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マリアヴァン解析とファイナンス分野への応用
第9回 関西すうがく徒のつどい発表 マリアヴァン解析とファイナンス分野への応用 @ranoiaru 逢空れい
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マリアヴァン解析とは Paul Malliavin氏がRIMSで発表した論文が 始まり。
そこから1980年代に、楠岡成雄氏、重川一 郎氏、杉田洋氏,渡辺信三氏などの活躍に より、大きく発展した。 マリアヴァン解析のカギとなる概念として 「マリアヴァン微分」というものがある。 これは確率積分に対応した「微分」の概念 であり、ここから部分積分の公式などが導 き出される
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マリアヴァン解析の和書 マリアヴァン解析について取り扱った書籍は 和書だと2冊存在する ・谷口説男著「確率解析」 ・重川一郎著「確率解析」
・谷口説男著「確率解析」 ・重川一郎著「確率解析」 (「確率論ハンドブック」「数理ファイナンス の基礎-マリアバン解析と漸近展開-」など他にも 存在するが、そちらは概要を書いているだけな のでここでは省略する) この二冊は基本的にはマリアヴァン解析を学 ぶ書籍として推奨されない
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発表方針について 今回の発表では、もっと初心者向けに優しく書か れた本をもとに行う
・Øksendal, Bern著「Malliavin Calculus for Lévy Processes with Applications to Finance」 ・David Nualart著「The Malliavin Calculus and Related Topics」 特に前者の本を中心に用いる。 数学的な厳密性は後者のほうがいい(いつものエ クセンダールクオリティ)が、どう考えても90 分でファイナンスまでたどり着けない
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ブラウン運動と確率積分 ブラウン運動 確率過程𝑊 𝑡 で、次の性質を持つ ・ 𝑊 0 =0
確率過程𝑊 𝑡 で、次の性質を持つ ・ 𝑊 0 =0 ・𝑡>𝑠のとき 𝑊 t − 𝑊 𝑠 と𝑊 𝑆 は独立な確率変数 ・ 𝑊 𝑡 − 𝑊 𝑠 は平均0,分散t-sの正規分布に従う ブラウン運動は有界変動ではない。 確率積分とは ブラウン運動 𝑊 𝑡 に対する積分。𝑓∈ L 2 に対して 0 𝑡 𝑓𝑑 𝑊 𝑠 と いう形であらわされる。ブラウン運動は有界変動ではないの で、スティルチェス積分の枠組みでは定義できない。 (確率積分の概念はもう少し一般化できるが、今回は使わな いので省略)
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確率積分の定義 確率積分の定義をかなり簡単に説明する。 𝑓に対して単関数列 ℎ 𝑛 が存在し 𝐸 0 𝑇 ℎ 𝑛 −𝑓 2 𝑑𝑡 →∞
