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近未来地球理工学特論 大気環境シミュレーションの現状

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1 近未来地球理工学特論 大気環境シミュレーションの現状
佐藤正樹 埼玉工業大学/地球フロンティア研究システム 2001年11月7日 東京工業大学・理工学研究科

2 内容 大意環境シミュレーションの概観 数値計算手法 非静力学モデル:領域モデル 大気大循環モデル:全球モデル 気候シミュレーションの現状
  気候シミュレーションの現状 気候モデリングにおけるコンピュータ環境 次世代大気大循環モデル

3 大気環境シミュレーションの概観

4 大気環境系の概観 気候系 大気、海洋、陸面(雪氷、土壌、植生)、海氷、生態系 空間スケール
 大気、海洋、陸面(雪氷、土壌、植生)、海氷、生態系 空間スケール  地球 10000km ~ 積雲 1km~乱流 10m 時間スケール 地球の歴史 数10億年~第四紀 数100万年 人為的気候変化 100年 10年スケール気候変化、エルニーニョ 3年 年周期、季節変化、日変化、短期予報(数時間)

5 気候システム

6 数値シミュレーションによる気候研究

7 大気の空間スケール 積雲クラスタ~ 100km 積雲 10km 1km 10km 12740km

8 気候変動の時間スケール IPCC2001: 

9 大気の数値モデル メソモデル:雲解像モデル 100km×100km:非静力学モデル 領域モデル
大気大循環モデル  全球3次元: 静力学モデル

10 気象庁数値予報モデル by 室井

11 数値モデルの格子数と分解能 格子数 数100×数100×数10=数105 ⇒ 1000×1000×100=108 (次世代:ES)
  数100×数100×数10=数105   ⇒ 1000×1000×100=108 (次世代:ES) 領域幅と格子間隔:  大循環 10000km:Δx=100km ⇒ 10km 領域  1000km:Δx=10km ⇒ 1km メソ   100km:Δx=1km

12 大気モデルの構成 (領域・メソモデル・大気大循環モデル)
力学過程 方程式系 空間差分法,時間差分法 数値拡散 物理過程 水循環過程(雲物理,積雲パラメタリゼーション) 放射過程(太陽放射,赤外放射) 乱流過程(接地境界層,subgrid乱流) 化学変化・物質輸送(オゾン,エアロゾル)

13 数値計算手法

14 方程式系 大気の基本バランスと波動 CFL条件 音波・重力波の扱い 移流計算 擬スペクトル法・変換法
数値計算手法 方程式系 大気の基本バランスと波動 CFL条件 音波・重力波の扱い 移流計算 擬スペクトル法・変換法

15 非圧縮ブシネスク系:工学or理論 完全圧縮性成層流体 非静力学方程式 プリミティブ方程式系 静力学近似 浅水波方程式系 準地衡風方程式系
流体を記述する方程式系 非圧縮ブシネスク系:工学or理論 完全圧縮性成層流体 非静力学方程式 プリミティブ方程式系 静力学近似 浅水波方程式系 準地衡風方程式系

16 大気の基本バランス 静力学平衡 地衡風平衡

17 工学における流体の方程式系(1) 非圧縮の式
運動方程式 連続の式

18 工学における流体の方程式系(2) ブシネスク方程式系
運動方程式 連続の式 熱エネルギーの式 状態方程式

19 大気の方程式系 圧縮性成層流体の方程式系 運動方程式 連続の式 熱エネルギーの式 状態方程式

20 大気の方程式系 回転系の圧縮性成層流体の方程式系
運動方程式 連続の式 熱エネルギーの式 状態方程式

21 波動 音波:圧縮性  重力波:成層効果:浮力 ロスビー波:緯度方向の回転角速度の変化 音速 Brunt Vaisala 振動数

22 音波 線形化、1次元、断熱 分散関係

23 重力波 ブシネスク、線形、2次元、断熱 分散関係

24 CFL(Coulant-Friedrichs-Lewy)条件
移流方程式 差分化, von Neumann 解析

25 大気モデルのCFL条件 Δx=10~100km,Δz=1km 音波
 Δt<Δx/cs=30s~5min:Δt<Δz/cs=3~30s 重力波  Δt< 1/N = 10min 移流:U=30m/s,W=数cm/s (メソ:W=10m/s) Δt< Δx/U=3~30min   (Δt<Δz/W=100s) ロスビー波:移流と同等

