動詞テ形音便 ［2-4］ 日本語構造伝達文法 動詞テ形音便 この項目は 『日本語構造伝達文法・発展Ａ』 の Ａ３章の内容に基づいています。

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1 動詞テ形音便 ［2-4］ 日本語構造伝達文法 動詞テ形音便 この項目は 『日本語構造伝達文法・発展Ａ』 の Ａ３章の内容に基づいています。
今泉 喜一 2011年 6月 印刷：1-5,8-9,11-14,16,18,21-22,24,27-28,30-31,33-34,36-37,39,41-47 　　48は別刷

2 音便はなぜあるか。 ……発音しやすくするためにある。 発音しやすいとはどういうことか。 どう発音しやすくなっているか。 私 ボート o
動詞テ形音便 音便はなぜあるか。 ……発音しやすくするためにある。 発音しやすいとはどういうことか。 私 ボート o kog- te- i- 走る 走っている 呼ぶ 呼んでいる /-i 言う 言っている /-Øi 鳴く 鳴いている 音便形は発音しやすくなった形。 /-ru 上の音便形の元の形は？ 走る 走りて 走って hasir-i=te-Øi= 私-Ø1 ボート-o kog-i=te-Øi=i-ru こ ぎ て い る 呼ぶ 呼びて 呼んで 私-Ø1 ボート-o ko -i=de-Øi=i-ru yob-i=te-Øi= こ い で い る どう発音しやすくなっているか。

3 ③ 五段動詞それぞれの音便形はなぜそのような形になるのか。
動詞テ形音便 この項目で考えようとする問題 ① 音便はどういう原則を持つのか。 ② 一段動詞はなぜ音便化しないのか。 ③ 五段動詞それぞれの音便形はなぜそのような形になるのか。 ④ 「買う(w-)」はなぜ促音便になるのか。 ⑤ 「飛ぶ(b-)」はなぜ促音便ではなく撥音便になるのか。 ⑥ イ音便であるはずの「行く(k-)」はなぜ例外的に促音便となるのか。 ⑦ 「泳ぐ(g-)」はなぜテを濁音化するのか。 ⑧ 「指す(s-)」はなぜ音便形を持たないのか。 ⑨ 「～たい」形表現(飲みたい)はなぜ音便形にならないのか。 ⑩ なぜ尊敬４動詞は音便化するのか。

4 音便の発生 ・日本語の単語は元来１～２音節 め，た，ふる 概念が複雑化 複合語化等で多音節化 たなごころ 付属語の増加 =て，=べし
動詞テ形音便 音便の発生 ・日本語の単語は元来１～２音節 め，た，ふる 概念が複雑化 複合語化等で多音節化 たなごころ 付属語の増加 =て，=べし 文節が長くなる ふりて，ふるべし 文節の中のいくつかの単音を，意味を変えずに省略・変音 発音労力合理化 ふりて　→　ふって 音便発生 ・「音便」と呼ばれる現象は平安時代（794～）初期に始まった。

5 動詞テ形の構造 客 oki- te- i- 人 te- i- tat- 鳥 nak- te- i- 起きている 立ちている 鳴きている
動詞テ形音便 動詞テ形の構造 客 oki- te- i- 人 te- i- tat- 鳥 nak- te- i- 起きている 立ちている 鳴きている oki-Øi =te-Øi=i- tat-i =te-Øi=i- nak-i =te-Øi=i- 起きている oki-Øi =te-Øi=i- 一段動詞（母音幹動詞） 立ちている tat-i =te-Øi=i- 五段動詞（子音幹動詞） 鳴きている nak-i =te-Øi=i- 五段動詞（子音幹動詞）

