第10課 青春のひとこま 背景知識と本文の構成
背景知識 ● 受験の現状 幼稚園幼稚園・保育園、小学校、中学校、中等教育学校、高等学校、高等専 門学校、専修学校、大学、短期大学、大学院、各種学校のいずれにお いても、入学試験が存在する場合がある。特に高等学校や大学は、そ の大部分に入学試験がある。保育園小学校中学校中等教育学校高等学校高等専 門学校専修学校大学短期大学大学院各種学校 幼稚園受験、小学校受験は、主に私立の学校で行われているが、上級 学校に連続している私立幼稚園や私立小学校が少ないため、盛んな地 域でもかなり少数派である。 中学受験中学受験は、首都圏と京阪神においては私立学校が多いために盛んで あり、地域によっては小学 6 年生の 4 分の 1 程度が私立学校に入学してい るが、それ以外の地方ではあまり受験熱はなく、そのまま公立中学校 に入学する場合が多数である。首都圏京阪神公立中学校 高校受験高校受験は、国立・公立・私立ともに多くの学校で入学試験があり、 高校進学率が 9 割を超えているため、日本の全域で一般的に行われてお り、最も多くの人が経験する入学試験である。国立
大学受験大学受験は、高校と同様に多くの学校で入学試験があるが、少子化に より、一部の大学では以前ほどの過酷さはない。そのため、志願者の 減少が進む一部の大学では推薦入試による定員を拡大するなど、早期 に新入学生を確保する動きがある。これにより、少子化が問題視され る以前と比べ、入試難易度が下降した大学も見受けられ、それまで進 学希望者の割合が低かった高等学校においても推薦入試による進学希 望者が増加している。 日本での入学試験の特徴として、入学後の進級試験や卒業試験に比べ て難度が高く設定されている場合が多いという点が挙げられる。卒業 が容易なため、特に大学で、学生が入学時に比べて勉学に怠惰になる などの悪影響が指摘されている。大部分の生徒は自分が合格できそう な最高の難易度の学校に入学する心理的傾向がある。これには多くの 理由があるが、学校間の序列を固定化し、高難易度の学校の羨望・自 信と、低難易度の学校の蔑視・落胆を生んでいる。中学校以上の入学 試験では必ずといってよいほど学力検査が課されるが、運動能力など の実技試験が課される場合もある。また、高校受験では卒業校からの 内申書が加味されることが多い。進級試験卒業試験学力検査
● 受験の経緯 日本では高度経済成長期頃から、よりよい進路のため学歴を身につけようとす る風潮が広まり、また当時の社会全体も強力なエリートを欲していて、それに つれて大学受験競争が活発になった。そこから、進学校(主に入学偏差値の高 い学校をさす)へ入学することがその後の受験に有利であるとの認識から、高 校受験、中学受験と、次第に受験競争は低年齢化しながら過熱した。また、私 立学校を中心として、入学すれば上級学校へ進学する際に通常の入試を受けず に内部進学できる場合が多いことも受験競争を過熱させる原因となっている。 小学校受験、幼稚園受験に至っては明らかに本人の意志よりも両親の意志に よって競争が行われている面が大きく、これを揶揄してお受験と呼ばれる。進 学競争が過熱して成長期の子供の健全な学校生活や日常生活まで圧迫するよう になった状況は受験戦争とまで形容された。その受験戦争により、受験に失敗 したことから自殺を図った若者も多く、当時話題になった。人口の少子高齢化 が進むなか、受験もその影響を受けている。大学は受験者数全体の減少のため 志願倍率も全体として低下し、一部の大学では定員割れが常態化している。だ が、学歴社会自体は一部では未だに存在し、特定業種の企業の採用試験などで は大きな扱いの違いが生じる。そのため難関大学では倍率(人気)が上昇して いる場合もある。大学受験の倍率低下に比して、中学受験は依然活発である。 これは、一部都市圏における公立中学への信頼度低下や、少子化の影響で子供 ひとりあたりにかける教育費が増加したことなどが原因と考えられる。その一 方、中学受験による親の経済的負担の増加も著しい。 また、公立の中高一貫校 や小中一貫校も出現したが、一部の人たちしか享受できないとして批判がある。高度経済成長学歴進学校入学偏差値子供少子高齢化学歴社会採用試験教育費中高一貫校小中一貫校
