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第7章 時系列データの季節調整 ー 経済統計 ー
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この章の内容 Ⅰ 時系列データとは Ⅱ 古典的時系列分析 a) データの種類 b) 時系列データの特性 a) 時系列データの成分
Ⅰ 時系列データとは a) データの種類 b) 時系列データの特性 Ⅱ 古典的時系列分析 a) 時系列データの成分 b) トレンドの抽出 c) 季節変動の抽出 d) 季節調整法の実際 <おもなポイント> 季節性を含むデータの簡単な分析法である、前年同期比はどのような方法で、どのような問題点があるのか。 古典的時系列分析において、トレンドの抽出、季節変動の抽出はどのような方法があるのか。 など
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Ⅰ 時系列データとは a) データの種類 時系列データ クロスセクションデータ データを時間の順序に並べたもの
Ⅰ 時系列データとは a) データの種類 時系列データ データを時間の順序に並べたもの 過去の変動から現状を把握し、将来を予測するなどの目的に用いられる (例)年次データ、四半期データ、月次データ、日次データ ※ 四半期データ - 1年を1月~3月、4月~6月、7月~9月、10月~12月の4つに分けたもので、それぞれを第Ⅰ四半期、第Ⅱ四半期、第Ⅲ四半期、第Ⅳ四半期という。 クロスセクションデータ 1時点において何らかの属性に関してならべたデータ 地域差などの現状把握に用いられる (例)都道府県別データ、収入階級別データ
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(例) 中国地方の人口のデータ 鳥取県の5年ごとの人口 → 時系列データ 2005年の各県の人口 → クロスセクションデータ
(例) 中国地方の人口のデータ (データ出典: 国勢調査) (単位:千人) 鳥取県の5年ごとの人口 → 時系列データ 2005年の各県の人口 → クロスセクションデータ
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時系列データを用いた分析をおこなうとき、分析者はどのような間隔のデータを用いるかを選ぶ必要がある。
b) 時系列データの特性 時系列データを用いた分析をおこなうとき、分析者はどのような間隔のデータを用いるかを選ぶ必要がある。 (例1) 年次データ (例2) 日次データ 株価などの変動の激しいデータを分析するとき → 日次データなどの比較的間隔の短いデータを用いる ※ 最近では秒次データの分析なども試みられている 日本経済の長期的な変動をみるとき → 実質GDPの年次データなどの比較的間隔の長いデータを用いる
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分析にどのようなデータを用いるかは、分析の目的だけでなく、調査や集計・公表の間隔に依存する。
たとえば、もし次のようなデータが分析に必要であっても、存在しないため利用することはできない。 GDPの月次データ - 四半期ごとのデータしか集計されていない。 毎週の失業率のデータ - 『労働力調査』は毎月末1週間の就業状態を調査するものであり、毎週の失業率は調査されていない。
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<時系列データ分析のはじめの一歩> 前期のデータと比べ、どの程度の増減があったか(対前期比)を調べることが、時系列データにおいて最初におこなうことである。(年次データなら前年、日次データなら前日と比べる) (例)ある商店の売上が次のようであった。 2006年 2007年 500万円 600万円 この商店の2007年の売上は2006年を100としたとき、120となる。 「この商店の2007年の売上は対前期比(この場合は対前年比)20%増」
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2001年の第Ⅰ四半期は2000年の第Ⅳ四半期に比べて売上が落ちている →百貨店は毎年第Ⅳ四半期の売上が良い(「歳末商戦」といわれる)
対前期比は四半期データや月次データに用いるとき、注意が必要 → データが季節による変動(季節変動、季節性などという)をもつ場合には誤った結論をみちびくおそれがある。 2001年の第Ⅰ四半期は2000年の第Ⅳ四半期に比べて売上が落ちている →百貨店は毎年第Ⅳ四半期の売上が良い(「歳末商戦」といわれる) データ出典: 経済産業省『商業動態統計』
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<季節性を含むデータの簡単な分析> 前年同期比を用いる。前年同期比は、前年の同じ時期を100としたとき、今期がどれぐらいの大きさとなるかをあらわしたものである。 四半期データの場合 今期のデータ 前年の同じ時期のデータ (例) 2001年第Ⅰ四半期のデータであれば、2000年第Ⅰ四半期のデータと比較する。
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月次データの場合 これは前年同月比ともいわれる。 今月のデータ 前年の同じ月のデータ
これは前年同月比ともいわれる。 前年の同じ月のデータ データ出典: ビール酒造組合『月別ビール課税移出数量(会員5社)』 (例) 2007年12月のデータであれば、2006年12月のデータと比較する。
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<前年同期比の問題点> 1. 不規則変動の影響 ある期のデータが平年と異なった値をとったとき、前年同期比は影響をうける。
