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地震の予知・予測について 物理教室セミナー 2013年9月28日 肱黒長憲
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目次 1.はじめに 2.地震予知研究 3.地震発生の確率計算の手法 4.地震の長期予測 5.おわりに 1.1.発端 1.2.地震とは
1.1.発端 1.2.地震とは 1.3.海溝型地震と活断層で起こる地震 2.地震予知研究 2.1.日本の地震予知研究の歴史 2.2.地震予知とは 2.3.東海地震の予知体制 3.地震発生の確率計算の手法 3.1.地震調査委員会による検討経過 3.2.確率評価の流れ 4.地震の長期予測 4.1.首都直下型地震 4.2.想定東海地震 4.3.南海トラフの地震 4.4.参考 4.5.陸域の地震(活断層) 5.おわりに 5.1.地震予知研究の課題 5.2.確率評価について 5.3.巨大プロジェクトとしての研究
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1.はじめに 1.1.発端と問題意識 地震予知は可能か? 地震予知の研究費は無駄か? (市民はどう受け止めるのか?) ⇔ 科学技術と社会
(市民はどう受け止めるのか?) ⇔ 科学技術と社会 阪神淡路大震災後、東日本大震災後の変節 イタリアのラクイラ地震裁判への反応 地震発生予測は役に立つのか? 確率予測の意味を理解しているか? (市民はどう受け止めるのか?) ⇔ 科学技術と社会 起きることが分かっている地震だから予測は必要ない 市民にとっては、「防災」「減災」の研究こそが重要ではないか? (市民には説得力がある) しかし、予知・予測をやみくもに否定する立場はとらない まずは、現状を知るところからはじめよう
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大震災の度に予算急増 阪神大震災(95年) 東日本大震災(11年) 地震調査研究予算(95年以降) 3600億円 予算は予知するためなのか? 「観測網で地震研究は進んだ」日本地震学会長 「予知できるとは言っていない」地震予知連会長
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有識者会議の調査部会 「確度の高い予知は一般に困難」 「警戒宣言発令時の対応と科学の実力が見合っていない」 気象庁 「必ず予知できるわけではない」 専門家 「可能性は2,3割もないだろう」 M8~9の地震 30年以内発生確率 東海 88% 東南海 70~80% 南海 60%程度 南海トラフ 60~70%(時間予測モデル) (10~30%)(更新過程)
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1.2.地震とは プレートの分布 リソスフェア: 地殻と上部マントル最上部の固い部分を併せた厚さ数10kmから100km プレート:
リソスフェアがいくつかの巨大な板に分かれている 「地震・津波と火山の事典」東大地震研監修(丸善)(2008年)
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日本付近のプレートと地震の分布 「地震・津波と火山の事典」東大地震研監修(丸善)(2008年)
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日本付近で発生する地震とプレートとの関係
気象庁webページ「地震発生の仕組み」
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1.3.海溝型地震と活断層で起こる地震 海溝型地震 プレート境界地震と海洋プレート内地震をいう。
千島海溝沿い、三陸沖から房総沖(宮城県沖)、日本海東縁部、 相模トラフ沿い、南海トラフ沿い、日向灘および南西諸島海溝沿い 発生間隔は数10年から数100年程度 たとえば、東日本大震災(2011年)の発生直前に計算したとすれば、 30年以内の地震発生確率は10~20%であった。 活断層で起こる地震(陸域での地震) 陸のプレートで起こる地震をいう。 日本全国の主要110活断層帯 トレンチ調査法 発生間隔が長く、1,000年から10,000年程度 発生間隔が長いために、30年以内の発生確率は小さくて、たかだか10数%にしかならない。 たとえば、阪神淡路大震災(1995年)の野島断層で地震発生前に評価したとすれば、30年以内の発生確率は0.02~8%程度であった。
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2.地震予知研究 2.1.日本の地震予知研究の歴史 年 事項 1880 「日本地震学会」創設 1891 濃尾地震 1905
