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ラックでの安全対策(医務編) 今回の安全推進講習会では、ラックをテーマにお話をさせていただきます。.

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1 ラックでの安全対策(医務編) 今回の安全推進講習会では、ラックをテーマにお話をさせていただきます。

2 日本の頸髄損傷の現状 頸髄損傷は6.1 injuries/100,000players 発生した時のプレー状況 2008-2011 頸髄損傷
重度外傷性脳損傷 スクラムエンゲージ 2 スクラムがエンゲージの時に崩れた 1 スクラムが組まれた後に崩れた タックルして 5 6 タックルされて 4 ラック 8 3 モール 合計 22 13 まずはじめに我が国の頸髄損傷および重度外傷性脳損傷についての2008年から2011年までの統計です。我が国の頸髄損傷発生頻度は選手10万人あたり6.1件であり次のスライドでご紹介しますが、諸外国に比べて発生頻度は高い状態です。受傷時のプレーについて調べたところラックの項目が他の項目よりも多いことがお分かりいただけると思います。 (渡辺ら, 2012) 頸髄損傷は6.1 injuries/100,000players

3 IRB 頸髄損傷の調査 [9ヵ国]1.3 vs [日本]6.1 (injuries/100,000players)
発生した時のプレー状況 9ヵ国中JRFU が占める割合(%) スクラムエンゲージ 11 18.2 スクラムがエンゲージの時に崩れた 8 12.5 スクラムが組まれた後に崩れた 3 33.3 タックルして 21 23.8 タックルされて 10 40.0 ラック 17 47.1 モール 衝突 5 0.0 原因不詳 合計 81 27.2 インターナショナルラグビーボードがイングランド、スコットランド、アイルランド、フランス、イタリア、アルゼンチン、南アフリカ、カナダ、日本の9か国で頸髄損傷の発生状況について調査した結果です。この表の右の項目は9か国中で日本での発生件数が占る割合についてをパーセンテージ表示したものです。これによればタックル受けた後やラックでの我が国の割合が非常に高いことがお分かりいただけると思います。 9jか国での発生頻度は選手十万人当たり1.3件です。この数字は日本単独の発生頻度6.1件よりかなり低い状況になっております。つまり日本は他の8か国に比べ頸髄損傷の発生頻度が高く、かつラックに関連するものの割合が高いことを示しております。 イングランド、スコットランド、アイルランド、フランス、イタリア、アルゼンチン、南アフリカ、カナダ、日本の9か国 [9ヵ国]1.3 vs [日本]6.1 (injuries/100,000players) 過去と比較してスクラム関連の頸髄損傷は32.5% 減少

4 なぜこのような結果になっているのか? ではなぜ日本だけこのような結果になったのでしょうか。
会場にお越しいただいている皆様にこれから2分間お時間を差し上げますので隣近所に相談しながらでも構いませんのでお考えください。 (ここで数人をあてて考えを発表してもらってください)

5 実際に頸髄損傷の起きている状況を分析 相手方が持ち込んだボールに対し発生したラックに突っ込んだ際に首を受傷した。
自らボールを持ち込んでタックルを受けて倒れてラックになった。 亀ラックで地面に頭がついた格好となり、身動きが取れない状態で、味方FWが後方からラックをオーバーし受傷した。 当人の首頚椎辺りに人がのしかかってきた ラックに入る際に相手プレーヤーと頭部を衝突した。 ラックをつくる際に地面に頭がついた状態になり、後ろから押され首が過屈曲し受傷。  (重傷事故報告より:原文のまま) ここに記されている文面は、日本ラグビーフットボール協会安全対策委員会に提出された、重症事故報告の受傷状況の項目部分を原文のまま転載したものです。 読み上げるとこのようになっております。 相手方が持ち込んだボールに対し発生したラックに突っ込んだ際に首を受傷した。 自らボールを持ち込んでタックルを受けて倒れてラックになった。 亀ラックで地面に頭がついた格好となり、身動きが取れない状態で、味方FWが後方からラックをオーバーし受傷した。 当人の首頚椎辺りに人がのしかかってきた ラックに入る際に相手プレーヤーと頭部を衝突した。 ラックをつくる際に地面に頭がついた状態になり、後ろから押され首が過屈曲し受傷。 これらを見てみると、頭が下がった状態であったり、人に上から乗られたり、カメラックの状態であったりして受傷しているようです。

