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脅威と挑戦の評価の主観的生理的行動的効果
R.S.LzarusとS.Folkman(1984)による、ストレスの認知的評価モデルの適用可能性が、3種類の実験によって検討された。それらの実験は、Obrist(1981)の能動的対処(実験1、2)と受動的対処(実験3)を繰り返し行うものであった。近づきつつある対象課題への脅威的評価は、被験者の主観的な課題ストレスと正の相関が認められた。能動的対処ストレッサーにおける心臓反応性は、挑戦評価と正の相関を示し、脅威評価とは負の相関を示した。しかし、血管反応性は脅威評価と正の相関を示し、挑戦評価とは負の相関を示した。受動的対処ストレッサーでは、心臓と皮膚伝導性の反応性が、脅威評価と正の相関を示した。能動的対処における主観評価と生理計測との差は、エネルギーの動員と認知の側面から説明された。生理計測をストレスの指標として用いることの意義が検討された。 潜在的なストレス状況が反応を変化させるという考えは、ストレスと感情に関する議論の中心となるものである。LazarusとFolkmanによれば、認知的評価のプロセスは、潜在的なストレス状況において、初期的認識と結果としての経験の間に干渉するという。特に、認知的評価はそのような状況における、感情的、生理的、行動的に反応を形作ると考えられている。 認知的評価は、LazarusとFolkman(1984)によって、「出くわした出来事とそのさまざまな側面を、well-beingに対する重要性という側面において分類することである」としている。認知的評価の2つの主要な構成要素は、1次評価と2次評価である。前者は、その状況の性質とリスクの程度(すなわち無潜在的な脅威)の認識を示す。後者は、その状況に対処する能力または資源の認識を示す。同時にこれらの判断は、状況の要求するものが、個人の対処する能力もしくは資源の範囲内に収まるかどうかの程度を示す。 LazarusとFolkman(1984)は、ストレスに関連した3種類の評価を区別した。損害/損失(Harm/Loss)評価は、ストレス状況が和らいだ後に生じるので事後決定的な定義である。しかし、脅威評価と挑戦評価は、ストレス状況の前もしくはその予期において生じるため、定義の点では先行している。 1次評価と2次評価の観点において、脅威評価とは、危険(の評価:perception)が、ストレスへの対処能力または資源(の評価:perception)を超えたときである。対照的に、挑戦評価は危険が、対処能力または資源を超えないときである。おそらく、脅威を感じた個人は、その状況において損失の予感と同時に、うるものは少ないと感じるだろう。しかし挑戦的な個人は、その状況において、損失と同時に何か(正な報酬もしくは損害の回避)を得る可能性を感じる。たとえば、準備をしていないと考える学生は、試験の前に脅威や不安を感じやすいが、準備ができていると考える学生は挑戦的で、精力的であり、試験を好んで受ける。さらに、脅威評価は、挑戦評価よりも、より強く否定的感情反応に結び付いている(参考文献はあり)。加えて、脅威を感じた個人は、状況の悪化を避けるために課題への集中が散漫になる可能性があり、一方挑戦的な個人は、より課題に集中し、否定的な感情によって注意をそらされにくくなる(Folkman,1984)。 最初にストレス状況に出くわした後、その後に来る認知的評価や再評価は、そこでの経験により得られた新しい情報に照らし合わせ、状況要求と対処資源を再評価することによって決まる。LazarusとFolkman(1984)。再評価に関する記述は、認知的評価が動的なプロセスであることを強調している。すなわち、認知的評価は、状況に対する1時的・2次的評価の継続的な、監査や変化によって決まり、それらによって脅威もしくは挑戦のレベルが変化するのである(LazarusとFolkman、1985)。
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一時的評価 多くの研究が、認知的な評価はストレッサーに対する生理的心理的反応に影響を与えることを示してきた(参考文献あり)。たとえば、Speisman,Lazarus,Mordkoff, and Davidson(1964)は、異なった解説(成人を迎える部族の儀式に関する映像に対する認知的評価を操作するために用いられた)は、生理的な反応を予測通りに変化させることを見いだした。知性化もしくは否認を促進することにより脅威的評価を抑制させた解説は、その逆の効果を持たせた解説に比べ、映像提示時の皮膚伝道性を減少させた。LazarusuとAlfert(1964)は、Speismanらの発見を次の2つの点において発展させた方が。第一に、彼らは知性化と否認による脅威的評価の操作は、ストレスの生理的側面だけでなく、主観的評価にも同様の影響を与えること見いだした。第二にこれらの操作は、ストレスフィルムと同時に行うよりも、映像の提示に先行して行った方が、効果的にストレス反応を低減させることを見いだした。 HolmsとHouston(1974)は、評価の操作は電気ショック体験時のストレス反応を軽減させることを見いだした。電気ショックを興味深い新しい身体的感覚であると再定義することと奨励された者や、関与しないことを奨励された者は、そうでない者に比べ、電気ショック中に低い不安を報告し、実際生理的な活性化も低かった。総合すると、これらとその他の研究(Lazarus,1991にレビューされている)は、先に述べたストレスの認知的評価モデルをサポートするものである。しかし厳密な調査を行うならば、これらの研究は実際のところ、脅威の一時的評価がストレスの経験や報告を予測通りに変化させることを述べているにすぎない。 2次的評価 少数の研究が2次的評価がストレスに対する主観的反応に影響を与えること示した(Folkman,Lazarus,DunkelSchetter,DeLongis, & Gruen,1986)。