今村明恒が関東の大地震のおそれありとの論文 大森房吉との間で「予知論争」 1923 関東大震災 1925 東大地震研究所が設立 1962 「地震予知―現状とその推進計画―(通称ブループリント)」 1963 日本学術会議が「地震予知研究の推進について」を政府に勧告 1964 文部省測地学審議会が「地震予知研究計画の実施について」を建議 1965 「地震予知研究計画」がスタート 1968 プレートテクトニクスが定説となる 十勝沖地震災害 1969 「地震予知連絡会(国土地理院)」発足 1976 石橋克彦が地震予知連絡会で「駿河湾地震説」を発表 「地震予知推進本部」が設置される 1978 「大規模地震対策特別措置法」制定 東海地震の予知体制、「地震防災対策強化地域判定会(気象庁)」発足 1979 中央防災会議が「東海地震の地震防災対策強化地域に係る地震防災基本計画」を作成
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年 事項 1995 阪神淡路大震災 「地震防災対策特別措置法」制定 「予知」という言葉が「調査研究」に置き換えられる 「地震調査研究推進本部(総理府、現文科省)」設置「政策委員会と地震調査委員会」を常置 1996 「地震予知研究センター」が「地震調査研究センター」に組織変更 1997 測地学審議会が「現状では地震予知の実用化は困難である」ことを認める 1998 「地震予知研究を推進する有志の会」が「新地震予知研究計画」を提言 1999 「地震予知のための新たな観測研究計画」(新5カ年計画) 地震予知の実用化は現段階では困難なので基礎的研究に重点を置く 2001 「科学技術・学術審議会(文科省)」設置 2003 中央防災会議(内閣府)が「東海地震対策大綱」を決定 2006 「地震・火山噴火予知研究協議会」が発足 2008 科学技術・学術審議会「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画の推進について」 2009 「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画」(第3次観測研究5カ年計画) 2011 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災) 2012 日本地震学会が「地震予知は困難」との学会としての統一見解 2013 地震調査委員会が「南海トラフ地震活動の長期評価(第二版)」をまとめる 南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会が報告 「現状では確度の高い予測は難しい」
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2.2.地震予知とは 地震の発生時期、場所、規模(マグニチュード)の三つの要素を地震の発生前に 科学的な根拠に基づき精度よく予測すること
長期(10年以上)、中期(数年)、短期(1年以下)の予知がある 長期、中期の予知とは、過去の地震発生データから確率予測をするもの ここでいう予知は、短期予知のこと 地震(本震)が起こる直前の前兆現象を検知しなければならない 前兆すべり(プレスリップ)モデル (ただし、この呼び名には混乱があるようだ) プレート運動による応力の増大に伴ってリソスフェアの非弾性的なひずみが生じる ⇒ひずみが集中して破壊核(断層の破壊を誘導する微小な割れ目)が形成される ⇒このとき、応力を解放するゆっくりしたすべり(スロースリップ)が起こる ⇒これは、微弱な地震動や地殻のひずみの空間パターンの変化となって表れる これらを捉えるための観測網(地震計、ひずみ計、GPSなど)が東海地方を中心に全国的に設置されている
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「前兆すべり(プレスリップ)」とは、震源域(プレート境界の強く固着している領域)の一部が地震の発生前に剥がれ、ゆっくりとすべり動き始めるとされる現象です。
前兆すべりが発生すると、周囲の岩盤のひずみが変化しますので、それをひずみ計などによる観測によってできるだけ早期に捉えようとするのが、気象庁の直前予知戦略です。 (気象庁webページによる) 朝日新聞(2012年12月22日)
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前記のような「力学的現象」に基づく前兆の探索とは別に、
