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産業医の職務満足度 (QWL) 向上に関する
調査研究 主任研究者 北野邦俊 熊本産業保健推進センター 所長 共同研究者 小川道雄 熊本労災病院 院長 上田 厚 熊本産業保健推進センター 相談員 小柳敦子 熊本産業保健推進センター 相談員 広瀬靖子 熊本産業保健推進センター 相談員 原田幸一 熊本大学医学部保健学科 教授
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1. 目的 これからの産業保健活動を効果的に進めてゆくためには、産業医および関連スタッフの職務満足度を高める産業保健活動のシステムや職場の環境を作らなければならない。 そのような視点から、熊本産保センターは、産業医活動の職務満足度とそれを規定する因子とその構造を解析するための調査表を開発し、それを用いた産業医活動の実態調査を実施した。
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2. 研究方法 ○産業看護職、産業医、保健師と本研究者をメンバーとする ワークショップチームを編成し、グループワークにより、産
業医の活動とその満足度 (QWL) に関する調査票を開発 し、それを用いた調査表調査を実施した。 ○調査対象者:熊本県医師会が作成している日本医師会認 定産業医名簿(平成16年版)を用い、リストされた694名 中の250名 (36%) を無作為に抽出した。 ○調査票の配布・回収:自記式・留置法、郵送法で実施した。 ○解析:データの入力、統計処置を熊本大学 環境保健医 学教室が担当し、その結果の解析を今回ワークショップメ ンバーのグループワークによって進めた。
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産業医のQWLに関与する因子の基本構造 ○作業仮説Ⅰ A-タイプ行動 地域・社会 支援 企業の安全衛生に 対する取り組み:
安全・衛生活動のシステム 家庭内の サポート 企業内の サポート 健康習慣 企業の良好な雇用対策 自覚症状 ソーシャルサポート 主観的 健康感 健康状態 活力ある企業活動 持続的な健康地域・社会 持病 産業医のQWL QOL うつ状態 /疲労 業務の心理特性 要求度 企業活動の特性 ジェンダー ストレス 自由度 ノーマライゼーション /福利厚生 健康診断 健康相談 指導 企業の地域・社会活動 業務の要求 職場巡視 ライフイベント 安全衛生 委員会 人文地理的環境 地域生活環境 社会経済的環境 産業衛生スタッフ の人間関係 産業医活動 家庭生活 作業者との人間関係 環境保全活動
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産業医のQWL形成にかかわる枠組み:みどりモデル
○作業仮説Ⅱ 産業医のQWL形成にかかわる枠組み:みどりモデル 知識/価値観/ 態度(前提因子) 政策/制度/組織/情報 ・労働衛生法規に 対する知識と活用 (Q12,13) 行動とライフスタイル ・労働衛生関連法規 ・THP ・産業保健活動のシステムと支援組織 ・職業保健と地域保健の連携 ・産業医とその他の産業保健スタッフの役割と機能の再評価 ・健康習慣(Q7) ・産業医活動 (フェシート1~9) 健康指標 QOL 気持ちよさ/満足感/ 周囲のサポート (強化因子) ・自覚症状(Q6) ・ストレス(Q3,4) ・主観的健康感(Q5) ・ライフイベントによる ストレス (Q16) ・職業満足度(Q1) ・生活満足度(Q2) ・職場の人間関係(Q7) ・企業サポート(Q10) ・地域・家庭内のサポート (Q11) 環境 ・作業の心理特性(Q8) ・作業サポート(Q10) ・ライフイベント(Q16) 利用可能性/近接性/ 生活技術 (実現因子) ・産業医活動を支援する 組織・施設(Q14) システム(Q15) ☆みどりモデルによる枠組みつくり:職域におけるヘルスプロモーション☆
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○調査表の構成 ※フェースシート:対象者の個人特性 ○産業医活動の職務満足度 ①総合的(主観的)評価
②項目別評価:産業医としての技術・意欲・身分・報酬/活動 時間/職場巡視/健診・相談・事後措置/関係者からの評価 ○関連因子の構成 ①QOL/自覚的健康度/ストレス/健康習慣 ②カラセクモデル:要求度/自由度/支援度 ③職場の人間関係 ④職場のサポート(導入されている支援制度) ⑤家庭/地域/医療関係組織のサポート ⑥労働衛生法規等の知識/研修会等のニーズ ⑦ライフイベント ⑧自由記述
