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新潟大学医歯学総合病院 魚沼地域医療教育センター 高田 俊範

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1 新潟大学医歯学総合病院 魚沼地域医療教育センター 高田 俊範
肺胞蛋白症 新潟大学医歯学総合病院 魚沼地域医療教育センター 高田 俊範

2

3 臨床疑問 ・肺胞蛋白症はどんな疾患か. ・肺胞蛋白症はどのように診断すればよいか. ・肺胞蛋白症はどのように治療をすればよいか.

4 メッセージ ・肺胞蛋白症では、肺胞内にサーファクタントが過剰に蓄積する.
・自己免疫性肺胞蛋白症の診断には、抗GM-CSF自己抗体の測定が必要である. ・自己免疫性肺胞蛋白症の標準的治療は全肺洗浄である.

5 目的 ・この項目を学習したあと、以下のことができるようになる ー肺胞蛋白症の診断 ー肺胞蛋白症の治療方針の決定
ー専門医へのコンサルテーション

6 症例 51歳 女性 主 訴;労作時呼吸困難(mMRC2)、湿性咳嗽 家族歴;特記事項なし 既往歴;42歳で子宮筋腫手術 喫煙歴;なし
51歳 女性 主 訴;労作時呼吸困難(mMRC2)、湿性咳嗽 家族歴;特記事項なし 既往歴;42歳で子宮筋腫手術 喫煙歴;なし 職業歴;事務、吸入歴なし 現病歴; 2000+X年4月の検診で、胸部レントゲン異常を指摘された. この頃から、労作時呼吸困難と湿性咳嗽を自覚するようになった. 同年6月に近医を受診し、胸部高分解能CTでcrazy-paving patternがみとめられた. 7月に当科を紹介され、初診した. 症例1は、31歳男性です。主訴は乾性咳嗽、発熱、皮疹です。これまで検診等で特に異常を指摘されたことはありませんでした。2001年10月下旬から、両手指に皮疹が出現。2002年1月になり38℃の発熱と両手足のこわばり感が出現し、1月19日某病院整形外科を受診。膠原病を疑われ、同院皮膚科を紹介受診しました。皮膚筋炎が疑われ、胸部X線写真で右下肺野に網状影が認められたため、2月1日内科に入院しました。間質性肺炎を伴う皮膚筋炎と診断されましたが、間質性肺炎が急速に進行し、ステロイドパルス療法にても改善が得られないため、3月1日当科に転院しました。入院時現症では、38℃台の発熱があり、両手指に凍瘡様紅斑とGottron徴候が認められました。両下肺野にfine cracklesを聴取しました。筋力低下は認められませんでした。 (次のスライドお願いします)

7 胸部レントゲン 両側肺門から両下肺野に左右対象に広がるすりガラス影

8 胸部高分解能CT すりガラス影の上に細かい多角形の線状影が重なった「メロンの皮様」の像(crazy paving appearance)

9 胸部高分解能CT所見の特徴は? ーすりガラス様陰影、通常両側性 ー小葉内間質肥厚像及び小葉間隔壁肥厚像
ー Crazy-paving pattern:上記所見の重なり合い ー Consolidation ー地図状分布 geographic distribution ー Subpleural sparing

10 Crazy-paving patternを示す疾患の鑑別は?
ー hypersensitivity pneumonitis ー Pneumocystis jirovecii pneumonia ー minimally invasive adenocarcinoma ー lymphangitic carcinomatosis ー cardiogenic pulmonary edema/acute lung injury ー lipoid pneumonia Murray & Nadel’s Textbook of Respiratory Medicine

11 検査所見 末梢血検査 WBC 5500 /mL Neu 57.0 % Eo 1.0 % Bas 0.0 % Lym 37.0 %
Mo 5.0 % RBC 439×104 /mL Hb 14.5 g/dL Ht 42.5 % Plt 23.5×104 /mL 生化学検査   BUN 15.7 mg/dL Cre 0.6 mg/dL UA 3.1 mg/dL Na 144 mEq/L K 3.8 mEq/L Cl 106 mEq/L AST 15 IU/L ALT 14 IU/L LDH 263 IU/L ALP 182 IU/L g-GTP 25 IU/L TC 227 mg/dL TG 115 mg/dL HDL-C 86 IU/L T-Bil 0.7 mg/dL CEA 2.4 ng/mL KL U/mL SP-D ng/mL 血清学的検査    CRP 0.04 mg/dL Anti-GM-CSF Ab 95.2 mg/mL 血液ガス分析 (室内気) PH 7.414 PaCO Torr PaO Torr HCO mmol/L SaO % 入院時の検査所見を示します。 WBCは7900でリンパ球は30.1%、異型リンパ球は認められませんでした。γグロブリンは27.4%と上昇しており、また抗SS-A、SS-B抗体が陽性でした。IL-2Rは729と軽度上昇、KL-6は2942と著増しておりました。HTLV-1抗体は4096倍でした。尿検査にてBJPは認められませんでしたが、血清免疫電気泳動にてMタンパクが認められました。 次のスライドお願いします。 検尿 PH 6.0 蛋白 (−) 糖 (−) 潜血 (−)