1. 不規則変動の影響 ある期のデータが平年と異なった値をとったとき、前年同期比は影響をうける。 (例)1997年の第Ⅰ四半期(第Ⅱ四半期も同様) 1997年第Ⅰ四半期が平年より高い値をとったので 1997年第Ⅰ四半期の前年同期比は通常より高めになる。 1998年第Ⅰ四半期は、反対に通常より低めになる。 この場合は、1997年第Ⅱ四半期も平年より低い値をとったので 1997年第Ⅱ四半期の前年同期比は通常より低めになる。 1998年第Ⅱ四半期は、反対に通常より高めになる。
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2. タイミングの問題 経済時系列データは景気変動などにより、循環的な変動をすることがある。(詳しくは後述) 景気判断をおこなう場合などには、「どこが底か」を知りたいのであるが、前年同期比にはタイミングのずれがある。 この仮想の月次データについて前年同月比を取ると、転換点から若干の遅れが出るのがわかる。 そのため、データから季節性のみをとり除くための方法が必要となる。 ⇒ その方法は季節調整法といわれる方法で、古典的時系列分析の応用例の1つである。
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Ⅱ 古典的時系列分析 a) 時系列データの成分 時系列データは次の4つ成分が組み合わさってできたものと想定する。 1.トレンド(Trend)
Ⅱ 古典的時系列分析 a) 時系列データの成分 時系列データは次の4つ成分が組み合わさってできたものと想定する。 1.トレンド(Trend) 経済成長などの長期的な変動 2.サイクル(Cycle) 景気循環などの周期的な変動 3.季節変動(Seasonal variation) 季節による変動 4.不規則変動(Irregular variation) 上の3つに含まれない変動 ただし、これらの成分は実際に観測できるものではなく、あくまで仮定の話である。
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右のデータは時系列データについての仮想例である。
この例は下のような4つの成分を加えたものである。
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トレンド、サイクル 1990年頃までの日本の経済データの多くは、周期的な上昇下降をくり返しながら、右上がりの傾向を示している。(実質GDPのグラフを参照) これは、トレンドとサイクルが組み合わさったものと考えられる。
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1997年4月に消費税が3%から5%に引き上げられた。
不規則変動 不規則変動は2種類のものを含んでいる。 1.比較的小さなランダムな変動 2.戦争、天災、制度の変更などによる突発的な変動 (例) 百貨店売上高 1997年4月に消費税が3%から5%に引き上げられた。 → この年の第Ⅰ四半期に「駆け込み需要」、第Ⅱ四半期に「買い控え」の傾向がみられる これは不規則変動の2番目の種類である。
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時系列データの4つの成分は直接観測することはできない
どのように組み合わさっているかは分からない → モデルを仮定する (1) 加法モデル yt=Tt+Ct+St+It (2) 乗法モデル yt=Tt×Ct×St×It 季節調整法 原系列から季節変動Stをとり除くこと。加法モデルを仮定した場合は yt-St 、乗法モデルを仮定した場合には yt/St が季節調整値(季節調整済み系列ともいう)となる。季節調整値をもとめるには、 1.トレンドTCtをとり除く 2.不規則変動Itをとり除く 3.このようにしてもとめた季節変動Stを原系列ytからとり除く yt SIt St TCt It yt-St または yt/St
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b) トレンドの抽出 がある。 系列の小さな変動を考えない大局的な変動をトレンドと考える。
TtとCtを分離することは困難なので、この2つをあわせたものを、トレンドとよび、TCtであらわす。 トレンドを抽出するには トレンドに特定の形を想定する方法 トレンドに特定の形を想定しない方法 がある。
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<トレンドに特定の形を想定する方法> トレンドに直線や3次曲線、指数曲線などの特定の関数形を想定するもの。
(例) yt = α + βt + ut 回帰分析などの手法を用いてもとめた、 α + βt の推定値がトレンド <長所>将来のトレンドの予測値をもとめる場合、t+1, t+2… を代入すればよい <短所>どのような関数形を用いるかに、分析者の判断が必要(1次式と2次式のどちらが良いのか など)
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<トレンドに特定の形を想定しない方法> 代表的なものに移動平均法を用いる方法がある。
移動平均法はその期と前後k期の値の平均を、1期ずつ移動しながら平均する手法であり、k=1とするなら、3項移動平均である。 移動平均には系列の大幅な上下変動を「ならす」効果がある。
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下の表のようなデータ(仮想データ)について3項移動平均をとると、変動の幅は小さくなる。
