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サービス産業の生産性 2019年11月 森川正之(RIETI)
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自己紹介 経済産業研究所(RIETI)副所長。
1982年東京大学教養学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。経済産業政策局調査課長、産業構造課長、大臣官房審議官などを経て2009年より現職。経済学博士(京都大学)。 専門分野:経済政策、産業構造、生産性、労働市場、不確実性。 主な著書:『サービス産業の生産性分析』(日本評論社, 2014年)、『サービス立国論』(日本経済新聞出版社, 2016年)、『生産性 誤解と真実』(日本経済新聞出版社, 2018年)。
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生産性と日本経済 サービス経済化と生産性 イノベーションと生産性 人的資本・働き方と生産性 新陳代謝・規制と生産性 生産性と地域経済
本日の話題 生産性と日本経済 サービス経済化と生産性 イノベーションと生産性 人的資本・働き方と生産性 新陳代謝・規制と生産性 生産性と地域経済
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生産性と日本経済
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日本経済の実力と実績 日本の経済成長率は低いが、実力(=潜在成長率)に見合った数字(むしろ潜在成長率を若干上回る)。「アベノミクス」以降に限って見ると、実質GDP成長率1.2%、潜在成長率0.9%。 経済成長率を高めるためには、潜在成長率を引き上げる必要。 (注)「四半期別GDP速報」、「GDPギャップ、潜在成長率」(内閣府)より作成。
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生産性と実質賃金 実質賃金(時間当たり実質雇用者報酬)は、過去20年ほど非常に緩慢な伸び。
労働分配率変化の寄与度は量的に小さく、近年の生産性上昇率の低さを反映。 因果関係は、賃金⇒生産性ではなく、生産性⇒賃金(Lazear, 2019)。 (注) 「国民経済計算」より作成した暦年値。1993年以前は旧基準のデータを用いて簡易遡及。2018年は「労働力調査」、「毎月勤労統計調査」を併用して試算。
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経済成長率(=付加価値(実質GDP)の増加率) = 労働投入量の増加率×労働の寄与率 +資本ストックの増加率×資本の寄与率
生産性と経済成長 経済成長率(=付加価値(実質GDP)の増加率) = 労働投入量の増加率×労働の寄与率 +資本ストックの増加率×資本の寄与率 +全要素生産性(TFP)上昇率 ※付加価値(名目)≒給与総額+営業利益 ※労働投入量(マンアワー)=労働者数×労働時間 資本ストックは、設備投資によって増やすことができるが、設備投資は一定の収益率が確保されることが前提となるため、その増加には限界(無理に増やせば「過剰設備」)。 ⇒生産性(TFP)上昇率が、今後の日本経済の成長率を規定。 生産性についての平易な解説は、経済同友会「サービス産業の生産性革新」(2016年10月)所載のコラム参照。 7
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日本の経済成長の要因分解 既に1990年代以降、労働投入量の減少が経済成長率にマイナス寄与。
労働力の質の向上(教育水準の上昇等)を含むTFPが成長寄与。 (出典) 「JIPデータベース2018」(経済産業研究所)より作成。
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鈍化する生産性上昇率 アベノミクスの下、日本経済の実力(=潜在成長率)はいくぶん改善。
潜在成長率の上昇は、労働参加率上昇、資本ストック増加といったインプット拡大による。 いずれ限界が来る。 生産性(TFP)上昇率は2010~12年頃をピークに低下が続いている。 (注)「GDPギャップ、潜在成長率」(内閣府)、「需給ギャップと潜在成長率」(日本銀行)より筆者作成。日本銀行の数字は、年度上半期・下半期の数字の単純平均。
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労働生産性の国際比較 (注1) OECDデータベースより作成。実線は近似線、破線は45度線。
