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第7回 平成23年度新司法試験 公法系科目[第1問]問題の検討 2016年11月24日(木)

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1 第7回 平成23年度新司法試験 公法系科目[第1問]問題の検討 2016年11月24日(木)
2016年度法情報学演習 第7回 平成23年度新司法試験 公法系科目[第1問]問題の検討 2016年11月24日(木) 東北大学法学研究科 金谷吉成 2016年度法情報学演習 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

2 今回取り上げるテーマ 平成23年新司法試験 「論文式試験・公法系科目・第1問」
2016年11月24日 今回取り上げるテーマ 平成23年新司法試験 「論文式試験・公法系科目・第1問」 試験問題(平成23年新司法試験試験問題) 論文式試験出題の趣旨(平成23年新司法試験の結果について) インターネット道路周辺映像提供サービス Googleストリートビュー 表現の自由?営業の自由?プライバシー? 仮想法令としての「特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復に関する法律」 2016年11月24日 2016年度法情報学演習 2016年度法情報学演習

3 問題文から読み取れる事実関係 X社は、インターネット上で路上風景のパノラマ画像(Z機能画像)を含む地図サービスを提供している。
X社に対して、そのような画像に必要な修正をすることを求める改善勧告がなされたが、X社はそれらの修正を行わなかった。その結果、特定地図検索システムの提供の中止命令を受けた。 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

4 登場人物 X社 ユーザー 被害者 行政機関 表現の自由(憲法21条1項) 営業の自由(憲法22条1項) 「ユーザーの利便性の向上に役立つ」
知る権利 被害者 プライバシーの権利、肖像権(憲法13条) 行政機関 申立ての受理、諮問、勧告、中止命令、公表 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

5 X社側が訴えを提起する場合の訴訟類型 X社側はどのような訴訟を提起するか?
2016年11月24日 X社側が訴えを提起する場合の訴訟類型 X社側はどのような訴訟を提起するか? 「X社は、A大臣から、行政手続法の定める手続に従って、特定地図検索システムの提供の中止命令を受けた。」 手続上の問題は存在しない 行政庁の公権力の行使に関わる紛争 →行政事件訴訟法 抗告訴訟(3条)、当事者訴訟(4条)、民衆訴訟(5条)、機関訴訟(6条) Xは中止命令を排除できればよい →処分の取消しの訴え(3条2項) 2016年11月24日 2016年度法情報学演習 2016年度法情報学演習

6 X社側の憲法上の主張 法令違憲か適用違憲か Xとしては処分取消が認められればよいのだから、こだわる必要はない
法令違憲…処分の根拠法律が違憲であり、それ故それに基づく処分も違憲である 適用違憲…処分の根拠法律は合憲であるが、それに基づく処分が違憲である Xとしては処分取消が認められればよいのだから、こだわる必要はない 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

7 適用違憲の主張 A大臣による中止命令(法8条3項)が合憲だとしても、本問で問題となっている画像は、「個人の権利利益を害するおそれ」(法2条6号)のある画像ではないとの主張 「個人の権利利益」←漠然としている 「おそれ」←危険発生の蓋然性が低いものまで含み得る これらを限定的に解釈した上で、本件画像は禁止対象に該当しないことを主張する しかし、本問では実際の画像がどのような内容であるかわからないので、なかなか主張しづらい 被害回復委員会(法9条)が中止命令相当と判断 だとしても、中止命令ではなく勧告の実施命令(法8条3項)で十分だったのではないか 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

8 法令違憲の主張 特定地図検索システム法のどの部分が、憲法のどの規定に違反しているのか? 法の立法目的
特定地図検索システムによる「情報の提供に伴い個人に関する情報が公にされることによる被害から適確に国民を保護すること」(法1条) プライバシーの権利、肖像権(憲法13条) そのために制約されている憲法上の権利は何か 表現の自由(憲法21条1項) ただし、ユーザーの「知る権利」を、X社の権利の問題に接続しなければならない 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

9 表現の自由とプライバシー権 違憲審査基準としての比較衡量論
『宴のあと』事件(東京地判昭和39年9月28日下民集15巻9号2317頁)のように、ある著作物がプライバシー権を侵害したとして提起される不法行為訴訟と、本問とは事例を異にする点に注意 同じ程度に重要な二つの人権を調整するために比較衡量を行う 本問は、プライバシー保護は「法」の立法目的に位置づけられており、その「法」にもとづいて、A大臣が、X社による特定地図検索システムの提供の中止を命じている →比較衡量論をあてはめることはできない 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

10 Z機能画像の提供は表現の自由か① → 保障される 思想および意見の自由な伝達 事実の報道 Z機能画像の提供
博多駅事件(最大決昭和44年11月26日刑集23巻11号1490頁) 「報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の『知る権利』に奉仕するものである。したがつて、思想の表明の自由とならんで、事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障のもとにあることはいうまでもない。」 → 保障される Z機能画像の提供 Z機能画像の提供も国民の知る権利に奉仕している ただし、表現の自由を支える価値を自己実現の価値と自己統治の価値とに分けて考えた場合、後者は報道の自由と比べて奉仕の度合いが低いことに注意 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

