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2012年度冬学期「刑事訴訟法」13-2 証拠法総論
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証拠裁判主義 ○神判や決闘等による真偽の判定・紛争解決 ○裁判システムの整備 ⇒証拠による証明とそれに基づく判定 ・・・§317
・・・§317 ○現代的意義 法の定めに従った証拠による証明⇒特に,犯罪事実等 ・証拠能力のある証拠 ・適式な証拠調べ 厳格な証明
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厳格な証明 ○厳格な証明 証拠能力があり,適式な証拠調べを経た証拠による証明 ○自由な証明 厳格な証明の方式によらない証明
証拠能力があり,適式な証拠調べを経た証拠による証明 ・犯罪構成要件該当事実,違法性・責任を基礎づける事実 ・刑の法定加重減軽事由 ○自由な証明 厳格な証明の方式によらない証明 ・量刑事情 ・訴訟手続上の事実 なぜ? 多様な情報・資料の必要,煩雑性 常に全く自由でよいか? ・自白の証拠能力(任意性)の存否 有罪無罪の判断を左右し得る⇒犯罪事実の証明に準じる? ・量刑事情 ⇒実務上は厳格な証明に準じ,適式な証拠調べは経させてい る。
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自由心証主義 ○証拠法定主義 有罪認定のためには所定の証拠を必要とする方式 ○自由心証主義 ・2人以上の証人の証言を必要とする法制
有罪認定のためには所定の証拠を必要とする方式 ・2人以上の証人の証言を必要とする法制 ・自白を必要とする法制(中世ヨーロッパ) 犯罪に対する刑罰が死刑→慎重を期した面も? 自白獲得手段としての拷問 明治初期までのわが国の法制 「凡そ罪を断ずるは口供結案に依る」 拷問 ボアソナードの建言 拷問の廃止 自由心証主義の採択・・・「凡そ罪を断ずるは証による」 ○自由心証主義 有罪・無罪は裁判官による自由な(=実質的な)証拠評価に基づいて 判定されるものとする方式 ⇒§318 合理的限界・・・・・経験則・論理則の逸脱は不可。
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証拠による証明(1) 証拠 1.X自身の供述(自白)・・・公判廷での供述,捜査機関作成の供述調書等
「被告人Xは,平成17年1月14日午後1時過ぎころ,東京都文京区本郷7丁目3番1号本郷マンション204号室のV宅において,殺意をもって包丁でVの腹部を刺し,よってVを死亡するに至らしめた。」との公訴事実 証拠 1.X自身の供述(自白)・・・公判廷での供述,捜査機関作成の供述調書等 2.目撃者の供述・・・・・・・・・公判廷での証言,捜査機関作成の供述調書等 3.Vの死体・・・・・・・・・・・・・・死体解剖検案書,医師の供述,鑑定書等 4.現場に遺留された包丁・・それ自体 付着した血液についての鑑定(結果報告)書等 付着した指紋についての照合結果報告書等 5.現場の検証調書等
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6. 同日同時刻ころ,Xが上記マンションから出てきて足早に立ち去るのを見
たというAの供述 7. 前日に金物店でXが上記包丁と同一品目の包丁を購入したという金物 店の店主Bの供述 8.XはVから借金をし,その返済を迫られていた旨の知人Cの供述 9. X宅の捜索の結果差し押さえられた,貸金の返済を促すVからの手紙 10.Xは日頃Vから暴行を受けたり,金品を脅し取られたりしていた旨をXから聞かされていたという友人Dの供述 ・・・・・いずれも,公判廷での証言,捜査機関作成の供述調書等
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証拠による証明の構造(イメージ) 推認 推認 証人A 間接事実1 間接事実2 証拠物A 証拠物B 推認 要証事実 書証A 間接事実3 証人B
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証明の必要・方法・程度・責任 ○ある事実について ・証拠によって証明する必要があるか?
