2015/6/16 聖マリアンナ医科大学 救急医学 森澤健一郎. 背景 COPD は米国で死亡原因の第 3 位 500 億 $/ 年のコストの 60% は「急性増悪」 COPD 急性増悪の死亡率は 10-15 倍 ステロイド全身投与は有用だが適量は不明 ICU 症例では一般病棟に比べてステロイド量が.

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米国の外来呼吸器感染症での抗菌薬投与状況 抗菌薬投与率 普通感冒 5 1% 急性上気道炎 52% 気管支炎 6 6% 年間抗菌薬総消費量 21% 【 Gonzales R et al : JAMA 278 : ,1997 】
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Study Design and Statistical Analysis
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St. Marianna University, School of Medicine Department of Urology 薄場 渉
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Journal Club 2013/11/19 聖マリアンナ医科大学 救急医学
2015年症例報告 地域がん診療連携拠点病院 水戸医療センター
異所性妊娠卵管破裂に対する緊急手術中の輸血により輸血関連急性肺障害(TRALI)を発症した1例
院内の回復期リハ病棟間の成果比較  -予後因子(入院時年齢・FIM・発症後日数)の階層化による測定法を用いて-
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他施設からの針刺・血液曝露に関する抗体検査等問い合わせに対する対応
疫学概論 方法論的問題点(患者対照研究) Lesson 13. 患者対照研究 §B. 方法論的問題点 S.Harano,MD,PhD,MPH.
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(上級医) (レジデント) 同意説明取得 無作為化 割り付け群による治療開始 来院時
疫学概論 §C. スクリーニングのバイアスと 要件
疫学概論 臨床試験の種類 Lesson 14. 無作為化臨床試験 §B. 臨床試験の種類 S.Harano,MD,PhD,MPH.
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2015/6/16 聖マリアンナ医科大学 救急医学 森澤健一郎

背景 COPD は米国で死亡原因の第 3 位 500 億 $/ 年のコストの 60% は「急性増悪」 COPD 急性増悪の死亡率は 倍 ステロイド全身投与は有用だが適量は不明 ICU 症例では一般病棟に比べてステロイド量が 多い ICU 症例における適切なステロイド投与量は不 明  ICU 患者におけるステロイド投与量の検討

Study Design コホート研究:前向き観察研究,特定の 要因へ暴露あり / なしの集団を追跡する Premier Incorporated’s Perspective Database に登録された患者情報を使用した Premier Inc. は米国で約 3400 の病院データを 管理するベンチャー企業( NASDAQ 上場)

症例 Patient Selection Flow Diagram

Inclusion Criteria 21,175 人が条件に適合 この方法で COPD 増悪症例を 99% 以上の特異度 と 97% の陽性的中率で認識できる 追記: “chronic obstructive asthma with acute exacerbation” は含まれていない( ICD9 : )

Exclusion Criteria 3,936 人が除外 ステロイド 1g はメチルプレドニゾロン換算 記載されていないが, 30 日以内の再入院症例も除外

Group Determination 17,239 人、 473 施設が解析対象 ICU における一般的なステロイド使用量を踏まえて “a priori” として 2 群に分けた( “ 確たる根拠はない ” ということ) 経過による減量を考慮し, 入院後 2 日目までのステロイド量 から群分けした 追記:過去の研究では 500 ㎎ / 日と 240 ㎎ / 日で分けている High-dose 群 240 ㎎ * / 日より多い 11,083 人( 64% ) Lower-dose 群 240 ㎎ * / 日以下 6,156 人( 36% ) * メチルプレドニゾロン換算

Outcomes Secondary outcome –ICU 滞在期間 – 入院期間 – 入院費用 Primary outcome – 院内死亡 その他の評価項目 – 挿管 /NIPPV 必要症例数と使用期間、 NIPPV の失敗数 –30 日以内の再燃と再入院 –28 日間での呼吸器不要期間、 ICU 不要期間 – ステロイドの副作用:高血糖、インスリンの使用、消 化管出血、せん妄、重篤なミオパチー / ニューロパ チー、真菌感染、抗真菌薬の全身投与

Patient Characteristics① 86% が ER からの入院 77.4% が 60 歳以上 Low-Dose 群は高齢者が多い 45.6% が男性 白人は high-dose 群 黒人は low-dose 群 Medicare : 65 才以上,身障者, 末期腎臓病,筋萎縮性側裂索硬化 症 Medicaid :低所得者,身障者 ?

Patient Characteristics② High-dose 群 で喫煙者が多 い Low-dose 群で 合併症が多い

アメリカ南部の都市部にある 500 床未満の non-teaching 病院 への入院が大多数 ICU 症例だが内科医 / 病棟医が Attending であり,集中治療医 ではない Hospital Characteristic①

追記:全入院期間中のステロイド投与期間・量(中 央値) – Low-dose 群:期間 5days ,量 408 ㎎ – High-dose 群:期間 6days ,量 1256 ㎎ 88% が来院日にステロイド投与開始 31.8% に NIPPV , 15.4% に気管挿管 89.2% に抗生剤投与, 96.3% に気管支拡張剤投与 肺理学療法は僅か 2% に施行 Hospital Characteristic② メチルプレドニゾロン 84.8% デキサメサゾン 10.7% 経口プレドニン 3.9% ハイドロコルチゾン 0.6% (平均 98.5 ㎎ / 日)(平均 ㎎ / 日)(平均 245 ㎎ / 日)