6 動詞テ形の構造 客 oki- te- i- 人 te- i- tat- 鳥 nak- te- i- 起きている 立ちている 鳴きている
動詞テ形音便 動詞テ形の構造 客 oki- te- i- 人 te- i- tat- 鳥 nak- te- i- 起きている 立ちている 鳴きている oki-Øi =te-Øi=i- tat-i =te-Øi=i- nak-i =te-Øi=i- 起きている oki-Øi =te-Øi=i- 一段動詞（母音幹動詞） 立ちている tat-i =te-Øi=i- 五段動詞（子音幹動詞） 鳴きている nak-i =te-Øi=i- 五段動詞（子音幹動詞）

7 動詞テ形音便 人 te- i- tat- 立ちている tat-i =te-Øi=i- 立ちている tat-i =te-Øi=i-

8 tat-i =te- t i t t i t 立ちて 人 te- i- tat- 立ちている tat-i =te-Øi=i- 接触 接触解除
動詞テ形音便 口腔図は，松崎寛・河野俊之 『よくわかる音声』（1998）の図を使用。　 tat-i =te- 立ちて 平安時代の「ち」は［ti］ 人 te- i- tat- 立ちている tat-i =te-Øi=i- t i t 接触 接触解除 接触 母音 i があるので，一度接触を解除する必要がある。 母音 i を発音しなければ，接触のままでよい。 → 接触を解除するエネルギーがいらない。 t i t 音便： 接触（前半） 接触（後半） 拍数を保ちつつ， tat-i =te- ２回の接触を１回に減じる省力。 た っ て

9 kaer-i =te- r i t t i t 帰りて 彼 te- i- kaer- 接触 接触解除 接触 帰っている
動詞テ形音便 kaer-i =te- 帰りて 彼 te- i- kaer- r i t 接触 接触解除 接触 母音 i を発音しないで接触を１回に減じる。 ［r］音を後ろの［t］音と同じにする。（　　　　　　） 逆行同化 帰っている kaer-i =te-Øi=i- t i t 音便： 接触（前部） 接触（後部） 拍数を保ちつつ， kaet-i =te- ２回の接触を１回に減じる省力。 かえって

10 動詞テ形音便 この項目で考えようとする問題 ① 音便はどういう原則を持つのか。

11 tat-i =te- （立つ） kaer-i =te- （帰る） w t k s g m n b r
動詞テ形音便 音便： 拍数を保ちつつ，２回の接触を１回に減じる省力 tat-i =te- （立つ） 子音幹動詞 kaer-i =te- （帰る） あ か さ た な は ま や ら わ が ざ だ ば ぱ ==k- ==s- ==t- ==n- ==h- ==m- ==y- ==r- ==w- ==g- ==z- ==d- ==b- ==p- sak ◎◎●-i =te- （モデル） sas tat sin ここにある子音は何種類ある？ - yom ９種類ある。 - tor kaw w t k s g m n b r kog wa ta ku si ga ma na bu ron - - 私が学ぶ論 tob - この９種類の動詞について考えればよい。

12 ２回の接触を１回に減じる（１） tat-i =te- tat-i =te- tor-i =te- tot-i =te- kaɸ-i=te-
動詞テ形音便 音便： 拍数を保ちつつ，２回の接触を１回に減じる省力 w t k s g m n b r ２回の接触を１回に減じる（１） 第１のパターン -i を省略するパターン ① 立つ tat- tat-i =te- tat-i =te- ② 取る tor- tor-i =te- tot-i =te- ③ 買う kaw- kaɸ-i=te- Kat -i=te- ③については後述 なぜ ɸ が t になるのか。

13 ２回の接触を１回に減じる（２） sin-i =te- sin-i =de- yom-i =te- yon- i =de-
動詞テ形音便 音便： 拍数を保ちつつ，２回の接触を１回に減じる省力 w t k s g m n b r ２回の接触を１回に減じる（２） 第２のパターン -i を省略し，t を有声化するパターン ④ 死ぬ sin- sin-i =te- sin-i =de- ⑤ 読む yom- yom-i =te- yon- i =de- ⑥ 飛ぶ tob- tob-i =te- ton-i =de- まず　死ぬ sin- から考える。

