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全身の診察方法・聴診法 Ⅰ-02 村田 朗 御茶ノ水呼吸ケアクリニック - DVDで学ぶ実践呼吸器病学 - 社団法人日本呼吸器学会

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1 全身の診察方法・聴診法 Ⅰ-02 村田 朗 御茶ノ水呼吸ケアクリニック - DVDで学ぶ実践呼吸器病学 - 社団法人日本呼吸器学会
The Japanese Respiratory Society 社団法人日本呼吸器学会 教育用DVD - DVDで学ぶ実践呼吸器病学 - Ⅰ-02 全身の診察方法・聴診法 御茶ノ水呼吸ケアクリニック 村田 朗 1

2 内容 はじめに 問診 視診 触診 打診 聴診 聴診の実際 《ビデオ》 参考文献 2

3 はじめに 3

4 はじめに 【はじめに】 呼吸器疾患の診察では,主要な情報を与えてくれる問診・視診・触診・打診・聴診の技術に習熟することが大切である1).そこで本稿では,診療技術の基本である全身の診察方法・聴診法について概説する. 4

5 問 診 5

6 呼吸器系疾患の診断では, は非常に重要であり,適切 で十分な問診によって,かなりの疾患について診断が可能となる.
【問診の重要性】 呼吸器系疾患の診断では, は非常に重要であり,適切 で十分な問診によって,かなりの疾患について診断が可能となる. 第1に,患者が訴える症状や症候をさらに深く知るために行う. 第2に,疾患の診断の背景となる状況証拠を得るためのものである. また,直接患者から聴き取ることができない場合は, 周囲の人から聴き取ったり,容態が安定してから詳しく問診するなどの工夫が必要となる. 問診 家族など 6

7 呼吸器疾患の症状・症候では,患者が訴える , , ( )の3大症候についての問診が大切である. 咳 痰
【症候を深く知るために-1】 呼吸器疾患の症状・症候では,患者が訴える , , ( )の3大症候についての問診が大切である. 呼吸困難 息切れ 7

8 問診 【症候を深く知るために-2】 1.咳 痰を伴う咳(湿性咳嗽productive cough)か,痰を伴わない咳(乾性咳嗽non-productive cough)か,急性(3週間以内)か遷延性(3週間以上8週間未満)か,慢性(8週間以上),咳のよく出る時間など分けて聞く. 2.痰 痰の性状と量,急性か慢性かを確認する. 3.呼吸困難 呼吸困難の程度,いつ頃から発症したのか,呼吸困難のほかに何か症状があるかを確認し,以上より原因疾患の鑑別と対処の緊急性に関わる重症度をも判断する.呼吸困難の重症度分類には本邦では か が用いられることが多い.しかし,国際的にはもっぱら後者が使われている.また,患者が呼吸困難の程度を評価する方法としては0~10の比例的分類尺度でその程度を定量的に評価する方法もある( ). Fletcher-Hugh-Jones分類 MRC息切れスケール 修正Borg Scaleなど 8

9 Fletcher-Hugh-Jonesの分類
問診 【呼吸困難の重症度分類-1】 Fletcher-Hugh-Jonesの分類 Ⅰ度 Ⅱ度 Ⅲ度 Ⅳ度 Ⅴ度 同年齢の健康者と同様の労作ができ,歩行,階段の昇降も健康者並にできる(正常) 同年齢の健康者と同様に歩行できるが,坂,階段の昇降は健康者並にできない 平地でさえ健康者並には歩けないが,自分のペースでなら1マイル(1.6km)以上歩ける 休みながらでなければ50ヤード(約46m)も歩けない 会話,着物の着脱にも息切れを自覚する.息切れのため外出できない. 9

10 【呼吸困難の重症度分類-2】 MRC息切れスケール Grade 0 (ATS/ERS, 2004) Grade 1
問診 【呼吸困難の重症度分類-2】 MRC息切れスケール (ATS/ERS, 2004) Grade 0 Grade 1 Grade 2 Grade 3 Grade 4 激しい運動時を除き,息切れで困ることはない. 急いで歩いたとき,あるいは緩い坂道を登ったとき,息切れをして困る. 息切れのため同年齢の人よりもゆっくり歩く,あるいは,自分のペースで平地を歩くときでも,息継ぎのため立ち止まらなければならない. 平地を約100m,あるいは数分間歩いただけで息継ぎのため立ち止まる. 息切れが強くて外出できない.あるいは,衣服の着脱だけで息切れする. (Celli BR and committee members: Standards for the diagnosis and treatment of patients with COPD : a summary of the ATS/ERS position paper. Eur Respir J 2004; 23: ) 10

11 【呼吸困難の重症度分類-3】 修正Borg Scale 感じない nothing at all 0.5 非常に弱い
問診 【呼吸困難の重症度分類-3】 修正Borg Scale 感じない nothing at all 0.5 非常に弱い very, very slight 1 やや弱い very slight 2 弱い slight (light) 3 4 多少強い somewhat severe 5  強い severe (heavy) 6  7  とても強い very severe 8 9 10  非常に強い very, very severe 11

12 【患者の背景を知るために-1】 喫煙歴 職業と生活環境 慢性副鼻腔炎の既往ないし合併 乳幼児期の呼吸器疾患 アレルギー歴と常用薬
問診 【患者の背景を知るために-1】 呼吸器はガス交換臓器であるために,肺胞は広い表面積をもち,人体で最も広く外界に接している,同時に全身の血液は,そのすべてが肺を通過する特殊な構造をしている.そのため,呼吸器疾患には外因性,内因性の数多くの疾患が含まれる.よって,患者の背景を知るための十分な問診が重要となる. 喫煙歴 職業と生活環境  慢性副鼻腔炎の既往ないし合併 乳幼児期の呼吸器疾患 アレルギー歴と常用薬 ツベルクリンとBCG歴 その他の既往歴 家族歴の問診 12