12 気管支肺胞洗浄 肉眼所見 米のとぎ汁よう 回収率 64 % 総細胞数 2.3 x105 /mL AM 23 % Lym 75 %
肉眼所見 米のとぎ汁よう 回収率 % 総細胞数 2.3 x105 /mL AM % Lym % Neu % CD % CD % CD4/

13 特異的な気管支肺胞洗浄所見の例 病原微生物 下気道感染症 悪性細胞 (光学顕微鏡、フローサイトメトリー) がん
洗浄ごとに赤みの増す血性洗浄液 肺出血/DAD PAS陽性の無構造物質を含む牛乳様洗浄液 肺胞蛋白症 特異的ベリリウム抗原に対するリンパ球増殖反応 慢性ベリリウム肺 DAD, diffuse alveolar damage Am J Respir Crit Care Med Vol 185, Iss. 9, pp 1004–1014, May 1, 2012

14 肺胞蛋白症の診断 症状、聴診所見、胸部レントゲン 胸部高分解能CTでcrazy paving pattern
血清KL-6, CEA, SP-D, SP-A, LDHなど高値 気管支肺胞洗浄 白濁BALF/PAS陽性物質 外科的肺生検で肺胞蛋白症の所見 no yes 肺胞蛋白症の診断

15 肺胞蛋白症の組織所見 肺胞腔内に(PAS陽性の)顆粒状好酸性物質の蓄積

16 検査所見 末梢血検査 WBC 5500 /mL Neu 57.0 % Eo 1.0 % Bas 0.0 % Lym 37.0 %
Mo 5.0 % RBC 439×104 /mL Hb 14.5 g/dL Ht 42.5 % Plt 23.5×104 /mL 生化学検査   BUN 15.7 mg/dL Cre 0.6 mg/dL UA 3.1 mg/dL Na 144 mEq/L K 3.8 mEq/L Cl 106 mEq/L AST 15 IU/L ALT 14 IU/L LDH 263 IU/L ALP 182 IU/L g-GTP 25 IU/L TC 227 mg/dL TG 115 mg/dL HDL-C 86 IU/L T-Bil 0.7 mg/dL CEA 2.4 ng/mL KL U/mL SP-D ng/mL 血清学的検査    CRP 0.04 mg/dL Anti-GM-CSF Ab 95.2 mg/mL 血液ガス分析 (室内気) PH 7.414 PaCO Torr PaO Torr HCO mmol/L SaO % 入院時の検査所見を示します。 WBCは7900でリンパ球は30.1%、異型リンパ球は認められませんでした。γグロブリンは27.4%と上昇しており、また抗SS-A、SS-B抗体が陽性でした。IL-2Rは729と軽度上昇、KL-6は2942と著増しておりました。HTLV-1抗体は4096倍でした。尿検査にてBJPは認められませんでしたが、血清免疫電気泳動にてMタンパクが認められました。 次のスライドお願いします。 検尿 PH 6.0 蛋白 (−) 糖 (−) 潜血 (−)

17 抗GM-CSF中和自己抗体 ーGM-CSFは、肺胞マクロファージの成熟に必須なサイトカインである.
ーそのため、サーファクタント代謝能が低下し、肺胞腔内に分解されないサーファクタントや細胞断片が蓄積する. ーこうした疾患を「自己免疫性肺胞蛋白症」と呼ぶ. The New England journal of medicine 2003; 349:

18 先天性/遺伝性肺胞蛋白症をきたしうる遺伝子異常
肺胞蛋白症の鑑別診断 肺胞蛋白症の診断 抗GM-CSF自己抗体 陰性 陽性 続発性肺胞蛋白症をきたしうる基礎疾患 先天性/遺伝性肺胞蛋白症をきたしうる遺伝子異常 なし あり あり なし 判定保留 続発性肺胞蛋白症 先天性/遺伝性肺胞蛋白症 自己免疫性肺胞蛋白症 未分類肺胞蛋白症

19 自己免疫性肺胞蛋白症 ー肺胞蛋白症の90%以上を占める. 他は続発性肺胞蛋白症、および先天性/遺伝性肺胞蛋白症など.
ー本邦での罹患率は人口100万人あたり6.2人と、希な疾患. ー50代男性、喫煙者に多い. ー労作時呼吸困難 (40%)、咳嗽 (10%)、喀痰などで発症することが多いが、約30%は無症状. Am J Respir Crit Care Med 2008;177:752-62