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3. 結果と考察 1)調査応答者 121名 (48%) から回答を得たが、あて先不明者(退職、移動他)12例、現在産業医の実務がない者またはこれまで産業医としての経験のない者20例、記載不備の者12例で、今回の解析に用いたものは77例(うち女性7例)となった。平均年齢は、58.1±11.2歳であった。
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2)産業医としての特性 ●担当企業数: 47%が1事業所、21%が2事業所、10%が6事業所以上。 ●産業医としての勤務形態:
79%が嘱託、16%が専属、5%が共同専任制度産業医。 ●産業医としての経験年数: 43%が10~19年、35%が5~9年、16%が5年未満。 ●産業医にかかわる資格: 99%が日医認定産業医、14%が健康スポーツ医、6%が労働衛生 コンサルタント、3%がTHP健康測定研修終了医。 ●産業医としての活動時間(1ヶ月あたり): 38%が1~4時間、35%が1時間未満、18%が5~9時間 ●診療医としての科目: 内科69%、外科25%、整形外科、精神科4%、総合診療科5%
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大変満足 5( 7%) 22(29%) やや満足 14(18%) 36(47%) どちらでもない 39 (51%) 11(14%)
3)産業医としての職務満足度およびそれに関与する 要素とその相互関連性 表1 職務満足度 (QWL) および生活満足度 (QOL) QWL N(%) QOL N(%) 大変満足 5( 7%) 22(29%) やや満足 14(18%) 36(47%) どちらでもない 39 (51%) 11(14%) やや不満足 10(13%) 6( 8%) 大変不満足 7( 9%) 1( 1%) *5段階評価
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表2 産業医にかかわる要素別の職務満足感 産業医としての技術 24(31) 22(28) 産業医としての意欲 26(34) 12(15)
表2 産業医にかかわる要素別の職務満足感 満足 N (%) 不満足 N(%) 産業医としての技術 24(31) 22(28) 産業医としての意欲 26(34) 12(15) 産業医としての身分 17(22) 12(15) 産業医に対する賃金 14(18) 22(28) 産業医活動に費やす時間 15(19) 18(24) 職場巡視と事後措置 17(22) 28(36) 健康診断/相談と事後措置 31(41) 18(24) 事業主の評価 23(30) 18(24) 従業員の評価 21(27) 14(18) 関係スタッフの評価 26(34) 9(12)
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大変感じる 5( 6%) 6( 8%) やや感じる 19(25%) 32(42%) どちらでもない 29 (38%) 21(27%)
表3 産業医活動および日常生活におけるストレス感 産業医活動 N(%) 日常生活 N(%) 大変感じる 5( 6%) 6( 8%) やや感じる 19(25%) 32(42%) どちらでもない 29 (38%) 21(27%) あまり感じない 19(25%) 12(16%) ほとんど感じない 5( 6%) 6( 8%)
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表4 自覚症状有訴率 ストレス関連症状 肩こり、背中の痛み 14(18) よく眠れない 12(16) 頭がすっきりしない 5( 6)
表4 自覚症状有訴率 いつもある N ( %) ストレス関連症状 肩こり、背中の痛み 14(18) よく眠れない 12(16) 頭がすっきりしない 5( 6) 胃腸の調子がよくない 4( 5) 手足が冷たい 4( 5) 最近体重が減った 3( 4) 燃え尽き症候群関連症状 根気がない 6( 8) 力を使い果たしたような気持ちになる 5( 6) みじめな気持ちになる 2( 3)
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表5 企業内のサポート制度 できている N (%) できていない N (%) 休憩施設の整備 31(40) 5( 6)