(注2) 日本経済新聞「経済教室」(2019年3月5日付け)掲載の図表のもとになったもの。
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サービス経済化と生産性
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日本経済の中でのサービス産業 定義 広義「サービス産業」は経済の7割超。 パチンコホールの売上高は、鉄鋼業や電気機械製造業を上回る。
「サービス産業」:第三次産業(電力・ガスを除く場合もある) =卸売・小売、金融・保険等を含む。 「サービス業」:宿泊・飲食サービス、情報サービス、専門サービス、その他のサービス。 広義「サービス産業」は経済の7割超。 パチンコホールの売上高は、鉄鋼業や電気機械製造業を上回る。 (注)「国民経済計算年報(2017年)」、「経済センサス活動調査(2016年)」より作成。
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サービス経済化は今後も続くか? 第二次大戦後、サービス経済化が一貫して進行。1970年代以降、製造業のシェアが低下する中でサービス経済化が加速。その大きな理由は、サービス需要の所得弾力性の高さ。 米・英・仏では、製造業のシェアは約1割にまで低下し、サービス産業が約8割を占めている。 筆者が行った調査によれば、所得増加時の使途は、「モノ」よりも「サービス」が中心。特に、高年齢層(60歳以上)、高所得層(世帯年収1千万円以上)でサービス消費志向が顕著。 (出典) 森川正之 (2018). 「工業化時代のサービス産業」, 深尾京司他編『日本経済の歴史5』, 岩波書店.・貯蓄行動 (注) N=10,000人。 (出典) 森川正之 (2017). 「市場サービスの質・価格と家計内サービス生産」, RIETI Discussion Paper, 17-J-006.政策の不確実性と消費・貯蓄行動 13
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製造業のサービス化 国際産業連関表を用いた付加価値貿易の分析によれば、グロス輸出に占めるサービスのシェアは20%に過ぎないが、付加価値輸出で測ると41%と製造業(39%)よりも大きい(Johnson, 2014)。 国際付加価値連鎖(GVC)の深化により、工業製品に体化されたサービスの中間投入が大きくなっていることを反映。特に、先進的な国ほど(高スキル労働による)サービス集約度の高い輸出を行う傾向。 GVC深化の下、大きな付加価値を獲得するためには、高い付加価値を生む工程(「スマイル・カーブ」の両側)への特化を強める必要。 スマイル・カーブ (出典) Johnson, Robert C. (2014). “Five Facts about Value-Added Exports and Implications for Macroeconomics and Trade Research,” Journal of Economic Perspectives, 28(2), 14
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製造業とサービス産業の生産性上昇率 サービス産業のTFP(全要素生産性)上昇率が製造業に比べて低いのは、統計データから計測される限りにおいて時期を問わず事実。 ただし、日本に限ったことではなく、国を問わずサービス産業の生産性上昇率は製造業に比べて低い傾向。 15 (注) 「JIPデータベース2018」(経済産業研究所)より作成。
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サービス産業の生産性計測の限界 サービス産業の生産性データは様々な計測誤差を含む可能性。
生産性の水準や伸びを正確に把握するためには、サービスの質(の変化)をどう評価するか(価格データ)が非常に重要。ただし、この点には技術的な限界(各国統計部局共通の課題)。 物価指数の作成において品質調整困難なアイテムの割合:モノ42%、サービス65%(日本銀行, 2009)。 米国において、医療サービスの物価指数は2.5%程度上方バイアス(=質の向上を過小評価)(Lebow and Rudd, 2003)。 国際比較のためには、同一サービスの各国価格データが必要。しかし、同じサービスがそもそも存在しない場合(例:寿司屋、懐石料理店)も少なくない。一見同じサービスが存在するタクシー、鉄道等でも、運行精度などサービスの質は国によって異なる。
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サービス産業は「技術退歩」が続いている?