11 Z機能画像の提供は表現の自由か② Z機能画像の提供は報道とは違うのではないか
X社は、何らかの理念に基づいて当該サービスを提供しているのだろうが、Z機能画像の提供を通じて何かを伝えたいという明確な意思があるか 意見と結びついているわけではない 意見の前提であるわけでもない 被写体や場所も選択していなければ、出来の良い写真を選んで掲示するわけでもない 単なる画像の垂れ流し 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

12 プライバシー① 「法」による制限 X社の対応
「カメラを地上から1メートル60センチメートルの高さを超える位置に設置してはならない」(法7条1号) 「提供すべき画像に個人識別情報若しくは個人自動車登録番号等又は個人権利利益侵害情報が含まれている場合には、特定の個人若しくは個人自動車登録番号等を識別することができないよう、又は個人の権利利益を害するおそれをなくすよう、画像の修正その他の改善のために必要な措置をとらなければならない」(法7条2号) X社の対応 「人の顔や表札など特定個人を識別することのできる情報と車のナンバープレートについてはマスキングを施し、車載カメラの高さも法が定める高さに改めた」 「家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像については、法で具体的に明記されていないとして、修正しなかった」 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

13 プライバシー② 具体的に何が問題か 法の定める高さから撮影した「家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像」を提供したこと
このような画像の提供がプライバシー侵害といえるか 公道上を歩いている人の目線の高さから撮影された画像に過ぎず、また、人の顔やナンバープレートについてマスキングが施されているのであるから、そのような画像の提供がプライバシー侵害といえるのか 人びとが公道を通常歩いて目にする光景とほとんど変わらない 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

14 プライバシー③ 公道上におけるプライバシーの権利 京都府学連事件(最大判昭和44年12月24日刑集23巻12号1625頁)
「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。」 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

15 プライバシー④ Z機能画像の問題点 ドメスティック・バイオレンスからの保護施設などが公開される危険、誘拐等の誘因となる危険(問題文)
被害の申立ては、特定地図検索システムによるプライバシー侵害が存在していることを示す一つの契機であり、同時に同種のプライバシー侵害が多数潜在していることを示唆するものである プライバシーは一度侵害されてしまうと、その回復が原理的に不可能 公道で他人の視線にさらされることは偶然かつ一過性のものであり、インターネットで継続的に公開されることを予測したものではない 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

16 営業の自由 国家賠償請求訴訟 経営的損失 →X社のビジネスモデルがよくわからない 「法」は、許可制ではなく届出制を採っている
「システム提供者は、インターネットにより特定地図検索システムを提供しようとするときは、あらかじめ、その旨及びその内容をA大臣に届け出なければならない。」(法6条) 営業の自由とプライバシーの権利との比較衡量において、前者が優位することを説得力を持って論証することは、容易ではない 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

17 違憲性審査基準① 二重の基準論 表現の自由などの「精神的自由」が「経済的自由」よりも高い価値(優越的地位)をもっているがゆえに、裁判所の手厚い保護が必要になるという考え方 多くの学説は実質的に3つの基準を採用している 厳格審査の基準 厳格な合理性の基準 合理性の基準(明白性の原則) 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

18 違憲性審査基準② 厳格審査の基準 厳格な合理性の基準 合理性の基準(明白性の基準) 立法目的は必要不可欠な公共的利益に仕えていること
達成手段はその目的を達成するための必要最小限度のものに限定されていること 厳格な合理性の基準 立法目的は重要な公共的利益に仕えていること 達成手段は目的と実質的な関連性を有すること より制限的でない他の選びうる手段の基準 合理性の基準(明白性の基準) 手段と目的が著しく不合理でない(不合理であることが明白でない)限り合憲とする基準 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

19 〔設問1〕X社側の主張 法8条1項~3項にいう「被害」は明確性を欠き、憲法21条1項に違反する 法8条3項は憲法21条1項に違反する
不明確、過度に広汎に過ぎる 法8条3項は憲法21条1項に違反する 厳格審査の基準 本件中止命令は憲法21条1項に違反する Z機能画像の提供によって「被害」がもたらされることはない 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

20 〔設問2〕被告側の反論① 特定地図検索システムの提供は表現の自由の保障の範囲に含まれない
法8条1項~3項にいう「被害」は合憲限定解釈が可能である 法8条を法7条に結びつけて解釈する 法2条6号の「個人の権利利益」は、個人のプライバシーに係る権利利益と限定的に解釈可能 「おそれ」も単にプライバシーに係る権利利益を害する危険を生ずる蓋然性があるというだけではなく、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要と解する 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

21 〔設問2〕被告側の反論② 仮に特定地図検索システムが憲法21条1項の保障のもとにあるとしても、その保障の程度は低くあるべきである
厳格な合理性の基準 本件中止命令は法8条3項にもとづき、プライバシーを保護するためになされたものである 被告側の反論を想定した上で、あなた自身の見解は? 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