𝑓に対して単関数列 ℎ 𝑛 が存在し 𝐸 0 𝑇 ℎ 𝑛 −𝑓 2 𝑑𝑡 →∞ となり、単関数に対しては確率積分は容易に定義でき、 またその確率積分は𝐿^2でコーシー列になる。 その𝐿^2極限をfの確率積分と呼び以下のように表記する。 𝑓(𝑠,𝜔) 𝑑 𝑊 𝑠
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Wiener-伊藤カオス展開 ここで ξ 𝐿 2 (𝑃) 2 = n=0 ∞ 𝑛! 𝑓 𝑛 𝐿 2 ( [0,𝑇] 𝑛 ) 2
ξを ℱ 𝑇 −可測で 𝐿 2 に含まれる確率変数とする。 このとき、対称な関数の列 𝑓 n 𝑛=0 ∞ 𝑓 𝑛 ∈ 𝐿 2 ( 0,𝑇 𝑛 ) がただ一つ存在し、このように書ける ξ= 𝑛=0 ∞ 𝐼 𝑛 ( 𝑓 𝑛 ) ただし、 I n 𝑓 n := [0,T]^𝑛 𝑓 𝑛 𝑡 1 ,……, 𝑡 𝑛 𝑑 𝑊 𝑡 1 ……𝑑 𝑊 𝑡 𝑛 ここで ξ 𝐿 2 (𝑃) 2 = n=0 ∞ 𝑛! 𝑓 𝑛 𝐿 2 ( [0,𝑇] 𝑛 ) 2
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スコロホッド積分(1) ℱ 𝑇 ‐可測な確率過程𝑢(𝑡)があったとして、これに 対してWiener伊藤カオス展開を行い
ここで 𝑓 𝑛 𝑡 1 , ……,𝑡 𝑛 , 𝑡 𝑛+1 = 𝑓 𝑛 𝑡 1 , ……,𝑡 𝑛 ,𝑡 := 𝑓 𝑛,𝑡 𝑡 1 ,……, 𝑡 𝑛 さらにこれを対称化する 𝑓 𝑛 𝑡 1 ,……, 𝑡 𝑛 ≔ 1 n+1 [ 𝑓 𝑛 𝑡 1 ,……, 𝑡 𝑛+1 + 𝑓 𝑛 𝑡 2 ,……, 𝑡 𝑛+1 , 𝑡 1 +…]
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スコロホッド積分(2) 𝐸 0 𝑇 𝑢 2 𝑡 𝑑𝑡 <∞として、
𝐸 0 𝑇 𝑢 2 𝑡 𝑑𝑡 <∞として、 𝑢 𝑡 = 𝑛=0 ∞ 𝐼 𝑛 ( 𝑓 𝑛,𝑡 ) = 𝑛=0 ∞ 𝐼 𝑛 ( 𝑓 𝑛 (・,𝑡)) このとき、𝑢のスコロホッド積分𝛿(𝑢)は δ 𝑢 ≔ 0 𝑇 𝑢 𝑡 δ 𝐵 𝑡 := 𝑛=0 ∞ 𝐼 𝑛+1 ( 𝑓 𝑛 ) この極限が 𝐿 2 の意味で存在するとき、𝑢は スコロホッド積分可能であるという
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スコロホッド積分(3) などと言われてもなんのこっちゃわからないと思うので (今で理解できたらかなりの天才である)具体的な関数 に対して計算してみる。実は確率積分可能ならスコロ ホッド積分可能で、その積分結果は一致するのだが、今 回はそれに頼らずに計算する 例1: 𝑊 𝑡 𝑊 𝑡 = 0 𝑇 1 0,𝑡 ( 𝑡 1 ) 𝑑 𝑊 𝑡 1 = 𝐼 1 𝑓 1,𝑡 ( 𝑡 1 ) ただし 𝑓 1,𝑡 𝑡 1 = 1 0,𝑡 𝑡 1 𝑓 1 𝑡 1 ,𝑡 = 1 2 [ 1 0,𝑡 𝑡 , 𝑡 1 (𝑡)] δ 𝑊 𝑡 = 𝐼 2 𝑓 1 𝑡 1 ,𝑡 = 0 𝑇 0 𝑡 𝑓 1 𝑡 1 ,𝑡 𝑑 𝑊 𝑡 1 𝑑 𝑊 𝑡 = 0 𝑇 𝑊 𝑡 𝑑 𝑊 𝑡 (𝑟𝑦
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スコロホッド積分(4) 例2: 0 𝑇 𝑔(𝑡,𝜔) 𝑑 𝑊 𝑡 どうみても確率積分不可能だが、スコロホッド積分なら可能 である。