26 音波の差分解法 n: Forward (explicit, Euler) n+1: Backward (implicit)
pn+1 ,un :Forward-Backward (semi-implicit)

27 固有値λ解析: Forward Backward Forward-Backward

28 非静力学モデル (メソモデル・積雲解像モデル)
非静力学モデル (メソモデル・積雲解像モデル)

29 代表的な非静力学モデル RAMS http://www.aster.com MM5 http://www.mmm.ucar.edu/mm5
ARPS WRF MRI/NPD-NHM (気象庁) CReSS (名大)

30 MRI/NPD-NHM:気象庁非静力学モデル
衛星可視画像 シユレーション結果(雲水量) 1997年1月22日

31 非静力学モデルの力学フレーム 音波の扱いによって方程式系が分類される 非弾性系 弾性系 or 完全圧縮系 陽解法(HEVE法)
完全陰解法(HIVI法) 水平陽解法、鉛直陰解法(HEVI法) 水平伝播する音波、重力波を分離 (split-explicit)

32 陽解法(HEVE法) 大気モデルは通常水平格子間隔の方が鉛直格子間隔より一桁大きい 水平格子間隔 Δx = 10km
 CFL条件⇒Δt = 10km/300m/s = 30s 鉛直格子間隔 Δz = 500m  CFL条件⇒Δt = 500m/300m/s = 1.7s ⇒陽解法(HEVE法)は実用的でない。

33 陰解法(HIVI法)、非弾性系 cs→∞ とすれば非弾性系. ρsは z だけの関数とする. ポアソン方程式

34 ポアソン方程式の解法 ⇒ 緩和法:Jacobi法, Gauss-Seidel法, SOR法 共役勾配法 スペクトル法
マルチグリッド法:並列計算

35 ポアソン方程式の解法 緩和法:Jacobi法, Gauss-Seidel法, SOR法 共役勾配法 スペクトル法 マルチグリッド法   並列計算

36 水平陽鉛直陰解法(HEVI法) 鉛直方向の3重対角行列

37 Splitting method 音波・重力波に関係する項を短い時間間隔Δτで計算 他の項を長い時間隔Δtで計算
divergence damping 等数値拡散が必要

38 非静力学モデルの時間ステップ 音波の扱いが問題 陰解法(HIVI法):時間ステップの制約がない
HEVI法:水平伝播する音波により時間ステップが制約される ⇒ splitting 法により、他の項を長い時間ステップで計算 次に問題となるのは移流 音波 cs=300m/s, 風速 U=数10m/s

39 移流スキーム Euler法,フラックス型 有限体積法 ⇒ 保存系 semi-Lagrange 法 一般には保存は満たされない CIP
Godnov, van-Leer,PPM,Lin and Rood(1996)

40 移流スキームの性質 diffusion:高精度スキーム dispersion: monotonicity(shape-preserving)
一般に高精度であればより振動的 高精度(2次、3次)かつ limiter により単調性をできるだけ確保

41 移流方程式 保存則 連続の式 :移流型 :フラックス型

42 Euler 法 ρq の領域積分が保存する セル境界におけるq の評価法により精度,単調性が依存 Coulant数<1 を要求する

43 Semi-Lagrange 法 q が Lagrange 的に保存 セル内のqの補間方法により単調性,精度が依存
Coulant数に制限がない (but Δt・du/dx<1:Lipschitz条件) ρq の領域積分は保存しない

44 保存型 Semi-Lagrange 法 ρq の領域積分が保存する q が近似的に Lagrange 的に保存
Coulant数に制限がない (but Δt・du/dx<1:Lipschitz 条件)

45 物理過程 物理過程 水循環過程(雲物理,積雲パラメタリゼーション) 放射過程(太陽放射,赤外放射)
乱流過程(接地境界層,subgrid乱流) 重力波抵抗 化学変化・物質輸送(オゾン,エアロゾル)