たとえば、Folkmanらは、主観的なストレスイベントを挑戦可能であると判断した(すなわち対処エフィカシーの2次的評価が高い)者は問題焦点型の対処法略(たとえば計画的な問題の解決)を用い、そのイベントを変化させられないと判断した者(すなわち対処エフィカシーの2次的評価が低い)より、その結果により満足することを示した。後者の被験者は、より情動焦点方の対処法略(すなわち隔離、逃避-回避)を用いる傾向にあった。この研究は参考にはなるものの、2次的評価の生理的な効果や、異なるストレッサー(反応要求するものと忍耐を要求するもの)に与える影響の差、1次評価と2次評価の相互作用などに関しては言及していない。 受動的、能動的課題、エネルギーの動員、挑戦 いままでのところ、認知的評価の社会精神生理学的研究は、不快映像のような感情に訴える刺激(部族の通過儀式、店でのトラブルなど)や電気ショックをストレス状況として用いてきた。このようなストレッサーは、精神生理学的な研究者たちによって受動的と表現される(Blascobich&Keksey,1990;Obrist,1981)。なぜならば被験者は状況を変化させる機会を持たず、外的な刺激を受動的に受けると考えられるからだ。精神生理学者はしばしばこれとは異なったストレッサーを用いる(暗算、反応時間課題、ストループ課題などである)。これらは能動的と表現される。なぜなら被験者は積極的にこれらの課題に従事することが求められるからである。このようなタイプのストレッサーは、代謝的な要求や感情変化の大きさより、主としてエネルギーの動員と課題への集中に関連した生理的反応を生じると信じられている(参考文献)。さらに、Dienstbier(1989)によれば、高い主観的コントロールや挑戦状況における、高いベータアドレナリン活動(これらの反応は急速に順応する)は、行動的な挑戦への適応反応と関連しているという。そのような反応性のパターンは、対処行動を促進させるためのエネルギーの動員を反映していると考えられている。
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認知的評価の研究において、能動的対処と受動的対処の差はまだ検討されていない。受動的対処課題ばかりを取り扱うのは問題である。何故ならばそのようなストレッサーは、対処能力の2次的評価を事実上無関係なものにしてしまうからだ。たとえば、「自分は状況の要求に合わせることができるだろうか?」という質問は、不快映像のような受動的なストレッサーの文脈では、計算課題のような能動的なストレッサーにおける場合とかなり異なるものになってしまうだろう。また、受動的なストレッサーは、(ただ課題に耐えるという意味以外の)挑戦を結果的に抑制してしまうかもしれない。なぜならば受動的対処は、定義の上では、課題に直接関係した行動を通して対処を除外するからである。このような場合では、課題とは関係ない対処法略、たとえばん否認、合理化、気をそらすなどの手法の方が、より効果的であろう(Lazarus,1983)。したがって、潜在的なストレス状況における、主観的、生理的、そして行動的な反応は、認知的評価(脅威もしくは挑戦)とストレッサーのタイプ(能動的もしくは受動的)によって決まるものと思われる。 受動的なストレッサーでは、生理的反応を感情の指標として考えた場合、脅威的評価は感情と生理の双方の反応を増大させると考えられる。しかし、能動的ストレッサーは、挑戦と脅威の双方の評価が影響をもたらす。したがって、機能的な問題焦点型対処は、ストレッサーを脅威としてではなく、挑戦的(つまり2次評価において対処能力への評価が脅威への評価より高い)にとらえた個人において生じやすい。したがって挑戦は否定的感情反応と負の相関を示すが、生理的な反応とは正の相関を示すと考えられる。さらに、挑戦的評価における生理的な活動は、否定的な感情の強さよりも、主としてエネルギーの動員や努力と関係していると思われる。 実験1 実験1では、能動的対処課題において、認知的評価(すなわち、脅威と挑戦)と主観的・生理的反応の関係が検討された。被験者の、1次的、2次的評価は、教示を受けた直後、暗算課題を行う場合に調べられた。被験者は課題を行い、課題中にどれぐらいストレスを感じたかを報告した。自律的な反応が実験を通して連続的に記録された。さらに被験者は、同一のストレス課題を2回繰り返して行った。それにより、評価と主観的・生理的反応の関係が、経験と認知的再評価にどのような影響を受けるかが調べられた。 仮説 主観的な反応に関しては、われわれの仮説はLazarusとFolkmanのモデル(Lazarus&Folkman)と一致している。このモデルでは、潜在的ストレッサーが個人の対処能力を超えると、ストレス反応が増大するとする。厳密には、われわれは、被験者がその課題を脅威としてとらえた場合(1次的評価が2次的評価より高い場合)、挑戦として評価した場合(2次的評価が1次的評価に比べ高い場合)に比べ、より大きなストレス経験を報告すると予測した。生理的反応に関しては、われわれの仮説はObrist(1981)の能動的対処のモデルと同様であった。このモデルでは、生理的反応は、環境の要求に見合ったエネルギー動員の増加に結び付けられる。また、特に環境的行動的不確実性が高いときにその傾向は大きくなるとする。特にわれわれは、能動的対処課題を挑戦と評価した被験者は、課題を脅威としてとらえた被験者よりも、より大きな生理的反応経験すると予測した 課題要求の不確実性の減少と、対処能力を判断する力の増加により、類似した2回目の課題においては、評価(つまり再評価)と主観的なストレス経験の関係は、より堅固なものになると予測した。同様の理由で、生理的な活動の群差は2回目の課題では消失すると予測した。
