「行政法1」 ADMINISTRATIVE LAW / VERWALTUNGSRECHT 担当:森 稔樹(大東文化大学法学部教授) TOSHIKI MORI, PROFESSOR AN DER DAITO-BUNKA UNIVERSITÄT, TOKYO 行政裁量その1 裁量の種類.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
国立市大学通りの景観権侵害 に基づく損害賠償請求事件 1. 事件概要 国立市大学通りの景観権侵害に基づく損 害賠償請求事件 原告 ― 大学通り周辺の住民 被告-東京都 国立市 2.
Advertisements

オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構 事務局 オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構 自治体条例調査資料 平成26年度 第1回データガバナンス委員会資料 資料1-6.
担当 實原隆志. 1.規制行政 2.給付行政 3.調達行政 4.誘導行政 権力者 国民 自由を制約.
教育法 憲法・教育基本法. 法の基本知識 法とは何か=国家のルール 道徳との違い 法は様々な種類 あげてみよう 法意識 日本人の法意識を言葉から見る 英語では何というか – 法 – 判決 – 裁判所 – 判事 – 裁判.
「行政法1」 ADMINISTRATIVE LAW / VERWALTUNGSRECHT 担当:森 稔樹(大東文化大学法学部教授) TOSHIKI MORI, PROFESSOR AN DER DAITO-BUNKA UNIVERSITÄT, TOKYO 行政法上の法律関係.
法務部・知的財産部のための 民事訴訟法セミナー 関西大学法学部教授 栗田 隆 第 10 回 補助参加.
2006 年度 民事執行・保全法講義 第 2 回 関西大学法学部教授 栗田 隆. T. Kurita2 目 次  強制執行の意義  債務名義(民執 22 条)  執行力の拡張(民執 23 条)
「行政法1」 ADMINISTRATIVE LAW / VERWALTUNGSRECHT 担当:森 稔樹(大東文化大学法学部教授) TOSHIKI MORI, PROFESSOR AN DER DAITO-BUNKA UNIVERSITÄT, TOKYO 行政立法その2 行政規則.
情報モラルと著作権 道徳・特別活動・総合的な学習の時間. 目次  情報モラル 情報モラル  著作権 著作権  関連する Web ページの紹介 関連する Web ページの紹介.
「行政法1」 administrative Law / verwaltungsrecht 担当:森 稔樹(大東文化大学法学部教授) Toshiki Mori, Professor an der Daito-Bunka Universität, Tokyo 行政契約.
法務部・知的財産部のための 民事訴訟法セミナー
国及び地方公共団体が分担すべき役割の明確化 機関委任事務制度の廃止及びそれに伴う事務区分の再構成
「行政法1」 administrative Law / verwaltungsrecht 担当:森 稔樹(大東文化大学法学部教授) Toshiki Mori, Professor an der Daito-Bunka Universität, Tokyo 開講にあたって.
伊豆大島 三ツ磯の池埋立 損害賠償請求事件.
-航空事故調査の日米比較を素材として- 城山英明 (東京大学法学部)
子ども子育て支援新制度への移行に伴う 寄付行為変更に関するご案内
2016年度 民事訴訟法講義 12 関西大学法学部教授 栗田 隆
埼玉県行政書士会 出入国管理業務研修会 平成18年11月30日(木) 行政書士 林 幹
衆議院総務委員会及び参議院総務委員会附帯決議
参考資料2 地方独立行政法人法(抜粋) (定款) 第八条 地方独立行政法人の定款には、次に掲げる事項を規定しなければならない。 一~四 (略) 五 特定地方独立行政法人又は特定地方独立行政法人以外の地方独立行政法人の別 六~十一(略) 2 (略) 3 第一項第五号に掲げる事項についての定款の変更は、特定地方独立行政法人を特.
「行政法1」 administrative Law / verwaltungsrecht 担当:森 稔樹(大東文化大学法学部教授) Toshiki Mori, Professor an der Daito-Bunka Universität, Tokyo 行政上の義務履行確保 強制執行など.
西大阪延伸線 都市計画事業 許認可処分取消請求事件
新潟のブラックバス リリース禁止について 新潟53PickUP実行委員会.
法とコンピュータ 法的知識の構造(3) 慶應義塾大学法学部 2008/11/25 吉野一.
情報は人の行為に どのような影響を与えるか
【資料3】 条例検討会議について 平成28年8月30日 福岡市障がい者在宅支援課.
【資料5】 条例の基本的な方向性について 平成28年8月30日 福岡市障がい者在宅支援課.
ドイツ 医師会強制加入の規定 義務違反に対する処罰規定
2016年度 民事訴訟法講義 8 関西大学法学部教授 栗田 隆
障害のある人の相談に関する調整委員会の設置
2005年度 民事執行・保全法講義 第2回 関西大学法学部教授 栗田 隆.