どうみても確率積分不可能だが、スコロホッド積分なら可能 である。 0 T 0 𝑇 𝑔 𝑡,𝜔 𝑑 𝑊 𝑡 𝛿 𝑊 𝑡 = 𝐼 2 [ 1 2 (𝑔 𝑡 1 +𝑔( 𝑡 2 )] = 0 𝑇 𝑔 𝑡 𝑑 𝑊 𝑡 𝑊 𝑇 − 0 𝑇 𝑔(𝑡) 𝑑𝑡 なかなかに難易度が高いので、慣れるのには時間がかかるこ とが多い。
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マリアヴァン微分 𝐹∈ L 2 P を、前述のWiener伊藤カオス展開により 𝐹= n=0 ∞ 𝐼 𝑛 ( 𝑓 𝑛 ) と分解する
ここで、 D 1,2 という空間を定義し、ノルムを F 𝐷 1,2 2 := n=1 ∞ 𝑛𝑛! 𝑓 𝑛 𝐿 2 ( [0,𝑇] 𝑛 ) 2 と定義する。ここで、F∈ D 1,2 に対し、 𝐷 𝑡 𝐹≔ 𝑛=1 ∞ n 𝐼 𝑛−1 ( 𝑓 𝑛 (・,𝑡)) と定義し、これをFに対するマリアヴァン微分という。
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マリアヴァン微分の性質(1) 等長性 𝐷 ・ 𝐹 𝐿 2 (𝑃×λ) 2 =𝐸 0 𝑇 (𝐷 𝑡 𝐹) 2 𝑑𝑡 = n=1 ∞ 0 𝑇 𝑛 2 𝑛−1 ! 𝑓 𝑛 (・,𝑡) 𝐿 2 ( [0,𝑇] 𝑛−1 ) 2 = n=0 ∞ 𝑛𝑛! 𝑓 𝑛 𝐿 2 ( [0,𝑇] 𝑛 ) 2 = 𝐹 𝐷 1,2 2 <∞ よって、マリアヴァン微分は 𝐷 1,2 から 𝐿 2 (𝑃×λ) への等距離写像
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マリアヴァン微分の性質(2) 可閉性 ・ L 2 P 上で 𝐹 𝑘 →𝐹 ・ 𝐷 𝑡 𝐹 𝑘 が 𝐿 2 (𝑃×λ)上で収束
可閉性 𝐹∈ 𝐷 1,2 に対して ・ L 2 P 上で 𝐹 𝑘 →𝐹 ・ 𝐷 𝑡 𝐹 𝑘 が 𝐿 2 (𝑃×λ)上で収束 以上の条件を満たすなら、 𝐷 𝑡 𝐹 𝑘 → 𝐷 𝑡 𝐹が𝐿 2 (𝑃×λ)上で成り立つ
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マリアヴァン微分の計算法則 𝑓∈ 𝐿 2 0,𝑇 のとき、
𝑓∈ 𝐿 ,𝑇 のとき、 𝐷 𝑡 𝑇 𝑓 𝑡 𝑑 𝑊 𝑡 𝑛 =𝑛𝑓 𝑡 0 𝑇 𝑓 𝑡 𝑑 𝑊 𝑡 𝑛−1 積の微分法則 𝐷 𝑡 ( 𝐹 1 𝐹 2 )= 𝐹 1 𝐷 𝑡 𝐹 2 + 𝐹 2 𝐷 𝑡 𝐹 1 合成関数の微分 𝑔∈ 𝐶 1 𝐷 𝑡 𝑔(𝐹)= 𝑔 ′ 𝐹 𝐷 𝑡 (𝐹)
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部分積分の公式と クラーク・オコンの公式 部分積分の公式 𝑢(𝑡)はスコロホッド積分可能、𝐹,𝑢 𝑡 𝐹∈ 𝐷 1,2 これらが成り立つとき
𝑢(𝑡)はスコロホッド積分可能、𝐹,𝑢 𝑡 𝐹∈ 𝐷 1,2 これらが成り立つとき 0 T 𝐹𝑢 𝑡 δ 𝐵 𝑡 =𝐹 0 𝑇 𝑢 𝑡 δ 𝐵 𝑡 − 0 𝑇 𝑢 𝑡 𝐷 𝑡 𝐹𝑑𝑡 クラーク・オコンの公式 𝐹∈ 𝐷 1,2 かつ 𝐹が ℱ 𝑇 -可測であるとすると 𝐹=𝐸 𝐹 + 0 𝑇 𝐸 𝐷 𝑡 𝐹 ℱ 𝑡 𝑑 𝑊 𝑡
