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Published byともみ たにしき Modified 約 7 年前
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12 化学療法薬(悪性腫瘍治療薬を含む) 病原微生物に対して選択毒性を有する化学物質を用いた疾病の治療を”化学療法(chemotherapy)という。また、悪性腫瘍に対して抑制的に作用する薬剤も化学療法薬と呼ばれている。このような化学物質のなかで、微生物が産生し他の微生物や細胞の増殖を抑制する物質を”抗生物質(antibiotics)”と呼ぶが、広義にはサルファ剤やニュ−キノロン系薬剤のような微生物の生産物でない合成抗菌薬を含めて、抗生物質あるいは抗生剤と呼ばれることもある。本編では、病原微生物に対する化学療法薬(抗菌薬ともいう)と悪性腫瘍に対する化学療法薬(抗癌薬ともいう)に分けて説明する。また、悪性腫瘍の治療に用いられる化学療法以外の薬剤(免疫療法薬など)についても述べる。
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◎感染症治療薬 ヒトは常に病原微生物(細菌、ウイルス、真菌など)と接触しているが、通常、生体は免疫系などによる抵抗力により、それらの侵入と増殖を防いでいる。しかし、なんらかの理由で病原微生物の勢いが増し、生体内での増殖を阻止できなくなると、生体恒常性が侵され種々の症状を呈するようになり感染症が発生する。このような感染症の原因となる微生物の細胞構造と代謝が、ヒトの細胞と異なっている点を利用して、微生物に選択的な作用を有する種々の化学療法薬が開発されて臨床で広汎に利用されている。化学療法は疾病の原因である病原微生物に働く原因療法であり、それがなければ致命的であるような数多くの感染症を治療できる重要な薬剤である。しかし、化学療法薬は医薬品のなかでも乱用や誤用がされやすく、また、薬剤耐性菌や菌交代症の発生、あるいは副作用の問題もある。化学療法薬は種類も多いので、それぞれの特性を理解し適切に利用することが大事である。
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A 感染症治療薬(抗菌薬)の基礎 ☆感染症治療薬の作用機序 抗菌薬はヒトと細菌などとの細胞の構造や代謝の違いを利用して、病原微生物を効果的に死滅させたり(殺菌作用)その増殖を阻止(静菌作用)するが、ヒトの細胞にはできるだけ影響が少ない(選択毒性が高い)薬剤が臨床応用されている。代表的な抗菌薬をその作用機序別に分類すると、図12−1に示すようになる。 ☆細胞壁合成阻害: 細胞壁は細菌の形態を維持する機能を有しているので、その合成を阻害するか細胞壁を破壊する酵素を活性化すると、細胞壁が崩壊し細菌が生存できなくなる。細胞壁の有無は、細菌細胞と動物細胞との最も顕著な違いであるので、細胞壁合成阻害剤は選択毒性が高い。抗菌薬自身に対するアレルギ−反応を除けば副作用も少なく安全性が高いので、感染症に対する中心的薬剤である。
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☆細胞膜障害: 細胞膜は菌体を保護し、また、外界より必要な栄養などを取り込む役割がある。この細胞膜に直接作用し、物質の透過性に影響を与え細胞内物質の漏出を引き起こすことにより抗菌活性を示す。
☆核酸合成阻害: 核酸であるDNAとRNAの代謝は細胞の複製と生存に必須のものであり、核酸代謝に関与する細菌特有の酵素に作用して抗菌活性を発現する。抗結核剤のリファンピシンはDNA依存性RNAポリメラ−ゼを阻害し、ピリドンカルボン酸系薬剤は細菌DNAの合成を選択的に阻害する。 ☆蛋白合成阻害: 蛋白合成は細胞内のリボソ−ムで行なわれる。このリボソ−ムは、細菌と動物細胞でその構造と機能に差異があるので、細菌のリボソ−ムに選択的に結合し、その機能に影響を与えることにより抗菌活性を示す。 ☆代謝拮抗作用: ある種の細菌はその生育に葉酸合成が必要なものがある。動物細胞にはないこの代謝系の酵素に働き、葉酸合成を阻害することにより抗菌活性を示す。
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◎ 抗菌スペクトル 抗生物質などの抗菌薬が、どのような種類の病原体に対して有効であるかを示す範囲を抗菌スペクトルと呼ぶ。各々の抗生剤はそれぞれ異なる抗菌スペクトルを持っている。逆に、細菌からみれば、どの抗菌剤に対して感受性(抗菌剤により増殖が阻害される)であるか耐性(増殖抑制がおこらない)であるかを知ることができる。すなわち、疾病の原因となっている病原微生物が判明すれば、その菌に対して有効な抗菌剤を抗菌スペクトルを参考にして選択することができる。抗菌スペクトルがグラム陽性菌からグラム陰性桿菌にまで広がっているものを広域性抗菌剤と称し、さらに、リケッチアやウイルス、原虫にまで有効性を広げたものを広範囲抗生剤と呼ぶ。
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抗菌スペクトルは、細菌を種々の濃度の抗菌剤の存在下、試験管内で培養し、その生育を調べることにより判定される。この時、菌の生育を阻止する抗菌剤の最小濃度をMIC(minimum inhibitory concentration)と呼び、MICが小さいほど、その抗生剤の作用が強いことを示している。しかし、臨床では、各種の耐性菌の出現や病巣への抗生剤の移行性の問題もあり、かならずしも抗菌スペクトル上の有効性だけでは判断できない場合もある。そこで、患者の病巣などから分離された細菌に対して、実際に抗菌剤が有効であるか否かを試験管内で調べる(感受性テスト)ことも、感染症の合理的治療においては重要である。 しかし、感受性テストは時間がかかるため余裕がない場合(重い感染症で、ただちに治療する必要がある場合など)、広域抗菌薬が処方される傾向にある。ただし、この場合でも、しかるのちに、抗菌剤をより特異性の高い(狭域スペクトル)抗菌薬に変更すべきことが多い。また、日常の軽症の感染症など原因菌がある程度予測される場合、感受性テストが省かれることも多い。すなわち、臨床上の感染症治療には、疾病を引き起こしている最も可能性の高い感染微生物に関する知識と、それらの菌の抗菌薬に対する感受性についての情報が必要となる。
