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個体と多様性の 生物学 第3回 突然変異とDNA修復機構 和田 勝 東京医科歯科大学教養部
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個体、細胞、タンパク質 個体の活動=∑(細胞の働き) 細胞の活動=∑(タンパク質の働き) タンパク質の機能はその構造に依存
構造=アミノ酸の配列 アミノ酸の配列←遺伝子DNAの塩基配列
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遺伝子突然変異 したがって、設計図であるDNAの塩基ATGCが変わってしまうと、アミノ酸が変わり、機能を失う可能性がある。これを遺伝子突然変異という。 遺伝子突然変異には、いくつかの種類がある。
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遺伝子突然変異
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一塩基置換による点突然変異 DNAの塩基ATGCの1つが別のものに置換しておこる点突然変異
1)変わったコドンが指定するアミノ酸は変わらない(silent mutation) 2)変わったコドンは別のアミノ酸を指定するが、機能は変わらない (synonymous mutation)
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3)変わったコドンは別のアミノ酸を指定し、アミノ酸は機能を果たさない
(missense mutation) 4)変わったコドンが終止コドンになる(nonsense mutation) 影響大きい
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点突然変異であっても プロモーターだと転写不能になる エクソンだと上の1)から4)に述べた影響が出る可能性 イントロンだと影響は出ない
Promotor Exon1 Exon2 Exon3 プロモーターだと転写不能になる X イントロンだと影響は出ない X エクソンだと上の1)から4)に述べた影響が出る可能性 X
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たとえばキモトリプシン キモトリプシンは、セリンプロテアーゼの一つで、膵臓から不活性型のキモトリプシノーゲンとして十二指腸へ分泌される
ウシのキモトリプシンの一次構造 1 CGVPAIQPVL SGLSRIVNGE EAVPGSWPWQ VSLQDKTGFH FCGGSLINEN WVVTAAHCGV 60 61 TTSDVVVAGE FDQGSSSEKI QKLKIAKVFK NSKYNSLTIN NDITLLKLST AASFSQTVSA 120 121 VCLPSASDDF AAGTTCVTTG WGLTRYTNAN TPDRLQQASL PLLSNTNCKK YWGTKIKDAM 180 181 ICAGASGVSS CMGDSGGPLV CKKNGAWTLV GIVSWGSSTC STSTPGVYAR VTALVNWVQQ 240 241 TLAAN
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突然変異の位置
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一塩基置換による疾病例 この関係がもっとも直線的で明瞭な例は鎌状赤血球貧血症(sickle cell anemia)だろう
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一塩基置換による疾病例 鎌状赤血球貧血症のヘモグロビンは、正常のヒトのヘモグロビンと異なるヘモグロビンSで、溶解しにくく、繊維状となるために赤血球が変形する この遺伝子は相互(共)優性で、ホモだと溶血や血栓などが起こり、長くは生きられない。
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一塩基置換による疾病例 ヘモグロビンSの一次構造を調べると6番目のアミノ酸グルタミン酸がバリンに変わっていることが明らかになった
VHLTPEEKSAV… 11p15.5 VHLTPVEKSAV… ヘモグロビン遺伝子に 突然変異 鎌状 赤血球 ヘモグロビンS ATG/GTG/CAC/CTG/ACT/CCT/GAG/GAG/AAG/TCT/GCC/GTT/... ATG/GTG/CAC/CTG/ACT/CCT/GTG/GAG/AAG/TCT/GCC/GTT/...