46 物理過程のスケール依存 雲物理過程 メソモデル:微物理過程:雨滴・雪霰の生成・成長過程 大循環モデル:積雲パラメタリゼーション 乱流過程
分解能数10mまで(1km以下でも使う): LES 数km以上:統計乱流モデル   Moller and Yamada,1次,2次,3次クロージャ

47 例:積雲のパラメタリゼーション 1km 100km 積雲のスケール1km vs 大循環モデルの分解能100km
分解能以下の現象をパラメタリゼーション Arakawa and Schubert:格子内で準平衡を過程 熱の式、水の変化式にソース項として考慮 パラメタリゼーションの方式は分解能に応じて変更 パラメタリゼーションは準理論、経験に基づくものであり、不確定性が大きい 1km 100km

48 大気大循環モデル

49 大気大循環モデル(AGCM) 静力学近似に従うプリミティブ方程式系 球面調和関数による擬スペクトル変換
毎ステップに格子空間とスペクトル空間のルジャンドル変換を行う  微分の計算を格子空間で行う 重力波・音波をsemi-implicit法で計算 渦度,発散を予報し,ポアソン方程式を解いて速度を求める

50 AGCMの方程式系 経度方向運動方程式 緯度方向運動方程式 静力学平衡 連続の式 熱エネルギーの式 状態方程式 水蒸気の式

51 方程式の変形 鉛直座標: σ=p/ps =圧力/地表面圧力 ジオポテンシャル Φ=gz   ⇒静力学平衡 渦度・発散

52 渦度・発散方程式 ⇒ ζ,δを予報⇒ψ,χについて解く⇒u,vを求める 流線関数ψ 速度ポテンシャルχ 水平方向運動方程式 渦度方程式

53 スペクトル法とルジャンドル変換 球面調和関数Y,ルジャンドル陪関数P 球面上のポアソン方程式

54 スペクトル法の切断波数 代表的な切断波数 T21 → J=64 Δx=625km T42 → J=128 Δx=312km
三角形切断: N=M,m:東西波数,n:南北波数(節の数) 非線形項の計算安定性(変換法): 経度方向の格子点数 I=3M+1 以上:FFTとの親和性 緯度方向の格子点数 J=2N 以上 代表的な切断波数 T21 → J=64 Δx=625km T42 → J=128 Δx=312km T106 → J=320 Δx=125km T213 → J=640 Δx=62.5km

55 σ座標渦度発散系の方程式系

56 AGCM実験例:標準比較実験 海面温度の気候値を与え,長期間積分. Dynamical Core:Held and Suarez(1994)
物理過程を簡略化. 力学過程の効果を調べる. 水惑星(Aqua Planet):Neale and Hoskins(2000) 地表面条件を簡略化.全球が海洋.水循環を調べる. AMIP(Atmospheric Model Intercomparison Project) 海面温度の気候値を与え,長期間積分.

57 Dynamical Core:Held and Suarez
DWD   T106L19 NCAR   Eulerian  T42L49  semi-Lagrange

58 Aqua Planet 実験 Neale and Hoskins
降水量 Aqua Planet 実験 Neale and Hoskins 海面水温分布

59 AMIP Atmospheric Model Intercomparison Project

60 気候モデリングにおける コンピュータ環境

61 計算機環境 多様な計算機環境 スカラー vs ベクトル 単一PE vs 並列 PC,WS vs Super computer
PC or PC unix, Work Station PC cluster, WS cluster scalar parallel: massive parallel vector computer: super computer vector parallel vector massive parallel: Earth Simulator(640node×8PE)

62

63 ES (地球シミュレータ) 超並列ベクトル機:640node×8PE ピーク性能40TFLOPS 主記憶10TB

64 気候モデルの計算機環境の現状と今後 従来のモデルは単一PE,ベクトル機用にコーディングされている
今後は並列化対応が避けられない:アルゴリズムの選択に影響を与える:スペクトル法,ポアソン解法 スカラー機とベクトル機ではコーディング方法が異なる 最近の米国のモデルはスカラーパラレル用に作られている スカラーパラレル機の限界が指摘されている(USGCRP2000) ベクトルパラレルは速いが高い ベクトル機の今後の動向は不透明