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◎薬剤耐性の獲得 化学療法を継続していくと、元来その抗菌剤に対して耐性であった一部の細菌群だけが生き残り増殖することにより抗菌剤が無効となったり、あるいは変異により細菌が薬剤耐性を獲得しその形質が伝達されることが知られている。例えばペニシリンGを分解し不活化する酵素であるβ-ラクタマ−ゼを産生することにより耐性化した黄色ブドウ球菌の割合は、ペニシリンGの使用に伴って上昇し現在では80%以上に昇っている。また、近年、ほとんどすべてのβ-ラクタム系抗生物質に高度耐性の黄色ブドウ球菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌:MRSA)が出現するなど、耐性菌対策は感染症治療にとって大きな問題となっている。化学療法薬は極めて有用な薬剤であるが、特に広域性抗菌剤の乱用や誤用が耐性菌の発生を助長している面もあるので、その使用を適切に行なう必要がある。表12−1に最近の耐性菌の発生をふまえた抗菌薬の選択の目安を示す。
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◎抗菌薬により誘発される菌交代症 正常な生体は、腸管や上気道、尿生殖管などに微生物叢を持っている。これらは、相互に他種の細菌の異常増殖を抑制する働きを有しているが、抗菌剤の使用、特に広域性抗菌薬の使用や長期の投与により、これらの微生物叢が変化を受けて比較的に抗菌薬の影響を受けにくい緑膿菌やMRSA、カンジダ、真菌類などが異常に増殖し、時に重症の感染症に発展する。このような広域性抗菌薬の特質からいっても、感染症の治療には起因菌に対して有効な狭域性抗菌薬を短期間用いることが望ましい。
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B 抗生物質 抗生物質は微生物が産生し、他の微生物の生育を抑制する作用を有する抗菌性物質である。フレミングが発見したペニシリン penicillin の感染症治療における有用性が知られたことが契機となり、抗生物質の研究が隆盛を極めるようになった。現在では種々の誘導体が合成され、感染症治療のなかで重要な位置を占める薬剤となっている。 主要抗生物質を化学構造上の特徴で分類したものを表12−3に示す。それぞれの抗生物質の特徴は以下の各論で述べる。
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◎ペニシリン ペニシリンの基本構造式を図12−2 に示す。また、Bの環状構造をβ-ラクタム環と呼び、これを有するペニシリン類やセフェム系、オキサセフェム系、カルバペネム系、モノバクタム系の抗生物質などをβ-ラクタム系抗生物質と言う(図12−2)。また、耐性菌などが産生し、この環状構造を破壊して抗菌活性を失わせる酵素をβ-ラクタマ−ゼ(ペニシリダ−ゼとセファロスポリナ−ゼ)という。 β-ラクタム系抗生物質は細菌壁のペプチドグリカンの生合成を阻害してその作用を発揮するので、選択毒性が高くアレルギ−反応を除けば比較的副作用の発生も少ないため、感染症治療の中心的薬剤となっている。天然型ペニシリンであるベンジルペニシリンは消化管内で分解されるので経口投与ができなかったが、その後、グラム陰性菌への効果を拡大したり、消化管吸収の増大あるいはペニシリダ−ゼに抵抗性を有する薬剤の開発が行なわれ、種々のペニシリン系抗生物質が使用されている。
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☆ペニシリナ−ゼ抵抗性ペニシリン類: メチシリン methicillin やオキサシリン oxacillin 、フルクロキサシリン(クルペン)など、広域ペニシリン ☆主なペニシリン製剤:アンピシリン ampicillin (ビクシリン):アモキシシリン amoxixillin (アモリン、サワシリン): カルベニシリン carbenicillin (ゼオペン): チカルシリン ticarcillin (チカルペニン、モナペン)、ピペラシリン piperacillin (ペントシリン): その他:クラブラン酸 clavulanic acid やスルバクタム sulbactam (オ-グメンチン) (ユナシン)などがある。
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◎ペニシリン類の副作用 ペニシリン系抗生物質は、アレルギ−の発生頻度が他剤より高いので注意が必要である。アレルギ−反応はどのような投与経路によっても起こり得る。また、過去ににペニシリンの使用経験がない者もアレルギ−を発生することがあり、これは食物などの環境因子中に存在する細菌などから産生されたペニシリン類にすでに感作されていることによると考えられる。特に、アナフィラキシ−ショックの発生は重大な事態を引き起こすので、万一に備え、救急処置の準備が必要である(エピネフリン、抗ヒスタミン剤、ステロイド剤、人工呼吸器など)。このような副作用を防ぐには、患者の問診を通して、アレルギ−歴を調べるのは勿論であるが、たとえ、ペニシリン類に対するアレルギ−歴がなくてもアナフィラキシ−が発生する場合もあるので、スクラッチテストや皮内反応を行ってペニシリンに対する過敏反応の有無を確認することが重要である。
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