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年金問題の経済学 教科書(社会保障亡国論)の第3章、第4章。 教科書(年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革)
教科書(年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革) 参考書(財政危機と社会保障)の第4章 <資料>日本経済新聞朝刊・経済教室「一体改革 残された課題(下)『年金債務分離、税で処理を(平成24年7月19日)
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積立方式と賦課方式のおさらい
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世代重複モデル 世代重複モデルとは 人々の人生を「現役期」と「高齢期」の2期間だけで表したもの 「世代」とは生まれ年が同じ人々という意味
支払う保険料の総額を灰色の楕円の大きさで示し、高齢期の生活費必要額を点線の白い楕円で示す。
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第1期世代の下に右にずれて示されているのが第2期世代の人々。
第2期世代は、第1期世代が高齢期を迎えている時に、ちょうど現役時代を送っている人々で、両者は1期間だけ縦に重なるように描かれている。 図表の1番下に両矢印付きで示されているのは「時代(期間)」であり、左から第1期、第2期と段々将来に向かって時代が過ぎてゆく。 各世代が1期間ずれて互いに「重なり合う」ように描かれているため、「世代間重複モデル」と呼ぶ。
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積立方式とは 1期世代以降の各世代とも、保険料は自分達の老後のために積み立ているので、両世代の人々は互いに助け合うことはない。 互いに全く干渉し合わないので、他の世代がたくさんいようと少なかろうと、自分の世代の老後の生活費には全く影響がない。 年金創設期の高齢者は、通常の積立方式では年金を受け取ることは出来ない。
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賦課方式とは 一方、賦課方式の場合には、創設期の高齢者も年金を受け取ることが可能。 第1期という時代を一緒に生きている現役の人々が保険料を支払い、支えてくれる。 第1期世代は自分の老後のために保険料を積み立てておくことが出来ないため、次の第2期世代に助けてもらう。 これが、賦課方式が、「世代間の助け合い」といわれる所以。永遠に次の世代に負担をバトンタッチしてゆかなければこの年金制度は成立しない。
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わが国の年金制度は積立方式だった わが国の厚生年金は、まだ戦時中であった1941年に設立された労働者年金制度がスタート。その後、1944年に厚生年金制度となる。 そもそも戦時公債を積立金によって吸収させることが、年金設立の目的。したがって、積立方式でスタート。 ただし、創設期の高齢者に対して、少額ではあるが年金を支給した。創設期の高齢者への年金受給支払いを、「歴史的負債(Legacy debt)」と呼ぶ。その債務処理は容易であり、積立方式の本質を歪めるものではない。
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積立方式から賦課方式への移行 実は図で見るほど、両方式は明確な差異はない。現実は両者の間といったところ。 賦課方式で決まる保険料率よりも、歴史的負債の処理分だけわずかに保険料率を高く設定しておけば、将来は必ず、積立金の過不足の無い完全な積立方式の年金制度になる。 逆に、積立方式で制度が設立されたとしても、歴史的負債に対する追加負担分の保険料引上げを行なわなかったり、年金給付に見合わないほど低い保険料に設定したりすれば、いずれ年金制度は完全な賦課方式となる。
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「修正積立方式」はまぎらわしい 実は、わが国の年金財政の歴史は、このようなプロセスで、積立方式から賦課方式に移行していった。 その理由は、まず第一に、歴史的負債に対する追加負担分の保険料率引上げを怠ってきたこと、第二に経済成長をする中で保険料率を低く据え置いてきたこと、第三に給付水準を保険料に見合わないほど安易に引き上げてきたことが挙げられる。 特に第三の給付水準引上げは、既に少子高齢化が徐々に進行しつつあった1970年代初めからまさに「大盤振る舞い」と呼ぶべき状況。
