アタカマ 1m 望遠鏡近赤外線カメラ ANIR による 近傍 LIRG の Paα 観測 天文センター 田中研究室 利川 興司.

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アタカマ 1m 望遠鏡近赤外線カメラ ANIR による 近傍 LIRG の Paα 観測 天文センター 田中研究室 利川 興司

目次 1. イントロダクション 研究の動機 背景: LIRG 、星形成率、 Paα 2. 東大 1m 望遠鏡と近赤外線カメラ ANIR 3. 観測と結果 4. 議論

1. イントロダクション 本研究の動機 背景 LIRG 星形成率の推定、先行研究 水素再結合線 Paα について

本研究の動機 赤外線光度 L ir と星形成率には相関がある また、ある光度あたりから星形成が 10 ~ 100M sol /yr と、爆発的になることが分かっている ( スターバースト) 赤外線で明るい銀河を観測することで星形成活動 について探りたい

LIRG : Luminous InfraRed Galaxy Luminous InfraRed Galaxy : LIRG Ultra Luminous InfraRed Galaxy : ULIRG 普通の星形成銀河 明るい銀河はスターバーストによる星形成を する 明るい スターバースト

LIRG とはどんな天体か Z<0.3 の近傍に LIRG が多数見つかっている 星形成が盛ん: SFR=10 ~ 100 [M sol /yr] LIRG 程度の明るさの銀河から相互作用が目立つ 赤外で光る主なエネルギー源はスターバースト LIRGs の星形成活動を探る → 銀河進化の理解へ

星形成率 OB 型星 OB 型星は寿命が短い ⇔今ある OB 型星は生まれて間もない OB 型星が星形成率の指標となる

星形成率の推定 OB 型星 OB 型星が放射する紫外線が鍵となる UV dust UV FIR 水素ガス水素ガス 水素再結合線

それぞれの方法の特徴 紫外連続光 強いダスト減光を受ける 遠赤外線 ダストからの再放射。ダスト減光がない ただし、観測が難しい 水素再結合線 イオン化光子の数をトレースする 主に可視の Hα 輝線 (656.3nm) を用いる

H α の欠点 Hα :可視の水素輝線 (656.3nm) ダスト減光の補正が必要 (Hα/Hβ から推定 ) [NII] 輝線の (654.8nm,658.4nm) の混入 といった問題による不定性

近傍 LIRGs : SFR(H α ) と SFR(IR) の比較 (Dopita 2002) SFR(Hα)=SFR(IR) SFR(Hα) と SFR(IR) での 相関を確認 Mpc の近傍 LIRGs,ULIRGs43 天体の 狭帯域撮像 Hα/Hβ から減光補正 [NII] 混入を仮定して除 去

SFR(H α )/SFR(IR) のヒストグラム 相関のピークはそれほど強く なく 散らばりが大きい SFR(Hα )は SFR(IR) に対し 1桁程度ばらつく SFR(Hα) の方が少なめになる SFR(IR) 超過 SFR(Hα) 超過 SFR(Hα )と SFR ( IR) の比 [ 対数 ]

近赤外波長域の水素輝線の観測により Hα にみられる ダスト減光 [NII] の混在 が解決できる 候補は Paα(1875.1nm) : Paα/Hα ~ 0.12(Av ~ 3 で Hα と並ぶ ) Paβ(1282.8nm) : Paβ/Hα ~ 0.06 Brγ(2165.5nm) : Brγ/Hα ~ 0.01(Av ~ 50 で Paα と並ぶ ) →Paα 輝線の観測をしたい 近赤外波長域の水素輝線

近赤外波長での大気透過率 YJHK Paα Paα の弱点:大気吸収を受ける 大気透過率の計算は 大気吸収計算ソフト ATRAN による 2600m PWV=6.0mm

Pa α の大気透過率 2600m (PWV 6.0mm) 大気透過率の計算は 大気吸収計算ソフト ATRAN による

Pa α の大気透過率 4200m (PWV 1.0mm) 2600m (PWV 6.0mm) 大気透過率の計算は 大気吸収計算ソフト ATRAN による

Pa α の大気透過率 5600m (PWV 0.5mm) 4200m (PWV 1.0mm) 2600m (PWV 6.0mm) 5600mまで高度を上げれば Paα を観測で きる 大気透過率の計算は 大気吸収計算ソフト ATRAN による

赤方偏移した Pa α 長波長側にシフトした Paα も充分に観測可能である 5600m 2600m

2. 東大 1m 望遠鏡と近赤外線カメラ ANIR 東大アタカマ 1m 望遠鏡 ANIR HST/NICMOS による Paα 観測との違い

東大アタカマ 1m 望遠鏡 主鏡口径 1m 光学系 Cassegrain 最終 F 比 12 視野直径 10’ 南米・チリのチャナントール山頂(標高 5600m )