地下水位と地下水流の変動 ラドンなどのガス放出 地磁気・地電流の異常変化 宏観異常など 様々な「異常前兆現象」の研究がある。 一部の予知学者には有力とみられている方法=VAN法 (ギリシャの3人の物理学者が創始) 地中に流れる地電流を連続的に多地点で常時観測して地震の前にでる異常信号を観測するというもの 震央距離100km以内、Mの差0.7以内、発生時期10日程度以内という条件で60%程度の成功率であるとの推定がある これらの探求の欠陥 : 厳密な統計的評価に耐えられない ・ シグナルがない場合の結果より、シグナルがある場合の結果を発表するため、「偽陰性(前兆シグナルがない地震)の比率を割り出せない」 ・ 地震がない場合のシグナルのふるまいの特徴づけが大抵されてないため、 「偽陽性(シグナルがあっても地震が起きない)の比率が不明」 (市民保護のための国際地震予測に関する検討委員会(2009年10月)) 地震予知が科学として成長できるかどうかは、未だ明らかではない
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2.3.東海地震の予知体制 東海地震は、現在日本で唯一、直前予知の可能性がある地震と考えられています(ただし、東海地震でも日時を特定した予知は不可能です)。 (気象庁webページによる) その理由は 1.東海地震は前兆現象を伴う可能性があること 2.想定されている震源域が陸域直下及び陸域に近い海底下に位置している ため、その周辺に精度の高い観測網を整備できたこと 3.捉えられた異常な現象が前兆現象であるか否かを科学的に判断するため の考え方として「前兆すべり(プレスリップ)モデル」があらかじめ明確化され ていること とされているが、「前兆すべり」については以下の問題点が判明している ・1944年の東南海地震の前に静岡県掛川市で地震前日から前兆すべりを反映した4mmを超える地面の隆起が測量されたとされていたが、4mmを超える変化は地震と関係ない日にも2つあることが分かった。測量ミスの可能性がある。 ・前兆すべりは、岩石の破壊実験やコンピュータシミュレーションなどから、起こるといわれる概念で、実際の地震で確認されているわけではない。 ・実際に起こったとしてもそれが検知できるほど大きいかどうかもわからない。
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東海地域の地震・地殻変動の観測網 図 気象庁にデータが収集されている地震、地殻変動の観測点分布 (気象庁webページより)
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東海地震に関連する情報の発表に用いるひずみ観測点
図 情報発表基準に用いるひずみ観測点 (気象庁webページより)
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「東海地震調査情報」は前兆現象とは判断できない場合で、 2番目に重い「東海地震注意情報」では防災関連機関が準備を開始し、
最も重い「東海地震予知情報」については強制力を伴った住民の避難や交通規制など、防災に向けた大規模な対策が行われる。 警戒宣言を出せるだけの確実な情報が 得られるとは思われない どの範囲にいつまで出すのかの判断基準が必要 「地震の事典第2版」から
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3.地震発生の確率計算の手法 3.1.地震調査委員会による検討経過
年月日 事項 地震調査委員会は、長期評価部会を設置 長期評価部会は「長期確率評価手法検討分科会」を設置 (陸域の主要な活断層や海域のプレート境界で発生する大地震の発生間隔、最新発生時期等を用いた長期的発生確率の評価手法を検討) 「試案 長期的な地震発生確率の評価手法及びその適用例について」を公表・意見公募 「改訂試案 長期的な地震発生確率の評価手法について」を中間報告として公表 公表して、3月26日まで意見公募 地震調査委員会は長期評価部会の報告書が適当であるとして「長期的な地震発生確率の評価手法について」を公表 「南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)について」を暫定的改訂として公表 地震調査研究推進本部が行っている地震活動の長期評価の手法については、webページ で説明されている。 地震調査委員会は、新たな長期評価手法を検討中であるとしている。
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海溝型地震の長期評価(算定基準日 平成25年(2013年)1月1日)
(地震調査研究推進本部 地震調査委員会)
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過去に起こった地震の発生直前の確率 (地震調査研究推進本部 地震調査委員会)