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時の首相は田中角栄。1973年を福祉元年と位置づけ、社会保障の安易なばら撒き政治が行なわれた。具体的には、年金については、給付水準の大幅な引き上げ、物価スライド・賃金スライドの導入など、医療については、老人医療費無料制度の創設、健康保険の被扶養者の給付率引上げ、高額療養費制度の導入などが挙げられる。 何れも甘い経済見通しの下で、十分な保険料負担を伴わないで実行されたため、積立方式の年金はみるまに賦課方式へと変貌を遂げた。
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現在でもわが国の年金財政は、積立方式であったときの名残で、厚生年金と国民年金を合わせて、約150兆円の年金積立金を保有。しかし、これは本来、積立方式で運営され続けていた場合に存在していたはずの積立金額のほんの一部。約6分の1程度である。 現在の年金収支は、賦課方式であるが、厚生労働省は、「修正積立方式」と呼称。この紛らわしい名称が、国民に、年金があたかも積立方式で運営されているかのような誤解を抱かせる原因。
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賦課方式に移行する理由1:社会保険のパラドックス
積立方式の年金制度が賦課方式に移行してしまったという状況は、わが国に限ったことではない。アメリカを始め、他の先進国でも多かれ少なかれ同じようなプロセスを辿って、賦課方式となって行った(あるいは、はじめから賦課方式)。その背景には、大きく分けて2つの理由。 その一つは、年金の創設期のように人口構成が若く、人口成長率の高い時代においては、「賦課方式の年金の収益率は、積立方式を上回る」ということ。つまり、その時代に限っては、賦課方式の方が積立方式よりも「全ての人々にとって得」という状況。
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このため、政府が賦課方式に移行するのは、ある意味で正当化され得る。この状況を「社会保険のパラドックス」と呼ぶ。
図表2-7は、積立方式と賦課方式の収益率の比較。現役期に1000万円の保険料の積み立てを行った人が、10%の利子率で運用すれば、高齢期に受け取る年金額は1100万円。 一方、賦課方式の場合、10人の現役で100万円ずつ保険料負担を行い、1000万円の年金を高齢者に支払うことを政府が計画。予想外に人口が増え、現役がもう1人増えて11人になると、100万円×11人=1100万円。これは、「人口増のボーナス」と言われる。
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戦後すぐのわが国のように人口構成が若く、一家庭で3人も4人も子供を産む社会では、人口の成長率はもっと高いので、賦課方式の年金よりも「得」ということになる。
もし、この人口成長率が利子率よりも高い(人口成長率>利子率)という状況が、その後の時代についてもずっと成り立ち続けるのであれば、全ての人々にとって得である「賦課方式」を政府が採用することは合理的。 人口の成長率が非常に高い時代には、政府は、積立方式の年金を賦課方式に移行させる動機を持つ。
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賦課方式に移行する理由2:宙に浮いた資金 しかも、賦課方式に移行してしまえば、これまで積み上がっていた多額の積立金は、賦課方式の年金の運営にとって特に必要なものではなくなるので、「宙に浮いた資金」。これは、政治家や官僚にとって大変な魅力。これが、政府が賦課方式への移行を行ってしまう第2の理由。 時の政治家や官僚にとっては「打ち出の小槌」。政治家はそれを元手に、人気取りのための大盤振る舞いを始め、官僚達はこの積立金に寄生する天下り特殊法人をたくさん作ったり、グリーンピア、サンピアの建設を始めた。こうして、積立金が浪費されていき、賦課方式となっていった。
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例え「人口成長率>利子率」という状況下で、賦課方式の採用が合理的であったとしても、これまで積み立ててきた積立金を勝手に使ってもよい理屈にはならない。
賦課方式への移行と、それまで積み立ててあった積立金を勝手に浪費するということとは全く別の話、別次元の問題。 積立金は、税収とは異なり「国民に帰属する財産」なので、官僚や政治家がこれを勝手に使うのは犯罪。
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どの国でも人口成長率は下がっていく それでも、「人口成長率>利子率」という状況が未来永劫続くのであれば、積立金を勝手に浪費してしまったことはごまかし続けられる。問題は、時代を経るに従って、人口成長率は低下し、「人口成長率<利子率」という状況に変わってしまうこと。 その理由は、①女性の高学歴化・社会進出、②子供の教育費増などで、先進国共通の現象。 「人口成長率>利子率」が「人口成長率<利子率」という状況に逆転すると、まさにパラドックスと同じメカニズムによって、積立方式の方が、逆転以降の「全ての人々にとって得」。政府は元の積立方式に年金制度を戻さなければならなくなる。