Atacama Near Infrared camera (ANIR) 再結像光学系オフナー型 検出器 PACE-HAWAII-2 ピクセルフォーマット 1024×1024 ピクセルスケール 0.31”/pix 視野 5.3’×5.3’ フィルタ Y,J,H,Ks, Paα,N191(Paαoff), Paβ,N207 最終 F 比 12

ANIR の目的 Paα による初の銀河面サーベイ → 銀河系内の電離ガスの分布を明らかにする 近傍 LIRG の星形成を Paα で探る 銀河中心 NGC2342

HST NICMOS との違い 広い視野 5.3 ’ NICMOS の視野 51”×51” ANIR の視野

観測可能な天体 ANIR:PaαANIR:N191 HST/NICMOS:N190

3. 観測および結果 Paα の観測結果から星形成率を求める

観測概要 観測日程 : ~ ~ 観測天体 :LIRGs20 天体 (D:50 ~ 100Mpc) “THE REVISED BRIGHT GALAXY SAMPLE” (Sanders et.al 2003) より選択 使用フィルタ :N191,H,Ks

Pa α 輝線の撮像結果 Pa α continuumcontinuum NGC1614 IRAS F MCG NGC2342 NGC6926 ESO 339-G011 ESO 286-G035 IC 4687/6

輝線フラックスの計算 Paα 輝線のフラックスを求める 普通は F( 輝線 ) = f(obs)Δλ - f( 連続光 )Δλ (F: フラックス,f: フラックス密度 ) しかし、ここでは大気の透過率を考慮する 大気の透過率は 波長によって変動が非常に大きい 大気中の水蒸気量 ( 天候、時間 ) によって 大きく変動 観測量

Pa α 輝線フラックスの算出 ε(Paα) 平均透過率 ε eff ε(Paα)×F(Paα) = ε eff × f(obs)Δλ - ε eff × f( 連続光 )Δλ F(Paα) :輝線のフラックス f(obs) : N191 フィルタ観測によるフラックス密度 f( 連続光): H 、 Ks の連続光から内挿して予測 この値が ε eff でない ところに注意 Δλ

大気透過率の変動 大気透過率は水蒸気量で変動する ( 天候次第 ) PWV:0.25mm PWV:2.00mm

大気吸収の推測 大気& 1m 望遠鏡& ANIR のシステム効率 H,Ks と N191 の比較で大気の吸収を見積もる ε eff H KsPaα ADU 1.63um1.91um 2.15um

システム効率から水蒸気量を推測 250um 500um 1000um 750um 1500um 2000um 3000um 大気吸収がない場合 H Ks

システム効率から水蒸気量を推測 250um 500um 1000um 750um 1500um 2000um 3000um PWV ( 可降水量 ) 0.25mm 0.50mm 0.75mm 1.00mm 1.50mm 2.00mm 3.00mm H Ks 大気吸収計算ソフト ATRAN による予測値

SFR(Pa α ) の計算結果 単位は [M sol /year] 近傍 LIRGs の SFR(Paα) は 10 ~ 10 のオーダー 0 1 (Alonso Herrero et. al 2006)

4. 議論 SFR(Paα) と SFR(IR) 、 SFR(Hα) を比較

SFR(H α ) との比較 前述の Dopita(2002) と 共通のサンプルでの SFR(Hα) との比較 相関がみられる →Paα からの SFR 予測は Hα 程度の妥当性はある 減光補正をしていない分、 Paα の方が不定性が少ない と見込まれる

SFR(P α ) と SFR(IR) の比較 SFR(Paα)=SFR(IR) が等しいとき SFR(Paα) は SFR(IR) より やや小さくなる SFR(IR) の超過が目立つ サンプルもある

どんな銀河なのか

大気透過率の補正 AGN の寄与:ダストが暖められて MIR-FIR 超過

大気透過率の補正は出来ているか NGC232 透過率の変動が激しい 領域によっては透過率補 正が不足する可能性 cz(km/s)

大気透過率の安定しているサンプル

銀河のタイプ別の分布 (Kim et al.1995) × : HII 領域 △: LINER ○: Seyfert1 ● : Seyfert2 Sy1 の Paα 超過 → ブロードラインか

SFR(IR) と再度比較 0.2dex SFR(Paα) が SFR(IR) の 2/3 程度

SFR(Paα) の方が相関のピークがはっきり している SFR(Pa α ) と SFR(H α ) の分散の比較 SFR ( Hα )( Dopita 2002 ) SFR(Paα) ( 本研究 )

まとめ 地上からの近傍 LIRG の Paα 撮像観測に初めて成功 → 星形成率推定の新しい手法を確立した SFR(Paα) は SFR(Hα) とよく一致したことで、 Paα 輝線の大気透過率補正方法をある程度確立 但し、大気透過率の波長依存性の大きさが課題 SFR(Paα) は SFR(Hα) より分散が少ない SFR(Paα) は SFR(IR) と比べると 2/3 程度となる