14 sin-i =te- n [ɲ] i t n i d 死にて 彼 te- i- sin- 接触 接触解除 接触 死んでいる
動詞テ形音便 sin-i =te- 死にて 彼 te- i- sin- n [ɲ] i t 接触 接触解除 接触 母音 i を発音しないで接触を１回に減じる。 ［ɲ］音は鼻音… 後続音を鼻音化（　　　）… 同化 有声化 ［t］は［d］に。 ［ɲ］は［t］の影響で歯茎化し［n］に。（　　　　　 ） 逆行同化 死んでいる sin-i =te-Øi=i- n 　 i d 接触（前部） 接触（後部） sin-i =de- し ん で

15 ２回の接触を１回に減じる（２） sin-i =te- sin-i =de- yom-i =te- yon- i =de-
動詞テ形音便 音便： 拍数を保ちつつ，２回の接触を１回に減じる省力 w t k s g m n b r ２回の接触を１回に減じる（２） 第２のパターン -i を省略し，t を有声化するパターン ④ 死ぬ sin- sin-i =te- sin-i =de- ⑤ 読む yom- yom-i =te- yon- i =de- ⑥ 飛ぶ tob- tob-i =te- ton-i =de- 次は　読む yom-

16 yom-i =te- m i t n i d 読んで 彼 te- i- yom- 接触 接触解除 接触 読んでいる
動詞テ形音便 yom-i =te- 読んで 彼 te- i- yom- m i t 接触 接触解除 接触 母音 i を発音しないで接触を１回に減じる。 ［m］音は鼻音… 後続音を鼻音化（　　　）… 同化 有声化 ［t］は［d］に。 ［m］は［t］（［d］）の影響で歯茎化し［n］に。（　　　　　 ） 逆行同化 読んでいる yom-i =te-Øi=i- n 　 i d 接触（前部） 接触（後部） yon-i =de- よ ん で

17 ２回の接触を１回に減じる（２） sin-i =te- sin-i =de- yom-i =te- yon- i =de-
動詞テ形音便 音便： 拍数を保ちつつ，２回の接触を１回に減じる省力 w t k s g m n b r ２回の接触を１回に減じる（２） 第２のパターン -i を省略し，t を有声化するパターン ④ 死ぬ sin- sin-i =te- sin-i =de- ⑤ 読む yom- yom-i =te- yon- i =de- ⑥ 飛ぶ tob- tob-i =te- ton-i =de- 次は　飛ぶ tob-

18 tob-i =te- b i t n i d 飛んで 彼 te- i- tob- 接触 接触解除 接触 飛んでいる
動詞テ形音便 tob-i =te- 飛んで 彼 te- i- tob- b i t 接触 接触解除 接触 母音 i を発音しないで接触を１回に減じる。 ［b］音は接触解除なしで有声性を保つと　　　になる。 ［m］ ［m］は後続音を有声化… ［t］は［d］に。 ［m］は［t］（［d］）の影響で歯茎化し［n］に。（ ） 逆行同化 飛んでいる tob-i =te-Øi=i- n 　 i d 接触（前部） 接触（後部） ton-i =de- と ん で

19 ⑤ 「飛ぶ(b-)」はなぜ促音便ではなく撥音便になるのか。
動詞テ形音便 この項目で考えようとする問題 ① 音便はどういう原則を持つのか。 ⑤ 「飛ぶ(b-)」はなぜ促音便ではなく撥音便になるのか。

20 ２回の接触を１回に減じる（２） sin-i =te- sin-i =de- yom-i =te- yon- i =de-
動詞テ形音便 音便： 拍数を保ちつつ，２回の接触を１回に減じる省力 w t k s g m n b r ２回の接触を１回に減じる（２） 第２のパターン -i を省略し，t を有声化するパターン ④ 死ぬ sin- sin-i =te- sin-i =de- ⑤ 読む yom- yom-i =te- yon- i =de- ⑥ 飛ぶ tob- tob-i =te- ton-i =de- 次は　第３のパターン