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方法 被験者 60人の男子大学生がニューヨーク大学バファロー校の心理学入門コースから参加した。年齢は17-22歳であった。参加することによって、学生は単位を得た。 状況 実験は電気的にシールドされた、音、温度、湿度がコントロールされた部屋で行われた。部屋には目につきにくいビデオカメラ、ビデオモニタ、オーディオスピーカがセットされ、被験者のコミュニケーションようにインターコムが設置されていた。ボタンを押し反応ボードが主観的反応を調べるために用いられた。被験者は実験を通して椅子に座っていた。 指標 主観報告:われわれは1次的評価を、被験者に「これから行う課題をどれぐらいストレスフルだと思うか?」と尋ねることにより調べた。2次評価は「この課題にあなたはどれぐらい対処することができるか?」尋ねることにより行った。最後に主観的なストレス経験が「今を終えた課題はどれぐらいストレスフルであったか?」と尋ねることにより調べられた。これらの項目は被験者にビデオモニタを介して、7段階のリッカーとスケールで提示され、ボタンを押すことにより記録された。認知的評価に関連するいくつかの人格的特性が計測された。われわれは、Rotter(1966)のコントロールの所在、Rosenberg(1965)のセルフエスティーム、Beck(1965)の抑うつに関して、被験者の実験室到着時に調査を行った。 生理指標: SCR(皮膚伝道反応)、PTT(拍動伝達時間)、HR(心拍数)が連続的に計測された。HRは、心臓活動の周期変動成分として計測され、PTTは、心臓活動の筋収縮力と血管の活動を反映するものと考えられた。皮膚伝道反応は、心臓血管システムとは分離された交感神経系の活動を反映するものとして計測された。 手続き 実験室に到着すると、被験者たちは実験の大まかな説明を受け、パーソナリティーチェックリストに記入した。再評価に関するわれわれの予測を適切に確かめるために、われわれは彼らが潜在的にストレスフルな課題を行うことを強調しないように注意した。代わりに被験者は実験者により、「数字数え」のような認知的な活動における生理反応を計測するのだと告げられた。その後被験者は実験室の中に座り、電極、トランスジューサーなどを装着した。その後、10分間の安静状態の後、5分間安静時の生理的反応が計測された。 先行研究(参考文献多数)により、安定して能動的対処に特有の反応が出ることが示されているという理由により、標準的な能動的対処を課題(暗算課題)が選択された。これらの研究では、一般的に被験者は、一定の時間間隔で減算を行い、それを声に出して回答するという手法が用いられた。
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続いてわれわれは被験者に実験が始まることを伝え、1回目の暗算課題(4分間)に関する教示を行った。被験者は、課題が1,528から7を、連続的に素早く減算していくものであることを告げられた。また、被験者は答えを口に出しながら、減算をなるべく早くそしてできる限り正確に行うよう告げられた。1次的、2次的評価は教示が行われた直後に調べられ、主観的なストレスは課題が完了した後で調べられた。2回目の課題は、5分間の安静状態の後に行われた。被験者は教示を再び聞いたが、減数は13に変更された。1回目と同様に、1評価と2次評価が教示の直後に調べられ、主観的ストレス評価が課題完了直後に調べられた。その後計測装置が取り外され、結果報告が行われた。 結果 集計 主観報告:ストレスの認知的評価は、1次的評価と2次的評価の比によって求められた(1次的/2次的)。被験者は、認知的評価の比によって2つの群に分けられた。中央値よりも上の被験者は脅威的評価グループ、中央値よりも下の被験者は挑戦的評価グループとされた。認知的評価の比が算出され、グループ分けはすべての課題において個別に行われた。この手続きによりわれわれは、時間経過に伴う評価の変化(再評価)を知ることができた。 生理指標:HR、PTT、SCRの頻度の、1分おきの平均値が算出された。安静状態における群差の検討が行われたが、統計的に有意な差は認められなかった。反応性スコアは、直前の安静期の最後の1分間との比較によって求められた。 主観的ストレス 評価グループの効果が、主観的ストレス反応に影響を与えるかを調べるために、各課題に関して共分散分析が行われた。評価グループを被験者間要因とし、課題をのストレス評価を従属変数とし、コントロールの所在、セルフエスティーム、抑うつスコアを共変量として用いた。1回目の課題に関しては、予測通り、脅威的な評価は、挑戦的な評価のグループに比べ、より大きなストレス経験と結び付いていたが、この差は統計的に有意ではなかった。2回目の課題に関しては、脅威グループは挑戦グループより高いストレス経験を示し、この差は統計的に有意であった。 生理的反応性 認知的評価が性的な反応に及ぼす影響を調べるために、2(評価グループ:脅威と挑戦)×4(分)の共分散分析が、HR、PTT、SCRに関して行われた。コントロールの所在、セルフエスティーム、抑うつが共変量として用いられた。その結果、認知的評価グループの主効果が、最初の課題に関して有意であった。各指標における単一変数の分散分析の結果、PTTに関して、評価グループの効果が有意であった。予想通り、挑戦グループは脅威グループよりも大きな生理学的反応を示した。同様の分析を2回目の課題に関しても行ったが、有意な群差は見られなかった。
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考察 実験1の結果は、認知的評価が、標準的な能動的対処型のストレッサーにおいて、主観的、生理的反応を予測することを示した。主観的な反応に関しては、LazarusとFolkman(1984)の、ストレスとコーピングの理論に一致することが示された。1次的証拠と2次的評価の比に基づいた認知的評価は、2回の課題において被験者の主観的ストレス評価を予測した。この関係は、2回目の類似した課題において、いくらかより安定したものとなった。生理的な反応に関しては、結果はLazarusとFolkmanのモデルとは逆であったが、Obrist(1981)の能動的対処のモデル、また、われわれの挑戦的評価の分析と一致していた。課題を挑戦として評価した被験者は、課題を脅威として評価した被験者より、有意に大きな生理的反応を示した。しかし、生理指標におけるグループ間の差は、課題に関する不確実性が高い場合(すなわち、最初の課題)に限り認められた。生理的な結果は、挑戦的な場合は課題を行うために生理的な資源をより多く動員するという考え方とも一致するものであった。また、われわれの認知的評価の効果は、他の理論的に関連してくる特性であるコントロールの所在や、セルフエスティーム、抑うつなどとは独立していたことも重要である。 認知的評価と主観的ストレスと性的反応性の関係は、頭課の繰り返しによって変化する。認知的評価主観的ストレスの関連性は2回目の課題で増大する。しかし、認知的評価と生理的指標の関係は逆に減少する(すなわち順応する)。