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賦課方式から抜け出せない政治経済学 しかしながら、ここで困った問題は、積立方式に戻そうにも既に積立金の大部分を使ってしまっているので、簡単には元に戻れないこと。 そのため、今から積立方式に戻るためには、政治家の大盤振る舞いや官僚の無駄遣いによって失われた積立金を、もう一度、国民が追加の負担をして元に戻さなければない。 当然、国民は怒り、責任の所在を明らかにする必要がでてくる。その責任を問われる政治家や官僚が、積立方式への移行に反対するのは当然。
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しかも、現在の賦課方式の年金制度によって被害を受ける世代は、比較的若い世代なので、今の政治家にとって大票田である現在の高齢者は、全く被害を受けない。むしろ、積立方式移行を行ってしまうと、高齢者たちにも追加負担を迫るので、大票田に不人気な政策を決断するはずがない。 くわえて、若者は投票率が低く、高齢者は投票率が高いということも、政治家が、現在の高齢者達の既得権益保護や利益供与のために行動する合理的な動機となる。
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今後、団塊の世代が大量退職し、この得する高齢者の利益集団が益々多くなってゆくので、このメカニズムは強化される(シルバー民主主義)。
さらに、政治家の大半はすでに高齢者なので、賦課方式を続けることによる悲惨な未来を見ないで済む。 厚生官僚にしても2-3年で部署が変わるという人事ローテーションなので、わざわざ自分の任期中に「火中の栗」を拾ってまで改革を行う必要はない。政治家や官僚の「時間的視野」は非常に短い。
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かくして、現在の若い世代や将来の世代が、いかに悲惨な未来に直面することがわかろうとも、問題解決は先送りされ続けることになる。
政治家や官僚が情報を操作してまで国民に真実を知らせないようにすることは、誠に自然な成り行きである。 また、改革として、本質的でないその場限りの延命策が用いられ、抜本的改革がいつまでも先送りになるのも、合理的な行動。
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わが国の公的年金制度
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①職域別の分立した制度に、②横断的な財政調整が入った仕組み。
基礎年金制度が設立される1985年以前には、「共済年金」、「厚生年金」、「国民年金」の3種類の年金がそれぞれ分立。 歴史的には公務員は戦前から恩給制度があり、それを受け継ぐ形で作られたのが公務員達の共済年金。多数の共済があるが、国家公務員共済と地方公務員共済組合、私学学校教職員共済の3種類にまとめられる。 「共済年金」と「厚生年金」は2015年10月に統合された。もっとも、経過措置があり、しばらくは真の統合ではない。
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企業に勤めるサラリーマンが加入する年金は、厚生年金。現在、旧社会保険庁から名前が変わった日本年金機構が運営を行なっている。共済年金と厚生年金は合併したが、両者はサラリーマンの年金なので被用者年金とも呼ばれる。 1961年には、サラリーマン以外の農林水産業従事者や自営業者が加入できる国民年金が設立され、皆年金が達成された。 国民年金も財政基盤は脆弱なため、1985年の年金改革において、制度横断的な財政調整制度である基礎年金制度が設立。
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この基礎年金の受給額は、国民年金と等しくなるように小さく設計。
これまでの厚生年金、共済年金として受給していた年金額は、基礎年金とそれを上回る分に名目上区分されることとなり、基礎年金分を1階部分、それ以上の部分を2階部分報酬比例部分と呼ぶ。企業年金に当たる部分は3階部分と呼ばれている。 国民年金の受給額は1階部分のみ。また、それに伴って、これまで被用者年金の中で一緒に支給されていた専業主婦等のサラリーマンの配偶者の年金も、1階部分の基礎年金として独立。
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国民年金に加入している自営業や農林水産業の人々は第1号被保険者、被用者年金に加入しているサラリーマン本人達を第2号被保険者、サラリーマン達の専業主婦の配偶者たちを第3号被保険者と呼ぶ(→不公平問題の発生)。 基礎年金制度は「基礎年金勘定」という特別会計で運営。この特別会計の「支出面」は、基礎年金を受給する高齢者全員に支払う総費用(基礎年金給付費)。「収入面」は各保険から徴収される「基礎年金拠出金」と税金の投入である「国庫負担」から成り立つ。 2009年度からは給付費の1/3から、1/2の比率に引上げられた(消費税引き上げの根拠に)。
