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北極振動 (Arctic Oscillation: AO) に 関する論文紹介 冨川 喜弘
北極振動(Arctic Oscillation: AO)とは、北極圏とそれを取り巻く中緯度の間の月平均気圧場の南北振動のことで、大気の長周期変動の卓越モードとして注目され、多くの研究がなされている。 北極振動は、月平均気圧場に対する経験的直交関数(Empirical Orthogonal Function: EOF)展開の第1モードとして定義される。第1モードということは、気圧場の長周期変動の最も多くの部分を説明するという意味であるから注目されるのは当然であるが、それ以外にも順圧性(構造が高さ方向に変化しない)や環状モード(軸対称構造)といった著しい特徴を有しているため、多方面からの関心を集めている。
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目次 EOF解析 北極振動 (Arctic Oscillation: AO) その他の大気の長周期変動 AOはフェイク?
今後の課題 参考文献・ホームページ
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EOF解析 大気中に存在する変動のパターン(モードと呼ばれる)を抽出する手法
第一モードは変動の最大の分散を説明し、第二モードは第一モードで説明されない残りの変動のうちの最大の分散を説明するように定義される 個々のモードは直交する(空間分布の相関がゼロ) 個々のモードの時間関数も直交する 多変量解析の分野では主成分分析 (Principal Component Analysis) と呼ばれる EOF解析で得られるモードが必ずしも物理的に意味のあるモードとは限らないので注意が必要
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EOF解析の例 以下のような2点における気圧偏差の時系列データを考える → 時間 → 空間 2 -1 -3 3 EOF1 分散 PC1 1
→ 時間 → 空間 2 -1 -3 3 EOF1 分散 PC1 1 -1 6 (66.7%) = × 1 -3 EOF2 PC2 1 1 -2 3 (33.3%) + ×
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北極振動(Arctic Oscillation: AO)
Thompson and Wallace [1998] 月平均冬季(11~4月)北半球(20N以北)海面更正気圧(Sea Level Pressure)場のEOF第1モード 60N以北と30N-50Nで符号が逆転する東西一様な環状モード 変動(季節変動は除去済)の分散の22%を説明 intra-seasonal, interseasonal, interannual, interdecadal といったあらゆる時間スケールの変動の卓越モード 成層圏まで達する等価順圧構造 →成層圏の極渦の強弱に伴う変動? (SLPはその場所における全大気質量を表しているため) 地表気温の変動とも密接に関係
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ERA15から抽出されたAO 第1モードが変動の分散の39.1%を説明
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その他の大気の長周期変動 北半球中・高緯度対流圏に限定すると、 Pacific-North American (PNA) パターン
北大西洋振動 (North Atlantic Oscillation: NAO) AL(Aleutian Low)–IL(Icelandic Low) seesaw
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Pacific-North American (PNA) パターン
500、または700hPa面の月平均高度場の偏差で定義 6・7月を除く全ての月で見られるが、特に冬季に卓越し、interseasonal, interannual, interdecadal の時間スケールの変動を含む 熱帯熱源から射出された停滞性ロスビー波列? →ENSO(El Nino/Southern Oscillation) と密接な関連 アメリカ大陸の気候(気温・降雨等)に大きな影響を及ぼす より
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北大西洋振動 (North Atlantic Oscillation: NAO)
アイスランド低気圧とアズレス高気圧の月平均海面気圧偏差の逆相関 1年を通して見られるが、特に冬季に卓越し、interseasonal, interannual, interdecadal の時間スケールの変動を含む 生成原因については諸説あり ヨーロッパの気候(気温・降雨等)に大きな影響を及ぼす AOに比べて北極域のアノマリ領域が小さい より
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AL(Aleutian Low)–IL(Icelandic Low) seesaw
北太平洋のアリューシャン低気圧と北大西洋のアイスランド低気圧の月平均海面気圧偏差の逆相関 2・3月のみ存在し、interannual, interdecadal の時間スケールの変動を含む 対流圏全体で等価順圧構造 北太平洋域で増幅された停滞性ロスビー波列が北大西洋域へ伝播 ストームトラック上の移動性擾乱からの順圧的フィードバックによって維持? より
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AOはフェイク? AOは、北極域と中緯度帯の間の気圧の振動として定義されるが、中緯度域における気圧の振動の中心は、大西洋域tと太平洋域に局在している。 近年、北極域と大西洋域、北極域と太平洋域の間の気圧振動には良い負の相関が成り立つのに対して、太平洋域と大西洋域の間にはあまり正相関が無いことがわかってきた。 そのため、AOは北極域と大西洋域(NAO)、北極域と太平洋域(PNA)の間の気圧の振動がEOF解析によって結合されたみかけの振動ではないか、という議論が起こっている。
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Itoh [2002] の説明 20N-60Nの領域でEOF解析を行うと、第1モードとしてPNA、第2モードとしてNAOが現れる
→太平洋域と大西洋域の気圧変動は独立 →AOはPNAとNAOが結合したみかけのモードである PNAとNAOの空間分布は直交しない PNAとNAOが海面気圧変動の主要な2成分であり、説明される分散が同程度 →PNAとNAOの線形結合によって直交する2つのモードを作り出した 時間関数の直交性は? EOF2 EOF1 2003年春季気象学会予稿集p.70より