13 問診 【患者の背景を知るために-2】 喫煙歴 「1日に何本,いつから吸いはじめたのか」,「現在も吸っているのか,いつ止めたのか」などを詳しく問診する.最低限,現喫煙者(smoker)か,かつて喫煙者(ex-smoker)か,吸ったことがない(never-smoker)かの区別が必要となる. 喫煙量の指標として,わが国では や がよく用いられる. (1) Brinkman指数: 1 ~ 200 軽度喫煙者 201 ~ 600 中程度喫煙者 601 ~ 高度喫煙者 (2) pack-years: Brinkman指数 pack-years 1日の平均喫煙量(本)×喫煙年数(年) 1日に吸う箱数×吸った年数 13

14 【患者の背景を知るために-3】 職業と生活環境
問診 【患者の背景を知るために-3】 職業と生活環境 呼吸器疾患には,職業と生活環境に深く関連するものが多い.とりわけ,粉塵(塵肺症など)や刺激性ガス(硫酸や塩素ガス)や抗原物質の吸入(過敏性肺炎)に関わる疾患,小鳥の飼育(オウム病)や温泉旅行(レジオネラ肺炎)などで発生する感染症などである. 3.慢性副鼻腔炎の既往ないし合併 わが国の慢性気道疾患(びまん性汎細気管支炎,気管支拡張症,慢性気管支炎)では, を合併するものが多く, と総称されている. 4.乳幼児期の呼吸器疾患 乳幼児期に重症な呼吸器感染症に罹患すると,その後の発達に無視できない影響を及ぼす.気管支拡張症や,稀な疾患ではあるが若年性片側性肺気腫(Swyer-James syndrome,unilateral hyperlucent lung)などが知られている. 慢性副鼻腔炎 副鼻腔気管支症候群sinobronchial syndrome 14

15 【患者の背景を知るために-4】 アレルギー歴と常用薬
問診 【患者の背景を知るために-4】 アレルギー歴と常用薬 小児期の気管支喘息,蕁麻疹,薬剤アレルギー,化粧品かぶれなどのアレルギー歴の問診は,十分に行う必要がある.気管支喘息では, を考慮して,かぜ薬や消炎・鎮痛薬の服薬時の喘息発作の悪化の有無を詳しく聞かなければならない.服用している薬剤が原因となる薬剤起因性の肺障害の可能性のある場合には,最近の薬剤服用歴を詳しく聴く必要がある. ツベルクリンとBCG歴 近年肺結核の発症率は依然高い水準にある.肺結核を疑ったときには,ツベルクリン歴(いつから陽性になったか),BCG接種歴を問診する. アスピリン喘息 15

16 【患者の背景を知るために-5】 その他の既往歴
問診 【患者の背景を知るために-5】 その他の既往歴 呼吸器疾患では,膠原病に伴う肺疾患のように,全身性疾患の肺における表現として発症することがある.またコントロ一ルの不十分な糖尿病など,発症の背景因子として考慮すべき既往歴もある. 家族歴の問診 疾患の遺伝性・家族性要因を知る目的や,疾患の感染経路や家族の感染防護のために行う目的がある. 16

17 視 診 17

18 【視診】 まず確認する項目 a) 患者の全身の姿 c) 病室ではベッド上での体位 b) 歩き方・顔色と表情 d) 呼吸の仕方
診察時には,胸郭を前・側・背面の3方向から観察する a) 胸郭の外見 c) 頸部静脈や表在静脈の怒張の有無 b) 呼吸に伴う胸郭の動き d) 皮疹の有無 その他 a) 眼瞼結膜の貧血の有無 c) ばち状指の有無 b) 下肢の浮腫の有無 d) 肥満あるいは痩せ 視診は,後述の触診,打診,聴診と同時並行して行われることが多い. 18

19 【胸郭の表現法】 視診 1. 前正中線(胸骨中央線) midsternal line
右鎖骨 中央線 右副 胸骨線 右胸骨線 胸骨中央線 左副 左胸骨線 左鎖骨 肩甲線 後正中線 肩甲骨 下角線 前腋窩線 腋窩中央線 後腋窩線 1. 前正中線(胸骨中央線) midsternal line 2. 左右胸骨線 sternal line (left and right) 3. 左右副胸骨線 parasternal line (left and right) 4. 左右鎖骨中央線 midclavicular line (left and right) 5. 左右前腋窩線 anterior axillary line (left and right) 6. 左右腋窩中央線 midaxillary line (left and right) 7. 左右後腋窩線 posterior axillary line (left and right) 8. 左右肩甲線 scapular line (left and right) 9. 後正中線 midspinal line 10. 肩甲骨下角線 infrascapular line 胸郭局所の位置は,前胸部,側胸部,背部の目安となる主な垂直線(鎖骨中央線,腋窩中央線など)と水平線(肩甲骨下角線など)の位置を目安に表現する. (阿部正和,荒木淑郎,大澤 忠ほか(編):臨床診断学 診療編第2版,医学書院,東京,1989,117-8より許可を得て転載) 19

20 視診では,胸郭の変形,収縮性変化と胸郭の動きの制限, 膨張性変化と動きの制限,動きの異常に関して観察する.
【胸郭の外見】 胸郭の外見は,一般的にはほぼ左右対称とみなしてよいが, 麻痺胸,漏斗胸,鳩胸,ピラミッド胸,樽状胸郭,そのほか, くる病のときの胸骨と肋軟骨との付着部が肥厚し数珠状になったロザリオ胸(rosary chest)など,先天的および後天的に種々の変形を認めることがある.これらの異常が高度になると,呼吸機能に障害を与える. 視診では,胸郭の変形,収縮性変化と胸郭の動きの制限, 膨張性変化と動きの制限,動きの異常に関して観察する. 20