統計解析 使用したのは一般的な統計解析 – カイ 2 乗検定 – Unpaired-t 検定 – Kruskal-Wallis 検定 ステロイド処方に影響する可能性のある要素を網羅した Propensity score が使用された – 例).重症者に高用量のステロイドが投与されるバイアス 共変量を調整し,死亡率が 1.6% 違えば 90% の確率で認識でき る Propensity score matching により, Low-dose 群の 77% ( 4,749 例)を同数の High-dose 群と一致させた 地域性と抗生剤治療の有無にのみ群間の差が残ったので調整 を追加した 挿管管理と NIPPV を 2 日以内に必要とした症例については sub 解 析を行った

Outcomes ❸ PS match + 地域性と抗生剤 使用の調整後 死亡率に有意差なし ( p=0.06 ) ICU と病院滞在日数を短縮 し,総コストを削減できた 追記: NIPPV から挿管への 移行に差は無かった ( p=0.09 ) 挿管と NIPPV の併用症例は除外 ❷ PS match + 予後因子偏りの 調整後 死亡率に有意差あり  Low-dose 群 5.3%  High-dose 群 6.3% ICU と病院滞在日数,呼吸 器使用期間を短縮し,総コ ストを削減できた ❶素のデータ 死亡率に有意差なし ICU と呼吸器使用期間を短 縮

Steroid-related adverse events 入院 2 日目以降のインスリン必要症例は High-dose 群に多い 入院中のインスリン必要症例は High-dose 群に多い ただし,実数として差は少ない Low-dose 群の投与量は, non-ICU 対象の “Low-dose” に比 べて量が多いので,差が少ない可能性がある 真菌感染は High-dose 群に多いが抗真菌剤治療に差は無い 詳細な検証が必要

Sub 解析 入院後 2 日以内に挿管管理 or NIPPV を要した症例について検 証: NIPPV 症例群の死亡率: – Low-dose 群 6.5% vs. High-dose 群 7.6% ( p=0.26 ) 挿管管理群の死亡率 – Low-dose 群 11.5% vs. High-dose 群 10.6% ( p=0.57 ) 挿管管理群については、 PS match 後は挿管期間の短縮 ( p=0.01 )と呼吸器期間の短縮傾向( P=0.07 )をみとめた Sensitivity Analysis 感度分析 変数の変動によって結果がどれだけ変化するか Low-dose のステロイドを使用する病院が 10% 増えても死 亡率には関与しなかった( p=0.52 )

Discussion Low-dose 群の ICU 滞在 / 入院期間は短い – ただし,病状経過とは無関係に,ステロイド使用量 で ICU 退出や退院を決めている可能性もある しかし,高血糖と感染症が予後とコストを悪化さ せることはよく知られているので・・・ –Low-dose 群では高血糖が少ない傾向にあり,インス リン治療も少なかったので, Low-dose に意義がある と言えるだろう さらに, NIPPV が失敗した症例では死亡率が高い とされていることからも・・・ – 有意差は無いが Low-dose 群で NIPPV の失敗が少ない 傾向にあったので,これも Low-dose のメリットだろ う

Limitations COPD 急性増悪だけを抽出できていない可能性 – 既に 97% の的中率が証明されている方法を用いた Propensity matching に用いた共変数に漏れがあった可能 性 – 病院のレベルで層別化し交絡因子をなるべく排除した 病態自体による予後への影響の可能性 – ステロイドを使用した 2 日目以降に予後判定を行った ステロイドを使用しなかった症例は含まれていない – ステロイドを使わないという選択枝は評価していない 肺機能と血液検査所見は評価できていない VAP に関するデータは得られていない 2003 ~ 2008 年のデータであり偏りがある可能性

まとめ COPD 増悪に対するステロイド投与量は,一般病棟では 減る方向にあるが, ICU 症例に限れば, 64% に 240 ㎎ / 日以 上のステロイド投与が行われていた 経口投与は僅か 3.9% であった ステロイド投与量を 240 ㎎ / 日を境界に比較すると,死亡 率は同等だが,入院コスト, ICU 滞在と入院期間,挿管 頻度,合併症においては, 240 ㎎ / 日未満が好ましい ただし、 240 ㎎ / 日未満における適切な投与量 / 投与期間 は検討していない(今後の検討課題)

COPD 治療のガイドライン “GOLD” REDUCE trial CHEST 2007

COPD 治療に関する他の study 5days の mPSL 全身投与は 7days 投与と 比較して, 60 日以内の再燃について 遜色無い効果をみとめた PSL60mg/ 日の 5 日間投与を,経口と 静注で比較すると, 90 日予後につい て非劣勢が確認された ステロイド投与気管を 8 週間と 2 週間 で比較すると, 8 週間投与にメリット は無く,高血糖の合併症が増加した

そんなわけで,聖マリ本院で は・・・ – 経口・経管投与可能な場合 PSL40 ㎎ 1 日 1 回(または 0.5 ㎎ /kg1 日 1 回)経口・経管投与 – 経口・経管投与不可能、吸収障害が予測される場合 mPSL40 ㎎を 1 日 1 回点滴投与 –PSL と mPSL を厳密に換算する必要は無い – 点滴で開始した場合,可能となれば経口・経管投与に移行 する 投与期間は 5-14 日で,臨床経過に合わせて決定する – ステロイド全身投与中は吸入ステロイドは中止し,改善に 合わせて全身投与と 1-2 日オーバーラップさせて再開する – ステロイド投与量は 240mg/ 日を最大量とする

Outcomes with NIPPV( 参考 )

Outcomes with 挿管管理(参 考)