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3.2.確率評価の流れ 2通りの現象モデル ①更新過程(確率過程) 特定の震源域についての固有地震説に基づく
①更新過程(確率過程) 特定の震源域についての固有地震説に基づく 地震発生後はどの地震も同じ状態に戻ると考える。 発生間隔は互いに独立で同一の確率分布に従う。 ②時間予測モデル(物理的) 地震発生後の状態が、巨大地震後と普通の地震後では違うと考える。 前回の地震の規模(すべり量)から、次の地震までの発生間隔が予測できるから、 時間予測モデルと呼ばれる。 地震発生間隔の分布モデルの採択 ①BPT分布(逆ガウス分布)、対数正規分布、ガンマ分布、ワイブル分布、二重指数分布の5つの分布モデルから選ぶ ②地震のデータから各統計モデルのパラメータを最尤法によって決める。 ③そのパラメータ値でのAIC(赤池情報量基準)を比較する。 ④これで統計モデルの優位性が決まらない場合は、物理的解釈あるいは統計的解釈が容易であることなどから決める。
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最尤法 母集団の分布がパラメータqを含む確率密度関数 f (t, q)で与えられるとき、 データ T_{i} が選ばれる確率(尤度関数) L(q) = P_{i} f (T_{i}, q) を最大にする q が最尤推定値
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分布モデルの採択 ①確率密度関数 (南海地震の場合のパラメータを使う) BPT分布 対数正規分布 ガンマ分布 ワイブル分布 二重指数分布 (指数分布)
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5つの分布モデルに有意な差はない 5つの分布モデルの集積確率と実際のデータの累積相対頻度 (南海地震について) Ti = { 202.8, , , 137.1, 106.4, 102.7, 147.2, } BPT分布 対数正規分布 ガンマ分布 ワイブル分布 二重指数分布 (指数分布) 集積確率とデータ数が無限の累積頻度分布は一致するはず
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④統計モデルの物理的解釈と統計的解釈 二重指数分布:異常なデータの混入等に対する安定性で劣る 対数正規分布:平均活動間隔を大きく経過すると地震発生確率が顕著に下がる BPT分布:相対的に優れている (地震調査委員会) BPT分布と物理的解釈 地震に伴う応力変化をブラウン運動を伴う確率過程と考える プレートの運動によって震源域に応力X(t)が蓄積される プレートが一定の速度で動いていると、応力の蓄積量は時間に比例する l t 一方、周辺で発生する地震などの影響で応力はランダムに増減する s B(t) X(t) = l t + s B(t) 応力X(t)がある閾値を超える時刻で地震が起こるとする これを初期到達時間(First passage time)といい、ドリフトを伴うブラウン運動での初期到達時間ということで、この時刻が従う確率分布をBPT(Brownian Passage Time)分布という
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地震の発生確率の計算 用いる確率密度関数が決定されると、次に最新の活動からの経過時間を考慮して、条件付き確率によって現在から今後 ∆T年間に活動する確率という形で計算する。 BPT分布 f ( t, μ, α ) について、最新の地震発生からT年経過した時点から、その後の ∆T年間に次の地震が発生する確率(条件付き確率) P(T, ∆T ) を求める。 P[T_,dT_]:=N[Integrate[f[t],{t,T,T+dT}]/Integrate[f[t],{t,T,∞}]] A 100年経過した時点で 今後30年間に地震が発生する確率 P(100,30) = A / B B
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地震調査委員会の結論 時間予測モデルを優先 (使える場合は限られている) データがない場合は更新過程(ポアソン過程を含む) BPT分布(逆ガウス分布)f ( t, m, a ) f[t_]:=Sqrt[mu/(2 Pi alpha^2 t^3)] Exp[-(t-mu)^2/(2 mu alpha^2 t)] を採用 ( m :平均活動間隔、 a :活動間隔のばらつき) a=0.1~0.5
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4.地震の長期予測 4.1.首都直下型地震 震源域:相模トラフ沿い(プレート境界ではない場合もある)