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「基礎年金拠出金」とは、簡単に言ってしまえば、各年金制度に加入している被保険者数の割合に応じて負担を「割り勘」する仕組み。
この割り勘は被用者年金には高く、国民年金の1号被保険者には軽いという不公平な割り勘。 1号被保険者の数は、未納者や減免者、猶予者を本来含んでいるはずだが、基礎年金拠出金を計算する際には、彼等をほぼ除いて計算。その分、被用者年金が多く払い、肩代わりをするという仕組み。 実際には、積立金を取り崩して充当するので、将来の被用者年金加入者が負担を負う。
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保険料負担と所得再分配 年金の保険料負担は、国民年金が2017年度で、月額1万6490円の定額で、20歳から60歳までの人々から徴収。
一方、共済年金や厚生年金の保険料は、保険料率(保険料額/ボーナスを含む賃金)として徴収されている。現在、厚生年金の保険料率は2017年度(9月)から18.3% 旧共済年金加入者は過渡的に低い保険料率。
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年金には、通常の年金である老齢年金以外に、障害年金、遺族年金といった仕組みがある。
国民年金の支給額は、2017年度、満額で月6万4941円の定額で、65歳から支給。 この満額を受け取るためには、40年間保険料を納付しなければならず、それよりも納付期間が短い場合には、その長さに応じて年金受給額が減額される仕組み。 また、国民年金(基礎年金)を受け取るためには、資格期間も重要。資格期間というのは、保険料納付期間と減免をうけている期間合計した期間の概念。25年から10年に短縮された。未納・未加入期間が長いと、「低年金者」「無年金者」となり、生活保護受給者増の一因となる。
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厚生年金については、報酬比例の保険料率なので、賃金が高いほど保険料額は高く、年金額も多い。年金額は、保険料の納付期間や生まれ年によっても変わる。
65歳時点で受け取る年金額は、2004年改革以前は、所得代替率を目標値水準の60%から乖離させないように設定されてきた。 「所得代替率」とは、「40年加入のモデル世帯の年金受給額/その時の現役世代の男子の手取り賃金平均額」と定義。 これを維持するため、手取賃金の伸び率で新規裁定年金を増額することを賃金スライドと呼ぶ。 66歳以降に受け取る年金額は、65歳時点の年金に物価上昇率を乗じて計算。この仕組みを物価スライドと呼ぶ。
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2004年年金改革の概要
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このうち、①「保険料水準固定方式」と②「マクロ経済スライド」の導入は、これまでの改革が「給付水準に合わせて保険料率を上げてゆく」という考えに立っていたのに対して、発想を逆にして、「保険料負担の限界を設定し、それに合わせて給付水準を下げる」という転換を行なったものとして、大変意義深い。 まず、厚生年金の保険料率については、2004年の13.58%から0.354%ずつ引き上げて行き、2017年に18.30%となったところで将来にわたって固定。 また、国民年金の保険料も2004年の月1万3300円から毎年280円ずつ増加して2017年に1万6900円(2004年価格)となったところで固定。
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保険料率水準を固定した上で、財政を均衡させるためには、その反対側である給付水準をカットしなければならない。そのために導入されたのが、マクロ経済スライド。
これは、65歳時点の年金額決定に使われる賃金スライドと、66歳以降の年金額に使われる物価スライドの伸び率を小さくし、伸び率を低くすることで将来の年金給付をカットするという仕組み。 具体的には、それぞれの賃金スライド率、物価スライド率から、「スライド調整率」と呼ばれるものを差し引くことで、それぞれのスライド率(伸び率)を小さくする。 具体的にこのスライド調整率は、①公的年金の全被保険者数の減少率の実績(3年平均)と、②平均余命の伸び率を勘案して設定した一定率(0.3%)を足したものであり、およそ毎年0.9%の率となる。
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このスライド調整率は、公的年金の全被保険者数の減少率が考慮されているから、少子化が今予想されているよりも進行し、被保険者数が減れば、給付カットが追加的に行なわれることになる。このため厚生労働省は、「マクロ経済スライド」を、少子高齢化の進展を自動的に調整する自動安定化装置であるとして、盛んに宣伝を行なってきた。 しかしながら、実際には、「自動安定装置」ではない。カット幅が小さく、発動も遅い。むしろ、単純な給付カットと見るべきであるが、実際にはその発動も行われず、意図通りに機能していない。
