2015/6/16 聖マリアンナ医科大学 救急医学 森澤健一郎
背景 COPD は米国で死亡原因の第 3 位 500 億 $/ 年のコストの 60% は「急性増悪」 COPD 急性増悪の死亡率は 倍 ステロイド全身投与は有用だが適量は不明 ICU 症例では一般病棟に比べてステロイド量が 多い ICU 症例における適切なステロイド投与量は不 明 ICU 患者におけるステロイド投与量の検討
Study Design コホート研究:前向き観察研究,特定の 要因へ暴露あり / なしの集団を追跡する Premier Incorporated’s Perspective Database に登録された患者情報を使用した Premier Inc. は米国で約 3400 の病院データを 管理するベンチャー企業( NASDAQ 上場)
症例 Patient Selection Flow Diagram
Inclusion Criteria 21,175 人が条件に適合 この方法で COPD 増悪症例を 99% 以上の特異度 と 97% の陽性的中率で認識できる 追記: “chronic obstructive asthma with acute exacerbation” は含まれていない( ICD9 : )
Exclusion Criteria 3,936 人が除外 ステロイド 1g はメチルプレドニゾロン換算 記載されていないが, 30 日以内の再入院症例も除外
Group Determination 17,239 人、 473 施設が解析対象 ICU における一般的なステロイド使用量を踏まえて “a priori” として 2 群に分けた( “ 確たる根拠はない ” ということ) 経過による減量を考慮し, 入院後 2 日目までのステロイド量 から群分けした 追記:過去の研究では 500 ㎎ / 日と 240 ㎎ / 日で分けている High-dose 群 240 ㎎ * / 日より多い 11,083 人( 64% ) Lower-dose 群 240 ㎎ * / 日以下 6,156 人( 36% ) * メチルプレドニゾロン換算
Outcomes Secondary outcome –ICU 滞在期間 – 入院期間 – 入院費用 Primary outcome – 院内死亡 その他の評価項目 – 挿管 /NIPPV 必要症例数と使用期間、 NIPPV の失敗数 –30 日以内の再燃と再入院 –28 日間での呼吸器不要期間、 ICU 不要期間 – ステロイドの副作用:高血糖、インスリンの使用、消 化管出血、せん妄、重篤なミオパチー / ニューロパ チー、真菌感染、抗真菌薬の全身投与
Patient Characteristics① 86% が ER からの入院 77.4% が 60 歳以上 Low-Dose 群は高齢者が多い 45.6% が男性 白人は high-dose 群 黒人は low-dose 群 Medicare : 65 才以上,身障者, 末期腎臓病,筋萎縮性側裂索硬化 症 Medicaid :低所得者,身障者 ?
Patient Characteristics② High-dose 群 で喫煙者が多 い Low-dose 群で 合併症が多い
アメリカ南部の都市部にある 500 床未満の non-teaching 病院 への入院が大多数 ICU 症例だが内科医 / 病棟医が Attending であり,集中治療医 ではない Hospital Characteristic①
追記:全入院期間中のステロイド投与期間・量(中 央値) – Low-dose 群:期間 5days ,量 408 ㎎ – High-dose 群:期間 6days ,量 1256 ㎎ 88% が来院日にステロイド投与開始 31.8% に NIPPV , 15.4% に気管挿管 89.2% に抗生剤投与, 96.3% に気管支拡張剤投与 肺理学療法は僅か 2% に施行 Hospital Characteristic② メチルプレドニゾロン 84.8% デキサメサゾン 10.7% 経口プレドニン 3.9% ハイドロコルチゾン 0.6% (平均 98.5 ㎎ / 日)(平均 ㎎ / 日)(平均 245 ㎎ / 日)
統計解析 使用したのは一般的な統計解析 – カイ 2 乗検定 – Unpaired-t 検定 – Kruskal-Wallis 検定 ステロイド処方に影響する可能性のある要素を網羅した Propensity score が使用された – 例).重症者に高用量のステロイドが投与されるバイアス 共変量を調整し,死亡率が 1.6% 違えば 90% の確率で認識でき る Propensity score matching により, Low-dose 群の 77% ( 4,749 例)を同数の High-dose 群と一致させた 地域性と抗生剤治療の有無にのみ群間の差が残ったので調整 を追加した 挿管管理と NIPPV を 2 日以内に必要とした症例については sub 解 析を行った