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実験2 研究1で観察された効果の性質をより完全に確かめるために、基本的なパラダイムに関していくつかの変更が行われた。第一に、1次評価の概念をより明確に反映するために、質問が「これから行う課題がどれぐらい脅威的だと思うか?」というものに変えられた。第二に、より洗練された心臓血管系の指標が用いられた。すなわち、心臓側と血管側の計測が個別に行われた。また、課題に対する努力と、成績が調べられた。これは、被験者の言語反応をオーディオテープに録音したものを、実験後に点数化することにより行われた。最後に、主観的なストレス評価に加え、課題に対してどれぐらい努力を行ったか、課題量をどれぐらいうまく行うことができたかという点に関するセルフレポートが調べられた。 仮説 実験1をベースにして、脅威評価を行った者は、挑戦評価のものよりも、より大きな主観的ストレスを生じると予測した。身体的な反応に関しては、挑戦評価を行ったものは、より大きな心臓反応生じると予測した。さらに、このような身体反応との関連は、課題要求と状況が不確実な場合(すなわち課題1)においてのみ生じると予測した。また、挑戦評価を行った者は、主観的に多くの努力を報告し、なおかつ課題をよりうまくできたと報告すると予測した。また、挑戦評価を行った者は、実際により多くの努力を行い(すなわち多数の言語反応)、よりよい成績を示す(数すなわち正解数が多い)と予測した。この関係は、2つの実験を通して維持されると予測した。 方法 概略 被験者は教示を聞き、評価を行い、暗算課題量を2回行った。生体情報は、連続的に計測された。ストレスの主観評価、主観的な成績、努力は各課題の直後に調べられた。被験者は再び、脅威と挑戦の群に分けられ、ストレスに対する主観的、身体的、行動的反応の差が調べられた。 被験者 53名の男子大学生が、実験1で用いられたものと同じ集団から雇われた。参加することにより単位をうることができた。 設定 研究1と基本的に同じ設備が用いられたが、Minnesota impedance cardiograph(Model 304B)とCortronics(Model 5000)自動血圧計が加えられた。 指標 自己報告:被験者に、「これから行う課題をどれだけ脅威に感じるか」と問うことによって、一次的評価が調べられた。二次評価は、「この課題にどれくらい対処できるか?」と聞くことによって調べられた。主観的ストレスは、「いま行った課題は、どれくらいストレスフルであったか?」と聞く事によって調べられた。また、被験者は課題後に、その課題をどれくらいうまくできたと思うか、どれくらいの努力を行ったかについて回答した。これらのアイテムは、ビデオモニタを通じてリッカート方式で表示され、ボタンを押すことによって回答を得た。生体情報:EKGとインピーダンスカーディオグラム(ZKG)が計測された。(中略)HR、PEP、CO、TPRが計測された。
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手続き 基本的な手続きは研究1と同様であった。被験者は、課題が2737から7ずつ急いで引いていくものであることを告げられた。2回目の課題は(7ずつ引くという点において)1回目の課題と同様であったが、開始時の数は、2758であった。1次的評価と2次的評価は、各課題に関する教示が終わった直後に調べられた。主観的なストレス、努力、成績は課題を終えた後に調べられた。 結果 集計 自己評定:研究1と同様に、認知的評価は、1評価と2次評価の比として得られた。被験者は認知的評価比分布のメディアンスプリットにより、脅威群と挑戦群に分けられた。前回と同様に、認知的評価の比とグループ分類は、再評価を説明するために、課題ごとに行った。 生体情報:PEP、CO、HR、TPRの値が、安静期と課題期において、1分毎に計算された。前回同様に、ベースラインにおいて、両群の生体情報には差が認められなかった。また前回同様に、反応性スコアが計算された。 主観的評価 実験毎に一要因のMANOVAが行われた(評価グループが被験者間要因、3つの主観指標が従属変数) MANOVA(課題1回目) 多変量効果が有意 Wilks’sλ=.86, F(3,49)=2.70, p<.05 単一変量ANOVAによる追加分析 ・主観的ストレス F(1,51)=3.19 p<.08 脅威:3.85 vs 挑戦:2.85 ・主観的成績 F(1,51)=3.28 p<.08 脅威:2.19 vs 挑戦:2.85 ・主観的努力 有意差なし MANOVA (課2回目) 多変量効果が有意 Wilks’sλ=.76, F(3,49)=5.30, p<.004 単一変量ANOVAによる追加分析 ・主観的ストレス F(1,51)=10.53 p<.003 脅威:3.14 vs 挑戦:1.84 ・主観的成績 F(1,51)=8.51 p<.006 脅威:2.96 vs 挑戦:4.23 ・主観的努力 有意差なし
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生理指標 課題毎に2(認知グループ)×4(分)のMANOVAが、PEP、CO、HR、TPRを従属変数として行われた。 MANOVA(課題1回目) 認知グループと分の交互作用が有意 Wilks’sλ=.60, F(12,40)=2.19, p<.03 単一変量ANOVAによる追加分析 ・PEP F(1,51)=3.70 p<.05 ・CO F(1,51)=4.88 p<.04 ・HR F(1,51)=11.83 p<.001 ・TPR F(1,51)=5.89 p<.02 下位分析の結果、最後の1分間においてのみ、グループ間の差は有意(すべてp<.01)であることが判明。 予想通り、課題2回目では、多変量、単変量ともに有意な差はなんら見出されなかった。 PEP、CO、HRに関する反応性は、脅威群より挑戦群において高いが、一方で挑戦群は、脅威群にくらべ欠陥抵抗(TPR)を有意に減少させている。