20 本邦続発性肺胞蛋白症の基礎疾患 血液疾患 35 (88%) 骨髄異形成症候群 26 慢性骨髄性白血病 2 骨髄線維症 2 その他 5 感染症
2 (5%) 自己免疫疾患 3 (7%) 合計 40 Eur Respir J 2011;37:465-8

21 自己免疫性肺胞蛋白症の重症度 重症度 症状 PaO2 1 なし PaO2≧70 Torr 2 あり PaO2≧70 Torr 3 不問
4 不問 60 Torr>PaO2≧50 Torr 5 不問 50 Torr>PaO2 Am J Respir Crit Care Med 2008;177:752-62

22 自己免疫性肺胞蛋白症の治療方針 自己免疫性肺胞蛋白症 中等度労作時呼吸困難 無治療経過観察 no yes *軽労作/安静時呼吸困難
在宅酸素療法導入 no yes 全肺洗浄 GM-CSF吸入療法 *本症ではしばしば自覚症状とPaO2に乖離がみられる

23 全肺洗浄 ー自己免疫性肺胞蛋白症の標準治療である. ーダブルルーメン気管内挿管チューブを用いて、片肺ずつ20L以上の生理食塩水で洗浄する.
ー低酸素血症が高度である場合は,体外式人工肺を用いながら行うこともある. ー前向き無作為試験は行われていないが、全肺洗浄により臨床的、生理学的、およびレントゲン写真上の改善が得られる.

24 GM-CSF吸入療法 ー GM-CSFノックアウトマウスでは、ヒトPAP類似の肺病変が見いだされた.
ー GM-CSF補充療法により、GM-/-マウスにみられたヒトPAP様病変が治療できた. ー 本邦で行われた第II相試験では、35例中24例でAaDO2が10Torr以上改善した.

25 自己免疫性肺胞蛋白症の予後 ー自己免疫性肺胞蛋白症の5年生存率は96%、10年生存率は88%であるが、患者はこの間繰り返し全肺洗浄等の治療を要する場合が多い. ー先天性肺胞蛋白症の予後は、極めて悪い. ー続発性肺胞蛋白症は、自己免疫性肺胞蛋白症に比べて予後は悪い.

26 まとめ ー気管支肺胞洗浄でPAS陽性無構造物質を含む牛乳様洗浄液がえられれば、肺胞蛋白症と診断される.
ー抗GM-CSF自己抗体が検出されれば、自己免疫性肺胞蛋白症と呼ぶ. ー自己免疫性肺胞蛋白症の現在の標準治療は、全肺洗浄である.

27 専門医研修カリキュラム 専門医研修カリキュラムの明示。 このe-ラーニングコースは以下の専門医研修カリキュラムの項目に準拠しています。
 専門医研修カリキュラム 専門医研修カリキュラムの明示。   このe-ラーニングコースは以下の専門医研修カリキュラムの項目に準拠しています。 各論Ⅰ.13.1) 肺胞蛋白症

28 文献等の引用については、下段に転載元を記載します。
Am J Respir Crit Care Med 2012; 185: 1004–1014 New Engl J of Med 2003; 349: Eur Respir J 2011; 37: 465-8 Am J Respir Crit Care Med 2008; 177:

29 設問 肺胞蛋白症に関する以下の記述のうち正しいものはどれか、一つ選べ。 a. 血清KL-6は、正常範囲である. b. HRCTでCrazy-paving patternがあれば、診断が確定する. c. 自己免疫性肺胞蛋白症の原因は、抗GM-CSF自己抗体である. d. 続発性肺胞蛋白症の基礎疾患で一番多いのは、感染症である. e. 中等度労作時呼吸困難があれば、全肺洗浄を考慮する.

30 設問の正解 正解:c ヒントスライド:17

31 解 説 肺胞蛋白症に関する以下の記述のうち正しいものはどれか。一つ選べ。 a. 血清KL-6 →スライド14で示している通り、血清KL-6は上昇するため不正解。 b. Crazy-paving pattern →スライド10で示している通り、本疾患以外にも鑑別すべき疾患が多数あるため不正解。 c. 抗GM-CSF自己抗体 →正解:スライド17で述べている通り。 d. 続発性肺胞蛋白症の基礎疾患 →スライド19で示している通り、基礎疾患として血液疾患が最多であるため不正解。 e. 全肺洗浄 →スライド21で示している通り、中等度労作時呼吸困難の場合は、まず無治療経過観察とすべきであるため不正解。


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