長期的にTFPがマイナス(=「技術退歩」)となっている産業は、基礎統計の制約等のため生産性が正しく計測されていない可能性があり、そうした産業は例えばTFP変化率をゼロと見なすべきという議論がある(Corrado and Slifman, 1999)。 日本のデータでそうした「思考実験」を行うと、長期的なTFP成長率(1970~2012年)がマイナスの業種はサービス産業に多いため、製造業とサービス産業のTFP上昇率の差は縮小。 (注)「JIPデータベース」の産業細分類データに基づき、TFPがマイナスの業種をゼロとみなした場合の集計結果。TFPは年率。
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サービスの質の変化:消費者の見方 運輸サービス、飲食・宿泊サービス、医療サービス、小売サービスなどの質は向上していると評価している消費者が多い。 しかし、こうしたサービスの質の向上は、物価指数などの統計には必ずしも反映されていないため、サービスの生産性上昇率は過小評価されている可能性。 18 (出典)森川正之 (2017). 「市場サービスの質・価格と家計内サービス生産」, RIETI Discussion Paper, 17-J-006.
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日米サービス品質比較調査 (日米両国に滞在経験のある日本人・米国人の主観的評価)
日本人、米国人とも、日本のサービスの方が質が高いと認識。 平均的には5~10%日本のサービスの生産性が過小評価されている可能性を示唆。 (注)日本生産性本部 (2017). 「サービス品質の日米比較」より作成。米国=100。 19
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サービスの質への消費者の支払意思 「サービスはタダ」という消費者の意識がサービス産業の生産性向上を阻害?
宅配サービスにおける時間指定の配達など、付加的なサービスについての考え。 付加的なサービスに追加料金徴収が望ましい:38% 付加的なサービスがない場合に価格引き下げを行うのが望ましい:40% 均一の料金設定が望ましい:22% (出典) 森川正之 (2018). 「サービスの質と生産性」, 『統計』, 9月号, pp
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日本の消費者の意識が問題? サービスの質と価格
日本の消費者の意識が問題? サービスの質と価格 日本の消費者が利便性などサービスの質に対価を支払っていることは統計から確認できる。 同一ブランドの同一商品の販売価格:コンビニエンスストア(+8%)、ドラッグストア(▲7%)。〔「全国物価統計調査」(総務省)〕 (出典) 森川正之 (2018). 「サービスの質・価格と消費者の選好」, 『経済研究』, 第69巻第4号, pp
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イノベーションと生産性
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イノベーションと生産性 ①イノベーション、②人的資本の質の向上は、生産性上昇の2つのエンジン。
イノベーション実施企業の生産性(TFP)は非実施企業に比べて高い。プロダクト・イノベーションの場合、製造業よりもサービス産業の企業において差が顕著。 (出典) Morikawa, Masayuki (2019). “Innovation in the Service Sector and the Role of Patents and Trade Secrets: Evidence from Japanese Firms,” Journal of the Japanese and International Economies, 51, March, pp
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「第四次産業革命」の生産性効果 「第四次産業革命」は、アベノミクス「生産性革命」の柱。労働力不足が深刻化している日本では、医療・介護サービス分野をはじめ労働集約的な業務へのAI・ロボットなど新技術の導入が期待される。 ただし、これらが量的にどの程度の生産性効果を持つかは、その利用実態に関するデータが限られているため評価が難しい。 産業用ロボットの利用拡大が、マクロ的な労働生産性や経済成長率を年率0.4%ポイント近く高めたとの推計(Graetz and Michaels, 2018)。 AIやロボットの「使用」実態に関する企業レベルの情報を、システマティックに収集していくことが重要。(米国センサス局は製造業におけるロボットの利用実態の把握に着手。) 第四次産業革命が、将来の生産性上昇率を加速させる量的な効果には不確実性が高い。長期的な財政・社会保障制度の持続可能性を考える際には、マクロ経済的な寄与度は控えめに見積もることが望ましい。
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AI・ロボットの企業経営への影響 (出典)森川正之 (2019). 「人工知能と企業経営:アップデート」, RIETI Discussion Paper, 19-J-045.
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AI・ロボットの雇用への影響 (出典)森川正之 (2019). 「人工知能と企業経営:アップデート」, RIETI Discussion Paper, 19-J-045.