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考察 課題努力と課題成績 課題努力=1分間あたりの言語反応の数(すなわち減算しようとした回数)
課題成績=1分間あたりの正解数(減算の結果が目標の数と一致したか) として定義された。 課題毎に2(認知グループ)×4(分)のMANOVAが行われた。 MANOVA(課題1回目) 多変量効果が有意 Wilks’sλ=.86, F(2,47)=3.73, p<.04 単一変量ANOVAによる追加分析 ・努力 F(1,48)=7.05 p<.02 脅威:11.50 vs 挑戦:15.25 ・成績 F(1,48)=6.14 p<.02 脅威:10.50 vs 挑戦:14.00 MANOVA(課題2回目) 多変量効果が有意 Wilks’sλ=.93, F(2,47)=1.59, p<.22(有意差なし) 単一変量ANOVAによる追加分析 ・努力 F(1,48)=3.12 p<.08 脅威:12.50 vs 挑戦:17.45 ・成績 F(1,48)=2.83 p<.09 脅威:11.00 vs 挑戦:13.75 基本的には、1回目と2回目でそれほど差はなく、生理指標の差が二回目で見られなくなるという現象は、これら言語反応の数や正解数には関係ないと思われる。 考察 実験2では、実験1と同様の結果が得られ、さらに新たな知見が得られた。前回と同様、脅威評価は挑戦評価より、高い主観的ストレスを生じ、この関係は課題を繰り返すにしたがって強固なものになった。また、脅威と挑戦の評価は、被験者の主観的な努力、成績、そして実際の成績をも予測した。 生理指標に関しては、またしても、挑戦評価を行った者は脅威評価を行った者よりも、より大きな心臓反応(すなわちPHP,CO、HR)を示した。しかし、挑戦的な被験者は、心臓反応の増大に加え、血管抵抗(TPR)の減少を示した。実験1と同様に、自律反応のグループ間の差は、不確実性の高い条件(すなわち最初の課題)においてのみ見られ、ほぼ同様の二回目の課題では消失した。
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実験3 研究3は、血管への効果の信頼性を確かめ、課題タイプ(すなわち能動VS受動対処課題)と評価と生理反応に関する仮説を検討することを目的に計画された。この研究では、被験者はランダムに繰り返しのある受動的対処課題もしくは繰り返しのある能動的対処課題に割り当てられた。 仮説 能動的対処課題に関しては、我々の仮説は研究1と研究2の結果に一致するものである。特に我々は、課題をより挑戦ととらえた被験者は、課題をより脅威と評価した者より、より少ない主観的ストレスを報告すると予測した。また我々は、課題量をより挑戦ととらえた被験者は、より大きな心臓反応性とより少ない血管抵抗を示すと予測した。最初の2つの研究と同様に、すべての生理的な効果は、2回目の課題において順応すると予測された。 すでに述べたように、受動的なストレッサーにおいて、課題能力に関する2次的評価は、考慮すべき問題であるかが定かではないため、我々の受動的ストレッサーに関する仮説は、能動的ストレッサーに関するものから分岐した。すなわち、このような課題に対する主観的、生理的反応を考えるうえで重要なのは、脅威に関する1次的評価のみであると考えられた。したがって、我々は受動的なストレッサーを高い脅威と判断した被験者は、それほど脅威と評価しなかった被験者に比べ、大きなストレス反応を示すと予測した。我々はまた、課題量を脅威と評価したものは、そうでない者に比べ、一般的により大きな生理的反応を示すと予測した。また、受動的なストレスにおいて、評価が身体へ与える影響は、同様の課題を2回目に行う場合順応すると予測された。 方法 概略 研究1、研究2と同様に、被験者は評価を行い、その後2回の課題を行った。被験者の半数はランダムに能動的対処課題(暗算課題)に割り振られ、半数は受動的対処課題(事故の犠牲者と手術の患者の画像スライドを見る)に割り振られた。心臓、血管、皮膚電気活動が連続的に計測された。主観的ストレス、主観的成績、主観的努力が各課題の直後に調べられた。能動的対処課題に関しては、再び被験者は、1次的評価と2次的評価にしたがって、脅威と挑戦のグループに分けられた。受動的対処課題に関しては、被験者は彼らの1次的評価にしたがって、高脅威グループと低脅威グループに分割された。その後、評価グループの主観的、生理的反応への影響が調べられた。 被験者 被験者は、18-32歳の72名の大学生であり、先の研究と同様の集団から採用された。実験に参加することにより授業の単位が得られた。 設定 実験は先の研究と同じ実験室で行われ、先の研究と同様の装置が使用された。
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指標 主観:1次的、2次的評価、主観的ストレス、主観的成績、主観的努力が研究2と同様に調べられた。 生理指標:EKG、ZKG、および血圧が研究2と同様の方法で計測された。PEP、CO、HR、TPRの平均値が得られた。受動的ストレッサーを用いた先行研究において頻繁に用いられたという理由で、皮膚伝導反応が調べられた。皮膚伝導反応は、研究1で用いたものと同様であった。 手続き 基本的な手続きは、研究1・研究2と同様であった。課題に関する教示を与えられた後、1次的、2次的評価が調べられた。そして、主観的ストレス、主観的努力、主観的成績が課題後に調べられた。被験者の半数(男性と女性の数はほぼ同様)がランダムに能動的対処課題に、半数が受動的対処課題に割り振られた。 能動的対処において、被験者は順方向もしくは逆方向に、2549から7ずつ数えるように告げられた。2回目の課題においては、被験者は2758から7ずつ逆方向に数えるよう告げられた。