(証明の必要=裁判所は,証拠による証明がなされなくても,その事 実を認定してよいか) ・その証明はどのような方法によって行うべきか? 証拠能力,証拠調べ方法(証拠の種類別に法定) ・証明があったとしてその事実を認定してもらえるには,どの 程度までに証明する必要があるか? (証明の程度=裁判所は,どの程度の心証を得るに至ったときに,そ の事実があったと認定してよいのか) ・それを証明する責任を負うのは当事者のどちらなのか? (挙証責任=その事実の存否いずれとも証明がつかなかったときに, 裁判所はどちらに判定すべきか。不利に判定される側=挙証責任 を負う。)
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証明の必要 ○法的効果を生じさせる前提となる事実は,原則としてすべて, 証明されることが必要 ○例外 ・公知の事実 ・裁判所に顕著な事実?
証明されることが必要 ○例外 ・公知の事実 ・裁判所に顕著な事実? 判例(不要) 学説(必要) ・法律上推定される事実 *「疎明」(証明より程度の低い,裏付けないし根拠の提示)で足りる場合 ⇒訴訟手続上の一定の事項について刑訴法・規則で明規
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・・・前提事実の存在が認められる場合,通常,推定事実の存在も
法律上の推定 ○推定とは A事実(前提事実)の存在 ⇒B事実(推定事実)があったと推定(推認) ○推定の種類 1)事実上の推定 ・・・前提事実の存在が認められる場合,通常,推定事実の存在も 推認されるが,反対当事者からの反対主張・反証によって, その推認は破れ得る。 個別の事案の具体的事情・情況によっては,そもそも,その推 認が働かないこともある。 ex. 犯罪構成要件該当事実の存在⇒違法・有責と推定
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・・・前提事実の存在が認められれば推定事実の存在を推定する旨, a) 反証を許さない推定 擬制(みなし)に等しい=実体法上の要件の変更?
2)法律上の推定 ・・・前提事実の存在が認められれば推定事実の存在を推定する旨, 法律で規定されているもの a) 反証を許さない推定 擬制(みなし)に等しい=実体法上の要件の変更? ex. 「人に対して拳銃を発射してその人を死亡させたときは,殺意が あったものと推定する。」 ⇒殺意の存在について被告人側の反証を許さないとすると, そのような場合は,殺意は殺人罪の成立に不要とするのに 等しくなる。 ⇒そのような扱いの正当性?
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b) 反証を許す推定 前提事実 ・・・・・検察官が立証 ○問題点 ・推定事実の不存在については被告人側に挙証責任
前提事実 ・・・・・検察官が立証 推定事実 ・・・・・被告人側が反証 ○問題点 ・推定事実の不存在については被告人側に挙証責任 ⇒①挙証責任の転換? ・推定事実の存在について合理的疑い残る場合も,存在すると推 定され,反証ない限り,存在すると認定しなければならない ⇒②「合理的疑いを超える」証明の原則との抵触? ③自由心証主義の侵犯?