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ギルサノフ変換した場合(1) ギルサノフの定理 𝑢 𝑡 を ℱ 𝑡 適合かつ、次の「ノビコフの条件」を満 たすものとする。
𝑢 𝑡 を ℱ 𝑡 適合かつ、次の「ノビコフの条件」を満 たすものとする。 𝐸[ exp 𝑇 𝑢 2 𝑠 𝑑𝑠 ] <∞ Z T := exp − 0 𝑇 𝑢 𝑠 𝑑 𝑊 𝑠 − 𝑇 𝑢 2 𝑠 𝑑𝑠 とおき、確率測度Q 𝑑ω :=𝑍 𝑇,ω 𝑃(𝑑ω) と定義すると、𝑄は𝑃と同値で 𝑊 𝑡 ≔ 𝑊 𝑡 + 0 𝑡 𝑢 𝑠 𝑑𝑠 は確率測度𝑄のもとでブラウン運動になる
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ギルサノフ変換した場合(2) ギルサノフ変換に対するクラークの表現定理
𝐹∈ 𝐷 1,2 で、 𝐸 𝑄 𝐹 , 𝐸 𝑄 0 𝑇 𝐷 𝑡 𝐹 2 𝑑𝑡 <∞ また、𝑢 s ,Z T F∈ 𝐷 1,2 で(𝑓𝑜𝑟 𝑎.𝑎.𝑠) 𝐸 𝑄 𝐹 0 𝑇 0 𝑇 𝐷 𝑡 𝑢 𝑠 𝑑 𝑊 𝑠 + 0 𝑇 𝑢 𝑠 𝐷 𝑡 𝑢 𝑠 𝑑𝑠 2 𝑑𝑡 <∞ が成り立つとする。 このとき、 𝐹= 𝐸 𝑄 𝐹 + 0 𝑇 𝐸 𝑄 𝐷 𝑡 𝐹−𝐹 𝑡 𝑇 𝐷 𝑡 𝑢 𝑠 𝑑 𝑊 𝑠 ℱ 𝑡 𝑑 𝑊 𝑡
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数理ファイナンスとは 証券市場の諸問題に対して数学的なアプロー チを行う応用数学の一分野。おおざっぱに分け ると3つのジャンルがある ・動的最適化 ・リスク管理 ・プライジング
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経済学的な背景 現在価値 リスク中立 無裁定条件 市場の摩擦、手数料、税金、認識のタイム ラグなどは考慮しない
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ヨーロピアンコールオプション ここで、最も簡単かつ有用な金融派生商品 であるヨーロッパ型コールオプションを考 える
これは、 「満期時刻𝑇において株を価格𝐾で買える権利」 権利放棄可能 を指す。 これのペイオフは、株価を 𝑆 1 (𝑡)であらわすと 𝐹≔ 𝑆 1 𝑇 −𝐾 + とあらわされる。ただし、 𝑥 + ≔ max 𝑥,0
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マリアヴァン解析の応用 今回は、証券市場に二種類の資産があるとする ・無リスク資産 𝑑𝑆 0 𝑡 ≔𝜌 𝑡 𝑆 0 𝑡 𝑑𝑡 𝑆 0 0 =1 ・リスク資産 𝑑𝑆 1 =𝜇 𝑡 𝑆 1 𝑡 𝑑𝑡+𝜎 𝑡 𝑆 1 𝑡 𝑑 𝑊 𝑡 , 𝑆 1 0 >0 ただし 𝐸 0 𝑇 𝜌 𝑡,𝜔 + 𝜇 𝑡,𝜔 + 𝜎 2 𝑡,𝜔 𝑑𝑡 <∞ さらに𝜎(𝑡)≠0
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自己資金充足的(self-financing)