もう一つの研究の目的のために、被験者は暗算課題を、声に出すやり方、声に出さないやり方の2通りの方法によって行うように告げられた。被験者はビデオモニタを通じて、どの方法で課題を行うか定期的に指示を受けた。すべての被験者は、各分の最初の30秒間声に出すに行い、残りは30秒間を声に出して行った。 受動的対象条件において、被験者は暗算課題をやる代わりに、目前の大きなビデオモニタに表示される写真映像を見るように告げられた。最初の課題において、被験者は交通事故、暴力事件の被害者の死体画像、がん患者の頭部、のど、首の手術の様子の画像を見た。2回目の課題では、同様の一連の画像を見た。受動的状況の被験者は、単に画像を提示されたまま見るように告げられた。 結果 集計 自己評定:能動的対処条件では、被験者は再び、認知評価分布のメディアンスプリットによって、脅威群と挑戦群に分けられた。受動的対処条件では、被験者は1次評価分布のメディアンスプリットによって、高低の2群に分けられた。認知評価の比の計算と群わけは、再評価を考慮して、課題ごとに独立して行った。 生体情報:能動的対処の効果を、発語の代謝要求と独立に考えるために、静期と課題期において、 PEP、CO、HR、TPR、SCR頻度の平均値を、各分の前半30(つまり発語しい期間)に関して求めた。SCRは心臓血管システムから独立しているため、ほかの指標とは別に分析された。 認知評価グループ(脅威と挑戦、もしくは1次評価の高低)を被験者間変数とし、各安静期間の最後の1分間における各指標の平均値を従属変数とし、MANOVAを行ったが、安静時の生理反応に、有意な群差は存在しなかった。最初の二つの研究と同様に、反応性スコアが計算され、その後の分析において従属変数として用いられた。
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主観的評価:能動課題 実験毎に1要因のMANOVAが行われた(評価グループが被験者間要因、3つの主観指標が従属変数) MANOVA(課題1回目) 多変量効果が有意 Wilks’sλ=.68, F(3,33)=5.09, p=.01 単一変量ANOVAによる追加分析 ・主観的ストレス F(1,35)=7.42 p<.01 脅威:5.16 vs 挑戦:3.77 ・主観的成績 ns(p>.35) 脅威:2.20 vs 挑戦:2.68 ・主観的努力 ns(p>.20) MANOVA(課題2回目) 多変量効果が有意 Wilks’sλ=.62, F(3,33)=6.63, p=.001 単一変量ANOVAによる追加分析 ・主観的ストレス F(1,35)=4.51 p=.05 脅威:4.83 vs 挑戦:3.79 ・主観的成績 F(1,35)=9.14 p<.01 脅威:2.38 vs 挑戦:3.78 ・主観的努力 F(1,35)=4.14 p<.05 脅威:5.94 vs 挑戦:5.21 これは予想外であった。 主観的評価:受動課題 実験毎に1要因のMANOVAが行われた(1次評価の高低が被験者間要因、3つの主観指標が従属変数) MANOVA(課題1回目) 多変量効果が有意 Wilks’sλ=.81, F(3,30)=2.70, p=.09 単一変量ANOVAによる追加分析 ・主観的ストレス F(1,32)=3.67 p=.06 脅威:3.59 vs 挑戦:2.52 ・主観的成績 F(1,32)=4.97 p<.05 脅威:4.63 vs 挑戦:5.56 ・主観的努力 ns(p>.20) MANOVA(課題2回目) 多変量効果が有意 Wilks’sλ=.76, F(3,30)=3.01, p<.05 単一変量ANOVAによる追加分析 ・主観的ストレス F(1,32)=6.52 p<.02 脅威:4.50 vs 挑戦:3.06 ・主観的成績 ns(p>.25) ・主観的努力 F(1,32)=5.73 p<.03 脅威:3.77 vs 挑戦:2.18
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生理指標:能動課題 課題毎に2(認知グループ)×4(分)のMANOVAが、PEP、CO、HR、TPRを従属変数として行われた。 MANOVA(課題1回目) 多変量効果が有意 Wilks’sλ=.75, F(4,30)=2.31, p<.05 単一変量ANOVAによる追加分析 ・PEP F(1,35)=6.14 p<.02 ・CO F(1,35)=5.95 p<.02 ・HR F(1,35)=15.27 p<.03(?) ・TPR F(1,35)=5.19 p<.03 SCRに関するANOVAの結果は、有意な差が見られなかった。また先の研究と同様に、多変量、単変量双方の分析においいて、二回目の生理指標には、有意な群差は見られなかった。 生理指標:受動課題 まず、能動的対処と同様に、 心臓血管指標に関して2(評価比による認知グループ)×4(分)のMANOVAを、SCRに関してANOVAを行ったが、有意な差はみられなかった。 2次評価と受動状況の関連については予測しがたいため、我々は1次評価によるメディアンスプリットを用い、2(1次評価グループ:高vs低)×4(分)のMANOVAを心臓血管指標に関して行った。 MANOVA(課題1回目) 1次評価グループ×分の交互作用が有意 Wilks’sλ=.54, F(9,24)=2.21, p=.058 単一変量ANOVAによる追加分析 ・PEP F(1,32)=6.83 p<.02 ・CO F(1,32)=3.43 p=.07 ・HR F(1,32)=4.17 p<.05(?) ・TPR ns(p>.25) PEP、CO、HRは明確化するため、最初の1分のデータのみを表示した。