過去の相模トラフ沿いの地震:3 種類に分類 (1) 1703年 元禄関東地震(M7.9~8.2)2300年程度に1回 将来の発生確率はほぼ0% (2) 1923年 大正関東地震(M7.9)200~400年に1回 将来の発生確率はほぼ0% (3) その他の南関東で発生するM7程度の地震 1894年6月20日 東京湾付近 1895年1月18日 茨城県南部 1921年12月8日 茨城県南部 1922年4月26日 浦賀水道付近 1987年12月17日 千葉県東方沖 どのプレート境界かわからないので同じ断層面で繰り返し起きているとは言えない→ランダムに起こっている →ポアソン過程を用いる
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○地震調査委員会の公表値(2004年) 1885年~2004年の119年間に5回、平均活動頻度=23.8年に1回 2004年1月1日時点での南関東での地震発生確率 (ポアソン過程を使用) f[t_]:=(1/mu)*Exp[-t/mu] mu=23.8 P[T_,dT_]:=N[Integrate[f[t],{t,T,T+dT}]/Integrate[f[t],{t,T,∞}]] p( ,30) = = 70%程度 ( 30年以内) p( ,10) = = 30%程度(10年以内) p( ,50) = = 90%程度(50年以内) グーテンベルグ・リヒターの式 Log N = a – b Mとポアソン過程を使う データ開示はない (新聞で取り上げられた) 東大地震研(2011.9):4年以内70%、30年以内98% (2012.2): 〃 50%以下、 〃 83% 京大防災研(2012.2): 〃 28%、 〃 64% 統計数理研(2012.4): 〃 70%程度
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4.2.想定東海地震 震源域:浜名湖沖から駿河湾にかけての東海地震震源域=駿河トラフ沿い 過去の東海地震発生のデータ:
684年11月26日 白鳳地震 M8.25 3連動 887年8月22日 仁和地震 M 3連動 1096年8月22日 永長地震 M 2連動 1498年6月30日 明応地震 M8.4 2or3連動 1605年2月3日 慶長地震 M7.9 3連動 1707年10月28日 宝永地震 M8.6 3連動 1854年12月23日 安政東海地震 M8.4 2連動
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2011年1月1日時点での東海地震の30年以内発生確率 ti = {684.9, 887.6, , , , , } ○最新の4データを使い、a = 0.20 とBPT分布を適用 f[t_]:=Sqrt[mu/(2 Pi alpha^2 t^3)] Exp[-(t-mu)^2/(2 mu alpha^2 t)] alpha=0.20 mu=118.8 P[T_,dT_]:=N[Integrate[f[t],{t,T,T+dT}]/Integrate[f[t],{t,T,∞}]] p( ,30) = = 87.4%となる。(地震調査委員会の公表値と同じ) (2011年5月6日、管直人総理が中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)の停止を決めた。その根拠としたのが、この「30年以内にM8程度の想定東海地震が発生する可能性87%という浜岡原発に特別な状況」であった。) ○7データを使い、最尤法とBPT分布を適用 最尤法で m = , a= p( ,30)=24.8% ○最新の4データを使い、最尤法とBPT分布を適用 最尤法で m = , a= p( ,30)= 94.7%
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4.3.南海トラフ地震 従来の長期評価の手法(2001年)で 2013年1月の時点で30年以内に M8以上の地震が起きる確率を評価
東海88%、東南海70~80%、南海60% Z A B C D E 2011年3月11日東北地方太平洋沖地震を受けて長期評価手法を見直し 2013年5月24日に暫定的な改訂を公表 評価対象領域について AとBが南海地震、 CとDの西半分程度が東南海地震、 Dの東半分程度とEが想定東海地震 ⇒南海トラフ全体を一つの領域とする 評価方法について データとして1361年以降の地震を用いる 時間予測モデルを使い、 確率分布はBPT分布に従うとする