表5 企業内のサポート制度 できている N (%) できていない N (%) 休憩施設の整備 31(40) 5( 6) 健診・ドックに中高年・女性に特有の項目設定 31(40) 19(25) 同じ労働では男女の賃金格差がない 28(36) 8(10) 介護休業制度・育児休業制度の導入 28(36) 13(17) 喫煙対策がある 24(31) 18(23) 快適職場の形成に労働者の声が反映できる 20(26) 8(10) セクハラに対する社内教育 19(25) 10(13) ゆとり休暇(リフレッシュ休暇)の導入 14(18) 18(23) キャリアのための研修制度 14(18) 23(30) 健康相談に対する相談窓口制度 14(18) 24(31) メンタルヘルスに対する相談窓口制度 13(17) 15(19) ボランテイア活動のための休暇制度の導入 13(17) 28(36) フレックスタイム、短時間勤務制等の導入 10(13) 24(31) 個別ヒアリング制度 9(12) 27(35) 職場保育(託児)制度 5( 6) 44(57)
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表6 労働衛生法規に対する理解度 労働基準法 36(46) 13(17) 労働安全衛生法 35(45) 14(19)
表6 労働衛生法規に対する理解度 理解しているN ( %) いないN ( %) 労働基準法 36(46) 13(17) 労働安全衛生法 35(45) 14(19) じん肺法 34(44) 16(21) 家内労働法 32(42) 17(27) 特定化学物質障害予防規則 28(36) 26(34) 事務所衛生基準規則 26(34) 24(31) 労働者災害補償法 25(33) 25(33) 有機溶剤中毒予防規則 24(31) 30(39) 作業環境測定法 21(27) 27(35) 男女雇用機会均等法 21(27) 33(42) 育児・介護休業法 19(25) 31(41)
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表7 産業医活動にとって必要な研修の種類 重要であるN (%) 重要でないN (%) 産業医基本研修 62(80) 3( 4)
表7 産業医活動にとって必要な研修の種類 重要であるN (%) 重要でないN (%) 産業医基本研修 62(80) 3( 4) 実地研修(県/郡市医師会) 45(58) 5( 6) リフレッシャー研修 44(57) 6( 8) 特定科目専門研修 40(52) 8(10) 事例検討会(県/郡市医師会) 36(46) 5( 6) 事例検討会(地域産業保健サンター) 30(39) 7( 9) 事例検討会(産業保健推進センター) 30(39) 7( 9) 実地研修(地域産業保健センター) 30(39) 7( 9) 実地研修(産業保健推進センター) 29(38) 6( 8) 大学等専門機関の研修会 19(24) 14(19) 労働局の研修会 16(21) 15(20) リーダー研修 14(18) 12(16) 労働衛生コンサルタント受験のための講習 13(17) 21(27)
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産業保健推進センター 15(20) 21(27) 地域産業保健センター 17(22) 20(26) 労働局 15(19) 9(12)
表8 産業医活動にかかわる関連施設への満足度 満足 N (%) 不満足N (%) 産業保健推進センター 15(20) 21(27) 地域産業保健センター 17(22) 20(26) 労働局 15(19) 9(12) 労働基準監督署 18(23) 12(16) 医師会 19(24) 32(42)
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表9 各項目のスコア N=77 平均±SD (スコア範囲) QWL(総合評価) 3.0±1.0 ( 5~1 )