21 【胸郭の変形】 視診 細長型の扁平な胸郭で,肋間腔は広く,急角度で下行し,肋骨弓角は狭く なっている.
胸骨下部・剣状突起部が高度に陥没したもの. 胸骨角の異常突出. 麻痺胸 . 漏斗胸 . 鳩胸 . 横隔膜前面の胸骨部 pars sternalisの形成不全に起因するもの.このため胸骨下部が剣状突起を頂点とするピラミッド型に突出しているものをいう. 胸郭の前後径が拡大し,肋骨の走行が水平に近くなり,胸郭が文字通りビール樽状になったもので,肺の含気量の持続的増加の状態, すなわちCOPD(特に,気腫型)の特徴の1つである. ピラミッド胸 . 樽状胸郭 . (工藤翔二:肺・胸郭の診かたと所見の解釈.高久史麿(監),診察診断学.医学書院,東京,1989,101-20より許可を得て転載) 21

22 呼吸に伴う胸郭の動きを観察する.異常な呼吸運動は気道や肺など胸郭内臓器の障害だけでなく,腹部臓器や中枢神経系の障害も反映する.
視診 【胸郭の動き】 呼吸に伴う胸郭の動きを観察する.異常な呼吸運動は気道や肺など胸郭内臓器の障害だけでなく,腹部臓器や中枢神経系の障害も反映する. 胸郭の動きをみるときには, はもちろんであるが, を同時にみることが大切である. 左右の差 腹部の動き 22

23 特発性肺線維症,両側胸膜胼胝,気管の狭窄または閉塞(このときは呼吸困難が強く,吸気の際の肋間や胸骨上窩の陥没が著しい).
視診 【胸郭の収縮性変化と動きの制限】 胸郭の収縮性変化 肋間腔が ,陥没し,動きが 収縮性変化 狭くなり 抑制される 胸郭縮小時の動きの制限 両側性の制限 : 特発性肺線維症,両側胸膜胼胝,気管の狭窄または閉塞(このときは呼吸困難が強く,吸気の際の肋間や胸骨上窩の陥没が著しい). 片側性の制限 : 無気肺,片側性胸膜胼胝の場合で,患側が収縮する.心臓・縦隔・横隔膜も患側へ向かって偏位する. 23

24 肋間の拡大,肋骨走行の ,胸郭前後径の ,横隔膜 などの胸郭拡大の徴候 水平化 増大 低位
視診 【胸郭の膨張性変化と動きの制限】 胸郭の膨張性変化 肋間の拡大,肋骨走行の ,胸郭前後径の ,横隔膜 などの胸郭拡大の徴候 水平化 増大 低位 胸郭拡大時の動きの制限 両側性の制限 : COPD(気腫型),両側肺の過膨張,両側性に大量胸水の貯留. 片側性の制限 : 片側肺の過膨張(同側の気管支狭窄や対側の無気肺など),胸水貯留,自然気胸,胸郭内の巨大腫瘤. 24

25 肋間筋や補助呼吸筋の麻痺をもたらす諸種の神経筋疾患や中枢障害,麻痺・麻酔薬の使用,外傷や手術などのため強い胸痛や腹痛のある場合.
視診 【胸郭の動きの異常】 胸郭の動き 左右 と と に注意して観察する 対称性 リズム 深さ 胸郭の動きの異常(制限) 両側性の制限 : 肋間筋や補助呼吸筋の麻痺をもたらす諸種の神経筋疾患や中枢障害,麻痺・麻酔薬の使用,外傷や手術などのため強い胸痛や腹痛のある場合. 片側性の制限 : 横隔膜神経麻痺・外傷,流行性胸膜痛,また胸膜炎・気胸・無気肺などで,上述したような胸郭の形状の異常はなく,動きの制限だけがみられることが多い. 25

26 視診 【奇異性呼吸運動】 胸郭と腹部が逆の動きをする 通常の呼吸では胸郭と腹部は同じ方向の動きをするが, 横隔膜など呼吸筋に高度の疲弊が生じている場合や, 胸郭外気道の閉塞(窒息),閉塞型睡眠時無呼吸症候群などの場合には,吸気で ような動きをする.同様に,左右の胸郭の動きが吸呼気で逆の動きをするときには,片側の を疑う.これらはいずれも,生命の危険を伴う緊急状態と理解すべきである. 腹部が凹む 緊張性気胸 26

27 【その他の視診のチェックポイント】 気管の位置 チアノーゼ cyanosis 頸静脈の怒張 Horner症候群 鎖骨上窩の陥没
ばち状指 clubbed finger Hoover徴候 頸部筋群の吸気時収縮 体重減少 27

28 【その他の視診のチェックポイント-1】 気管の位置
気管の偏位は片側の上葉の虚脱,気胸,胸水,無気肺,腫瘍などでみられ,重度の気胸では患側の へ,重度の無気肺なら へ偏位する. チアノーゼ cyanosis チアノーゼとは,皮膚毛細血管を流れる血液中の還元ヘモグロビンの量が増えて(5g/dL以上),皮膚や粘膜が青色になった状態をいい,主として口唇,爪床,頰部,耳朶,鼻尖部などに生じる.そのため貧血症では出にくく,多血症では出やすい.チアノーゼは,発症要因によって中心性チアノーゼと末梢性チアノーゼとがある. 反対側 患者側 28

29 【その他の視診のチェックポイント-2】 頸静脈の怒張2)
中心静脈圧の上昇を示し,頸静脈圧が 20cmH2O以上に上昇すると,坐位でも拡張が観察される. 45°以上の半起坐位で頸静脈の異常な拡張を認める場合には頸静脈怒張と判断する. 右心系の機能不全や静脈還流が障害された場合みられる.慢性呼吸不全に伴う肺性心や三尖弁閉鎖不全症などに伴う右心不全,上大静脈症候群,心タンポナーデなど. 頸静脈 胸骨角 (阿部正和,荒木淑郎,大澤 忠ほか(編):臨床診断学 診療編第2版,医学書院,東京,1989,90 より許可を得て転載) 29