受験の失敗による受験生本人の尊厳の回復が約束されないままの受験 制度の現状存続には、「青少年の尊厳を傷つけるものであり好ましく ない」との批判が一部から挙がっているが、一方で「受験は人間が大 人になるうえで避けて通れない通過儀礼であり、単に学力だけでなく、 競争や自制によって集中力や向上心、自立心等を鍛え、涵養していく ためにも重要といえる」と賛成する意見も多く、今もって具体的な解 決は為されていない。現在、上級学校で入学試験重視の学校制度を維 持している国は先進国では日本を含め少数である。これは、日本では 入ることが困難であるが、外国の大学では卒業が困難であることと密 接な関係がある。とは言え、少子化と学力低下が相まって、選り好み をしなければ大学へ入学するのは極めて容易になった。最近では、高 度成長期のような受験戦争は一部の難関校や人気のある学部(例えば 旧帝国大学や大都市圏の国立大学、国公私立を問わず人気のある大学、 医学・医療系学部、法学系学部など)に限られてきている。通過儀礼先進国少子化学力低下高 度成長期
● 学習塾の発展と弊害 学習塾は昭和 40 年より急激にその数を伸ばし、現在ではなくて はならない存在になっており、学校側も大手学習塾の指導法に注 目している。学校 小中高生の多数が学校と塾・予備校を掛け持ちしており、心身に 悪影響を与えるのではないかという指摘もある。塾が流行ってい る一因に、公立学校のゆとり教育への不安感がある。このゆとり 教育の結果、塾へ行かない子供との学力の格差がますます広がる ことを危惧する見解がある。また、学習塾が「総合的な学習の時 間」を提供する動きもある。ただし、「塾へ行っても学力低下は 防ぎきれない」、「難問ばかりを教え、逆に基礎学力が伸び悩む 生徒もいる」といった指摘がある。ゆとり教育総合的な学習の時 間学力低下 かつて文部省(現文部科学省)は学習塾を好ましくない存在とし ていたが、文部大臣の諮問機関である生涯学習審議会が 1999 年 に行った提言以来、学校教育と学習塾を共存させる方針に転換し た(学習塾は文部科学省の所管だと思われがちだが、学習塾は利 潤を第一に運営されるサービス産業の一業種なので経済産業省の 所管である)。海外でも海外在住日本人子女の間で学習塾に通う 子供が増加している。背景には、現地での学習では、帰国後日本 の学校への入学・編入に求められる学習内容やレベルに合わせら ないことがあげられる。放課後のイベントなどで地元に貢献する ことを重視する現地の学校では、学習塾は悩みの種である。文部省文部科学省諮問機関生涯学習審議会 1999 年サービス産業経済産業省編入
〈本文の構成と内容〉 ● 形式段落 第 1 段落 (話題提示 合格発表の光景) 人生の明暗を分けるこの一瞬は、 12 年間にわたる学校教育の終着点を意味する。 第2段落 (日本の現在の教育実態) 「第二の学校」の存在を抜きにして、今の教育の実態を語ることはできない。 第3段落 (受験戦争の実態) 日本の子供たちは延々と続くいばらの道をたどることを余儀なくされている。 第4段落 (受験生の例) 奥田健治君、 18 歳。大学受験を控えた高校 3 年生。 第5段落 (受験生、健治君の話) 受験勉強は一応やっているが、今はラグビーが大事。
第6段落 (現代の受験生の実態) 勉強との両立を図りながら毎日楽しんでいる者もいる。 第7段落 (受験生から見た受験) 受験生自身は世間が思っているほど、悲壮感を持っておらず、自 分なりに青春を謳歌している。
● 意味段落 1段落話題提示 大学の合格発表の光景 2,3段落紹介 日本の教育・受験の実態 4~6段落例示 高校生の生活 7段落まとめ 受験に対する高校生の意識