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新技術の利用と従業員の学歴 新技術の利用と従業員の学歴構成の関係を見ると、AI及びビッグデータの場合、「既に利用」という企業が最も大卒比率、大学院卒比率が高く、次いで「今後利用したい」という企業。 ロボットの場合には、利用度と学歴の間の関係は弱い。「第四次産業革命」として一括りにされるが、AI・ビッグデータ(分析や予測に有効)とロボットは、利用の必要なスキルに大きな違いがあることを示唆。 (注)従業員の大卒比率、大学院卒比率を、自社の事業とは無関係を参照カテゴリーとして有意差検定。「わからない」という回答を除く。
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AI・ロボットにおける「ボーモル効果」 人工知能やロボットのマクロ経済的なインパクトは、相対価格、産業構造の変化に依存。
技術進歩が速く、生産性上昇率の高いセクターは、それに伴って需要が十分に増加しない限り、生産される財・サービスの相対価格が低下するため、名目GDPシェアは低下。 IT関連製造業のGDPシェアは、1973年を基準年とした実質値では2010年には42%となるが、名目値ではピークの2000年で3.7%、2010年には2.7%。 技術革新により生産性が大きく上昇し、価格が大きく低下する財・サービスへの需要の価格弾力性が十分大きければ、ボーモル効果による成長制約は強く働かない。例えば、医療・介護サービス、余暇・娯楽関係サービス。 (出典)「JIPデータベース」(経済産業研究所)より作成。
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人的資本・働き方と生産性
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労働力の質の向上と経済成長 労働力の質の向上は経済成長率に比較的大きな寄与度。
ただし、大学進学率の上昇が頭打ちになり、引退する大卒労働者も多くなっているため、労働者全体で見た平均学歴の上昇が鈍化し、労働力の質の向上の成長寄与度は低下。 (注) 「JIPデータベース2018」(RIETI)より作成。
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学校教育と生産性 「人づくり革命基本構想」(人生100年時代構想会議, 2018年)。
幼児教育無償化、高等教育無償化、大学改革、リカレント教育など。 国民の知的スキルの1標準偏差(PISA成績100点)上昇は、40年間の平均成長率を2%ポイント高める(Hanushek and Woessmann, 2011)。 教育の経済効果はエビデンスの豊富な領域。学校の質、特に教師の質が、教育の生産性にとって決定的に重要。 技術進歩が進む中、大学院教育の役割も増大。 大学院教育の投資収益率は非常に高い(Morikawa, 2015)。 大学院教育は発明の量・質を高める(Onishi and Nagaoka, 2018)。 ただし、今後5年間~10年間という時間的視野で成長戦略を考える際には、学校教育の効果はほとんどない。
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高スキル人材:大学院教育の重要性 サービス産業における学歴(大卒以上比率)の二極化。
情報通信業(54%)、専門・技術サービス業(50%)、金融・保険業(47%)。 飲食・宿泊業(10%)、生活関連サービス業・娯楽業(12%)、運輸業(14%)。 米国では、サービス産業のシェア拡大のほとんどが高学歴労働集約的なサービス(高等教育、法務サービス、金融、不動産、会計、医療等)の伸びによる(Buera and Kaboski, 2012)。 高度人材の供給という意味では、大学院教育が重要。大学院教育の投資収益率は高い。賃金水準が高いだけでなく、高齢期(男女)や子育て期(女性)の就労率が高いことが寄与。 (出典) Morikawa, Masayuki (2015). “Postgraduate Education and Labor Market Outcomes: An Empirical Analysis Using Micro Data from Japan,” Industrial Relations, 54(3), 32
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企業の教育訓練投資の生産性効果 「人づくり革命」:所得拡大促進税制の拡充(教育訓練費が増加した中小企業への税額控除の上乗せ)、人材開発支援助成金を活用した企業内訓練への助成など。 企業パネルデータでの推計結果は、企業による従業員の能力開発投資(Off-JT)が、生産性・賃金を高める効果を持つことを示唆。特にサービス産業で顕著。 (注) 「企業活動基本調査」の企業データ(2009~2016年)を使用して推計。 (出典) Morikawa, Masayuki (2019). “Employer-Provided Training and Productivity: Evidence from a Panel of Japanese Firms,” RIETI Discussion Paper, 19-E-005.