30 【その他の視診のチェックポイント-3】 Horner症候群
, , を主徴とする症候群であり, 交感神経遠心路の障害によって出現する.肺尖部の肺癌(Pancoast 腫瘍),縦隔腫瘍,リンパ節腫大,動脈瘤などによる頸部交感神経の圧迫や浸潤によって生じる. 鎖骨上窩の陥没 COPDなどで,努力呼吸により強い胸腔内陰圧が発生する に 陥没する. 縮瞳 眼瞼下垂・眼裂狭小 片側発汗 吸気時 30

31 (工藤翔二:肺・胸郭の診かたと所見の解釈.高久史麿(監),診察診断学.医学書院,1989,101-20より許可を得て転載)
視診 【その他の視診のチェックポイント-4】 ばち状指 clubbed finger 3) 手指と足趾の末端が のように腫大して,指尖部の骨の変形や組織の増殖を伴い,爪が時計皿のように彎曲度が増加した状態である.健常者では,爪の基部とそれに接する指背面の皮膚との角度が160°を超えないとされており,ばち状指ではそれを超えて進行するため,180°を超えて爪も膨隆し,彎曲してくる. , ,チアノーゼを伴う などで認められる. 太鼓の撥(ばち) 慢性呼吸器疾患 肝硬変 先天性心疾患 正常 160° ばち状指 180° ばち状指の手 (工藤翔二:肺・胸郭の診かたと所見の解釈.高久史麿(監),診察診断学.医学書院,1989,101-20より許可を得て転載) 31

32 【その他の視診のチェックポイント-5】 Hoover徴候 横隔膜が平坦化し,吸気時に が陥没する徴候である. 頸部筋群の吸気時収縮3)
横隔膜が平坦化し,吸気時に が陥没する徴候である. 頸部筋群の吸気時収縮3) COPD患者などで,胸鎖乳突筋,斜角筋群,僧帽筋などの を使用するのは,肺が弾性を失い過膨張となり,横隔膜が平低化しているため,胸腔を膨らませるために3つの筋の収縮を使用して鎖骨を引き上げているためである. 下部肋間 呼吸補助筋 32

33 【その他の視診のチェックポイント-6】 体重減少
慢性呼吸器疾患患者は,病気が進行するにつれ呼吸のために過大なエネルギーを消費する.そのため,多くの患者は痩せてくる傾向がある.そこで,痩せが疑われる場合は以下のような体重評価を行う. 標準体重(kg) = 身長(m)×身長(m)×22 理想体重(kg) = 身長(m)×身長(m)×20 BMI=体重(kg) ÷身長(m)2 肥満度(%) =(実測体重-標準体重)÷標準体重×100 %理想体重(%IBW)=現在の体重÷IBW×100 このとき,BMIでは ,肥満度では が痩せと考えられ ている.特にCOPD患者の90%が%IBW 90未満の体重減があるとされ ていて,体重減少は予後と関係があることがわかっているため,栄養 指導などの治療の必要性がある. 18.5未満 -10%未満 33

34 左右差の他に,腹部の動きを同時に見ることが大切である.胸郭の動きからは呼吸の回数と深さ,規則性,体位や随伴症状,呼吸様式などを観察する.
視診 【呼吸に伴う胸郭の動き】 左右差の他に,腹部の動きを同時に見ることが大切である.胸郭の動きからは呼吸の回数と深さ,規則性,体位や随伴症状,呼吸様式などを観察する. 呼吸様式は,胸式,腹式,胸腹式の3つがあるが,通常は胸腹式である. 正常の呼吸は,吸気と呼気が一定の規則的なリズムで繰り返し,成人では呼吸数は1分間に ,1回換気量は である. 12~20回 約500mL 34

35 【異常呼吸:呼吸の数と深さの異常】 視診 呼吸数(回/分) 吸気 呼気
吸気と呼気が一定のリズムを繰り返し, 成人では呼吸数12~20回/分,1回換気量 (深さ)500mL,死腔150mL 正常呼吸 . ( ) 頻呼吸 深さは変わらず,呼吸数が24/分以上に増加. 恐怖,興奮時など. tachypnea . ( ) 徐呼吸 深さは変わらず,呼吸数が12回/分以下に減少. 頭蓋内圧亢進や睡眠薬多量服用など. bradypnea . ( ) 過剰呼吸 深さも呼吸数も増加.過換気症候群など. polypnea . ( ) 減弱呼吸 深さも呼吸数も減少.死亡前の重篤な時期など. oligopnea . ( ) 大呼吸 呼吸数変わらず,深さが増加(1回換気量増加). hyperpnea . ( ) 浅呼吸 呼吸数変わらず,深さが減少(1回換気量減少). 睡眠時など. hypopnea . ( ) 無呼吸 呼吸停止 apnea 35

36 【異常呼吸:リズムの異常】 Cheyne-Stokes呼吸 Biot呼吸 Kussmaul大呼吸 視診 . チェーン・ストークス呼吸 .
無呼吸や減弱呼吸が数十秒続いた後,徐々に呼吸数,1回換気量ともに増加して,過換気状態になり,再び呼吸数,1回換気量が減少して無呼吸に至ることを繰り返す. 尿毒症,脳卒中,脳の外傷,脳腫瘍,心不全,睡眠薬服用時,乳児の睡眠中など. . チェーン・ストークス呼吸 Cheyne-Stokes呼吸 促迫呼吸を数十秒途絶しながら繰り返す.間隔は不規則. 脳腫瘍,髄膜炎,脳炎,脳外傷など. . ビオー呼吸 Biot呼吸 呼吸数は減るが,個々の呼吸が著しく深い呼吸. 糖尿病性昏睡や高度の飢餓時など. . クスマウル大呼吸 Kussmaul大呼吸 36