21 ２回の接触を１回に減じる（３） nak-i =te- nak-i =te- oyog-i =te- oyog-i =de-
動詞テ形音便 音便： 拍数を保ちつつ，２回の接触を１回に減じる省力 w t k s g m n b r ２回の接触を１回に減じる（３） 第３のパターン 子音の接触を省略し，-i を発音するパターン ⑦ 鳴く nak- nak-i =te- nak-i =te- ⑧ 泳ぐ oyog- oyog-i =te- oyog-i =de- まず　鳴く から

22 nak-i =te- k i t k i t 鳴いて 鳥 te- i- nak- 接触 接触解除 接触 鳴いている
動詞テ形音便 nak-i =te- 鳴いて 鳥 te- i- nak- k i t 接触 接触解除 接触 母音 i の省略では［k］での１拍待機…… 苦しい。 ［k］を省略して，接触は［t］だけにする。 その形で接触を１回に減じる。 鳴いている nak-i =te-Øi=i- k 　 i t 接触 nak-i =te- な い て

23 ２回の接触を１回に減じる（３） nak-i =te- nak-i =te- oyog-i =te- oyog-i =de-
動詞テ形音便 音便： 拍数を保ちつつ，２回の接触を１回に減じる省力 w t k s g m n b r ２回の接触を１回に減じる（３） 第３のパターン 子音の接触を省略し，-i を発音するパターン ⑦ 鳴く nak- nak-i =te- nak-i =te- ⑧ 泳ぐ oyog- oyog-i =te- oyog-i =de- 次に　泳ぐ なぜ　で　になるのか。

24 oyog-i =te- g ［ŋ］ i t g i d 泳いで 彼 te- i- oyog- 接触 接触解除 接触 泳いでいる
動詞テ形音便 oyog-i =te- 泳いで 彼 te- i- oyog- g ［ŋ］ i t 接触 接触解除 接触 母音 i の省略では［g］での１拍待機…… 苦しい。 ［g］を省略して，接触は［t］だけにする。 音便発生の平安時代，語中の［g］は鼻音［ŋ］だった。 → ［t］は有声化され［d］になった。（　　　） 同化 泳いでいる oyog-i =te-Øi=i- g 　 i d 接触 oyog-i =de- およ い で

25 ⑤ 「飛ぶ(b-)」はなぜ促音便ではなく撥音便になるのか。
動詞テ形音便 この項目で考えようとする問題 ① 音便はどういう原則を持つのか。 ⑤ 「飛ぶ(b-)」はなぜ促音便ではなく撥音便になるのか。 ⑦ 「泳ぐ(g-)」はなぜテを濁音化するのか。

26 ２回の接触を１回に減じる（３） nak-i =te- nak-i =te- oyog-i =te- oyog-i =de-
動詞テ形音便 音便： 拍数を保ちつつ，２回の接触を１回に減じる省力 w t k s g m n b r ２回の接触を１回に減じる（３） 第３のパターン 子音の接触を省略し，-i を発音するパターン ⑦ 鳴く nak- nak-i =te- nak-i =te- ⑧ 泳ぐ oyog- oyog-i =te- oyog-i =de- 次は　第４のパターン

27 ２回の接触を１回に減じる（４） sas-i =te- sas-i =te- 音便： 拍数を保ちつつ，２回の接触を１回に減じる省力
動詞テ形音便 音便： 拍数を保ちつつ，２回の接触を１回に減じる省力 w t k s g m n b r ２回の接触を１回に減じる（４） 第４のパターン 音便化しないパターン ⑨ 指す sas- sas-i =te- sas-i =te- なぜ音便化しないのか。