Outcomes ❸ PS match + 地域性と抗生剤 使用の調整後 死亡率に有意差なし ( p=0.06 ) ICU と病院滞在日数を短縮 し,総コストを削減できた 追記: NIPPV から挿管への 移行に差は無かった ( p=0.09 ) 挿管と NIPPV の併用症例は除外 ❷ PS match + 予後因子偏りの 調整後 死亡率に有意差あり Low-dose 群 5.3% High-dose 群 6.3% ICU と病院滞在日数,呼吸 器使用期間を短縮し,総コ ストを削減できた ❶素のデータ 死亡率に有意差なし ICU と呼吸器使用期間を短 縮
Steroid-related adverse events 入院 2 日目以降のインスリン必要症例は High-dose 群に多い 入院中のインスリン必要症例は High-dose 群に多い ただし,実数として差は少ない Low-dose 群の投与量は, non-ICU 対象の “Low-dose” に比 べて量が多いので,差が少ない可能性がある 真菌感染は High-dose 群に多いが抗真菌剤治療に差は無い 詳細な検証が必要
Sub 解析 入院後 2 日以内に挿管管理 or NIPPV を要した症例について検 証: NIPPV 症例群の死亡率: – Low-dose 群 6.5% vs. High-dose 群 7.6% ( p=0.26 ) 挿管管理群の死亡率 – Low-dose 群 11.5% vs. High-dose 群 10.6% ( p=0.57 ) 挿管管理群については、 PS match 後は挿管期間の短縮 ( p=0.01 )と呼吸器期間の短縮傾向( P=0.07 )をみとめた Sensitivity Analysis 感度分析 変数の変動によって結果がどれだけ変化するか Low-dose のステロイドを使用する病院が 10% 増えても死 亡率には関与しなかった( p=0.52 )
Discussion Low-dose 群の ICU 滞在 / 入院期間は短い – ただし,病状経過とは無関係に,ステロイド使用量 で ICU 退出や退院を決めている可能性もある しかし,高血糖と感染症が予後とコストを悪化さ せることはよく知られているので・・・ –Low-dose 群では高血糖が少ない傾向にあり,インス リン治療も少なかったので, Low-dose に意義がある と言えるだろう さらに, NIPPV が失敗した症例では死亡率が高い とされていることからも・・・ – 有意差は無いが Low-dose 群で NIPPV の失敗が少ない 傾向にあったので,これも Low-dose のメリットだろ う
Limitations COPD 急性増悪だけを抽出できていない可能性 – 既に 97% の的中率が証明されている方法を用いた Propensity matching に用いた共変数に漏れがあった可能 性 – 病院のレベルで層別化し交絡因子をなるべく排除した 病態自体による予後への影響の可能性 – ステロイドを使用した 2 日目以降に予後判定を行った ステロイドを使用しなかった症例は含まれていない – ステロイドを使わないという選択枝は評価していない 肺機能と血液検査所見は評価できていない VAP に関するデータは得られていない 2003 ~ 2008 年のデータであり偏りがある可能性
まとめ COPD 増悪に対するステロイド投与量は,一般病棟では 減る方向にあるが, ICU 症例に限れば, 64% に 240 ㎎ / 日以 上のステロイド投与が行われていた 経口投与は僅か 3.9% であった ステロイド投与量を 240 ㎎ / 日を境界に比較すると,死亡 率は同等だが,入院コスト, ICU 滞在と入院期間,挿管 頻度,合併症においては, 240 ㎎ / 日未満が好ましい ただし、 240 ㎎ / 日未満における適切な投与量 / 投与期間 は検討していない(今後の検討課題)
COPD 治療のガイドライン “GOLD” REDUCE trial CHEST 2007
COPD 治療に関する他の study 5days の mPSL 全身投与は 7days 投与と 比較して, 60 日以内の再燃について 遜色無い効果をみとめた PSL60mg/ 日の 5 日間投与を,経口と 静注で比較すると, 90 日予後につい て非劣勢が確認された ステロイド投与気管を 8 週間と 2 週間 で比較すると, 8 週間投与にメリット は無く,高血糖の合併症が増加した
そんなわけで,聖マリ本院で は・・・ – 経口・経管投与可能な場合 PSL40 ㎎ 1 日 1 回(または 0.5 ㎎ /kg1 日 1 回)経口・経管投与 – 経口・経管投与不可能、吸収障害が予測される場合 mPSL40 ㎎を 1 日 1 回点滴投与 –PSL と mPSL を厳密に換算する必要は無い – 点滴で開始した場合,可能となれば経口・経管投与に移行 する 投与期間は 5-14 日で,臨床経過に合わせて決定する – ステロイド全身投与中は吸入ステロイドは中止し,改善に 合わせて全身投与と 1-2 日オーバーラップさせて再開する – ステロイド投与量は 240mg/ 日を最大量とする
Outcomes with NIPPV( 参考 )
Outcomes with 挿管管理(参 考)