6 実際にあったスクィーズラックでの頸髄損傷を分析
頭を支点とする危険な姿勢 味方に後方から押されて頸部が過屈曲 こちらはいわゆるカメラックの状態で受傷したケースをVTRから分析し、改めてイラスト化したものです。 まず、ボールキャリヤーがラックを形成しようとして頭と両膝の3点を支点としてまたの下からボールを出そうと試みます。 次にサポートに来た味方プレーヤーがボールキャリヤーだった選手を後方から押しこみ、結果としてボールキャリヤーの頸部は過屈曲の状態になりました。 さらに相手の選手が、ボールキャリヤーの上から乗りかかってきて、ボールキャリヤーの頸部に屈曲に加え、さらに回旋も加わり受傷したと考えられます。 このようなプレーはU18では競技規則上禁止されていますが、それ以上の年代では禁止されていません。今回のケースは大学生の試合で起きたものです。 相手に上からのられて頸部に軸圧と回旋ストレスがかかる

7 3次救急に搬送された 脊椎脊髄傷害症例の75% 頚髄損傷に至る頸椎損傷は100% ほかの選手が乗りかかって発生していた
次にこの表ですが、これは大阪府立河内救急救命センターの整形外科の岸本医師が日本臨床スポーツ医学会で報告されたもの中からこの表を引用させていただきました。脊髄損傷発生時のものは赤字で示しております。これらを見てみるとなんと頸髄損傷に至った全例がほかの選手が乗りかかって発生しているのがお分かりいただけると思います。 (大阪府立中河内救急救命センター 岸本正文先生より)

8 密集(モール・ラック)での重傷外傷 受傷機転 ◎ ボールキャリヤーが密集の中で頭が下がり頸部を屈曲した状態で地面に頭から衝突した ◎ 密集の中の一番下の選手の頸部が屈曲した状態の まま、人に乗られた ◎ 密集に頭から突っ込んでいった ◎ スクイーズラックで後ろから押され、さらに上に乗られた ◎ 相手が不良姿勢で突っ込んできた まとめますとこのスライドにお示ししましたように、 受傷機転は ◎ ボールキャリヤーが密集の中で頭が下がり頸部を屈曲した状態で地面に頭から衝突した ◎ 密集の中の一番下の選手の頸部が屈曲した状態の まま、人に乗られた ◎ 密集に頭から突っ込んでいった ◎ スクイーズラックで後ろから押され、さらに上に乗られた ◎ 相手が不良姿勢で突っ込んできた といった状況になっているのです。

9 予防法は? では原因が分かったので予防法を考えなければなりません。
では皆様方にもう一度2分間お時間を差し上げますので予防法について考えてください。

10 ラック時の姿勢に関する競技規則 プレーヤーは頭と肩を腰より低くしてはならない→FK
ラックを形成しようとするプレーヤー、ラックに参加しているプレーヤー、および新たに参加しようとするプレーヤーは、立っていなければならない→PK ラックの中のプレーヤーは立っていようと努めなければならない→PK プレーヤーはラックの上に飛びかかってはならない→PK プレーヤーはラックから出てくるボールの上に、またはそのボールを越えて倒れこんではならない→PK ラックに参加するプレーヤーは、腕全体を使って、味方または相手側プレーヤーにバインドしなければならない。バインドは、ラックに参加するプレーヤーの体の他の部分との接触よりも先、または同時でなければならない→PK このスライドはラックに関する競技規則についてまとめたものですのでご覧ください。 上から順番にみていきますと 「プレーヤーは頭と肩を腰より低くしてはならない」とあります。つまり頭は下げたいわゆるローヘッドの状況でラックに参加してはいけないのということなのです。 次に、「ラックを形成しようとするプレーヤー、ラックに参加しているプレーヤー、および新たに参加しようとするプレーヤーは、立っていなければならない」「ラックの中のプレーヤーは立っていようと努めなければならない」とありますが、これも頭が下がった状態で倒れこんではいけないということですね。 「プレーヤーはラックの上に飛びかかってはならない」というのは飛び込んで行ってはいけないことを禁じています。また「プレーヤーはラックから出てくるボールの上に、またはそのボールを越えて倒れこんではならない」というのはボールの継続の妨げになることを禁じている以外にやはり飛び込んだり倒れこんだりすることを禁止しています。 「ラックに参加するプレーヤーは、腕全体を使って、味方または相手側プレーヤーにバインドしなければならない。バインドは、ラックに参加するプレーヤーの体の他の部分との接触よりも先、または同時でなければならない」というのは立ってプレーするにはバインドは必要であり、また体だけを当てに突っ込んでラックに入ることを禁止しています。 このように競技規則においても安全面からヘッドダウンやダイビングや人の上に倒れこむことを禁止していることがお分かりいただけるかと思います。 そもそも競技規則の基本原理は、 安全が第1、立って行うことになっています。