28 sas-i =te- s ［ɕ］ i t s ［ɕ］ i t koros-i =te- koros-i =te- 指して 彼 te- i-
動詞テ形音便 sas-i =te- 指して 彼 te- i- sas- s ［ɕ］ i t 準接触 準解除 接触 ［ ɕ ］は摩擦音なので準接触として扱う。 ［i］を省略しても，摩擦音なので１拍が保てる。 摩擦は非接触なので，もともと接触は t の１回だけ。 ［ɕ］は口蓋化音なので［i］がなくても同じよう。 指している 音便化不必要 sas-i =te-Øi=i- 歴史的には一時次の パターンがあった。 s ［ɕ］ 　 i t koros-i =te- 非接触 接触 sas-i =te- koros-i =te- さ し て

29 ⑤ 「飛ぶ(b-)」はなぜ促音便ではなく撥音便になるのか。
動詞テ形音便 この項目で考えようとする問題 ① 音便はどういう原則を持つのか。 ⑤ 「飛ぶ(b-)」はなぜ促音便ではなく撥音便になるのか。 ⑦ 「泳ぐ(g-)」はなぜテを濁音化するのか。 ⑧ 「指す(s-)」はなぜ音便形を持たないのか。

30 ２回の接触を１回に減じる（１） tat-i =te- tat-i =te- tor-i =te- tot-i =te- kaɸ-i=te-
動詞テ形音便 音便： 拍数を保ちつつ，２回の接触を１回に減じる省力 w t k s g m n b r ２回の接触を１回に減じる（１） 第１のパターン -i を省略するパターン ① 立つ tat- tat-i =te- tat-i =te- ② 取る tor- tor-i =te- tot-i =te- ③ 買う kaw- kaɸ-i=te- Kat -i=te- ③については後述 なぜ ɸ が t になるのか。 ③ 買う kaw- について考える。

31 kaɸ-i =te- ɸ i t t i t 買ひて p > ɸ 彼 te- i- kaΦ- 準接触 準解除 接触 買ひている
動詞テ形音便 kaɸ-i =te- 買ひて p > ɸ 彼 te- i- kaΦ- ɸ i t 準接触 準解除 接触 ［ɸ］は摩擦音なので準接触。 ［i］省略でも１拍保持。 ［ɸ］は語中で［w］に（ハ行点呼音） 。［kaɸa］→［kawa］ ［w］（半母音）……１拍が保てない。 １拍保持のため……関東［w］→［t］ （逆行同化） 買ひている kaɸ-i =te-Øi=i- kaɸ-i =te- kaw-i =te- 関西 関東 t 　 i t u母音化 逆行同化 kau-i =te- kat-i =te- 接触（前部） 接触（後部） kat-i =te- koo-i =te- か っ て

32 ④ 「買う(w-)」はなぜ促音便になるのか。
動詞テ形音便 この項目で考えようとする問題 ① 音便はどういう原則を持つのか。 ④ 「買う(w-)」はなぜ促音便になるのか。 ⑤ 「飛ぶ(b-)」はなぜ促音便ではなく撥音便になるのか。 ⑦ 「泳ぐ(g-)」はなぜテを濁音化するのか。 ⑧ 「指す(s-)」はなぜ音便形を持たないのか。

33 ２回の接触を１回に減じる（１） tat-i =te- tat-i =te- tor-i =te- tot-i =te- kaɸ-i=te-
動詞テ形音便 音便： 拍数を保ちつつ，２回の接触を１回に減じる省力 w t k s g m n b r ２回の接触を１回に減じる（１） 第１のパターン -i を省略するパターン ① 立つ tat- tat-i =te- tat-i =te- ② 取る tor- tor-i =te- tot-i =te- ③ 買う kaw- kaɸ-i=te- Kat -i=te- これで一通りすべての音便形について考えたが，まだ一つ 例外的な「行って」が残っている。これに触れることにする。