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時間予測モデルによる活動間隔の導出 高知県室戸岬の室津港の隆起量 宝永地震(1707年10月28日) 1.8m 安政地震(1854年12月24日) 1.2m 昭和地震(1946年12月21日) 1.15m ○昭和地震の発生予測 宝永地震時の隆起量=1.8m 宝永地震と安政地震の発生間隔=147.2年 平均隆起速度=1800/147.2 = 12.23mm/年 安政地震の隆起量1.2m 次の地震が発生するまでの時間間隔 1200/12.23 = 98.1年 地震の発生予想年は =1953.1年 (誤差は+6.1年) ○次の地震の発生予測 安政地震時の隆起量=1.2m 安政地震と昭和地震の発生間隔=92年 平均隆起速度=1200/92 = 13.04mm/年 昭和地震の隆起量1.15mから、次の地震が発生するまでの時間間隔 1150/13.04 = 88.2年 次の地震発生予想年は =2035.2年
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BPT分布による確率評価 BPT分布のパラメータ: m=88.2, ばらつきの値a=0.20~0.24 最新発生時期: 1946年12月21日 評価時点:2013年1月1日 f[t_]:=Sqrt[mu/(2 Pi alpha^2 t^3)] Exp[-(t-mu)^2/(2 mu alpha^2 t)] P[T_,dT_]:=N[Integrate[f[t],{t,T,T+dT}]/Integrate[f[t],{t,T,∞}]] mu=88.2 alpha=0.20 p( ,10) = ~ (a=0.20~0.24) p( ,20) = ~ (a=0.20~0.24) p( ,30) = ~ (a=0.20~0.24) 南海トラフでM8以上の地震が、 今後10年以内に発生する確率は20%程度、 20年以内では40~50%、 30年以内では60~70%と評価
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4.4. (参考) 東北地方太平洋沖地震発生直前(2011 年3月11日)における確率 平均発生間隔 m=600 ばらつきa=0.24
最新発生時期=約500~600年前 BPT分布 p(500,10) = , p(600,10) = , 10 年以内の発生確率は4~6% p(500,30) = , p(600,30) = , 30 年以内の発生確率は10~20% p(500,50) = , p(600,50) = , 50 年以内の発生確率は20~30%
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4.5.陸域の地震(活断層) 多数回の地震が知られた活断層はあまり多くない。
いくつかの例からは、活動間隔のばらつきは共通(α=0.24)であると考える。 例 : 平均間隔=2000年の活断層の場合の30年以内の発生確率 f[t_]:=Sqrt[mu/(2 Pi alpha^2 t^3)] Exp[-(t-mu)^2/(2 mu alpha^2 t)] mu=2000 alpha=0.24 P[T_,dT_]:=N[Integrate[f[t],{t,T,T+dT}]/Integrate[f[t],{t,T,∞}]] 最新発生時期=1800年前の場合 P[1800,30]= 最新発生時期=2000年前の場合 P[2000,30]= 最新発生時期=3000年前の場合 P[3000,30]= 警固断層 (南東部) M7 .2 平均活動間隔:3100年~5500年 最新活動時期:4300年前~3400年前 mu=3100;alpha=0.24; P[4300,30]= mu=5500;alpha=0.24; P[3400,30]= 30年以内の発生確率は0.3%~6%
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5.おわりに 5.1.地震予知研究の課題 ① 「前兆すべり理論」は現段階では仮説である。
岩石の破壊実験やコンピュータシミュレーションなどから、起こるといわ れる概念で、実際の地震で確認されているわけではない また、実際に起こったとしてもそれが検知できるほど大きいかどうかも わからない 想定東海地震はその検証実験の意味がある 予知の実践段階ではない ② その他の非力学的現象による予知研究は可能性に向けた探求の段階 メカニズムの解明が困難でも現象論的な検証を進める価値はある 統計的厳密さをもった議論が必要 ③ 決定論的予測が原理的に不可能であることを踏まえて、確率論的にし かとらえられない複数の前兆現象を組み合わせて評価するような手法 の研究が必要ではないか