表9 各項目のスコア N=77 平均±SD (スコア範囲) QWL(総合評価) 3.0±1.0 ( 5~1 ) QWL(要素別評価) 29.0±1.0 (50~10) QOL(総合評価) 3.9±1.0 ( 5~1 ) ストレス度(産業医業務) 3.0±1.0 ( 5~1 ) ストレス度(日常生活) 3.3±1.1 ( 5~1 ) 主観的健康度 2.8±0.7 ( 4~1 ) ストレス感(総自覚症状) 18.7±4.5 (39~13) ストレス関連自覚症状 11.9±3.0 (27~9 ) 燃え尽き症候群 6.8±2.0 (12~4 ) 高揚感 6.1±1.8 ( 9~3 ) 生活習慣 5.3±1.8 ( 8~0 ) 仕事の心理特性(自由度) 10.3±2.7 (18~6 ) 仕事の心理特性(要求度) 6.9±2.2 (15~5 ) 仕事の心理特性(支援度) 8.0±2.4 (15~5 ) 職場の人間関係 11.7±2.2 (15~4 ) 社内のサポート(サポート制度) 35.7±11.6(60~15) 家庭・地域のサポート(社会的支援) 19.9±5.2 (32~8 ) 家庭・地域のサポート1(支援者) 11.8±4.0 (20~5 ) 家庭・地域のサポート2(社会参加) 8.1±2.2 (12~3 ) 労働衛生関連法規知識に対する総合評価 2.8±1.0 ( 5~1 ) 労働衛生関連法規知識に対する要素別評価 24.3±4.6 (60~12) ライフイベントによるストレス 2.3±2.9 (60~0 )
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表10 QWLを規定する要素とその構造:重回帰解析結果
標準偏回帰係数(β) 相関係数(r) ストレス(日常生活) 262** 295*** ストレス(産業医業務) 212** -.295*** サポート(社会参加) 173 .219** 要求度(Kモデル) 139 .107 ライフイベント 092 -.166* サポート(支援を受ける) 021 .244** 自由度(Kモデル) 003 .328** 労働衛生法規の知識 .414*** .440*** 企業内サポート制度 .227** 452*** 企業内人間関係 .183* .469*** 生活習慣 .180* .199** 支援度(Kモデル) .093 .365***
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4. まとめ ○産業看護職、産業医、熊本産業保健推進センタース タッフをメンバーとするワークショップにより、以下の 研究を実施した。
○産業医の職務満足度を高めることが、職場に即した 効果的な産業保健活動の運営につながるという視点 から、産業医の職務満足度を評価し、それを規定す る要素とその構成を明らかにすることを目的とした質 問調査表を開発した。 ○それを用いて、熊本県下の日本医師会認定産業医 を対称にして調査を実施した。
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○その結果、 QWLからみた産業医業務の特徴は以下のようにまとめることができる; 1)産業医のQWLは比較的高く維持されているが、「産業医としての身分」「賃 金」「業務時間」「職場巡視」に対する満足度のスコアは他の要素に比して相 対的に低い。業務 (31%) や日常生活 (50%) に対するストレスも大きい。 2)産業医の職務の心理特性は、自由度が高く要求度が低いというQWLの向 上やストレス緩和に有利な特性を持っている。 3)産業医のソーシアルサポートは担当職場でのそれは比較的保たれている が、社会参加については良好とはいえない。また、QOLに直接つながる社 内制度の導入は遅れている。 4)産業医活動に対する知識や技術に関する要素に対しては不安、不満を持っ ているものが多い。また、医師会、産保センターに対する満足度は高いとは いえない。 5)産業医のQWLを高める要素は、「産業保健関連法規に対する理解」「高揚 感」「仕事に対する自由度」「職場の人間関係」であり、QWLを阻害する要素 は、「ライフイベントストレス」「仕事からの要求度」「産業医業務のストレス 感」であった。
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○これらの結果を基に、産業医のQWLを高めるための要素をまとめた。
①産業医が持っている仕事/生活に対する潜在/対処能力を活かし た産業医としての業務の編成⇔参加型産業保健活動の導入。 ②産業医に対する適正な評価の理念とシステムの確立。 ③企業と地域における産業医の業務を支援する(ソーシアル サポート) ネットワークの確立。 ④産業保健関連法規の理解を深めるための情報の伝達システムの開発、 学習の機会の提供⇔労働衛生行政/民間機関、医師会の役割。 ⑤産業医個々のライフステージに対応した良好な健康習慣/ライフスタイ ルの選択と持続⇔医療職域におけるヘルスプロモーション。 ↑↓ 自己決定力/自己決定権の向上/確立 ストレスコーピング能力の向上 産業医としての資質の向上
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