジオン、ラポポート、ヤジルによる204名の経済学部生・大学院生を対象とした経済心理学的実験。 4つの遅滞時間t={0.5年,1年,2年,4年} 4つの利得y={$40,$200,$1000,$5000}  実験では4つのシナリオを想定。  シナリオA:受取を遅らせる。今現在$yの資産を持っていることを前提とし、今からt時間後に$x受け取ることと等価とする。xはいくらか。  シナリオB:支払を遅らせる。今現在$yの負債を持っていることを前提とし、今からt時間後に$x支払うことと等価とする。xはいくらか。  シナリオC:受取を早める。t時間後に$y受け取ることを前提とし、今現在$x受け取ることと等価とする。xはいくらか。  シナリオD:支払を早める。t時間後に$y支払うことを前提とし、今現在$x支払うことと等価とする。xはいくらか。

7 4 3 2 1 6 4 2 4 3 2 1 6 4 2

8 4 時間選好率の測定実験(2) 暗黙の割引率は遅滞時間の減少関数である。
4 時間選好率の測定実験(2) 暗黙の割引率は遅滞時間の減少関数である。 各シナリオにおいて、0.5年、1年、2年、4年と遅滞時間が長ければ長いほど、暗黙の割引率は小さくなる。 (2) 暗黙の割引率は額面の大きさの減少関数である。 各シナリオにおいて、$40、$200、$1000、$5000と利得の額面が大きくなればなるほど、暗黙の割引率は小さくなる。 (3) 受取を遅らせることの割引率の方が支払を遅らせることの割引率よりも大きい。また、支払を早めることの割引率の方が受取を早めることの割引率よりも大きい。 (4) 各ケースにおいて、遅滞時間0.5年と遅滞時間1年の間の割引率の格差は、他の期間の割引率の格差よりも大きい。

9 5 時間選好率の「定常性公理」 時間上の利得:xは利得、tは時間。 X=(x,t)=(x1,t1;…;xn,tn) 「定常性公理」:
5 時間選好率の「定常性公理」  時間上の利得:xは利得、tは時間。 X=(x,t)=(x1,t1;…;xn,tn)  「定常性公理」: (x,t)(=)(y,s) → (x,t+ε)(=)(y,s+ε) ($10,1年)と($15,4年)が等価値であるならば、 ($10,5年)と($15,8年)も等価値であること。  「定常性公理」が成立 → 「割引効用理論」が成立 ΣU(xt)/(1+r)t≧ΣU(yt)/(1+r)t  ⇔ X(≧)Y 割引効用が大きい利得の選択が望ましい。

10 5 シュトロッツの「定常性公理」批判 時間非整合に対する2つの措置:
5 シュトロッツの「定常性公理」批判 将来の利得は一定不変の割引率によって割り引かれる為に近い将来の小さな利得と遠い将来の大きな利得の間で決定不能に陥るような「時間非整合(time inconsistency)」は発生しない。新しい割引効用理論によれば、将来の利得は「遅滞時間(time delay)」それ自体の関数であるような時間選好関数によって割り引かれる為に時間非整合が発生する可能性がある。 時間非整合に対する2つの措置:  「プレコミットメント(precommitment)」:新しい選択時点に初期の最適経路から逸脱したがる自分を見越して、予め選択が不可能になるような事前の予防策を準備しておく。  「整合的計画化(consistent plannning)」:新しい選択時点で時間非整合が起り、それを避けることができないことを前提にして、現在の最適経路を決定する。    

11 6 時間選好率関数の一般化(1) 異時点間選択における割引効用理論: DU=∫ute−βtdt
6 時間選好率関数の一般化(1)  異時点間選択における割引効用理論:   DU=∫ute−βtdt 一回限りの消費プロジェクトの効用水準の現在価値   DU=ute−βt  時間選好率βに関する二つの経験法則:  参照点(Reference Point): 人間は行為と結果との時間地平上の規範を持っている。即ち、結果の遅滞時間と時間選好率との間に選択の準拠点となるような心理的規範が存在する。  フェヒナーの法則: 人間は未来の結果が心理的規範から現在に近付けば近付くほど近視眼的執着が強くなり、現在から遠ざかれば遠ざかるほどその執着は薄れていく。  一般化された時間選好率関数(依田):β= Kは積分定数で、AとBはパラメ−タ−でβの上限と下限を表す。

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13 6 時間選好率関数の一般化(2) βは遅滞時間の減少関数、参照点の右方では凸、左方では凹。 β(近未来の報酬)>β(遠未来の報酬)
6 時間選好率関数の一般化(2)  βは遅滞時間の減少関数、参照点の右方では凸、左方では凹。 β(近未来の報酬)>β(遠未来の報酬) 左方においてβ">0、右方においてβ"<0  時間選好理論の概念の正確な定義付け:  「不忍耐(impatience)」:  時間選好率が正であること。  「近視眼的選好(myopic preference)」:  時間選好率が遅滞時間の減少関数であること。  「時間非整合(time inconsistency)」:  遅滞時間が長くてより効用の高いプロジェクトPL、遅滞時間が短くてより効用の低いプロジェクトPSの選択。  時間選好率が正であること(不忍耐)、時間選好率が遅滞時間の減少関数であること(近視眼的選好)、二時点の時間選好率が一定水準以上に差があること、以上の三つの条件が満たされるとき、PLとPSの割引効用曲線がクロスする。  この場合、時間選好の逆転が起る。

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15 7 オデュッセウスのジレンマ 2つの選択肢: PS;サイレーンの歌声を聞く。遅滞時間1、効用90。
7 オデュッセウスのジレンマ  2つの選択肢: PS;サイレーンの歌声を聞く。遅滞時間1、効用90。 PL;無事にトロイアからの帰還を果たす。遅滞時間4、効用100。  時間選好率関数を、A=1,B=0,K=−eとおいて、    β= とする。その時、参照点は(T,β)=(1,0.5)である。上の時間選好率関数よりPSの割引率は50%、PLの割引率は約5%となる。  二つのプロジェクトの割引効用の比較をすれば、 現在において、DU(PS)=54.6<DU(PL)=82.7 遅滞時間1において、DU(PS)=90>DU(PL)=86.7 であり、時間非整合性が生じる。 オデュッセウスはサイレーンの歌声を聞かず、無事に帰還することの現在価値の方が高いことを承知していたが、サイレーンの美声を聞きたいという未来の欲望を抑えることができなかった。時間非整合の問題が発生したのである。しかし、賢明なる彼は先に紹介したプレコミットメントを用いることによって、ジレンマの解消に成功したのである。

16 8 回顧と期待の効用 回顧の効用(ミセラニ): バックワードルッキングな効用最大化行動。割引率は記憶の減衰率。
8 回顧と期待の効用  回顧の効用(ミセラニ): バックワードルッキングな効用最大化行動。割引率は記憶の減衰率。  期待の効用(ルーベンシュタイン): 良い出来事は焦らして楽しみ、悪い出来事は早々と済ませたがる。  回顧と期待の効用の総合(依田): Tを消費の遅滞時間、uTを消費の効用、αを期待の時間選好率、βを消費の時間選好率、γを回顧の時間選好率。第一項は期待の効用、第二項は消費の効用、第三項は回顧の効用。時間選好率には期待、消費、回顧の三種類あり、それぞれ異なった値を持つと仮定。  最適消費延期タイミング問題: 上式をゼロに置くように、最適消費延期時点を決定する。 期待と回顧の効用を入れないと、時間選好率を過小に見積もる。


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