この条件下で、安全資産と危険資産の保有 量を それぞれ𝜃 0 𝑡,𝜔 , 𝜃 1 (𝑡,𝜔)と書くと、保 有資産の価値過程は 𝑉 𝜃 𝑡 ≔ 𝜃 0 𝑡 𝑆 0 𝑡 + 𝜃 1 𝑡 𝑆 1 (𝑡) ・資産価値過程が自己資金充足的であるとは、 資金の流入出がないということである 具体的には 𝑑𝑉 𝜃 𝑡 = 𝜃 0 𝑡 𝑑 𝑆 0 𝑡 + 𝜃 1 𝑡 𝑑 𝑆 1 (𝑡)
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自己資金充足性から導かれる帰結 資産過程の式から 𝜃 0 𝑡 = 𝑉 𝜃 𝑡 − 𝜃 1 𝑆 1 (𝑡) 𝑆 0 (𝑡) よって
資産過程の式から 𝜃 0 𝑡 = 𝑉 𝜃 𝑡 − 𝜃 1 𝑆 1 (𝑡) 𝑆 0 (𝑡) よって 𝑑 𝑉 𝜃 𝑡 = ρ t V 𝜃 t + 𝜇 𝑡 −𝜌 𝑡 𝜃 1 t S 1 t dt +𝜎 𝑡 𝜃 1 𝑡 𝑆 1 t d𝑊 t ここで、ある金融派生商品の満期でのペイ オフ 𝐹を𝐹=𝑉 𝜃 𝑇 𝑃−𝑎.𝑠によって定める
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同値マルチンゲール測度 元の確率測度と同値で、正規化(後述)し た資産価値過程がマルチンゲールになるよ うな確率測度を指す。別名、「リスク中立 測度」 同値マルチンゲール測度が存在する証券市 場では裁定機会が存在しない 同値マルチンゲール測度に一意性が成り立 つとき、市場は完備(後述) 金融派生商品の適正価格は、ペイオフの現 在価値の、同値マルチンゲール測度下での 期待値に等しくなる
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同値マルチンゲール測度導出 𝑢 𝑡 ≔ 𝜇 𝑡 −𝜌(𝑡) 𝜎(𝑡) (要するに、期待利回りの 差を分散で割ったもの) これを利用して 新たなブラウン運動を定義する 𝑊 = 𝑊 𝑡 ≔ 0 𝑡 𝑢 𝑠 𝑑𝑠+ 𝑊 𝑡 𝑢はノビコフの条件を満たすので、ギルサノフ の定理より、 𝑊 𝑡 は確率測度 𝑄 𝑑𝜔 ≔Z 𝑇 𝑃 𝑑𝜔 の下でブラウン運動になる
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これを先ほどの式に代入すると 𝑑 𝑉 𝜃 𝑡 =𝜌 𝑡 V 𝜃 t dt+𝜎 𝑡 𝜃 1 𝑡 𝑆 1 𝑡 𝑑 𝑊 𝑡 ここで資産価値過程の現在価値Uを定義する (正規化) 𝑈 𝜃 𝑡 := 𝑒 − 0 𝑡 𝜌 𝑠 𝑑𝑠 𝑉 𝜃 (𝑡) よって 𝑑 𝑈 𝜃 𝑡 = 𝑒 − 0 𝑡 𝜌 𝑠 𝑑𝑠 𝜎 𝑡 𝜃 1 𝑡 𝑆 1 𝑡 𝑑 𝑊 𝑡
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クラーク・オコンの公式応用 ペイオフの現在価値𝐺を次のように定める 𝐺≔ 𝑒 − 0 𝑇 𝜌 𝑠 𝑑𝑠 𝐹 ここでクラークオコンの公式を用いると 𝐺= 𝐸 𝑄 𝐺 + 0 𝑇 𝐸 𝑄 𝐷 𝑡 𝐺−𝐺 𝑡 𝑇 𝐷 𝑡 𝑢 𝑠 𝑑 𝑊 𝑡 ℱ 𝑡 𝑑 𝑊 𝑡 ・また、金融派生商品を売って手にした金で運用がしたいので 𝑉 𝜃 0 = 𝐸 𝑄 [𝐺]