34 yuk-i =te- k i t t i t 行きて 彼 te- i- yuk- 接触 接触解除 接触 ゆきている
動詞テ形音便 yuk-i =te- 行きて 彼 te- i- yuk- k i t 接触 接触解除 接触 yuk-i= → yuk-i= → ik-i= yuk-i=te- の段階で k を省略すると，拍数が保てない。 ak-i=te, yak-i=te は k を省略しても拍数が保てる。 語幹のk を発音し， yuk-i=te- ，逆行同化で t に変音。 ゆきている yuk-i =te-Øi=i- yuk-i =te- yuk-i =te- t 　 i t it-i =te- 接触（前部） 接触（後部） it-i =te- いって

35 ③ 五段動詞それぞれの音便形はなぜそのような形になるのか。
動詞テ形音便 この項目で考えようとする問題 ① 音便はどういう原則を持つのか。 ③ 五段動詞それぞれの音便形はなぜそのような形になるのか。 ④ 「買う(w-)」はなぜ促音便になるのか。 ⑤ 「飛ぶ(b-)」はなぜ促音便ではなく撥音便になるのか。 ⑥ イ音便であるはずの「行く(k-)」はなぜ例外的に促音便となるのか。 ⑦ 「泳ぐ(g-)」はなぜテを濁音化するのか。 ⑧ 「指す(s-)」はなぜ音便形を持たないのか。

36 tat-i-t tor-i-t kaɸ-i-t sin-i-t yom-i-t tob-i-t nak-i-t oyoŋ-i-t
動詞テ形音便 音便化一覧表 ①　t ②　r ③　w ④　n ⑤　m ⑥　b ⑦　k ⑧　g ⑨　s 立つ 取る 買う 死ぬ 読む 飛ぶ 鳴く 泳ぐ 指す tat-i-t tor-i-t kaɸ-i-t sin-i-t yom-i-t tob-i-t nak-i-t oyoŋ-i-t saɕ-i-t t-i-t r-i-t ɸ-i-t n-i-t m-i-t b-i-t k-i-t ŋ-i-t ɕ-i-t t- -t r- -t ɸ- -t n- -t m- -t b- -t -i-t ŋ-i-d ɕ- -t t- -t w- -t n- -d m- -d m- -t -i-d t- -t n- -d m- -d n- -d って って って んで んで んで いて いで （して）

37 一段動詞（母音幹動詞）はなぜ音便化しないのか
動詞テ形音便 一段動詞（母音幹動詞）はなぜ音便化しないのか 子音幹動詞は 子音-i=t の２回接触が１回接触になる。→音便化 音便化 立ちている tat-i =te-Øi=i- t 接触　i 非接触 t 接触 音便化 鳴きている nak-i =te-Øi=i- k 接触　i 非接触 t 接触 母音幹動詞は 子音-i=t の部分がなく，はじめから１回接触。 非音便化 起きている oki-Øi= te-Øi=i- i 非接触　 　　　 t 接触 非音便化 食べている tabe-Øi= te-Øi=i- e 非接触　 　　　 t 接触 音便： 拍数を保ち，２回の接触を１回に減じる省力。 一段動詞ははじめから１回の接触しかないので音便化の必要がない。

38 ③ 五段動詞それぞれの音便形はなぜそのような形になるのか。
動詞テ形音便 この項目で考えようとする問題 ① 音便はどういう原則を持つのか。 ② 一段動詞はなぜ音便化しないのか。 ③ 五段動詞それぞれの音便形はなぜそのような形になるのか。 ④ 「買う(w-)」はなぜ促音便になるのか。 ⑤ 「飛ぶ(b-)」はなぜ促音便ではなく撥音便になるのか。 ⑥ イ音便であるはずの「行く(k-)」はなぜ例外的に促音便となるのか。 ⑦ 「泳ぐ(g-)」はなぜテを濁音化するのか。 ⑧ 「指す(s-)」はなぜ音便形を持たないのか。