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EOFとREOFの比較 REOF (Rotated EOF) : モードの空間分布が直交する必要は無い EOFでは全球的なモードを抽出する傾向があるが、REOFでは局所的なモードを抽出する傾向がある Dommenget and Latif [2002] 第1モード 第2モード EOF AO 大西洋と太平洋の反対称モード REOF NAO アリューシャン低気圧 気候変動における物理的に意味のあるモードを抽出するためには、EOF(相関行列を使う場合と共分散行列を使う場合)解析、REOF解析、一点相関解析など複数の手法を使い、解析の信頼性を高める必要がある
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AOシグナルの下方伝播 Baldwin and Dunkerton [1999]
長周期成分(周期90日以上)だけが対流圏へ伝播可能 成層圏(10hPa)のAOシグナルは平均すると約3週間で地表面に達する 波動-平均流相互作用に伴う子午面循環の駆動と境界層の存在が重要? 特に冬季北半球成層圏東西風偏差場の環状モードを極夜ジェット振動(Polar-night Jet Oscillation: PJO) と呼ぶことがある [Kuroda and Kodera, 1999]
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このプロセスはあくまで可能性の1つに過ぎないことに注意
Plumb and Semeniuk [2003] 1次元、および3次元モデルを用いて、対流圏で励起されるプラネタリ波の活動によって、成層圏から対流圏へ下方伝播するAOに類似の東西風アノマリを生成することができるかどうか調べた 1次元、3次元モデルの双方で下方伝播する東西風アノマリが再現された 下方伝播する東西風アノマリは、波動-平均流相互作用に伴う子午面循環の駆動やプラネタリ波の反射によるものではなく、局所的な波動-平均流相互作用に伴う西向き加速がプラネタリ波の砕波レベルを引き下げることで実現されていた →赤道準2年周期振動 (Quasi-Biennial Oscillation : QBO) と同じ原理 成層圏は対流圏での強制に受身的な応答をしているだけであり、これはあくまで対流圏起源の現象である →成層圏が対流圏へ影響を及ぼしているという表現は不適切 このプロセスはあくまで可能性の1つに過ぎないことに注意
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今後の課題 AOに伴う大気質量変動は対流圏起源か成層圏起源か? →大気質量偏差は必ずダイポール、マルチポールモードとして現れることに注意 [Dommenget and Latif, 2002] 成層圏AOと対流圏AOは同じ現象か? PNA, NAO, AL-IL seesaw との関係は? 南半球環状モード (Antarctic Oscillation: AAO) と同じメカニズムか? 時間関数 (PC1) の変動の特徴は? 伝播性の変動パターンの抽出 → CEOF AOの予測は? 温室効果気体の影響は? 成層圏突然昇温との関係は? QBO,ENSOとの関係は? 太陽活動の影響は?
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参考文献・ホームページ EOF解析 多変量統計解析法、田中豊・脇本和昌著、現代数学社
北大の見延先生のホームページ ( Univ. of Washington のHartmann 先生のホームページ ( North et al., Sampling Errors in the Estimation of Empirical Orthogonal Functions, Mon. Wea. Rev., 110, , 1982. Dommenget and Latif, A Cautionary Note on the Interpretation of EOFs, J. Climate, 15, , 2002.
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AO, PNA, NAO, AL-IL seesaw Thompson and Wallace, The Arctic Oscillation signature in the wintertime geopotential height and temperature fields, Geophys. Res. Lett., 25, , 1998. 北大の白石氏の卒論 ( JISAO Climate Data Archive ( Marshall et al., North Atlantic Climate Variability: Phenomena, Impacts and Mechanisms, Int. J. Climatol., 21, , ( から取得可能) CPC: Monitoring and Data ( Interannual Seesaw between the Aleutian and Icelandic Lows (
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AOはフェイク? 伊藤久徳、見かけの北極振動の再考察、2003年度春季気象学会予稿集、p.70. Itoh, True versus apparent arctic oscillation, Geophys. Res. Lett., 29(8), /2001GL013978, 2002. Wallace and Thompson, The Pacific Center of Action of the Northern Hemisphere Annular Mode: Real or Artifact?, J. Climate, 15, , 2002. Christiansen, On the physical nature of the Arctic Oscillation, Geophys. Res. Lett., 29(16), /2002GL015208, 2002.
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AOシグナルの下方伝播 Baldwin and Dunkerton, Propagation of the Arctic Oscillation from the stratosphere to the troposphere, J. Geophys. Res., 104, , 1999. Plumb and Semeniuk, Downward migration of extratropical zonal wind anomalies, J. Geophys. Res., 108(D7), /2002JD002773, 2003. Kuroda and Kodera, Role of planetary waves in the stratosphere-troposphere coupled variability in the northern hemisphere winter, Geophys. Res. Lett., 26, , 1999.
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