11 競技規則序文より ラグビーフットボール競技は、身体接触を伴うスポーツである。身体接触を伴うスポーツには本来危険が伴う。プレーヤーは、競技規則を遵守し、自分自身と他のプレーヤーの安全に留意することが特に重要である。 プレーヤーは、責任を持って、ラグビーフットボールをプレーできるように身体的かつ技術的に準備し、競技規則を遵守し、安全に参加できるようにしなければならない。 ラグビーフットボールの指導者は、プレーヤーが競技規則を遵守し安全にプレーできるよう責任を持って育成しなければならない。 そもそも競技規則の序文にも 「競技規則を遵守し、自分自身と他のプレーヤーの安全に留意」、「プレーヤーは、責任を持って準備をして競技規則を遵守し、安全に参加」「、指導者は、プレーヤーが競技規則を遵守し安全にプレーできるよう責任を持って育成」というように記載されています。 競技規則が安全を第一に考えられているのです。ですから競技規則に則ったプレーにおいてヘッドダウンや飛び込んでランクに参加することはあり得ませんし、そういったプレーをレフリーも許してはならないと思います。

12 ラックの正しい姿勢(Rugby Readyより)
アライビングプレーヤーは、 しっかりと安定した姿勢をとり、 頭と肩は常に腰よりも上になるようにする。そして、頭ではなく肩で接触する。 サポートプレーヤーは、 必ずチームメイトにバインドして前進し、場合によっては、ボールを通過する。 先ほどコーチのかたからお話がありましたが、ラックの正しい形成と姿勢についてインターナショナルラグビーボードが出しているRugby Reradyより引用してものです。 ここにも競技規則にそった「頭と肩の正しい位置」や「肩から接触する」、「バインド」についても述べられております。 つまりどこにも頭を下げて、体を突っ込むようにラックに参加するなどとは指導されていません。

13 ラックでの頸髄損傷予防 競技規則の遵守したプレー 正しい姿勢を意識したプレー指導 頭と肩は常に腰よりも上に位置させラックに参加
ヘッドダウンした状態で相手を視ないでラッ クに 参加しない ラックへ参加するときはレッグドライブできる状態 で入る 以上のことからラックでの頸髄損傷の予防にはここに示されていることが重要であると思われます。 まず第一に競技規則の遵守したプレーを指導することが重要であると思います。 競技規則を順守したプレーとは正しい姿勢を意識したプレーであると思います。 つまり 頭と肩は常に腰よりも上に位置させラックに参加して、 ヘッドダウンした状態で相手を視ないでラックに参加しないことが大切です。 またラックへ参加するときは上体を斜め上にむけ、頭部から背中をまっすぐに体幹をしっかりと固定し、レッグドライブできる姿勢で入ることが事故の予防にも重要です。

14 Chin in ポジションで顔面と胸を地面に着ける姿勢
安全なスクィーズラック時の危険回避方法 Chin in ポジションで顔面と胸を地面に着ける姿勢 このように亀ラックのような状態になりそうなときは、頭を支点にするのではなく、地面に顔と胸をべったりとつけるようにして亀ラックを回避することが大切です。 この姿勢により味方に後方から押され、相手に上から押されても頸部を過屈曲せず、軸圧も回旋ストレスもかからない