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このマクロ経済スライドによる給付カットは永遠に続くものではない。2004年改革から、年金財政の計画期間は100年ということになり、100年後におよそ1年分の年金支出分の積立金が残るように、給付水準が決定される。 このように100年後という有限の期間に計画期間を定めて、積立金を取り崩して財政均衡を図ることを有限均衡方式と呼ぶ。具体的には、100年後に所定の積立金が残せるようになるまで給付カットと積立金取り崩しが続いてゆき、積立金が残ると分かった時点でマクロ経済スライドが停止される。 2004年の改革以降、一度も発動されない「伝家の宝刀」だったが、2015年度にデフレ解消によって発動されたが、2016年度は再び発動されていない。
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年金財政の現状 2004年改革で、「100年安心」をうたった政府であったが、その後の5年で、見込み通りの経済成長率、出生率、納付率等が達成できず、大幅に見込みが狂った状態に。 2009年の財政検証年金の健康診断前には、リーマンショックが起き、不況のどん底に。 しかし、厚生労働省は、「粉飾決算」と言うべき財政検証を発表し、100年安心が堅持していると公表した。例えば、運用利回りは今後100年近く4.2%もの高利回りで運用するという前提。 リーマンショック後の統計には一切触れず。その後も5年間、何も見直しを行わなかった。
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2009年財政検証で用いられた経済想定値
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その後、さらに東日本大震災、民主党政権下のデフレ深刻化等にともなって、①マクロ経済スライドは発動できず、②運用利回りは低迷、③保険料収入も想定外の低さに留まり、積立金取り崩しが続く。
アベノミクスでやや積立金が増えたものの、想定外の積立金取り崩しが起きている状況は変わらず。 こうした中、厚労省は2014年に新しい「財政検証」を公表。目くらましのようにたくさんのシナリオを提示したが、政府の議論では「100年安心」が続いている想定が使われている。 したがって、抜本改革は決まらず。GPIF改革で株への運用割合が増し、その想定が毎年6%を超える上昇となる。逆に言えば、そう想定しなければ、100年安心ではないということである。
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2014年財政検証で用いられた経済想定値
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運用利回り4.2%を達成するための株価、為替レート
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現実的な年金予測 現実的な経済想定(長期的な名目利回り2.5%等。アベノミクスによる株高を織り込む)のもとで計算すると、2040年代には積立金が枯渇する。 積立金が枯渇するとどうなるのか。 保険料引き上げや給付カットであるが、保険料引上げが最も可能性が高い。 保険料率を2035年までに24.8%にする改革を行えば、100年安心プランは維持可能。 消費税引上げは年金財政を改善しない。
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厚生年金の積立金予測
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国民年金の積立金予測
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厚生年金の保険料率の推移
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保険料を引き上げた場合の厚生年金 の積立金予測
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年金破綻は起きるのか 年金破綻は本質的な問題では無い。負担引き上げで財政維持は可能。
本質的な問題は、巨大な世代間不公平の存在。若者、将来世代は支払ったものが返ってこないという現実。 保険料引き上げの代わりに、税金投入や給付カットをしても世代間不公平はあまり変わらない。
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積立方式でも長生き保険という機能は変わりない。個人の破産は無い。
