バベッジのスチーム・コンピュータ と分業論 ver 林晋
On the Economy of Machinery and Manufactures, 1832 機械と製造業の経済について 1832 年刊 1832 年:天保 3 年盗賊鼠小僧処刑される、頼山陽死去 Google Books で無料で読めるのは 1846 年の 4 版。 1846 年の 4 版 – バベッジのこの本についてのおそらく唯一の日本語の本での詳 しい言及:「コンピューター 200 年史 ― 情報マシーン開発物語, マーチン キャンベル‐ケリー, ウィリアム アスプレイ」 現代的には生産工学(テイラリズム、トヨタ生産方式) 、経営学のような感じ。目次。目次。 Chap I :バベッジの時代、イギリスを特別な国家として いた産業革命について Chap I … Chap XX: 知的労働の分業について Chap XX
Chap XX. 「知的労働の分業について」 の内容目次 1. フランスの大対数表 (§ ) 2. 機械による算術計算の実行 (§247) 3. 数学的原理の説明. 階差による2乗の表 (§248) 4. 三つの時計による説明 (§249) 5. 鉱山における労働力の配分 (§252)
階差原理の説明と蒸気計算機計画 機械による計算という,当時としては当たり前とは言え ない考え方を読者に説明する。 (247)247 その原理は「階差計算」。の例、つまり、 「 x の2乗」の数表。 (248) 248 これは全く数学的なので、それを機械で実行できること を説明するために、として、三つの「時計」A,B,C の説明を表を使い行う。そして、これにより限定された 場合だが、 (248) の階差計算が「時計」の紐 (string) を繰 り返し引くという操作で、行えることを説明する。そし て、 the first model of the calculating-engine (蒸気計算 機の最初のモデル)が、このように作られつつあるとい う。 (249)249
階差機関と解析機関 バベッジは蒸気エンジンで動作する,歯車とクランクの コンピュータを 2 種類構想した: – 階差機関 difference engine YouTube 階差機関 difference engine YouTube – 解析機関 analytic engine 解析機関 analytic engine 英国政府から多額の資金を得て,それを構築を試みたが ,結局失敗した.その額は,一説によると軍艦を作れる ほどだったという.
2016/7/166 階差機関: The differential Engine 階差機関の原理 階差計算 – バベッジ の著書より. F(x)=x 2 x から F(x) … を作る 階差 …. 階差 …. これを下から,上に作れば,足し算だけ で F(x)=x 2 が計算できる.
2016/7/167 階差計算の能力 advanced 数学の理論により,殆どの(連続)関数は,多項式 F(X) で近似でき ることが知られている. – マクローリン展開、テイラー展開など。さらには、こちらの定理。こちらの定理 – 易しい解説:高校生のためのマクローリン展開高校生のためのマクローリン展開 – Excel で cos(x) を4次多項式で近似するサンプルを作りました。自分でもやって みたい人は、これを使って色々やってみてください。 Excel で cos(x) を4次多項式で近似するサンプル 1 回の階差計算は,1回微分することにあたる.したがって, n 次の多項式は, n 回階差計算すれば,定数になる. – F(x)=x 2 を 2 回階差計算したら,定数 2, 2, 2, … になった. よって,近似の誤差を処理すれば,ほとんどすべての関数の計算, したがって,実質,どんな関数でも,その計算が可能. 計算するために必要なのは,数列を記憶しておくこと.そして,数 列の項に対して足し算を行うこと. バベッジ は,これを機械にやらせようとした. – 注. 階差計算を機械に実行させるというアイデアは,バベッジ 以前にも あった.