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労働時間・WLBと生産性 労働時間と生産性の関係について、実証研究の結果は分かれている。仕事の性質やもともとの労働時間の長さなどに依存。
ワークライフバランス(WLB)が高い企業は生産性が高いという相関関係は見せかけの相関に過ぎず「因果関係」ではない(Bloom et al., 2011; Yamamoto and Matsuura, 2014)。 労働時間削減やWLBの目的として、生産性向上への貢献を強調するのは無理がある。労働時間短縮やWLBの向上は、伝統的な表現では労働者の処遇改善(=実質的な賃金上昇)。 WLBの改善が生産性を下げるというエビデンスはないので、生産性への効果というよりは、それ自身の労働者にとっての価値という観点から取り組むのが素直。 長時間労働の是正は、人的資本投資(職場外の自己研鑽、企業のOff-JT)の増加をもたらしていない(黒田・山本, 2019)。
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長時間通勤とテレワーク 労働時間が減少してきたのと対照的に通勤時間は増加傾向。人口の大都市圏への集中という地理的構成の変化によるものではなく、全国的な現象。長時間通勤への忌避感は強い。 テレワークが企業のTFPを高めるという研究(Bloom et al., 2015)。①在宅勤務者の業務処理の効率性向上と、②オフィス・スペース(資本)の節約という2つの効果。 ただし、テレワークの利害得失は業務の性質に異存。 フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが重要な職務において、同じ部屋・近くのデスクで仕事をすることが生産性を高める効果を持つことを示す研究(Battiston et al., 2017) テレワークは単純な仕事ではマイナスだが創造的な仕事ではプラスの生産性効果を持つという実験結果(Dutcher, 2012)など。 交通混雑の緩和というプラスの外部経済効果も存在。 (注)「経済の構造変化と生活・消費に関するインターネット調査」(2017年)より作成。N=6,856人。
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同一労働同一賃金:非正規労働者の生産性・賃金
日本企業のデータを用いて推計すると、パートタイム労働者の賃金水準は生産性への貢献とおおむね釣り合っている。市場競争の下、企業が「平均的には」合理的な賃金設定を行っていることを示唆。 賃金格差を縮小するための本質的な政策対応は、非正規労働者の生産性自体を引き上げるような人的資本投資。 (注) 「企業活動基本調査」の企業データ(2009~2016年)を使用して推計。 (出典) Morikawa, Masayuki (2019). “Employer-Provided Training and Productivity: Evidence from a Panel of Japanese Firms,” RIETI Discussion Paper, 19-E-005.
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最低賃金と生産性 最低賃金を引き上げて生産性を高めるべきとの議論。ありうるメカニズムは、①企業の生産性向上努力、②ブラック企業の退出(新陳代謝効果)。 最低賃金と生産性の関係について、海外の実証研究の結果は分かれている。 日本の都道府県別最低賃金データ、企業のパネルデータを用いて推計すると、最低賃金引き上げが生産性を高める効果を持ったという事実は観察されない。 (出典)Morikawa, Masayuki (2019). “Minimum Wages and Productivity: Evidence from Japan,” RIETI Policy Discussion Paper, 19-P-015. (注)ROAは有意水準1%、LP及び設備投資は有意水準5%。LP, TFP, ROA, 設備投資は「企業活動基本調査」の企業データから計算(年度ベース、最低賃金の半年先)。1企業1事業所のサンプルのみを使用。最低賃金は、都道府県別最低賃金の各都道府県の平均賃金に対する比率(カイツ指標)。推計期間は2001~2017年度。
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新陳代謝・規制と生産性
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新陳代謝と生産性 同一産業内での生産性の企業間格差は大きい。優れた企業の参入と成長、非効率な企業のシェア縮小や退出といった「新陳代謝」メカニズムが、産業全体の生産性向上に寄与。 IT革命の時期に生産性が大きく上昇した米国小売業の分析によれば、生産性上昇のほぼ全てが、効率的な新規事業所の参入と非効率な既存事業所の退出で説明される。 政策的には、新規参入や円滑な退出を阻害する要因の除去が重要。 (注)「企業活動基本調査」(経済産業省)より作成。縦軸は対数表示。 (出典)Foster et al. (2001, 2006)より作成。
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資源配分の非効率性? 資源配分の非効率、企業の高齢化 ⇒生産性への負の影響。 中小・零細企業への保護・助成政策
社会的規制、土地利用規制、地域政策 OECD諸国の企業年齢分布 (注1)対象は従業員50人未満の企業。 (注2)池内健太他 (2019). 「日本における雇用と生産性のダイナミクス:OECD Dynemp/MultiProdプロジェクトへの貢献と国際比較」, RIETI Discussion Paper (近刊).