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受動課題におけるグループ間の差(最初の1分間において顕著)は、1次評価の高い者は、低いものに比べ、より大きなPEP、CO反応性を示す事を示した。HRに関しては、高1次評価グループは初期レベルを維持したが、低1次評価グループのHRは減少した。低評価グループにおけるHRの減少は、「sensory intake(外界情報の取り込み)」課題において予測される反応と一致する(すなわち、副交感神経系に媒介されたHRの減少である;Obrist,1981を見よ)。PEP、COの変化パタンを考えると、副交感神経系のHRへの効果は、高1次評価グループでは低1次評価グループにくらべ、より抑制されていたものと思われる。2次評価によるメディアンスプリットを使った分析では、有意な差は見られなかった。2(1次評価の高低)×4(分)のSCRに関するANOVAは、評価グループによる差が有意な傾向にあることを示した(F(1,32)=4.37, p<.08)。この結果は、高1次評価者は、SCR頻度が高いことを示すものであった。心臓への効果とは異なり、この効果は課題の最初から最後まで維持された(心臓血管系への有意な群差は最初の一分のみ)。受動的課題においても、二回目は、生理指標になんら有意な差が見られなかった。 考察 研究3の結果は、先の2つの研究の結果を踏襲し、さらに発展させた。能動的対処課題に関しては、脅威評価はより大きな主観的ストレスを生じさせた。この現象は、能動的対処課題を繰り返しても維持される強固なものであった。また、認知的評価は、暗算課題において被験者の主観的成績をも予測した。生理データに関しては、挑戦評価を行ったものは、脅威評価を行った者に比べ、有意に高い心臓反応性と血管抵抗の減少を示した。反応性におけるグループ間の差は、先の2つの研究と同様に、不確実性が高い場合(すなわち課題1)においてのみに確認された。 受動的対処課題に関しては、高い1次評価を行ったものは、低い1次評価を行った者よりも、より多い主観的ストレスを報告した。課題の性質を考えれば驚くことではないが、主観的な努力や主観的な成績においては、1次評価の高低による差は見られなかった。生理的データに関しては、高1次評価者は、より大きな心臓反応とSCR反応を示した。SCRに対する効果は、同様の課題を用いた先行研究(Holms&Houston,1974)と一致していた。予想通り、対処能力に関する2次評価は、受動的ストレスにおける身体反応を予測できなかった。
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総合考察 これら3つの結果は、潜在的なストレスイベントにおける、主観的、生理的、行動的反応を予測するうえで、認知的評価モデルが有効であることを示した。実際、2つの単純な認知的判断-状況がどれぐらい脅威であるか、そしてその状況にどの程度うまく対処できるか-は、主観的、身体的、行動的な反応を、能動的な努力を必要とする課題(すなわち暗算課題)でも、そのような努力を必要としない課題(すなわち事故犠牲者の映像)でも予測可能であった。 主観的ストレスに関して言えば、暗算課題では脅威評価は一貫してストレスを高めることが示された。このような現象は、最初に課題を経験した後で顕著であった。身体的反応に関しては、挑戦評価は一貫して心臓反応の増大と血管抵抗の減少を引き起こし、脅威評価は比較的少ない心臓反応と、比較的大きな血管抵抗を生じることが示された。研究2では、能動的対処課題において、挑戦評価は主観客観双において成績を増大させることが示された。研究3は、受動的対処を課題において、脅威に関する高1次評価は、主観的なストレス、心臓反応、SCR反応を増大させることが示された。 総じて、主観的ストレスへの効果に関する結果は、被験者自身による認知的評価は、ストレス体験との関連性において、実験的に操作された評価(Holms & Houston,1974)と一致することが示された。さらに、時間経過(すなわち、課題の繰り返し)によるこれらの効果の変容は、認知と感情反応の関連を考えるうえで、再評価と環境の不確実性が重要な概念であることを強調する。生理的なデータは、評価と身体的な変化の関係は、かつて考えられていたものより複雑であること示した。実際、これらの効果のパターンは、ストレッサーのタイプ、評価、対象とする生理システムなど、さまざまな要因に依存して変化する。能動的対処課題において、心臓血管活動に関して得られたパターンは、能動的対処における挑戦評価とエネルギー動員に関する知見に基づいた認知評価モデル(Dienstbier,1989)の公式と一致する。また、今回のようなグループ間の差は、比較的高い不確実性が存在する場合に限定され、またそのようなグループ間の差は急速に順応する可能性があることが示された。しかし、不確実性-新規性の操作が不十分であることや、このような効果に他の説明が存在しうることを考慮すれば、われわれの不確実性-新規性に関する結論は、注意をもってとらえるべきであろう。 受動的対処課題で得られた身体への効果は、Lazarus & Folkman(1984)の初期のデモンストレーションと類似したストレッサーを使い、有意義な追試験となった。さらにそれらの結果は、被験者自ら得られる評価を用いて評価を直接的に調べること、自律活動に関する複数の要因(たとえば心臓と血管など)を調べることにより、既にある知見を拡張した。予測通り、対処能力に関する2次的評価は、受動的対処課題における生理的な反応性とは無関係であった。高知県は、受案動的対処時における評価タイプに関するわれわれの理論的分析を支持するものである。われわれが、受動的対処パラダイムは、2次的評価の顕著な感情制御機能を制限してしまうと指摘したことを思い出してほしい。なぜならば、受動的対処をストレッサーは被験者に、行動したり積極的に状況に参加したりすることを許さず、それゆえ課題能力に対する2次的評価は不明確なものになってしまうからだ。対照的に、能動的対処ストレッサーは課題能力に関する2次的評価を意味あるものにするので、Lazarus & Folkman(1984)の評価モデルのより完全な検査を提供することができる。