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複製戦略・結論 よって、以上の帰結として 𝜃 1 𝑡 = 𝑒 0 𝑡 𝜌 𝑠 𝑑𝑠 𝜎 −1 𝑡 𝑆 1 −1 𝑡 𝐸 𝑄 (𝐷 𝑡 𝐺−𝐺 𝑡 𝑇 𝐷 𝑡 𝑢 𝑠 𝑑 𝑊 𝑠 ) | ℱ 𝑡 ]
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ブラックショールズモデル ここでは、株価は次の幾何ブラウン運動に 従うとする 𝑑 𝑆 𝑡 =𝑟𝑑𝑡+σ𝑑 𝑊 𝑡
𝑑 𝑆 𝑡 =𝑟𝑑𝑡+σ𝑑 𝑊 𝑡 そしてこの確率微分方程式を解くと 𝑆 𝑡 = 𝑆 0 𝑒 𝑟− 𝜎 𝑡+𝜎 𝑊 𝑡 先々使うためこのマリアヴァン微分を計算し ておくと 𝐷 𝑡 𝑆 𝑡 =𝜎 𝑆 𝑡
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ブラックショールズ方程式とは 株価を先ほどの幾何ブラウン運動に従うとした うえで、オプションの複製戦略と適正価格を考 える。時刻𝑡,株価𝑥のオプション価格を𝐶(𝑡,𝑥) とおくと 𝑟𝐶 𝑡,𝑥 = 𝐶 𝑡 𝑡,𝑥 +𝑟𝑥 𝐶 𝑥 𝑡,𝑥 𝜎 2 𝑥 2 𝐶 𝑥𝑥 𝑡,𝑥 という偏微分方程式に従う。ただし、 𝐶 𝑇,𝑥 = 𝑥−𝐾 + などの境界条件が存在する
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複製戦略(マリアヴァン解析)を用いて さて、ブラックショールズモデルでは、次の 条件を置いていた。(いずれも定数とする)
μ 𝑡,𝜔 ≡𝜇,𝜌 𝑡,𝜔 ≡𝜌,𝜎 𝑡,𝜔 ≡𝜎 このときマリアヴァン微分の定義から 𝐷 𝑡 𝑢=0 先ほどの式から 𝜃 1 𝑡 = 𝑒 𝜌 𝑡−𝑇 𝜎 −1 𝑆 1 −1 𝑡 𝐸 𝑄 [ 𝐷 𝑡 𝐹| ℱ 𝑡 ]
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計算上の不都合 ペイオフ𝐹≔𝑓 𝑆 1 𝑇 に対して𝑓(𝑥)が微分 可能であれば、前述の定理によって
ペイオフ𝐹≔𝑓 𝑆 1 𝑇 に対して𝑓(𝑥)が微分 可能であれば、前述の定理によって 𝐷 𝑡 𝐹= 𝐷 𝑡 𝑆 1 (𝑇)𝑓 ′ ( 𝑆 1 (𝑇)) と書けて楽なのだが、あいにくヨーロッパ型 コールオプションの場合𝑓 𝑥 = 𝑥−𝐾 + とい うあからさまに微分不可能な形をしている ここで頼りになるのが、前述の「マリアヴァ ン微分の可閉性」である
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導出される具体的な複製戦略 関数列𝑓 𝑛 を次の条件を満たすようにとる 𝑓 𝑛 𝑥 =𝑓 𝑥 𝑓𝑜𝑟 𝑥−𝐾 ≥ 1 𝑛 0≤ 𝑓 ′ 𝑥 ≤1 𝑓𝑜𝑟 𝑎𝑙𝑙 𝑥 そして 𝐹 𝑛 ≔ 𝑓 𝑛 𝑆 1 𝑇 とおくと 𝐷 𝑡 𝐹= lim 𝑛→∞ 𝐷 𝑡 𝐹 𝑛 = 1 𝐾,∞ 𝑆 1 𝑇 𝐷 𝑡 𝑆 1 𝑇 = 1 𝐾,∞ 𝑆 1 𝑇 𝑆 1 𝑇 𝜎 𝜃 1 𝑡 = 𝑒 𝜌 𝑡−𝑇 𝑆 1 −1 𝑡 𝐸 𝑄 𝑦 [ 𝑆 1 𝑇−𝑡 1 𝐾,∞ ( 𝑆 1 (𝑇−𝑡))] |𝑦= 𝑆 1 (𝑡)