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規制の生産性への影響 規制改革によって市場規制をベスト・プラクティスの国並みに緩和すると、日本のTFPは4~5%高まる(Cette et al., 2016)。 米国では環境規制や安全規制の増加により、規制の総量は平均年率3.5%で増加。規制の水準が1949年レベルにとどまっていたならば、米国のGDPは28%増加(Dawson and Seater, 2013)。 米国全州の土地利用規制を弱めた場合、経済活動の地理的な再配分(生産性の高い地域への移動)を通じて、米国全体の生産性は12.4%上昇(Herkenhoff et al., 2018)。 上場企業や大企業にのみ厳しい規制・ルールを適用し、中小企業に対しては免除・軽減する政策(“size dependent policy”)は、生産性にマイナスの影響(Gourio and Roys, 2014; Garicano et al., 2016)。 日本でも中小企業と大企業の閾値が存在することにより、企業成長や資本構成を歪めている(Tsuruta, 2017; Hosono et al., 2017)。
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サービス産業の参入規制:職業資格制度 サービス産業では、消費者保護などの目的で職業資格制度が広範に存在。
就業者のうち職業資格保有者の割合:製造業24.4%、サービス産業40.4%(うち業務独占資格/必置資格は、製造業10.0%、サービス産業25.3%)。 職業資格保有者は就労確率が高く、女性でこの関係が強い。職業資格を持ち、仕事に使っている人は、年齢、学歴等をコントロールした上で、時間当たり賃金が高い(賃金プレミアム)。 ただし、サービス産業の生産性向上という観点からは、技術進歩に応じた業務範囲の見直し、業務独占資格の認証制度への緩和などが検討課題。 cf. Kawaguchi et al. (2014) (出典) Morikawa, Masayuki (2018). “Occupational Licenses and Labor Market Outcomes in Japan,” Japan and the World Economy, 48, 42
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規制のコンプライアンス・コスト 日本企業へのサーベイによれば、コンプライアンス・コストの大きい政策として圧倒的に多くの企業が挙げたのが労働規制。事業の許認可制度よりもはるかに多い。 コンプライアンス・コストに関する企業への調査に基づいて概算すると、これを半減すれば生産性は平均8%ほど高くなる。 (注)「経済政策と企業経営に関するアンケート調査」(2019年)より作成。サンプルは従業員50人以上の企業(N=2,313)。
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社外取締役と経営成果 会社法改正やコーポレートガバナンス・コードは、上場企業に対して社外取締役を増やす実効性の高い圧力となった。
社外取締役を増やした上場企業の生産性が高くなるという因果関係は確認されない。 望ましい取締役会構成は企業特性によって異なり、取締役会構成に対して機械的に一律のルールを強制することには弊害があるという見方を支持。 (出典) Morikawa, Masayuki (2019). “Effects of Outside Directors on Firms’ Investments and Performance: Evidence from a Quasi-Natural Experiment in Japan, RIETI Discussion Paper, 19-E-072.
