蝶のとぶまちプロジェクト GIS 解析 生態学研究室 4 年 肆矢 爽太
生物の通り道である緑の回廊を整備し,多様 な生物との共生社会をつくる ( 名古屋市マス タープラン ) 緑の回廊は生物の交流を助けるため,遺伝子 の多様性を高めることができる.また,郊外 と都市部をつなぐことで,郊外の豊かな生物 相を都市に伝えるという役割がある. この緑の回廊の効果を利用した計画が,東部 丘陵ネットワークの蝶のとぶまちプロジェク トである. はじめに
東部丘陵ネットワークが進 めている計画の 1 つである.東 部丘陵に生息するギフチョウ を守り,生息できる環境を広 げようという計画である. 東部丘陵は,瀬戸市,長久手 市,豊田市などから形成され ている.名古屋市から近い緑 地であり,知多半島まで続く 里山ネットワークの一部と なっている. 凡例 市街地 里山 農地 大河川・主要な河川 東部丘陵 名古屋市と東部丘陵の位置関係 蝶のとぶまちプロジェクトとは
本研究では,現地調査や衛星画像からギフ チョウの生育に必要となる緑地や食草の分 布を把握する.さらに得られたデータから GIS 解析を行う. その結果から,蝶のとぶまちプロジェクト の進め方を具体的に提案することを目的と する. 方法と目的
GIS (geographic information system) 解析とは,地図に情報を まとめ,視覚的にわかりやすく整理する手法であ る. ギフチョウの分布 カンアオイの分布 ツツジの分布 GIS 解析 GIS 解析をすることで,独立した データからは気づきにくい情報 を得ることができる. GIS 解析を行った分布 図 ここにツツジを植栽すれば,ギフ チョウの生息地が拡大するだろう. カンアオイとツツジが重なっているところに だけ,ギフチョウが生息している 道路がギフチョウの生息地拡大の障壁になっ ている. GIS 解析
ウマノスズクサ科カンアオイ属 ( ARISTOLOCHIACEAE Asarum ) に分類される,一般にカンアオイとよばれる 植物を扱う. ギフチョウの幼虫の食草となることで有名である. 分布拡大速度が非常に遅く,地域ごとに固有種が 存在する. なお本研究では,種については区別しない. カンアオイ ( 高松公園 ) 濃い緑色をしたハート 形の葉と,白い斑が特 徴. 調査材料 ① カンアオイ
鱗翅目アゲハチョウ科ギフチョウ属に分類される ギフチョウ (Luehdorfia japonica) は,一般的に目にする アゲハチョウよりも一回り小さい.羽は黒と淡黄色 の縞模様で肛角に赤い斑点がある.成虫はツツジな どの花蜜を食物とし,幼虫はカンアオイを食草とす る. 黒と淡黄色の縞模様 肛角に赤い斑点 ギフチョウの個体数は減 少しており,絶滅危惧Ⅱ 類に指定されている. ギフチョ ウの幼虫 調査材料 ② ギフチョウ
調査範囲 名古屋駅⇔愛知県立芸術大学 調査は,ギフチョウとカンア オイの生息が確認されている 愛知県立芸術大学から,名古 屋駅までの広小路通りを中心 とした南北 4km ,東西 18km 程 の範囲で行う. この範囲に含まれる,寺社, 公園,その他緑地について現 地調査を行う. 名古屋駅 愛知県立芸術大学 Aichi nagoya 調査地域
調査範囲内 103 か所の内,図の 7 か所でカンアオ イの生息が確認された. カンアオイ分布調査の結果
街路樹 ( ツツジの分布 ) 緑地の分布 カンアオイの分布 現地調査や衛星画像か ら得られたデータをも とに, 3 つのポテンシャ ルマップを作成した. これらの地図を重ね合 わせ GIS 解析を行う.
名古屋市内では,東山公園一帯にカンアオイの生息するまと まった緑地があり,ギフチョウの生育に必要な環境が整って いる. 東山公園一帯より東側では,緑地が充実しており,ギフチョ ウの生息地を拡大させるのに都合がよい. 東山公園一帯から西側は,中継地として期待できる大きな緑 地に乏しい. 国道 302 号が,東部丘陵地帯の緑地を分断している. GIS 解析の結果
GIS 解析の結果をうけて,蝶のとぶまちプロ ジェクトはこれからどうすればよいか 1. 東山公園一帯を,ギフチョウ進出の目標とする のが現実的である. 2. 猪高緑地までと,東山公園一帯までの 2 段構成 で計画を進めるべきである. 3. ギフチョウがメタ個体群を形成できるよう,局 所個体群の間隔は 500m 以内に設定する.
カンアオイ植栽例 愛知県立芸術大学⇔猪高緑 地 栄徳高校 豊田中央研究所 口論義運動公園 愛知学院大学 名古屋外国語大学 椙山女学園大学 愛知淑徳大学 愛知県立 芸術大学 猪高緑地 この図のようにカンアオイを植栽した場合,局所個 体群間の距離は 最大 500m ,平均は 394m となる. 国土地理院 地図
カンアオイ植栽例 猪高緑地⇔東山公園 平和公園 東山公園 猪高緑地 貴船神社 西一社中央公園 西一社団地 虹が丘公園 この図のようにカンアオイを植栽をした場合,局所 個体群間の距離は,最大 590m ,平均 462.9m となる. この区間では住宅地が多く,空きパッチなど緑地の 確保ができなかった. また,国道 302 号がギフチョウの移動を妨げること が考えられる. 一社公園 貴船神社
緑地間の距離の頻度分布 緑地間の距離が 1.5km ~ 2.5km のとき頻度が高く,全 体の 30% を占めている. 頻度を 0km ~ 0.5km の範囲にずらすことが求められ る.
現在ある緑地を利用するだけでは,ギフ チョウはメタ個体群を形成することはで きない.緑の回廊をつくるため,名古屋 市は緑地面積をさらに増やす必要がある. 国道 302 号が,郊外と都心部を分断してい る.オーバーパス等,対策を考える必要 がある. 課題
ご清聴ありがとうございます
I.Hanski が 1999 年に行った ”Metapooulation Ecology” というメタ個体群に関する研究から 研究材料は,ギフチョウと大きさが近いヒョウモ ンモドキを使用している. この研究から,パッチ間の距離が 3 ~ 4km までなら ば空きパッチに局所個体群が再生できる. 隣り合った局所個体群間の距離が 500m までならば, 個体の交流が活発に行われる.