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しかし、この研究の1つの限界として、被験者は自分自身でどちらの評価グループに入るか決めることができたという問題点がある。したがって、本研究において測られた評価により導かれた因果論的説明には注意が必要がある。操作された評価を用いた先行研究(Lazarus & Alfert,1964)同様の結果を得た受動的ストレッサーでの結果に関しては、この問題はそれほど考慮しなくてもよいだろう。 われわれの、能動的対処における主観的ストレスと身体反応性に関する結果は、主観的コントロールとストレスの関係に関する文献と一致する(Averill,1973;Folkman,1984にレヴューあり)。主観的なコントロールは、ストレスフルな、もしくは挑戦的な状況において、感情反応を和らげるといわれているにもかかわらず、この研究は高コントロール状況下で、しばしば身体反応が増大することを示唆する。高コントロール条件下における、被験者の身体反応の増大は、状況に対処するための、努力とエネルギーの動員を反映したものであると考えられる(Avrill,1973)。パーソナルコントロール(等その関連概念)の個人差は、実験1の結果に影響を与えていなかった。したがってわれわれの結果は、パーソナルコントロールを人格特性と考えるとらえ方よりも、Folkman(1984)によるパーソナルコントロールを状況評価としてとらえる考え方に合致しており、これは注目に値する。Folkmanは、より大きなコントロールの状況的評価は、より大きな身体反応導きをうるが、この関係は安定した人格特性に関して維持されるとは限らないとしている。 これらの研究の重要な側面は、評価と主観的、身体的指標の関係を時間を追って(すなわち課題の繰り返し)検討したことであった。研究1研究2では、課題を繰り返すに従い主観的ストレスが増大したのに対し、2回目の課題で、評価と身体反応の関連性は減少した(すなわち順応した)。これらの効果は方向が逆であるが、どちらも、課題もしくはそれをこなすうえでの個人の能力に関する不確実性-新規性によるものである。 結果として、不確実性はときに評価と主観的ストレス反応の初期の関係を、不明確にもしくは複雑にする可能性がある。しかし、課題を経験し新しい情報を得ると、被験者は課題状況とそれに対する対処能力の程度をより正確に予測できるようになる。その結果として、評価と主観的反応の関係はより強固なものとなるのである。認知評価と身体反応の関連性が時間を追って低下することもまた不確実性を反映していると思われる。特に課題に関する不確実性が高い場合は、課題量を挑戦と評価した被験者は、課題要求が不明確な場合、対処能力が不明確な場合、そしてその双方である場合に、過剰なエネルギーを投入してしまう(Brener,1987)。しかし、課題を経験した後には、そのような過剰なエネルギーの投入は不必要になると思われる。 この研究にはもう1つの興味深い側面が存在する。それは、ストレスに対する心理的反応(すなわち主観的ストレス)と身体的反応(すなわち心臓血管活動)は、生理システムに依存して変化の極性が異なる可能性がある、ということである。特にこれらの結果は、状況要求に対する身体 -特に心臓- の覚醒が、ストレスという言葉に包含されるような、不快感情の絶対的な指標とはならないこと強く示唆する。 能動的対処課題において、最も大きな心臓反応、最も大きな血管抵抗の減少を示した者は、最もストレスが少ない被験者であった。この事実は、ストレスに対する心臓血管反応を疾病の予測に役立てようとする今後の研究を考えるうえで実用的な意味を持つ。能動的対処におけるわれわれの結果は2つの可能性を示唆する。第一に、これらの結果は、心臓血管系疾患のリスクを考えるうえで、心臓反応よりも血管反応が重要であるとする近年の主張(Blascovich & Katkin,1993)を支持するかもしれない。もしくは、血流を増大させるための血管抵抗の減少が生じない場合に限り、心臓の反応性は疾病プロセス上問題になることをこれらの結果は示しているのかもしれない。
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これらの研究の結果は、多くの心臓血管反応性研究者たちの考え、すなわち最も反応性の高い個人が最も大きなストレスを体験するという考え方に問題があることを示す。さらに、これらの結果は、ストレス反応性に興味を持つ研究者は、その実験の被験者たちの感情反応にもより注意を向けるべきであることを示唆する。もちろん、心臓の反応性は、感情価や血管抵抗とは独立して、心臓血管疾患のリスクを高める。しかし、このような可能性は、近年注目されている不快感情と疾病の関係に関する研究(Booth-Kelway & Friedman,1987;Contrada & Kranz, 1988; Lovallo et al.,1985; O'Leary,1990)を強く否定することにはならない。 最後に、われわれの結果はDienstbier(!989)により提唱された身体的タフネスの理論にかなり一致する。Dienstbierは、高コントロールもしくは挑戦状況において、初期に見られるベータアドレナリン性反応(すなわちPEP 急速に順応する)は、対処としては成功であり、適応的、indicative(意味よくわからん)であるという。この推論をベースとし、われわれの挑戦的な被験者が示した生理反応パターンは適応反応であり、それは迅速かつ十分な代謝的リソースを身体を通して供給する、とわれわれは考える。われわれの研究で得られた主観的、身体的反応、成績の結果などは総じて、この考えを支持するものである。 要約すると、この研究の結果はLazarus & Folkman(1984)の認知評価等ストレスに関するモデルのより複雑な解釈を、主観的、行動的、身体的反応の点から支持するものである。この研究は、個人が直面する課題状況のタイプ(すなわち能動的vs受動的)を考慮したことだけでなく、状況に応じた評価のタイプ、生理覚醒のシステム的アプローチなどの点において従来の知見を拡張した。これらの結果は、環境要求とそれらの評価は、静的なものではなく、時間経過により変化するプロセスとしてとらえることが重要であること示した。さらに、本研究で得られた主観的、身体的データの反応パターンは、ストレス反応が本質的に不快感情を生じるとする考えに挑み、身体反応の増大をもって単純にストレスと考えることに内在する問題を強調した。
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