39 飲みた nom-i=t-Øi=a-Øu 飲んだ 飲みたい nom-i=ta.k-i ＊飲んだい
動詞テ形音便 同じ環境で音便化しない場合 飲みて 　nom-i=te-Øi 飲んで 飲みた 　nom-i=t-Øi=a-Øu 飲んだ 飲みたい　nom-i=ta.k-i ＊飲んだい　　 彼 te- i- nom- 私 水 o nom- ta .k- 水 私 nom- t- a(r)- o nom-i=ta.k-i nom-i=te-Øi 飲んで nom-i=t-Øi=a-Øu 飲んだ 飲みたい t- の構造意味： 出来事が開始後のアスペクト　　　　　　 ta.k- の構造意味： 動属性の表す事態が現実世界に　 領域にある。 実現することを話者が望んでいる。 t- がアスペクトである場合にこの音便化が起こる。

40 okur-i=te huk-i=taos- hag-i=tor- kir-i=te tuki=tati 動詞でも音便化しない場合 送り手
動詞テ形音便 動詞でも音便化しない場合 okur-i=te 送り手 huk-i=taos- 吹き倒す hag-i=tor- 剥ぎ取る 音便化する名詞 名詞としての語の個別的な音便化であって，文法的な音便化ではない。 kir-i=te 切手 tuki=tati ついたち

41 ③ 五段動詞それぞれの音便形はなぜそのような形になるのか。
動詞テ形音便 この項目で考えようとする問題 ① 音便はどういう原則を持つのか。 ② 一段動詞はなぜ音便化しないのか。 ③ 五段動詞それぞれの音便形はなぜそのような形になるのか。 ④ 「買う(w-)」はなぜ促音便になるのか。 ⑤ 「飛ぶ(b-)」はなぜ促音便ではなく撥音便になるのか。 ⑥ イ音便であるはずの「行く(k-)」はなぜ例外的に促音便となるのか。 ⑦ 「泳ぐ(g-)」はなぜテを濁音化するのか。 ⑧ 「指す(s-)」はなぜ音便形を持たないのか。 ⑨ 「～たい」形表現(飲みたい)はなぜ音便形にならないのか。

42 尊敬４動詞の音便 泣く甥 なくおい なさる ＋ます → なさります → なさいます くださる くださります → くださいます おっしゃる
動詞テ形音便 尊敬４動詞の音便 泣く甥　　なくおい なさる ＋ます　→ なさります　→　 なさいます くださる くださります　→ くださいます おっしゃる おっしゃります　→ おっしゃいます いらっしゃる いらっしゃります　→ いらっしゃいます ります　→　います これはどんな音便か

43 尊敬４動詞の音便 ります → います irase- -rar- ir-as-e-rar-i=mas- kudas-ar-i=mas-
動詞テ形音便 尊敬４動詞の音便 ります　→　います こちら 先生 (発話者意識) ni de irase- -rar- mas- 電車 弟 (発話者意識) mas- 先生 本 kudas- -ar- o ni -(r)ar- は 尊敬（受動）の 態詞（助動詞） ir-as-e-rar-i=mas- kudas-ar-i=mas- ir-ass- yar-i=mas- くださいます いらっしゃいます

44 kudas-ar-i=mas- kudas-ar-i=mas- r を省略。 接 触 接 触 尊敬４動詞の音便 くださいます 接 触解除
動詞テ形音便 尊敬４動詞の音便 くださいます kudas-ar-i=mas- 接 触 接 触解除 接 触 r を省略。 ２回の接触を１回に減らすために kudas-ar-i=mas-

45 nas-ar-i=mas- kudas-ar-i=mas- ohose-rar-i=mas- ir-as-e-rar-i=mas-
動詞テ形音便 尊敬４動詞の音便 nas-ar-i=mas- なさる kudas-ar-i=mas- くださる ohose-rar-i=mas- おっしゃる o s s y ar- ir-as-e-rar-i=mas- いらっしゃる ir ass y ar- ある ar-，　計る hakar-　は　なぜこの音便化を生じない？