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推定規定の正当化根拠 ○義務的推定=裁判所が合理的な疑いを抱いても認定しなければならない
○義務的推定=裁判所が合理的な疑いを抱いても認定しなければならない ⇒①挙証責任の転換? ②「合理的疑いを超える」証明の要請に反する? ③自由心証主義に反する? 許容的推定=推定してもよいとするだけ(アメリカ判例) ⇒裁判所が合理的疑いを抱くときは異なった認定が可能( ②,③) その意味で,挙証責任は検察官にある( ①) ○裁判所は推定してもよい ⇒合理的疑いを超える証明なくても認定され得る=なお②の問題残る ・合理的関連性(アメリカ判例) 前提事実と推定事実との間に一定の推認が可能な関係があること ⇒しかし,その程度は”more likely than not”=なお②の問題残る ・被告人側からの証拠提出の容易性 容易であるのに提出しなかったこと⇒そのような証拠はないと推認 合理的関連性+この推認=合理的疑いを超える( ②)
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証明の程度 ○合理的な疑いを超える(beyond a reasonable doubt)証明
・アメリカの刑事訴訟において,被告人の罪責を基礎づける事実について 必要とされる証明の程度。わが国でも通説。 ・わが国の判例は, 「真実の高度な蓋然性」 ,すなわち「通常人であれば 誰でも疑いを差し挟まない程度に真実らしいとの確信を得させるもの」 であることを必要とし,かつそれで足りるとしていた(最判昭23・8・5 刑 集2・ 3・1123)が,最近では,「合理的な疑いを差し挟む余地がない 程度の立証」が必要と表現(最決平19・10・16刑集61・7・677)。 ○証拠の優越(preponderance of evidence) ・アメリカの民事訴訟において,一般に必要とされる証明の程度 ・わが国の民事訴訟においては,判例は,刑事訴訟についての上記判例 とほぼ同様の表現を用いており(最判昭50・10・24民集29・9・1417), 学説上も,「真実である高度の蓋然性」の程度とするのが多数説。しかし, その意味合いは,刑事訴訟の場合とはやはり自ずから差があると考えら る上,最近では,証拠の優越の程度で足りるとする説も有力。 Cf. 伊藤眞「証明,証明度および証明責任」法学教室254号(2001年)
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証明の責任 ○様々な概念(混乱しないよう注意が必要→下線付きの概念に焦点)
・ 形式的挙証責任・・・訴訟のある局面において立証活動を行う必要があ る(行わなければ不利に認定されてしまう状態にある)のはどちらの当事者 か,という問題⇒訴訟の進行状況により変動 実質的挙証責任・・・ある事実の存否いずれとも証明がつかなかったとき に,どちらに不利に判定されることになるか,という問題 ⇒以下で問題とする挙証責任 ・ 主張責任・・・当の事項を主張し,争点とする程度 証拠提出責任・・・当の事実について何らかの証拠を提出し,合理的な疑い を生じさせる程度 説得責任・・・裁判所に確信ないし合理的な疑いを超える心証を得させる程度 ⇒挙証責任についての議論の中心
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○民事訴訟 ある法律効果を基礎づける事実の存在について挙証責任を負うのは,原 ○刑事訴訟 則として,その法律効果を求める当事者
ある法律効果を基礎づける事実の存在について挙証責任を負うのは,原 則として,その法律効果を求める当事者 ⇒両当事者間の力関係や資料の偏在状況,その他法政策的考慮により 転換されている場合も ○刑事訴訟 ・被告人の刑事責任(罪責)を基礎づける事実=検察官に挙証責任 ⇒なぜか? ・無罪の推定(presumption of innocence) ・疑わしきは被告人の利益に(in dubio pro reo) ⇒違法性阻却事由,責任阻却事由,処罰阻却事由などについても? ・被告人の刑事責任を基礎づける事実以外の事実 =その事実が認定されることにより生じる法律効果を求める側に挙証責任 ex. 自白の任意性⇒その自白の証拠調べを請求する側(検察官) 被告人側が提出した参考人の供述録取書の特信性(被告人)
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挙証責任の転換 ○本来は検察官が挙証責任を負っているはずの事項について,法 律の規定により,被告人側に挙証責任を負わせること
ex. 名誉毀損罪における摘示事実の真実性の証明 同時傷害罪における行為(暴行)と結果(傷害)との間の因果関係 ・法律上の推定の結果,推定事実についての挙証責任が転換されている (と解される)場合も ⇒そのような挙証責任の転換は正当化され得るか? ・「無罪の推定」,「疑わしきは被告人の利益に」の原則に反しないか? ・被告人が,訴訟の仕方が拙劣であったために有罪とされることになって もよいか? ・立証の困難ということだけで正当化できるか? ・被告人側による反証の程度を低いもので足りる(例えば「証拠の優越」 程度)とすることで正当化され得るか?
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参考文献 ①井上正仁「麻薬新法と推定規定」研修523号13頁以下 (1992年)
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