37 【異常呼吸:体位・その他の異常 】 体位の異常を伴う呼吸 . ( ) :
視診 【異常呼吸:体位・その他の異常 】 体位の異常を伴う呼吸 . ( ) 仰臥位では呼吸困難が増強するため,起坐位で呼吸する.心不全,気管支喘息発作時. 片側臥位呼吸 (trepopnea) 患側を上にした側臥位呼吸. 起坐呼吸 orthopnea その他の呼吸 . 顎を大きく動かす呼吸. 振り子呼吸 吸気時には患側から健側に,呼気時には健側から患側に縦隔が動く呼吸. 下顎呼吸 37

38 触 診 38

39 触診 【触診】 胸郭を覆う皮膚と筋肉の状態を確認する.高度の閉塞性および拘束性病変がある場合には,安静換気時に,胸鎖乳突筋,前斜角筋の収縮がみられることがある.皮下気腫は,皮膚の触診の際に , を発するため,容易に診断でき る.また,腫瘤の有無,リンバ節腫大の有無を見落とさないように注意する. 腫瘤部分の位置,大きさ,硬さ,可動性などを調べる.また,圧痛を確認する. 捻髪音 握雪音 胸部呼吸運動の触診 (工藤翔二:肺・胸郭の診かたと所見の解釈.高久史麿(監),診察診断学.医学書院,1989,101-20より 許可を得て転載) 胸痛を訴える患者で限局した圧痛があれば,肋骨,筋肉などの胸郭の病変と考えてよい.そして患者を仰臥位にして,両手を前胸部の左右対称の位置に置き,患者の呼吸運動に伴う胸郭の動きを観察する. 39

40 触診 【声音振盪】 胸壁の声音振盪vocal fremitusを調べることにより,内部の異常を推測する.これは させたときの胸壁面の振動の伝わり方を手で感じ取る方法で,被験者に「ひとーつ」と低音での発声を反復して行わせる.手のひらもしくは尺骨面を胸壁上にあてて発声させ,振動の強さを測り,ついでに対側の対称部の振動の強さを測って比較する.また,両手を用いて両側同時に測定してもよい.声音振盪の減弱する場合は喉頭から胸壁への伝播が妨げられる場合が考えられ, , ,胸膜肥厚,COPD,肥満などが考えられる.亢進する場合は,肺内に浸潤があり密度が大きくなるような 肺炎・ ,肺水腫,肺線維症などを考える. 低音で発声 胸水 気胸 無気肺 胸壁軟部組織 胸水貯留 胸膜腔 横隔膜 肋骨 検者の手 (工藤翔二:肺・胸郭の診かたと 所見の解釈.高久史麿(監),診察診断学.医学書院,1989,101-20より許可を得て転載) 40

41 打 診 41

42 打診 【打診法】 左手(右利きの術者の場合)の中指の末節手掌面を胸壁に強く密着させ,他の指は体表から離しその第2中指骨部を,右手中指を鉤状に曲げ,その先端で速やかに左手中指の中節の背面を垂直に叩き,音の性質を耳で聴いて判断する.こうして胸郭に衝撃を与えることにより,跳ね返ってくる振動と音の性質から,直下にある物体の密度を知って,臓器の位置・大きさ・形・組織の病変の有無と性質を判断する.密度の大きいものは ( ),密度の小さいものは ( )に聴こえる.心臓,肝臓などの実質臓器は絶対的濁音を呈する で右横隔膜の高さがわかる. 鈍い短い音 濁音 響く長い音 鼓音 肺肝境界 前胸部の最大吸気位における正常の肺肝境界は,右鎖骨中線上で第6肋骨から第6肋間にあり,最大呼気位では3~6cm上昇する.また,横隔膜の可動性は背部の打診にて,最大吸気時と最大呼気時において評価する. (工藤翔二:肺・胸郭の診かたと所見の解釈.高久史麿(監),診察診断学.医学書院,東京,1989,101-20より許可を得て転載) 42

43 【打診音の種類-1】 濁音 肺の密度が大きい場合,すなわち すると,音の振動は小さく,周波数は低く,急激に減衰し,その領域は濁音となる.
肺の密度が大きい場合,すなわち すると,音の振動は小さく,周波数は低く,急激に減衰し,その領域は濁音となる.  両側性では,肺線維症,両側性胸膜胼胝,両側胸水貯留などを考え,片側性では肺炎や無気肺,肺腫瘍,肺膿瘍,肺梗塞,胸膜肥厚など空気の含量が減少する病態を考える.胸水では体位の変化で濁音境界は変化するが,無気肺では変化しない. 鼓音 肺の密度が小さい場合,すなわち なると,周波数は高く,より長く持続する鼓音となる. 両側性ではCOPD,気管支喘息発作時,一部のびまん性汎細気管支炎,両側性肺嚢胞症,両側気胸を考え,片側性では自然・人工気胸,巨大嚢胞,巨大空洞,一側気管支の不完全閉塞(一側性肺過膨張)などを考える.また,肺内の空洞が胸壁近くに存在するか,胸水貯留病変では濁音部の上方はむしろ鼓音となる(これをSkoda打診音と呼ぶ). 空気の含量が減少 空気の含量が大きく 43

44 打診 【打診音の種類-2】 その他 胸骨柄内側の濁音は大動脈瘤,上縦隔腫瘍,甲状腺腫,胸骨下部の濁音は右心肥大,胸腺腫などの縦隔腫瘍,全胸骨にわたる濁音は上述に加え心膜液貯留や縦隔腫瘍などの場合がある.逆に,胸骨部の打音が鼓音の場合は,縦隔気腫または肺の過膨張を考える. 44