46 go-za(-ni) ar-i=mas- go-za(-ni) ar-i=mas- go-za(-ni) ar-i=mas-
動詞テ形音便 尊敬４動詞の音便 ござる　→　ござります　→　ございます これは　尊敬４動詞の音便と似ている。 だが違う。 go-za(-ni) ar-i=mas- go-za(-ni) ar-i=mas- go-za(-ni) ar-i=mas- ござあります ござりんす go-za(-ni) ar-i=mas- go-za(-ni) ar-i=nas- ござります ござんす go-za(-ni) ar-i=mas- go-za(-ni) ar-i=nas- ございます がんす 尊敬４動詞の音便のよう。 つまり，いろいろな省略形の中の一つである。 しかし，この ar- は動詞。 受身（尊敬）の態詞ではない。

47 課題：任意の動詞について音便化を説明してください。
動詞テ形音便 課題：任意の動詞について音便化を説明してください。 この項目で考えようとする問題 ① 音便はどういう原則を持つのか。 ② 一段動詞はなぜ音便化しないのか。 ③ 五段動詞それぞれの音便形はなぜそのような形になるのか。 ④ 「買う(w-)」はなぜ促音便になるのか。 ⑤ 「飛ぶ(b-)」はなぜ促音便ではなく撥音便になるのか。 ⑥ イ音便であるはずの「行く(k-)」はなぜ例外的に促音便となるのか。 ⑦ 「泳ぐ(g-)」はなぜテを濁音化するのか。 ⑧ 「指す(s-)」はなぜ音便形を持たないのか。 ⑨ 「～たい」形表現(飲みたい)はなぜ音便形にならないのか。 ⑩ なぜ尊敬４動詞は音便化するのか。

48 音声器官 調音の位置 （調音点） （静的） １： 上唇 ４： 硬口蓋 ２： 上歯 ５： 軟口蓋 ３： 上歯茎 ６： 口蓋垂 ７： 咽頭壁
動詞テ形音便 斎藤純男（1997）『日本語音声学入門』の図 音声器官 調音の位置 （調音点） （静的） １： 上唇 ４： 硬口蓋 ｼﾞｮｳｼﾝ ｺｳ ｺｳ ｶﾞｲ ２： 上歯 ５： 軟口蓋 ｼﾞｮｳ ｼ ﾅﾝ ｺｳ ｶﾞｲ ３： 上歯茎 ６： 口蓋垂 ｼﾞｮｳ ｼ ｹｲ ｺｳ ｶﾞｲ ｽｲ ７： 咽頭壁 ｲﾝ ﾄｳ ﾍｷ 調音体 （調音者） （動的） ａ： 下唇 ｄ： 前舌 Ａ： 口腔 ｶ　ｼﾝ ｾﾞﾝ ｾﾞﾂ ｺｳ ｺｳ ｂ： 舌尖 ｅ： 後舌 Ｂ： 咽頭 ｾﾞｯ ｾﾝ ｺｳ ｾﾞﾂ ｲﾝ ﾄｳ ｃ： 舌端 ｆ： 舌根 Ｃ： 鼻腔 ｾﾞｯ ﾀﾝ ｾﾞｯ ｺﾝ ﾋﾞ ｺｳ ｂ＋ｃ： 舌先 ｾｲ ﾄﾞｳ Ａ＋Ｂ＋Ｃ： 声道 ｼﾀ ｻｷ 喉頭から口，鼻の先までの ｇ： 喉頭蓋 ｊ： 気管 気流の通り道の全体 ｺｳ ﾄｳ ｶﾞｲ ｷ　ｶﾝ ｈ： 声帯 ｋ： 肺 ｾｲ　ﾀｲ ﾊｲ ｉ： 喉頭 ｺｳ ﾄｳ ○