22 参考裁判例 福岡地判平成23年3月16日裁判所ウェブサイト
マンションのベランダに干した洗濯物が、公道から撮影され、Googleストリートビューで公開されたことに対して損害賠償を請求した事例 「ベランダに洗濯物らしきものが掛けてあることは判別できるものの、それが何であるかは判別できないし、もとより、それがその居住者のものであろうことは推測できるものの、原告個人を特定するまでには至らない」 「元来、当該位置にこれを掛けておけば,公道上を通行する者からは目視できるものであること、本件画像の解像度が目視の次元とは異なる特に高精細なものであるといった事情もないことをも考慮すれば、被告が本件画像を撮影し、これをインターネット上で発信することは、未だ原告が受忍すべき限度の範囲内にとどまるというべきであり、原告のプライバシー権が侵害されたとはいうことができない」 請求棄却 控訴審も原判決を支持、上告審も第1審・第2審支持、確定 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

23 Googleストリートビュー① Googleストリートビュー http://maps.google.co.jp/
2007年5月米国で提供開始(日本では2008年8月から) 360度カメラを登載した自動車で街頭映像を撮影して、サイト上で公開するもの マップ上任意の場所を選んで、路上風景のパノラマ写真を見ることができる Googleのその他のサービス Googleブック検索(2005年5月、日本2007年7月) Googleマップ(2005年2月) Google Earth(2005年6月) 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

24 Googleストリートビュー② 公共の場にいる者を撮影することは許されるのか?
公権力によって行われる撮影は、国民に対する強制処分に該当する可能性があるため、正当理由のある場合以外は許されない 京都府学連事件(最大判昭44・12・24)、自動速度監視装置事件(最判昭61・2・14)、テレビカメラによる犯罪監視事件(東京高判昭63・4・1)、Nシステム事件(東京地判平13・2・6)等 私人が撮影を行う場合には、本人が撮影またはその公開を望まないと推測されるような特段の事情がある場合以外は原則として許容される傾向 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

25 Googleストリートビュー③ Googleストリートビューの問題点 各国の対応
「自分の家が写っていて気持ち悪い」等の懸念 カメラの高さが人間の目の高さよりも高いため、一般住宅の塀越しに部屋の中まで見えてしまうことも 各国の対応 アメリカでは、自宅内の写真を撮られた人がプライバシーを侵害されたとして提訴 カナダでは「プライバシー保護法」に抵触するおそれがあるとして公開が遅れた(2009年10月より公開) イギリス、フランス等でもプライバシー保護に対して根強い反対意見がある 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

26 Googleストリートビュー④ Googleの対応 しかし、個人情報保護法の該当性やプライバシーおよび肖像権の問題は依然として残っている
撮影車両のカメラ位置を下げて再撮影 人物の顔部分や表札、車のナンバープレート等にぼかしを入れる しかし、個人情報保護法の該当性やプライバシーおよび肖像権の問題は依然として残っている 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

27 Googleストリートビュー⑤ 総務省「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会 第一次提言」(2009年8月)
「道路周辺映像サービスについては、現時点では、性質上個人情報保護法の義務規定に必ずしも違反するものではない。また、個人情報保護ガイドラインの遵守が求められており、これについても合理的な努力により遵守は可能であるといえる。また、プライバシーや肖像権との関係でも、撮影態様やぼかし処理等を施す等の適切な配慮がなされている限り、サービスの大部分は違法となることはないと思われることから、サービス全体を一律に停止させるのではなく、個別に侵害のおそれのある事案に対処していくことが望ましい。」 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

28 Google撮影車と実際のサービス画像 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

29 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

30 「カメラを載せて走る乗り物たち」(Googleストリートビュー)
2016年11月24日 2016年度法情報学演習

31 次回予習案内 平成20年新司法試験 「論文式試験・公法系科目・第1問」
2016年11月24日 次回予習案内 平成20年新司法試験 「論文式試験・公法系科目・第1問」 試験問題(平成20年新司法試験試験問題) 論文式試験出題の趣旨(平成20年新司法試験の結果について) インターネットにおける表現行為に対して、フィルタリング・ソフトを用いた表現内容規制の問題 仮想法令としてのフィルタリング・ソフト法 2016年11月24日 2016年度法情報学演習 2016年度法情報学演習

32 参考文献 小山剛,中林暁生「公法系科目〔第1問〕――対話編」新司法試験の問題と解説2011・別冊法学セミナー21頁(2011年)
中林暁生「公法系科目〔第1問〕――解説編」新司法試験の問題と解説2011・別冊法学セミナー26頁(2011年) 三宅弘,小山剛,中林暁生,榊原秀訓「新司法試験問題の検討2011 公法系科目試験問題」法学セミナー680号30頁(2011年) 松本哲治「検証 第6回新司法試験 公法系科目(1)〔憲法〕」ロースクール研究18号14頁(2011年) 新井誠「公法系科目〔第1問〕」受験新報2011年9月号17頁(2011年) 2016年11月24日 2016年度法情報学演習

33 2016年11月24日 おしまい この資料は、2016年度法情報学演習のページからダウンロードすることができます。 2016年11月24日 2016年度法情報学演習 2016年度法情報学演習


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