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移動平均をとることによって、変動の激しいデータの大局的な動きを見ることができる。
たとえば、株価の変動などは移動平均をとることによって、今後のトレンドの予想をおこなう。 日経平均株価 出典: Yahooサイトより
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四半期データの場合、移動平均としては4項移動平均をとる。
← すべての季節の影響を「ならす」ため 移動平均の項数が偶数の場合、どの期に対応するデータか判断することが困難である。 → 中心化系列の利用 1996年第Ⅲ四半期の中心化系列は前後同数の期の影響を受けている。
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中心化4項移動平均によって、第m期のデータは次のようにもとめられる。
また、乗法モデルの場合は対数をとって とし、加法モデルと同じように移動平均をおこなえばよい。 (実際には乗法モデルを仮定した場合でも、対数変換せずに移動平均をおこなっていることが多い。これは、対数変換したものと、しないものとの差があまり大きくないことによる)
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c) 季節変動の抽出 原系列ytからトレンドTCtを取り除いたものは、系列SItとなる。このSItからItを取り除けば、季節変動Stが抽出される。 季節変動を抽出する場合、季節変動についての仮定が必要となる。 季節変動は次の2つに分けられる 固定型季節変動 可変型季節変動
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<固定型季節変動> 季節変動が全期間を通して一定と仮定したもの。 SIt系列を各期ごとに平均したものは、固定型季節変動の一例である。
<欠点>トレンドの増大とともに季節変動の幅が大きくなるような系列に固定型季節変動を仮定すると、トレンドの水準が低いときに季節変動を余分に取りすぎ、トレンドの水準が高くなると不足するということになる。
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何らかの加重平均を用いて補う必要がある。
<可変型季節変動> 季節変動が時間とともに変化すると仮定したもの。 移動平均法を用いたものが可変型季節変動の一例である。 たとえば、各期のSIt系列に3項移動平均を2回繰り返すことなどが考えられる。 <移動平均を繰り返す方法の欠点> ⇒ 末端のデータが欠損してしまうこと 何らかの加重平均を用いて補う必要がある。
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あるxtという系列に3項移動平均を取ると となる。これを2回繰り返すと となり、各期のウエイトが異なる加重移動平均をおこなうことに等しい。
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d) 季節調整法の実際 現在日本の官庁統計で多く用いられているものは、センサス局法Ⅱである。 センサス局法は移動平均法をもとに発展したもの。
現在はX-12-ARIMAというバージョンのプログラムが開発されて、これが広く用いられている。 移動平均法に確率的時系列モデルを組み合わせたもの
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X-12-ARIMAの手順 X-12-ARIMAは3つのパートから成り立っている。 regARIMAによる事前調整パート
(異常値や曜日変動などをとり除く) X-11による移動平均パート (季節調整法のメイン) 事後診断パート
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X-11のデフォルトの計算方法の概略は次のようになる。 <第1段階>
(1) 原系列に中心化12か月移動平均をおこない、初期トレンドTCt(1)とする。 (2) 原系列ytをTCt(1)で割ることによって初期のSIt(1)を求める。 (3) SIt(1)について各月別に3×3移動平均(3項移動平均した系列に、さらに3項移動平均をおこなう)をおこない、暫定のS^t(1)を求める。 (4) 暫定のS^t(1)をS^t(1)の中心化12項移動平均で割ったものを初期季節変動St(1)とする。 (5) 原系列をSt(1)で割ることによって、初期の季節調整済み系列TCIt(1)を求める。
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<第2段階> (1) TCIt(1)にHenderson の移動平均(どのような移動平均項数をとっても、ほぼ3次曲線を再現できるもの)を適用して中間のトレンドTCt(2)をもとめる。 (2) 原系列ytをTCt(2)で割ることによってSIt(2)を求める。 (3) SIt(2)について各月別に3×5移動平均(3項移動平均した系列に、さらに5項移動平均をおこなう)をおこない、暫定のS^t(2)を求める。 (4) 暫定のS^t(2)をS^t(2)の中心化12項移動平均で割ったものをSt(2)とする。これが最終的な季節変動である。 (5) 原系列をSt(2)で割ることによって、季節調整済み系列TCIt(2)を求める。
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<第3段階> (1) TCIt(2)にHenderson の移動平均を適用して最終的なトレンドTCt(3)をもとめる。
(2) TCIt(2)をTCt(3)で割ったものが最終的な不規則変動It(3) である。
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