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生産性と地域経済 〈生産と消費の同時性〉
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サービス産業の特性:「生産と消費の同時性」
サービス産業は「生産と消費の同時性」という製造業とは異なる特性。 ホテルの客室稼働率、航空運輸業の座席占有率、タクシーの実車率など、稼働率が経営成果を左右(KPI)。 「同時性」の克服:技術進歩によるサービスのモノへの代替 CD・DVD(もともとはライブ演奏)、マッサージ機(按摩)、レトルト食品(飲食店) 家電製品(家事サービス。先進国の女性就労率を高めた大きな技術的要因) 介護ロボット(介護サービス)
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都市集積とサービス業の生産性 サービス業は、「生産と消費の同時性」のため、製造業と比べて「密度の経済性」が顕著。立地する市区町村の人口密度が高いほど生産性(TFP)が高い。 先進国で重要性が指摘されている「知識集約型事業サービス業(KIBS)」の生産性は、雇用密度が高いほど高い。特に新しい情報を創り出すタイプの業種で顕著。 総人口が減少するサービス経済において、大都市の人口集積の維持、「コンパクト・シティ」の形成が重要なことを示唆。 (注) 個人サービス業を対象とした生産関数の推計に基づき、立地する市区町村の人口密度が2倍だとTFPがどれだけ高いかをパーセント換算。 (出典) Morikawa, Masayuki (2011). "Economies of Density and Productivity in Service Industries: An Analysis of Personal-Service Industries Based on Establishment-Level Data." Review of Economics and Statistics, 93(1), (注)事業所・企業が立地する市区町村の雇用密度が2倍だと労働生産性が何%高いかを示す。 (出典)Morikawa, Masayuki (2016). “Location and Productivity of Knowledge- and Information-Intensive Business Services.” RIETI Discussion Paper, 16-E-067.
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都市型産業としてのサービス産業 売上高の地理的集中度の高い業種
今日の大都市は事業サービス業に特化、サービス企業にとってフェイス・トゥ・フェイスの接触の重要性が高いことが背景(Glaeser and Gottlieb, 2009)。 各種商品卸売業(総合商社等)、広告業、専門サービス業、情報サービス業などの大都市圏集中度が高い。 職種別には、音楽家・舞台芸術家、著述家・記者・編集者、経営・金融・保険専門職業従事者、法務従事者などの大都市集中度が高い。 売上高の地理的集中度の高い業種 (注)「経済センサス活動調査」(総務省)より作成。HHIは集中度のハーフィンダール指数。 48
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空間的な新陳代謝 都市の経済集積を維持するような「選択と集中」が、日本全体の生産性向上の観点からは望ましい。しかし、人口移動率は減少を続けており、ネットでの地域間人口再配分(=「空間的な新陳代謝」)は「失われた20年」を通じて極めて低い水準で推移。 ただし、「日本の地域別将来推計人口」の予測値と「国勢調査」の実績値(2015年)を市区町村レベルで比較すると、東京に限らず日本全国で県庁所在地をはじめとする人口集積地に、過去の趨勢から予測される以上に人が集まるようになっている。 人口移動を阻害する様々な制度的摩擦が存在。しかし、それにも関わらず、都市型産業という性格を持つサービス産業のウエイト増大という産業構造変化の下で、自然な経済メカニズムも働いている。円滑な人口移動を阻害する要因を除去することが望ましい。 (出典)「住民基本台帳人口移動報告」及び「人口推計」(総務省)より作成。 (出典)森川正之 (2016). 「地域人口見通しの不確実性」, RIETI コラム. 49
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予測以上に「二極化」している地域人口 「日本の地域別将来推計人口」の予測値と「国勢調査」の実績値(2015年)を、首都圏の各県について見ると、いずれの都県も人口増であり、神奈川県を除いて予測値よりも上振れ(正のサプライズ)。大阪府、愛知県も同様。 ただし、首都圏でも予測よりも下振れた(負のサプライズ)市区町村は少なからず存在。 (注) 総務省「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」より作成。