15 姿勢とパフォーマンスの関係 最後に姿勢とパフォーマンスについてお話しさせていただきます。

16 姿勢の違い(安全性とパフォーマンス) 立ってプレー 頭から転倒 頭と肩は腰よりも上 力を効率よく伝えられる 頭から突っ込む
レッグドライブが可能 上に示しましたものがラックに入る際のヘッドアップした姿勢です。 下に示しましたものが頭が腰より低くなっている競技規則でフリーキックになる姿勢です。 頭が下がっていると股関節の可動域も十分ありまた視野もよいため味方や相手、ボールの位置を確認して適切にラックに入ることができます。 しかし下のような姿勢では、頭が下がることにより視野が確保されないばかりか、ハムストリングスがストレッチされてしまい股関節前方屈曲方向へ可動域が十分ではなく足が前に運ぶことが不可能になり、結果として体の中で一番重い頭から前方へつんのめって倒れこんでいくことになります。 頭から転倒 ハムストリングスがストレッチ 頭と肩は腰よりも下で視野が確保でない 足が前に出ない

17 体幹の役割 -運動に着目して- 固定が良い 固定が悪い 脚力を,体幹を固めて(固定して)効率よく力を伝える
こちらは頭が腰よりも高く、かつ頭と体幹がまっすぐな状態でコンタクトした場合と頭が腰よりも下がった状態でコンタクトした場合について比較したものです。 左のように頭と体幹が真っ直ぐな状態でコンタクトした場合はレッグドライブのして前進方向の力を効率よく相手に伝えることができます。 しかし右のように頭が腰よりも下がった状態でコンタクトすると、体幹が屈曲し力のベクトルが下方に向いてしまい、結果として前方へ力を発揮しても相手に力が伝わらないことになります。 固定が良い 固定が悪い 脚力を,体幹を固めて(固定して)効率よく力を伝える 17

18 SafetyでHigh performanceはどちら?
ヘッドダウンとヘッドアップの比較 ヘッドアップ ヘッドダウン レッグドライブが可能 視野が確保できる  (ボールを越える、  適切なポイントに入れる) 姿勢の維持が可能 (効率よく力を伝えられる) レッグドライブが不可能 視野の確保が困難 (適切なポイントに入れない) 姿勢の維持が困難 (力のベクトルが相手に向かない) 以上2枚のスライドから二つの姿勢でラックに参加した時の比較をしてみました。 ヘッドアップしてラックに参加した場合、下肢の股関節の屈曲方向の可動域が十分保たれており、下肢を前に振り出すことが可能でありレッグドライブが可能になります。 また視野の確保もできるためボールを越えて適切なポイントを目指してラックに参加することが可能になります。またレッグドライブから生み出される前進方向への力も相手に効率よくつたえられます。 一方ヘッドダウンの姿勢では、ハムストリングがストレッチされた状態になるので股関節の屈曲方向への可動域は少なく、下肢を前に振り出すことはできなくなり、レッグドライブができず、結果として前のめりに頭から墜落してしまいます。このような状態では視野の確保や姿勢の保持も困難であり、相手に自らの前進方向への力を効率的に伝えることができなくなります。 ここで皆さんに改めてお聞きします。 SafetyでHigh performanceはどちらですか? 安全で効果があるのは、競技規則を遵守したヘッドアップした姿勢をとってラックに参加するほうであることは明らかです。 SafetyでHigh performanceはどちら?

19 High performance = Safety (危険なスキルに高いパフォーマンスは無い)
指導現場と安全対策をつなぐ  High performance = Safety 正しいスキル指導は安全かつ より効果的なパフォーマンスにつながる (危険なスキルに高いパフォーマンスは無い) ラグビーの現場において安全対策のキーワードは 「High performance イコール Safety」です。 正しいスキル指導は安全かつ より効果的なパフォーマンスにつながります。危険なスキルに高いパフォーマンスは無いということをもう一度確認ください。 以上が安全推進講習会 医務の講義です。ご清聴ありがとうございました。


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