45 聴 診 45

46 聴診 【聴診とは】 肺の聴診は,肺の中のある場所で発生し,胸壁に伝わった振動を音として耳から聴くことである.すなわち,心血管系を音源とする音を除くすべての呼吸に伴い発生する音を といい,呼吸によって気道内に生じた空気の流れを音源とする生理的な音である と, 病的状態によって発生する音である に分けられる.したがって肺聴診とは呼吸音を聴きながら,音の伝達の性質の変化,副雑音の有無,副雑音があるならば呼吸位相のどの時期で聞こえるのかチェックし,肺の中で何が起こっているのかを推測することである. 肺音(lung sounds) 呼吸音(breath sounds) 副雑音(adventitious sounds) 46

47 聴診 【聴診の意義】 肺音lung soundsの聴診は呼吸器疾患の病態に関する豊富な情報を与えてくれるだけでなく,患者にとって無侵襲性であり,患者との親身な コミュニケーションのうえからも重要視される.胸壁で聴いている肺音にはそれぞれ異なる発生メカニズムがあり,しかも音の発生場所ではなく肺というフィルター(高い周波数を通しにくい)を通過してきた音を聴いている4). 47

48 【肺音の分類と命名】 聴診 肺胞(呼吸)音 (正常) vesicular (breath) sounds 気管支(呼吸)音 気管(呼吸)音
呼吸音 bronchial (breath) sounds tracheal (breath) sounds breath sounds (異常) 減弱・消失・呼気延長,気管支呼吸音化など 水泡音(粗) coarse crackles 断続(性ラ)音 肺 音 discontinuous sounds 捻髪音(細) lung sounds fine crackles (俗称:Velcroラ音) ラ音 pulmonary adventitious sounds 笛(様)音(高音性) 副雑音 連続(性ラ)音 wheezes adventitious sounds continuous sounds いびき(様)音(低音性) 胸膜摩擦音 rhonchus, rhonchi その他 ✻ 赤字部分をクリックすると解説動画が展開されます. pleural friction rub Hamman’s sign miscellaneous (村田 朗:胸部身体所見.工藤翔二ほか(編),呼吸器専門医テキスト.南江堂,東京,2007,64より許可を得て転載) 48

49 聴診 【患者の姿勢と聴診方法-1】 聴診は坐位で,患者に口を軽く開けさせ,リラックスした状態で呼吸させて行う.そして, に相当する部分を聴き比べながら,前・側胸部,背部を上から下へ聴診する.また,側臥位の患者では,下側は上側の肺より換気量が減少するため,呼吸音は弱くなるので注意する. 左右の同じ肺区域 49

50 聴診 【患者の姿勢と聴診方法-2】 聴診中は,呼吸運動に伴いチェストピースがずれると,捻髪音に似た音を聴取するため,チェストピースを胸壁に密着させて動かさないようにする.そして,呼吸位相を意識して の初めから最低1~2呼吸以上を同じ部位で聴診し, の終わりにチェストピースを移動させる.安静換気から聴診を開始し,次いでゆっくりした深い呼吸をさせる. また, (⑪)も必ず試みる. 吸気 呼気 頸部気管音の聴診 50

51 聴診 【聴診部位】 正常時では胸郭外気管上(頸部)では (▲)が,肺尖部(右>左),胸骨周囲,肩甲間部では (●)が聴かれる.これ以外の大部分の胸壁では,通常, が聴かれる. 気管呼吸音 気管支呼吸音 肺胞呼吸音 前胸部 背 部 (工藤翔二:肺・胸郭の診かたと所見の解釈.高久史麿(監),診察診断学.医学書院,東京,1989,101-20より許可を得て転載) 51

52 【呼吸音の発生機序】 呼吸音は気道内の空気の流れが発生する音である.すなわち,太い気道では (あるいは )により音を発生する.
聴診 【呼吸音の発生機序】 呼吸音は気道内の空気の流れが発生する音である.すなわち,太い気道では (あるいは )により音を発生する. 細い気道での や,さらに細い気道や肺胞の領域では流れではなく分子運動(ブラウン運動)によって するため音は発生しない. 乱流 渦流 層流 拡散 (伝播:     ) 乱流・渦流 呼吸音の発生源 層流 拡散 52

53 【呼吸音の分類-1】 気管(呼吸)音 tracheal (breath) sounds 特徴 で聞かれる. 音が大きく粗い感じの雑音.
聴診 【呼吸音の分類-1】 気管(呼吸)音 tracheal (breath) sounds 特徴 で聞かれる. 音が大きく粗い感じの雑音. 高い周波数. 呼気のほうが大きい. 吸気と呼気の間に明瞭な (伝播:     ) 気管上頸部 休止期 頸部気管上で聴取される粗い感じの呼吸音で,吸気よりも呼気において音が大きく,吸気と呼気の間に明らかな休止期がある. 53

54 【呼吸音の分類-2】 気管支(呼吸)音 bronchial (breath) sounds 特徴 気道に近いところで聴かれる.
聴診 【呼吸音の分類-2】 気管支(呼吸)音 bronchial (breath) sounds 特徴 気道に近いところで聴かれる. 高調な成分をもつ. 呼気音が明瞭に聴こえる. 正常では, の狭い範囲 でのみ聴かれる. (伝播:     ) 太い 胸骨上部 気管上や太い気道の直上で聴かれ,肺胞呼吸音より大きく,周波数は高く(150~600Hz),吸気よりも呼気で大きく長い時間持続する.そして,吸気と呼気の間に明らかな休止期があるように聴取される. 54