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遺伝子型と表現型の関係 しかしながら、それほど単純では無い 分子A 分子B 分子C 酵素A 酵素B 酵素C 分子D
酵素AからCはタンパク質で、対応する遺伝子がある。この遺伝子のどれかに突然変異が起こっても、この代謝経路は止まってしまう。
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遺伝子型と表現型の関係 前のスライドの例のように一つの形質の発現には多くのたんぱく質が関与する。 遺伝子 タンパク質 形質
たとえば花の色(紫かピンクか白か)
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遺伝子型と表現型の関係 反対に、1つの遺伝子が多くの形質の発現に関与する場合もある。 形質1 形質2 形質3 形質4 遺伝子 タンパク質
たとえばアルビニズム(albinism)
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メラニンの代謝 人の体色は、黒色素細胞(melanocyte)中の黒色素顆粒(melanin granule)によっている。 Pheo-
DOPA quinone tyrosine DOPA Eumela-nin tyrosinase tyrosinase TRP1,2
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アルビニズム チロシナーゼをコードする遺伝子に突然変異が起こると、皮膚の色、目の色、髪の毛など、メラニン形成が関係する形質すべてに影響が現れる。
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これ以外にも 黒色素芽細胞の移動 黒色素芽細胞の分化 黒色素細胞での黒色素顆粒合成速度 黒色素顆粒の大きさ メラニン合成の速度
黒色素細胞の突起の数 顆粒をケラチン層へ送り込む速度 などの因子(遺伝子)が色素顆粒 の形成に関与する
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一塩基対の挿入・欠失による DNAの塩基配列中に塩基対が挿入あるいは欠失によりおこる突然変異
読み取り枠がずれるため、突然変異が起こった場所以降の意味が変わってしまう(frameshift mutation) 影響大きい
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遺伝子突然変異の種類
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染色体突然変異の種類 切断(breakage) 放射線の影響 欠失(deletion) 重複(duplication)
逆位(inversion) 転座(translocation)
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染色体突然変異
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体細胞突然変異と 生殖細胞突然変異 突然変異は、体細胞系列の細胞に生じることも、生殖系列細胞の細胞に生じることもある。
生殖細胞突然変異 突然変異は、体細胞系列の細胞に生じることも、生殖系列細胞の細胞に生じることもある。 前者を体細胞突然変異(somatic mutation)、後者を生殖細胞突然変異(germline mutation)という。
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突然変異のおこるとき 自然突然変異(natural mutation) 複製時の誤り 活性酸素による障害
誘発突然変異(induced mutation) 紫外線、放射線、化学物質の暴露による
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突然変異を防ぐため 自然突然変異(natural mutation) 複製時の誤り ←修復機構 活性酸素による障害 ←修復機構
誘発突然変異(induced mutation) 紫外線、放射線、化学物質の暴露による ←修復機構
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修復に失敗すると 体細胞突然変異 癌化につながるが 次世代に影響を及ぼすことは無い 生殖細胞突然変異 次の世代に伝わる
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再びDNA polymerase 複製はDNA-dependent DNA polymeraseが行なっているが、哺乳類のこの酵素にはたくさんの種類がある。 DNAポリメラーゼα:RNAプライマー合成 DNAポリメラーゼδ:ラギング鎖合成 DNAポリメラーゼε:リーディング鎖合成 DNAポリメラーゼγ:ミトコンドリアで
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複製過程における校正 DNAポリメラーゼは、鋳型鎖の塩基と相補的な塩基を持ったヌクレオチドを取り込んで、合成を進める。
塩基のミスマッチがおこると、少し戻ってその部分をDNAポリメラーゼに同居しているエクソヌレアーゼが切り取って、正しいヌクレオチドを入れなおす。
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DNAポリメラーゼによる校正
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この他に修復機構 DNAポリメラーゼη:チミンダイマーを越 えて合成を進める DNAポリメラーゼκ:損傷乗り越え型
えて合成を進める DNAポリメラーゼκ:損傷乗り越え型 DNAポリメラーゼβ:切り取り修復 DNAポリメラーゼλ:修復
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DNAポリメラーゼβ
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DNAポリメラーゼβ DNAポリメラーゼβは、誤り部分を切り出して、正しい塩基に置き換える。
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修復に失敗すると 体細胞突然変異 癌化につながるが 次世代に影響を及ぼすことは無い 生殖細胞突然変異 次の世代に伝わる
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修復されなかった突然変異は DNAは複製の過程の誤りを正し、損傷を修復して、DNAを次の世代に伝えてきたが、
DNAの誤りはすべて修復され、まったく次の世代に伝わらなかったわけではない。この伝えられたDNAの誤りが、後で述べる進化の原動力となるのである。
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