65 数値モデルの格子数と分解能 格子数 数100×数100×数10=数105 ⇒ 1000×1000×100=108 (次世代:ES)
  数100×数100×数10=数105   ⇒ 1000×1000×100=108 (次世代:ES) 領域幅と格子間隔:  大循環 10000km:Δx=100km ⇒ 10km 領域  1000km:Δx=10km ⇒ 1km メソ   100km:Δx=1km

66 次世代(今後10年以内)に地球シミュレータ(ES)など超分散並列コンピュータによって従来より一桁上の分解能の計算が可能になる。
大気モデルは、統合化に向かう。 大循環モデルは格子間隔10km 領域モデルは格子間隔1km 積雲を分解するのに必要な格子間隔:1km 次世代大循環モデルでも分解能は不十分

67 地球フロンティアにおける 次世代大気大循環モデル

68 次世代大気大循環モデル 地球フロンティアモデル統合化領域で開発中 地球シミュレータの性能を最大限生かしたモデル
 地球シミュレータの性能を最大限生かしたモデル 高分解能全球3次元気候モデル:長期気候予測 準一様な格子モデル:格子間隔~10km 非静力学方程式系 積雲をできるだけ顕わに表現し,統計平衡を仮定した積雲パラメタリゼーションを用いない   情報: 

69 次世代大気大循環モデルの開発 開発の手順 準一様格子の浅水波モデル(1層モデル) 保存則を満たす非静力学方程式モデル
物理過程の検討(雲物理,放射,乱流) 計算性能(ベクトル化,並列化,データ処理,画像解析)

70 格子構造 正20面体モデル 等角立方格子モデル

71 正20面体格子の生成 Number of grid points of n-level: level 1 level 2 level 3

72 level 7 (~56km) level 8 (~28km) level 9 (~14km) level 10 (~7km)

73 等角立方格子の生成 Number of grid points: 20x20 10x10 40x40 80x80

74 格子間隔の比較

75 浅水波モデルの結果 Williamson Test Case 5
Icosahedral grid Conformal cubic grid Spectrum model (T213)

76 非静力学コア 質量・エネルギー保存スキーム Cold bubble 実験 エネルギーの時間変化

77 Squall line (GCSS CASE1) 雲水量と雨 降水量の時間変化 降水・質量変化

78 開発スケジュール 2002初め:(地球シミュレータ稼動までに) 保存型方程式に基づく正二十面体格子3次元球面非静力学モデルの力学コアを完成.
積雲解像モデルにより 5-30km 分解能の物理過程を検討 山岳の扱いの検討 ベクトル化・並列計算の計算計算のチューニング ⇒Dynamical Core EXP 2002年度: 山岳効果の導入,物理過程の導入 ⇒Aqua Planet EXP 2003年度: 気候モデルとしてのチューニング・シミュレーション ⇒ AMIP EXP,他モデルの検討

79 まとめ 気候モデルは拡張しつづけている. 大気モデルは気候モデルのごく一部分である.
代表的な大気モデルは,領域モデル, 大気大循環モデルである.領域モデルはメソモデル、非静力学モデル,雲解像モデルを包含する総称となりつつある. 大気モデルは,力学過程,物理過程からなる. 領域モデルはフリーで利用できるものが数多くある. 大気大循環モデルも利用可能なものはあるが、物理過程などの不確かさを十分理解して使う必要がある. 1km格子になるまで,積雲パラメタリゼーションに伴う不確定性が避けられない.

80 複雑なモデルの評価のために標準実験が提唱されている.
コンピュータの進歩により大気モデルの領域依存性は統合化されるであろう. 地球フロンティアで開発中の次世代大気大循環モデルは,10km格子で全球を覆う非静力学大循環モデルである. 近年のモデル開発は,数理解析(差分スキーム),理論(大気科学),素過程(雲物理,放射,乱流),計算科学,システム開発などの総合的な分野の協力が必要である。


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