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5.2.確率予測について ① 確率的予測の必要性については 「国民は将来発生する地震についての情報を必要としている」が、
「国民は将来発生する地震についての情報を必要としている」が、 「信頼性が高くかつ高度な決定論的地震予知は今のところ不可能である」から、 「確率という観点からでしか評価や提供ができない」 (2009年10月に出された「市民保護のための国際地震予測に関する検討 委員会」の報告概要) ② 情報としての確率評価 (数値を鵜呑みにすると混乱を招きかねない) 計算方法は確立していないから数値には多少の幅がある 確率の比較基準は同質の現象に求めることが大切 (たとえば、平均発生間隔の大きく異なる海溝型地震と陸域型地震の発生 確率を単純に比較することはできない) 確率値が基準の確率に比べて何倍なのかの「指標」で示す必要がある (たとえば、活断層の地震発生確率を阪神淡路大震災を起こした野島断層 の地震発生時点での発生確率と比較するなどの方法) ③ 確率・統計のリテラシー 社会のさまざまな場面で、事柄の予測を確率でしか行えない場合が多い そのような確率を計算する例題として「地震発生確率」を使うのは有益である
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5.3.巨大プロジェクトとしての研究 ① プロジェクト研究における2種類の問題
A. その研究がもたらす結果が人間社会にとって重大な害悪をもたらす 可能性があるもの(原子力や遺伝子操作などの研究) B. 研究結果が害になる可能性は低いが、研究を進めるためには巨額 の資金が必要なもの(地震の予知・予測の研究など) いずれにしても、研究を進めるべきかどうかは、市民の同意が得られる かどうかにかかっている 特に、後者の場合は社会が優先順位をどう判断するかという問題である ② 研究者の責任 研究を進める上で、見通しがないにもかかわらず、防災に役立つ知見を 得たいとする市民の切実な要望に便乗するようなことは許されない 地震の予知の困難さを市民に明確かつ率直に説明すべきである それは巨額の予算を必要とする研究を行う上での責務である 現在の研究成果が科学として完全でないからというだけで、その研究を 否定する必要はない
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参考文献 1.「地震・津波と火山の事典」東京大学地震研究所監修、丸善(2008年) 2.「地震の事典(第2版)」宇津、嶋、吉井、山科編、朝倉書店(2001年) 3.「日本被害地震総覧[416]-2001」宇佐美龍夫著、東京大学出版会(2003年) 4.気象庁webページ「地震発生の仕組み( 5.「地震研究 お金かけすぎ?」朝日新聞(2013年5月2日科学) 6.「地震予知、身の丈で」朝日新聞(2013年7月4日科学欄) 7.「地震予知とどう向き合う」朝日新聞(2013年8月24日オピニオン) 8.「長期的な地震発生確率の評価手法について」地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001年6月8日) ( 9.「南海トラフの地震の長期評価について」地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001年9月27日) 10.「南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)」地震調査研究推進本部地震調査委員会(2013年5月24日) (
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11.「今までに公表した活断層及び海溝型地震の長期評価結果一覧」地震調査研究推進本部地震調査委員会(2013年5月24日)
12.「南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性について」南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会(2013年5月) 13.「実用的な地震予測:利用に向けた知見とガイドラインの状況」市民保護のための国際地震予測に関する検討委員会(2009年10月) 14.「東海地震も関東地震も起きない! 地震予知はなぜ外れるのか」木村政昭著、宝島社(2013年) 15.「検証!首都直下地震」編集工房SUPER NOVA編著、技術評論社(2013年) 15.「『地震予知』にだまされるな 地震発生確率の怪」小林道正著、明石書店(2012年) 16.「日本人は知らない「地震予知」の正体」ロバート・ゲラー著、双葉社(2011年) ありがとうございました
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