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インサイダー取引とは 上場会社または親会社・子会社の役職員や大株主 などの会社関係者、および情報受領者(会社関係 者から重要事実の伝達を受けた者)が、その会社 の株価に重要な影響を与える「重要事実」を知っ て、その重要事実が公表される前に、特定有価証 券等の売買を行うことを(ry 数学的には「通常より大きな増大情報系のもとで の動的最適化」に関する分野のことを指す 今回は市場の摩擦がなく、マーケットインパクト も存在しないと仮定する
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インサイダー情報の取り扱い 簡単な例として、ある投資家が未来の時刻 𝑇 0 にお ける 𝑊 𝑇 0 を何らかの形で知っていたとする
簡単な例として、ある投資家が未来の時刻 𝑇 0 にお ける 𝑊 𝑇 0 を何らかの形で知っていたとする このとき、通常の観測による情報によって作られ た𝜎−加法族を ℱ 𝑡 し、インサイダー取引を行う人 間の所持情報を ℊ 𝑡 とおくと ℊ 𝑡 ≔ ℱ 𝑡 ∨𝜎(𝑊 ( 𝑇 0 )) こうすることによって、通常では可測にならないよ うな投資戦略を可測にすることが可能になる
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ブラウンニアン・ブリッジ さて、この条件下で ℊ 𝑡 -可測な伊藤過程 𝑊 𝑡 を 次のように定める
𝑊 𝑡 ≔ 𝑊 𝑡 + 0 𝑡 𝑊 𝑇 0 − 𝑊 𝑠 𝑇 0 −𝑠 𝑑𝑠 これはブラウニアン・ブリッジの考え方と同 じである。微分形式に直すと 𝑑 𝑊 𝑡 =𝑑 𝑊 𝑡 + 𝑊 𝑇 0 − 𝑊 𝑡 𝑇 0 −𝑡 𝑑𝑡
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動的な最適投資戦略・目的 安全資産と危険資産に関する定義は先ほどの資産価値過程を用 いて、ポートフォリオを
𝜋 𝑡 ≔ 𝜃 1 𝑡 𝜃 1 𝑡 + 𝜃 0 (𝑡) と表記することによって表現する。 このとき、資産価値過程は次のSDEに従う 𝑑 𝑉 𝑡 = 𝑉 𝑡 𝜌+ 𝜇−𝜌 𝜋 𝑡 𝑑𝑡+𝜋 𝑡 𝜎𝑑 𝑊 𝑡 , 𝑉 0 :=𝑣>0 これを解くと 𝑉 𝑡 =𝑣・exp{ 0 𝑡 𝜎𝜋 𝑠 𝑑 𝑊 𝑠 + 0 𝑡 𝜌+ 𝜇−𝜌 𝜋 𝑠 − 1 2 𝜎 2 𝜋 2 𝑠 𝑑𝑠 } 𝑨 ℱ , 𝑨 ℊ を、それぞれℱ,ℊ適合で 0 𝑇 𝜋 2 (𝑡)𝑑𝑡 <∞,𝑃−𝑎.𝑠を満たす 投資戦略の集合とする 効用関数は対数型とする。期待効用を最大化したい。すなわち 𝑉 ℱ := sup 𝜋∈ 𝑨 ℱ 𝑬[𝑙𝑜𝑔 𝑉 𝜋 𝑣 (𝑇)], 𝑉 ℊ := sup 𝝅∈𝑨 ℊ 𝑬[𝑙𝑜𝑔 𝑉 𝜋 𝑣 (𝑇)] を実現するような𝜋を見つけ、その時の期待効用を求める
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最適投資戦略・結論 インサイダー情報なしの場合
最適な投資戦略 𝜋 ℱ ∗ ∈ 𝑨 ℱ は 𝜋 ℱ ∗ (𝑡)= 𝜇−𝜌 𝜎 2 で与えられる このとき、最大期待効用は 𝑉 ℱ 𝑣 =𝑙𝑜𝑔𝑣+ ρ+ 𝜇−ρ 𝜎 2 𝑇 インサイダー情報ありの場合 最適な投資戦略 𝜋 ℊ ∗ ∈ 𝑨 ℊ は 𝜋 ℊ ∗ (𝑡)= 𝜇−𝜌 𝜎 𝑊 𝑇 0 − 𝑊 𝑡 𝜎( 𝑇 0 −𝑡) となる 𝑉 ℊ 𝑣 = 𝑉 ℱ (𝑣)+ 1 2 𝜎 2 log( 𝑇 0 𝑇 0 −𝑇 ) よって、インサイダー取引を行うことによって得られる利得は 𝑉 ℊ − 𝑉 ℱ = 1 2 𝜎 2 log( 𝑇 0 𝑇 0 −𝑇 )