少子高齢化時代にもっともふさわしい制度。 実は、積立方式で始まった年金制度。 1970年代初頭にはじまった大盤振る舞い。 その結果として生じた莫大な債務超過。 厚労省も認めた800兆円の債務超過。 債務超過の存在は、世代間不公平の証拠でもある。
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厚生労働省による年金債務の試算結果
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公的年金全体の年金純債務の試算結果
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厚生年金の世代間不公平の実態
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現実的な改革手段 2015年度の年金改革で、その必要性が議論されていた選択肢。ほとんどが取りやめ。 マクロ経済スライドの強化→×、先送り案へ
年金の支給開始年年齢引き上げ→× 保険料納付期間延長→× 年金課税の強化→× パート労働者への加入拡大→△ 専業主婦の年金保険料徴収→? 高額年金受給者に対するカット→経済財政諮問会議が提案
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支給開始年齢引き上げと年金財政
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支給開始年齢引き上げと年金財政2
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先進各国の支給開始年齢
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年金改革による世代間不公平の変化 注)厚生年金に40年加入の男性、専業主婦の有配偶者のいるケース。厚生年金は、現状では100年後までの財政均衡は達成されていないため、保険料率は2017年度に18.3%に達して以降も引上げ続け、2032年に23.8%まで引き上げてその後固定する改革を行なうと想定した(それに伴って、マクロ経済スライドも2041年度まで適用)。一方、支給開始年齢引上げは、現在と同じペースで上げ続け、75.5歳まで引き上げるケース。
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積立方式移行による抜本改革 白いキャンバスに絵を一から描くことはできない。
積立方式移行」とは、「積立方式の年金制度を今から新しく設立する」ことでは無い。 積立方式移行とは、「賦課方式の債務処理+積立方式の年金設立」。 積立方式移行は、JRの経営再建と同じ。 年金清算事業団方式による改革。新年金制度は、積立方式。
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年金改革における「同等命題」。 しかし、本当は、同等命題では無い。 相続資産からの徴収のメリット。 長期間で薄く広く徴収する追加所得税。 そのために、年金清算事業団は、国債により資金調達。 資金調達は新年金制度の積立金を使って行う。
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積立方式移行の実際 年金清算事業団の支出の推移
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年金清算事業団がおった年金純債務は、直ぐにキャッシュで用意する必要は無い。
財源は、①積立金、②新型相続税、③追加所得税、④年金事業団債による資金調達。⑤掛け捨てがある程度できれば、所得税は下がる。 相続資産は年間50兆円の安定財源。新型相続税は、基礎控除無しで、時限的な税。 不動産からの相続税徴収をどう進めるか。 掛け捨てのロジック(防貧保険、生活保護ただ乗り防止)。 資金調達は、積立方式の新年金制度を使う。
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年金清算事業団に投入される新型相続税と高資産者の年金掛け捨て額
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750兆円の債務処理に必要な追加所得税率
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年金清算事業団の財政収支1(相続税率20%、掛け捨てあり、所得税率1.12%のケース)
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年金清算事業団の財政収支2(相続税率40%、掛け捨てなし、所得税率1.18%のケース)
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新年金制度(積立方式)の財政収支
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新年金制度(積立方式)の積立金の推移