55 【呼吸音の分類-3】 肺胞(呼吸)音 vesicular (breath) sounds 特徴 大部分の胸壁で聴かれる.
聴診 【呼吸音の分類-3】 肺胞(呼吸)音 vesicular (breath) sounds 特徴 大部分の胸壁で聴かれる. 太い気道から遠いところ. 音が小さく柔らかい. 低い音. ではほとんど聴こえない. (伝播:     ) 呼気 肺胞音の発生源は,乱流(ないし渦流)形成領域である2mm以上の太い気管支内(7次~9次気管支)である.このような太い気道で発生した乱流雑音(振動)が,肺のフィルター効果によって高周波成分がカットされ,100~150Hzに周波数分布のピークをもち急激に減衰する音となる.そのため,肺胞呼吸音は柔らかい感じの音で,呼気ではほぼ一定の大きさで聴かれるが,呼気時には急激に減衰し,非常に弱い音として聴取される. *気管支肺胞呼吸音bronchovesicular breath sounds 正常では胸骨上部の狭い範囲でのみ聴かれる. 胸骨周囲,肺尖部,肩甲間部などで聴かれ,気管支呼吸音と肺胞呼吸音との中間の性質をもつ音. 55

56 【呼吸音の異常-1】 呼気延長 閉塞性換気障害を疑う. 強制呼出させて を認めれば,より明瞭となる. 連続性ラ音 肺胞呼吸音の減弱ないし消失
聴診 【呼吸音の異常-1】 呼気延長 閉塞性換気障害を疑う. 強制呼出させて を認めれば,より明瞭となる. 連続性ラ音 肺胞呼吸音の減弱ないし消失 COPD,気胸,胸水を疑う. 呼吸流量そのものが低下している場合(COPD)と,肺から胸壁への音の伝達が障害されている場合(気胸・胸水)に生じる. 聴診では,左右の肺で差があるかどうかを確認することが大切である. COPDでは左右差がなく,気胸,胸水貯留,無気肺,肺炎のように左右に病変の差がある疾患では,当然,左右差を生じる. COPD (肺気腫) 両側 胸水・気胸 片側 56

57 【呼吸音の異常-2】 本来聴こえない肺音が聴こえる
聴診 【呼吸音の異常-2】 本来聴こえない肺音が聴こえる 肺底部のように,本来は肺胞呼吸音の聴かれるべき部位で, (あるいは )が聴かれるときには, 肺組織が硬くなって高音が伝達しやすくなるような病変が存在する. 肺炎では,左右差がある. 気管支呼吸音 気管支肺胞呼吸音 肺炎 57

58 【副雑音】 副雑音は,健常者では聴くことのない肺音である.そのうち,肺や気道で発生するものをラ音と呼び,断続性ラ音と連続性ラ音がある.
聴診 【副雑音】 副雑音は,健常者では聴くことのない肺音である.そのうち,肺や気道で発生するものをラ音と呼び,断続性ラ音と連続性ラ音がある. ラ音以外の副雑音には や などがある. 胸膜摩擦音 Hamman's sign 58

59 【断続性ラ音】 断続性ラ音 discontinuous sounds
聴診 【断続性ラ音】 断続性ラ音 discontinuous sounds 断続性ラ音はクラックル(crackles)とも呼ばれ,複数の断続的な音の集合で,個々のクラックルは10msec以下と短く,かつては湿性ラ音と呼ばれていた.   : 細かな断続性ラ音   : 粗い断続性ラ音 捻髪音 fine crackles 水泡音 coarse crackles 59

60 【断続性ラ音(捻髪音)の発生機序と分類】
聴診 【断続性ラ音(捻髪音)の発生機序と分類】 細かな断続性ラ音(捻髪音) fine crackles “パリパリ”と細かな,音の小さい,周波数の高い断続性ラ音である.閉塞した小気道の急激な開放に伴う,閉鎖部位前後の圧較差の急激な均一化や,気道壁にかかった張力の急激な変化により発生すると考えられている. の後半に出現し終末まで続く.わが国ではベルクロ・ラ音と呼ばれることもあるが,俗称である.個々のクラックルの持続時間は5msec以下のことが多い.最大呼気位で息こらえをさせた後の深吸気で誘発され,より多く出現するが,稀に健康人(とくに肥満者,高齢者)でも聴取されることがある. 吸気 びまん性肺疾患のなかでも,特発性間質性肺炎・肺線維症,石綿肺,膠原病性肺臓炎,過敏性肺炎,薬剤性肺炎,放射性肺臓炎などの間質性肺疾患や肺水腫の初期などで聴かれる.また,重力の影響を受け,側臥位では下になった側でよく聴かれる.びまん性の肺疾患でも,癌性リンパ管症,リンパ球性間質性肺炎(LIP)のような小葉間隔壁や気管支血管周囲など広義の間質病変や,サルコイドーシス,粟粒結核などの肉芽腫性疾患,ニューモシスチス肺炎などでは聴かれにくい特徴がある. 60

61 【断続性ラ音(水泡音)の発生機序と分類】
聴診 【断続性ラ音(水泡音)の発生機序と分類】 粗い断続性ラ音(水泡音) coarse crackles “ブツブツ”と粗い感じの,音の大きな,周波数の低い断続性ラ音である.比較的太い気道内の分泌液による液体膜が,呼吸運動により破裂することで発生すると考えられている.捻髪音と異なり から発生する.個々のクラックルの持続時間は,捻髪音に比べて長く,10msec程度,ときにそれ以上の場合もある.健常者に聴かれることはなく, ,慢性気管支炎,びまん性汎細気管支炎, などにみられる. 吸気の初期 気管支拡張症 進行した肺水腫 61

