減衰機構を有する免震構造模型の作製 平成18年度卒業研究 山田研究室 藤田 尚志
ここ数年の間に日本では兵庫県南部地震、鳥取県西部地震、新 潟県中越地震など大きな地震が相次いで発生し、いずれも大きな 被害を被った。さらに近い将来、東京でも大地震が発生する可能 性があるという説も有力視されるようになり、地震に対する関心 が高まっている。そのような世相の中、私は建築の道を志す者と して建築物の構造に関する正しく豊富な知識を身につける必要性 、またこれからの建築物に重要なのは地震に対する性能だと気づ き、卒業研究は建築物の耐震構造に関連するものにしようと考え た。そのなかで昨年度の卒業研究で模型が作製されていた免震構 造に興味を持ち、昨年の研究の引継ぎとして免震構造の模型作製 を行うことを私の卒業研究とすることとした。 研究動機
免震構造をモデル化した模型を作製し、その過程で免震の原理・ 仕組みに対する理解を深めるとともにその最適な形態を模索する。 また昨年の免震構造模型で指摘のあった減衰装置や風揺れ防止装 置の作製にも取り組む。さらに視覚的にもわかりやすい模型を作 成することで、免震構造に詳しくない人達にもその仕組みを知っ てもらうことが出来ると考える。 研究目的
免震構造 非免震建築 構造体の破損 収容物の 転倒・落下 主として地震動を対象とし、地面と構造物の間 にすべり支承や積層ゴムアイソレータなどの免 震部材を挟むことで縁切り、地震入力エネルギ ーが構造物に入力しないようにする構造。
免震構造 主として地震動を対象とし、地面と構造物の間 にすべり支承や積層ゴムアイソレータなどの免 震部材を挟むことで縁切り、地震入力エネルギ ーが構造物に入力しないようにする構造。 免震建築 免震部材が変形し エネルギーを吸収
模型作製 本卒業研究では「シンプルで免震の仕組みが わかりやすい構造」をモットーに、下記の性 能を有する免震構造模型を作製する。 目標性能 ① 載荷物に正常な免震効果が働くこと。(上に置いたものに揺れが伝わらな い) ② 免震効果を維持しつつも、変位を抑制し振動をおさめる減衰機構が作用すること。 ③ 微小な振動で無為に免震効果が働かないこと。(風揺れ防止装置の取り付け) ④ ①~③の性能を有し、且つ復元能力を持つ機構。(振動が収まったとき、上部 構 造と下部構造が元の位置関係に戻り、停止する)
免震効果を本体に作用させる免震装置には、 ビー玉を凹状の受け皿で挟む形式の、転がり 支承を持ちいる。 免震装置 ビー玉 ヒノキ材 アルミ板 ビー玉が凹状の受け皿を 転がることで免震効果と ともに復元力を得る
免震模型本体は合板の四隅に転がり支承を設 置し、それを方向を変えて二段組にすること で全水平方向への免震を可能にしている。 本体構成
免震構造の過大な変位を抑制する減衰装置は 、下図のようにヒノキ材をヒノキ材で挟み摩 擦を発生させる摩擦ダンパーとした。 減衰装置 はめ込み式で本 体と着脱可能 ヒノキ材をヒノキ材 で挟む ヒノキ材 摩擦により微小な振動 を押さえ込む 大振動では部材間の摩擦が 変位を抑制
最後に模型の免震効果を確認するための振動 模型を他の部材と同様にヒノキ材を用いて作 製した。 振動模型 錘 柱 スラ ブ
これまで述べた、免震装置・本体・減衰装置 ・振動模型といった要素を組み合わせ、今回 の免震構造模型を完成させた。 模型完成 本体+振動模型 本体 転がり支承と 摩擦ダンパー 本体構成
初めに挙げた 4 つの目標を達成することには成 功したが、実際に模型を作ってみて初めて気 づく問題点もいくつかあった。 マト メ 反省 ・ダンパーの材料に市販の木材を使用しているので材質 に バラつきがあり同じものを作っても減衰効果に差がで る。 ・実験を繰り返すと摩擦力が小さくなってしまう。 問題点 目標の達成 目標性能①、④(免震効果、復元能力)に関しては転がり 支承を採用することで、②、③(減衰能力、風揺れ防止) に関しては摩擦ダンパーにより実現した。 適時ダンパーを交換することで解 決
終 今回作製した模型はあくまで免震構造をモデル化したも のであり、実際の建築物にものとは異なる。その代わり、 シンプルで構造がわかりやすく、免震の仕組みを紹介す るツールとしては良いものが出来たと思う。 また模型を作製する過程で、免震構造に関する多くの知 識・情報を得られたことは大変有意義なものであった