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発展・フォワード積分(1) 別名”Forward, backward and symmetric stochastic integration”(フォワード・バッ クワード対称経路積分) 例えば先ほどの例で ここで𝜑(𝑡)を積分する場合 0 𝑡 𝜑 𝑠 𝑑 𝑊 𝑠 = 0 𝑡 𝜑 𝑠 𝑑 𝑊 𝑠 + 0 𝑡 𝑊 𝑇 0 − 𝑊 𝑡 𝑇 0 −𝑡 𝑑𝑡 となる。tと 𝑇 0 の差が十分大きいなら何も問 題はないが、そうでないならかなり困ったこと になる。
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発展・フォワード積分(2) 先ほどは 𝑊 𝑇 0 がわかっているという単純な例だっ たが、もっと一般的なインサイダー情報に対す る理論を作っていきたい 強い意味でフォワード積分可能であるとは lim ε→0 0 T 𝜑 𝑡 W t+ε −W t ε 𝑑𝑡 の極限がL^2の意味で存在することを言い、その 極限を𝜑のフォワード積分といい、このように表記 する 0 𝑇 𝜑 𝑡 𝑑 − 𝑊 𝑡
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発展・フォワード積分(3) 以下の条件を満たす可測関数𝜑の集合を 𝐃 0 と書く (1)𝜑 ・,𝜔 :𝑡→𝜑(𝑡,𝜔)は確率1で左連続右極限
(2)任意の𝑡に対して𝑡∈ 𝑫 1,2 (3)𝑡→ 𝐷 𝑠 𝜑 𝑡 が𝑠−𝑎.𝑒 ,𝑃−𝑎.𝑒で左連続右極限 (4) 𝐷 𝑡+ 𝜑 𝑡 ≔ lim 𝑠→𝑡+ 𝐷 𝑠 𝜑 𝑡 が 𝐿 2 の意味で存在する (5) 𝜑はスコロホッド積分可能 𝜑∈ 𝑫 0 のとき𝜑はフォワード積分可能で 0 𝑇 𝜑 𝑡 𝑑 − 𝑊 𝑡 = 0 𝑇 𝜑(𝑡 )𝛿 𝑊 𝑡 + 0 𝑇 𝐷 𝑡+ 𝜑 𝑡 𝑑𝑡
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参考文献 Malliavin Calculus for Lévy Processes with Applications to Finance (2009)Giulia Di Nunno, Bernt Øksendal, Frank Proske The Malliavin Calculus and Related Topics(2006) David Nualart A general stochastic calculus approach to insider trading(2005) Francesca Biagini,Bernt Øksendal Stochastic Calculus for Finance II: Continuous-Time Models (2008) Steven Shreve 三菱UFJフィナンシャル・グループ カブドットコム証券
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