62 【連続性ラ音の発生機序】 連続性ラ音 continuous sounds
聴診 【連続性ラ音の発生機序】 連続性ラ音 continuous sounds 一定時間以上持続する管楽器の音のような楽音様のラ音をいい,かつては乾性ラ音と呼ばれた.気道壁自身の によって発生すると考えられていて,持続時間が250msec以上のものとしている.発生部位が太い気道のため,気管上頸部でも聴取できる. : 高音性連続性ラ音 : 低音性連続性ラ音 振動(fluttering) 笛様音 wheezes いびき様音 rhonchi 62

63 【高音性連続性ラ音】 高音性連続性ラ音(笛様音) wheezes
聴診 【高音性連続性ラ音】 高音性連続性ラ音(笛様音) wheezes 周波数が400Hz以上の高音性の連続性ラ音と規定しており, の発作時にみられるものが典型である.胸郭内では,気道は胸腔内圧が上昇する呼気時により細くなるため呼気時に発生しやすいが, にも認めることがある. 安静換気で聴取できなくても, や最大呼気位までの呼出によって,連続性ラ音を認めることがある. 気管支喘息では多くの場合,音源となる気道狭窄部位は複数あり,笛様音は複数の笛様音がランダムに発生し,random polyphonic wheezesといわれる.これに対して,単一の笛様音が呼吸位相の同じタイミングに発生し(fixed monophonic wheezeといわれる),しかも数日以上続く場合には,気管支喘息と断定せずに,腫瘍などによる 固定性の狭窄を考慮する必要がある. 気管支喘息 吸気時 強制呼出 63

64 【低音性連続性ラ音】 低音性連続性ラ音(いびき様音) rhonchi
聴診 【低音性連続性ラ音】 低音性連続性ラ音(いびき様音) rhonchi 周波数が200Hz以下の低音性連続性ラ音と規定している.笛様音より太い気道で発生するとされる.疾患も , ,気管支拡張症,びまん性汎細気管支炎,気管・気管支狭窄など同様である. 気管支喘息 COPD 64

65 【その他の連続性ラ音】 ストライダー stridor
聴診 【その他の連続性ラ音】 ストライダー stridor 咽・喉頭,上部気管など に際して発生する.胸郭外気道は吸気時により細くなるため, に同じタイミングで発生する単一の連続音であり,音の高さはさまざまである. スクウォーク squawk スクウォークは,“キューッ”,“クウー”といった吸気時のみに聴かれる短い楽音性の音である.持続時間は100msec以下と短い.発生部位が のため,気管上頸部にまで伝達されることはない.びまん性汎細気管支炎や気管支拡張症などの気道疾患や,蜂巣肺を形成し,分泌を伴う進行した肺線維症で認められる.全肺野のあちこちにスクウォークを認めるときには,細気管支炎を疑う必要がある. 胸郭外気道の狭窄 吸気時 細気管支 65

66 【その他の副雑音】 胸膜摩擦音 pleural friction rub
聴診 【その他の副雑音】 胸膜摩擦音 pleural friction rub 吸気,呼気の で聴かれる “ギューギュー ”といった雪を握るときのような断続音( )である.発生機序は,壁側胸膜と 肺側胸膜の軋みによって発生する.胸膜炎の初期は治癒過程で発生する. Hamman's sign 縦隔気腫や軽度の左側の気胸で,心収縮中期にクリック音が聴取されることがある. 両方の呼吸相 握雪音 66

67 【主な疾患と聴診所見】 聴診 疾患名 聴診所見 無気肺
患部に一致した ,呼吸音は多くは減弱するが,上葉の無気肺では気管伝達音のためにむしろ強勢となることがある. 肺炎 患部に一致した ,呼吸音は多くは減弱する.初期には,捻髪音が聴かれる. 気胸 患側の が消失する.打診では,正常または を呈する. 胸膜炎 ごく初期と癒着の進行期(回復期)には が出現し,打診で濁音を呈する.胸水貯留時患側に一致して呼吸音が . うっ血性心不全,肺水腫 初期には肺底部に .進展すると両側に水泡音となり, と が 聴かれる. COPD(気腫型) 肺野で左右差なく, が減弱.しばしば ,ときに が聴かれる. びまん性汎細気管支炎 ごく初期には捻髪音.ほとんどの症例では が聴かれる.しばしば呼気延長と笛音ないしいびき音を合併し が聴かれることがある. COPD(慢性気管支炎型), 気管支拡張症 喀痰の多い場合には が聴かれる.しばしば咳嗽後に変化する. 間質性肺炎,  肺線維症,膠原病肺 初期には両側の肺底部で吸気終末に多数の を聴く.進展例では広く分布するようになり,呼気にも捻髪音がみられ,ときにスクウォークを合併.患部に一致した . サルコイドーシス,癌性リンパ管症, 粟粒結核,ニューモシスチス肺炎, 肺胞蛋白症 胸部X線所見の派手さに比べて, は乏しい. 気管支呼吸音化 気管支呼吸音化 呼吸音 鼓音 胸膜摩擦音 減弱 捻髪音 呼気延長 笛音 呼吸音 呼気延長 笛音 水泡音 スクウォーク 水泡音 捻髪音 気管支呼吸音化 クラックル 67

68 聴診の実際 《ビデオ》 68

69 聴診の実際 《ビデオ》 69

70 参考文献 70

71 参考文献 Celli BR and committee members: Standards for the diagnosis and treatment of patients with COPD : a summary of the ATS/ERS position paper. Eur Respir J 2004; 23: 阿部正和,荒木淑郎,大澤 忠ほか(編):臨床診断学 診療編第2版,医学書院,東京,1989,90; 工藤翔二:肺・胸郭の診かたと所見の解釈.高久史麿(監),診察診断学.医学書院,東京,1989, 村田 朗:呼吸音・聴診.鈴木俊介ほか(編),呼吸器疾患の診かた考え方.中外医学社,東京,1999,23-6. 村田 朗:胸部身体所見.工藤翔二ほか(編),呼吸器専門医テキスト.南江堂,東京,2007,64. 71


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