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年金清算事業団債の残高の推移
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世代間格差の改善(厚生年金加入者、100年間で債務返済のケース)
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積立方式に対する誤解 現在の高齢者やもうすぐ高齢者になる世代は、積立方式移行によって年金が大きく減額され、大変な痛みを味わう。
→この主張は全くの嘘。積立方式移行で、現在の高齢者やもうすぐ高齢者となる世代の年金が減額される必然性はない。
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積立方式移行で積立金が再び大きく積み上がる。そして、その資産運用が大変である。
→積立方式で運営する「新年金制度」の積立金は大きく積み上がるが、一方で、年金債務を引き受けた「年金清算事業団」は当初は赤字運営で、「年金清算事業団債」を発行。 積立金の多くがその公債引き受けに使われるので、新年金制度が資産運用に困ることはない。
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積立方式はインフレに弱く、資産価値が大きく目減りする。
→戦後直ぐの時期や1970年代初めのオイルショック時などの「規制金利」の時代の話。自由金利の現代では、「フィッシャー効果」が働き問題ない。 残存期間の長い国債保有の問題を回避したければ、「物価連動債」を発行すればよい。年金事業団債は物価連動債とする。
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国債金利と物価変動率の連動
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積立方式移行のためには、現在の年金制度が抱える800兆円もの債務を、直ぐにキャッシュとして用意しなければならない。
→年金純債務が全額、直ちに表面化することはありえない。「年金清算事業団」が毎年、年金受給者に支払う年金額は40兆円ほどで、しかも急速にその金額は減少してゆく。毎年、それだけの支払い額を、種々の税金投入や「年金清算事業団債」でファイナンスすれば良いだけ。
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800兆円の年金債務を処理するために、買い手がつくかどうかわからない新規赤字国債を大量に発行する必要がある。そのため、国債マーケットが大混乱に陥る。
→年金債務の多くは、「年金清算事業団」が発行する「年金事業団債」の発行という形で出現。それは全て、「新年金制度」に積み上げられる積立金で消化可能。国債マーケットが大混乱に陥る心配は全くない。
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改革時の現役世代が背負う「二重の負担」は、積立方式に移行する時のみに発生する。また、改革による「二重の負担」が重すぎて、現役世代はその痛みに耐えられないから、年金改革は実行不能である。
→特に政治家の間に非常に良く流布されているが、完璧な間違い。そもそも「二重の負担」とは、賦課方式のもとでも発生。 積立方式では、各世代の二重の負担はむしろ、賦課方式のもとで発生する二重の負担よりも小さな金額。
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生涯保険料率の区分経理
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賦課方式と、「積立方式移行+年金債務清算」は、トータルで見て同じことであり、だから現在の賦課方式のままで良い。
→「同等命題」。賦課方式と積立方式移行がなぜ「同等」になるかと言えば、債務処理をする人間がどちらも同じ若者世代や将来世代であると想定。 税の処理では、逃げ切り老人に負担を負わせること可能。将来世代の負担についても、積立金をマイナスにしない制約がかかっている現行制度の保険料負担よりも、税負担で行う方が、より長期にわたり、広く薄い負担に均すことが可能。
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現在の賦課方式から全く違う財政方式に移行するので、大変大きな制度変更が必要であり、積立方式移行は現実的ではない。
→賦課方式と積立方式移行は、本質的に大きく異なる財政方式ではない。大きな制度変更が必要とは言えない。
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積立方式移行には長期の移行期間が必要であり、その改革の果実はすぐに得られない。
→これも全くの誤解。改革は直ちに行うことが可能。改革したその直後から、改革の果実を皆が味わうことができる。
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