階差機関はなぜ生まれたか (1/3) 追加 先ほどの、 YouTube の動画 YouTube の説明で、 数表と、それを印刷する為の「鉛版」 (stereotype plate) を作る為の石膏の母型( flong) が 見えた。 YouTubestereotype plate flong 該当箇所 クリックでは動画が正しく起動しないときは、次の URL をブラウザに直接入力 してください。 石膏母型の箇所 数表の箇所 – 数表とは: Wikipedia, x^2 (x の二乗 ) の数表( Babbage も説 明にこれを使っている ) 数表とは
階差機関はなぜ生まれたか (2/3) 追加 この印刷の仕組について、解説の人は次の様に言ってい る: The purpose of all that was to eliminate the risk of human error. – 該当箇所 該当箇所 – 現代軍事力の中心にはコンピュータがある SF 映画「ターミネーター」では、コンピュータ(人工知能)が 暴走(?)して核戦争が起こるというシナリオ。ターミネーター これはフィクションだが、実際に現代の軍事超大国であるアメ リカの兵器の多くがコンピュータにより運用され、戦闘におけ る多くの計算や決定、兵器のコントロールがコンピュータによ り行われている。例えば、この CIWS などはコンピュータ無しで はイメージさえできない。 CIWS – Goalkeeper 動画 Goalkeeper 動画 – いわゆる弾道計算(重力や風で弾道が曲がる)が重要
階差機関はなぜ生まれたか (3/3) 追加 では、 19 世紀の超大国である大英帝国の軍隊、たとえば戦艦はどう やって砲撃に必要な弾道計算をしていた? その当時の計算は、数表を用いて行われていた。 つまり、数表に誤りがあれば、戦闘に支障がでるかもしれない。航 海における位置の確認にも支障がでる。商取引にも、建築における 計算にも … 計算力は国力!! ところが、その数表に実際には多くの間違いがあった。 – 間違いの原因は主に二つ 計算の間違い 印刷の間違い 人は誤るものだ、だったら機械に全部やらせよう!(バベッジ) → 階差機関、解析機関
2016/7/1611 解析機関 : The Analytic Engine バベッジ は,英国政府から多大の研究費を得て,階差機 関を作ろうとしたが,当時の機械技術では,難しかった .そのため,ヨーロッパ各地の工場を使える技術を求め て視察し,その結果が On the Economy of Machinery and Manufactures の執筆となったとも言う. しかし,バベッジ の計画は,遅々として進まず,英国政 府からも信用されなくなり,資金も続かなくなる. さらにまずいことにバベッジ は,階差機関を完成させず に,解析機関という,さらに進んだ機械の設計に没頭す るようになる. この機械は,一戸建ての家くらいの大きさで,6台の蒸 気機関で動かす設計になっていた.
2016/7/1612 解析機関の能力は現代のコンピュータと同等 advanced 階差計算の出力を,再び,階差計算の入力にできるように,出力を 入力に結びつけていた. これは現代的用語で「ループ」という. 足し算,数列の記録,ループ,条件分岐(つまり、条件を判定して 、次の仕事を2つの候補の中から選ぶこと ) の四つがあると,現代の コンピュータと,同じ計算ができることが知られている. 解析機関は、この4条件を備えており,さらには計算手従,つまり ,「プログラム」を,ジャガード織機のために使われていたパンチ カードで指定することができた.つまり、原理上はであるが,現代 のコンピュータと「同じ能力」を持っていた。ジャガード織機パンチ カード – このパンチカードによるプログラミングの部分は、最初のデジタルコンピュー タの一つとも言われる ENIAC より進んでいるとさえ言える。 ENIAC におけるプロ グラミングはケーブルによる配線で行っていた。 ENIACケーブルによる配線 もし,バベッジが成功していたら,世界はどんな風だったろうか、 と空想したいのは人情!
小説「ディファレンス・エンジ ン」 「もし,バベッジが成功していたら,世界はどんなだっ たろう」,これをテーマに, SF 作家,ギブスンとスター リングが書いたスチーム・パンク小説. – 英語版表紙 英語版表紙 – 日本語版表紙 日本語版表紙 スチーム・パンクとは:1,212 話を [ まじめな ] 経済学に移して …
分業と計算機 (250)250 これにより、分業 (division of labour) の効果が機械的 (mechanical) な作業 (operation) でも、知的 (mental) な作業で も見られ、それにより「非熟練労働者の雇用を避けるこ とができる」という (250) – we avoid employing any part of the time of a man who can get eight or ten shillings a day by his skill in tempering needles, in turning a wheel, which can be done for six pence a day; – 「つまらない計算のために数学者を雇わなくても済むというこ とも言っている: and we equally avoid the loss arising from the employment of an accomplished mathematician in performing the lowest processes of arithmetic.
分業と資本 (251)251 分業の効果は大量生産のデマンドを前提とする。そして 、それは、大資本を必要とする。この前提がない限り、 分業は成功しない: – The division of labour cannot be successfully practiced unless there exists a great demand for its produce; and it requires a large capital to be employed in those arts in which it is used. – 時計の生産では成功するだろう ….