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サービス輸出と生産性 2012年後半から円安が進む中、モノの輸出数量の伸びがはかばかしくなかったのに対して、サービス輸出は堅調に増加。
一般に輸出企業は非輸出企業に比べて生産性(TFP)や賃金が高いが、モノ輸出企業よりもサービス輸出企業で顕著。 もともと生産性の高い企業がサービス輸出を行うという因果関係が強いと見られるが、その場合でも、高生産性企業の生産シェア拡大(「新陳代謝効果」)を通じてサービス輸出は日本経済全体の生産性にプラスの効果を持つ。 (注)「国民経済計算」(内閣府)より作成。 (出典)Morikawa, Masayuki (2019). “Firm Heterogeneity and International Trade in Services,” The World Economy, 42(1), 51
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移出産業としての観光関連サービス 地域内の経済循環にとって、地域外から稼ぐ力のある「移出産業」が不可欠。
「一村一品運動」、農商工連携は地域内に移出産業を創り、付加価値を高める取り組み。 「地域乗数」(local multiplier)の試算によれば、米国において都市の貿易財産業(製造業)の雇用1人増加は、非貿易財部門(流通業、サービス業など)に1.6人の追加的な雇用を生み出す(Moretti, 2010)。特にハイテク産業の高スキル雇用で乗数が大きい。 サービス産業は一般に輸出・移出比率が低い(製造業の約1/3)。それが高い一部のサービス業種は大都市の優位性が高い。 経済活動密度の低い地域にとって、観光関連産業は数少ない「地域外から稼ぐ力」のあるサービス産業。 主な産業の輸出・移出比率 (注)「地域産業連関表(2005年)」(経済産業省)より作成。 52
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外国人旅行客と宿泊業の稼働率 サービス産業は「生産と消費の同時性」のため、ホテルの客室稼働率、航空運輸業の座席占有率、タクシーの実車率など、稼働率が経営成果を左右する。 近年の外国人訪日客の増加は、総宿泊数の増加に加えて需要平準化効果を通じて宿泊施設の稼働率を大きく高めている。 総宿泊数が一定でも、外国人宿泊比率が1%上昇すると客室稼働率は0.3%程度上昇。これは、計測される生産性(TFP)を0.1%~0.3%ポイント高めることを意味。 (注)総宿泊者数を一定としたとき、外国人宿泊比率が1%高いと客室稼働率が何%高くなるかを示す。 (出典)森川正之 (2015). 「外国人旅行客と宿泊業の生産性」, RIETI Discussion Paper, 15-J-049. 53
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政策課題(例示) 生産性向上のカギは、①イノベーション、②人的資本投資、③新陳代謝。
研究開発の支援、イノベーションの普及・利用。リスク・テイキングを促す企業統治。 大学院教育を含む学校教育全般の質の向上、企業の教育訓練投資への政策的助成。 社会的規制の緩和、過剰なコンプライアンスの回避。 大都市部の交通インフラ整備・保育サービス充実。コンパクト・シティ形成、人口移動や企業立地に影響する諸制度の中立化。 サービス貿易の自由化・円滑化。
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(参考)生産性指標が捉えていないもの 家計内生産活動 余暇、健康 消費者余剰 所得分配の公平性
GDP換算すると20%~50%程度(e.g., Ahmad and Koh, 2011)。 余暇、健康 健康改善を考慮すると国民所得の伸び率は約2倍になる(Nordhaus, 2005)。 消費者余剰 インターネット、無料のデジタル・コンテンツなど。ただし、米国の成長率鈍化への説明力は限定的(Syverson, 2017; Nakamura et al., 2017)。 所得分配の公平性 (注)Duernecker and Herrendorf (2018)より作成。1970年の米国の市場セクターの生産性=1とした数字。
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御清聴ありがとうございました。
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