「行政法1」 administrative Law / verwaltungsrecht 担当:森 稔樹(大東文化大学法学部教授) Toshiki Mori, Professor an der Daito-Bunka Universität, Tokyo 行政立法その1 法規命令.
経済活動と法 ~不法行為~ <製造物責任>.
「行政法1」 administrative Law / verwaltungsrecht 担当:森 稔樹(大東文化大学法学部教授) Toshiki Mori, Professor an der Daito-Bunka Universität, Tokyo 行政上の義務履行確保 強制執行など.
人たるに値する生活を積極的に保障 ○就労の機会の保障 労働能力がある者 労働している者 労働機会を喪失
「行政法1」 administrative Law / verwaltungsrecht 担当:森 稔樹(大東文化大学法学部教授) Toshiki Mori, Professor an der Daito-Bunka Universität, Tokyo 行政裁量その2 裁量に対する司法審査.
人権と教育基本法.
裁判の情報保障、手続保障に 関する事前協議の経過について
教育を受ける権利(2) 障害者.
4.2 著作権の適用範囲と制限.
「行政法1」 administrative Law / verwaltungsrecht 担当:森 稔樹(大東文化大学法学部教授) Toshiki Mori, Professor an der Daito-Bunka Universität, Tokyo 行政裁量その1 裁量の種類.
これからの司書養成カリキュラム 帝塚山大学  柴田正美.
2016年度 民事訴訟法講義 秋学期 第11回 関西大学法学部教授 栗田 隆
請求権競合論 1.請求権競合論とは 2.問題点1,2 3.学説の対立 4.請求権競合説 5.法条競合説 6.規範統合説
2012年度 民事訴訟法講義 12 関西大学法学部教授 栗田 隆
徴収納付制度(源泉徴収制度・特別徴収制度)/年末調整
中級日本語 第 14 課  吉林華橋外国語学院 日本語学部 製作.
「税法」 Tax Law / Steuerrecht 担当:森 稔樹(大東文化大学法学部教授) Toshiki Mori, Professor an der Daito-Bunka Universität, Tokyo 税務調査 (質問検査権)
第8回 商法Ⅱ        2006/11/ /11/8.
取締役の責任と代表訴訟 ・取締役の責任軽減 ・代表訴訟の合理化.
     6  総合区政会議           地域自治区・地域協議会.
国 家 公 務 員 倫 理 週 間  12月1日~7日 企業の皆様へ 企業の皆様と国家公務員が接する際、国家公務員には一定のルールがあります。 
第13回 法律行為の主体②-b(無権代理、表見代理)
行政と行政法 法律による行政の原理 (法治主義)
「行政法1」 administrative Law / verwaltungsrecht 担当:森 稔樹(大東文化大学法学部教授) Toshiki Mori, Professor an der Daito-Bunka Universität, Tokyo 行政行為その2 行政行為の効力.
2017年度 民事訴訟法講義 12 関西大学法学部教授 栗田 隆
2013年度 民事訴訟法講義 10 関西大学法学部教授 栗田 隆
「行政法1」 administrative Law / verwaltungsrecht 担当:森 稔樹(大東文化大学法学部教授) Toshiki Mori, Professor an der Daito-Bunka Universität, Tokyo 行政立法その1 法規命令.
最近のニュース?.
【1 事業の内容及び実施方法】 1.1. 事業内容(実施方法を含む) 電気・計装現地工事の施工設計(現場調査も含む)
日韓関係の「危機」 韓国大法院判決 情報パック11月号.
「行政法1」 administrative Law / verwaltungsrecht 担当:森 稔樹(大東文化大学法学部教授) Toshiki Mori, Professor an der Daito-Bunka Universität, Tokyo 開講にあたって.
4 許可証(全面施行後。2県以上から許可証の交付を受けている古物商等のみ。)
2008年度 倒産法講義 民事再生法 9 関西大学法学部教授 栗田 隆.
知的財産高等裁判所 の設立経緯と意義 大阪高等裁判所判事       塩 月 秀 平.
2017年度 民事訴訟法講義 8 関西大学法学部教授 栗田 隆
第10回 商法Ⅱ 2006/12/11.
「行政法1」 administrative Law / verwaltungsrecht 担当:森 稔樹(大東文化大学法学部教授) Toshiki Mori, Professor an der Daito-Bunka Universität, Tokyo 行政立法その2 行政規則.
誕生をめぐる問題 出産への思想と教育思想は同根.
「税法」 Tax Law / Steuerrecht 担当:森 稔樹(大東文化大学法学部教授) Toshiki Mori, Professor an der Daito-Bunka Universität, Tokyo 租税法律主義.
Presentation transcript:

「行政法1」 ADMINISTRATIVE LAW / VERWALTUNGSRECHT 担当:森 稔樹(大東文化大学法学部教授) TOSHIKI MORI, PROFESSOR AN DER DAITO-BUNKA UNIVERSITÄT, TOKYO 行政裁量その1 裁量の種類

行政裁量とは 行政裁量=法によって行政機関に与えられ た判断や意思形成の余地 裁量行為=法によって行政庁に裁量が与え られ、その裁量の結果としてなされた行為 裁量行為は、違法な結果をもたらさない限 り、たとえ不当な結果をもたらすとしても 適法である。 ← 法によって認められた判断 や意思形成の余地の範囲内に留まっている からである。

羈束行為/羈束裁量(法規裁量)行 為 羈束行為=法が行政庁(などの国家機関) に対し、判断や意思形成の余地を全く認め ない行為。 羈束裁量=法は明確な規定を欠いているが、 行政庁が経験則や法的衡平感に基づいて客 観的視点から個別事案に相応しい判断を行 うことが予定されている場合になされる裁 量。 通常人が共有する一般的価値判断に従い つつ、裁判所が法規裁量の正誤を判断しう る。 → 法律問題として裁判所の全面的審査の 対象となる。

自由裁量 自由裁量=法が個別事案の処理を行 政庁の公益判断に委ね、行政庁の責 任で妥当な政策的対応を図ることを 期待している場合になされる裁量 行政庁の政治的・政策的事項に属す る判断、高度の専門的・技術的な知 識に基づく判断

要件裁量と効果裁量 (1) 行政庁の判断過程・意思形成過程 ①事実認定 ②事実認定への構成要件のあてはめ (要件認定) ③手続の選択 ④行為の選択(するかしないか、する としたらどのようなものをするか) ⑤時の選択(いつするか)

要件裁量と効果裁量 (2) 要件裁量=要件の充足について、行政 庁が最終認定権を有する場合の裁量 =認定された事実を(行政行為の) 構成要件にあてはめる段階での裁量 効果裁量=行政行為をするか否か、す るならばいかなる行政行為をするかと いうことについて、行政庁が最終認定 権を有する場合の裁量

要件裁量が認められる場合 (1) 政治的裁量・政策的裁量 例、最大判昭和 53 年 10 月4日民集 32 巻7号 1223 頁(マクリーン事件) 在留外国人の在留期間の更新について、 法務大臣の広汎な要件裁量を認めた。 「全く事実の基礎を欠き又は社会通念上 著しく妥当性を欠くことが明らかである場 合に限り、裁量権の範囲をこえ又はその濫 用があったものとして違法となるものとい うべきである」

要件裁量が認められる場合(2 − 1) 専門的・技術的裁量 例1、最一小判平成4年 10 月 29 日民 集 46 巻7号 1174 頁(伊方原子力発電 所訴訟) 原子炉施設設置許可は「各専門分野 の学識経験者等を擁する原子力委員会 の科学的、専門技術的知見に基づく意 見を尊重して行う内閣総理大臣の合理 的判断にゆだね」られる。

要件裁量が認められる場合(2 − 2) 例 1 、最一小判平成4年 10 月 29 日民集 46 巻7号 1174 頁(伊方原子力発電所訴訟) 「原子炉施設の安全性に関する判断の適 否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴 訟における裁判所の審理、判断は、原子力 委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専 門技術的な調査審議及び判断を基にしてな された被告行政庁の判断に不合理な点があ るか否かという観点から行われるべきであ る」

要件裁量が認められる場合(3 − 1) 例2、最三小判平成5年3月 16 日民集 47 巻 5号 3843 頁(家永第一次訴訟) 原告が執筆を担当した教科書に対し、文 部大臣(当時)が検定不合格処分や条件付 合格処分を行ったため、原告が国を被告と して国家賠償請求訴訟を提起した。 教科書検定には「学術的、教育的な専門 技術的判断」が求められる → 文部大臣(当 時)の合理的な裁量に委ねられる。

要件裁量が認められる場合(3 − 2) 例2、最三小判平成5年3月 16 日民集 47 巻5号 3843 頁(家永第一次訴訟) 「合否の判定、条件付合格の条件の付与につい ての教科用図書検定調査審議会の判断の過程(検 定意見の付与を含む)に、現行の記述内容又は欠 陥の指摘の根拠となるべき検定当時の学説状況、 教育状況についての認識や、旧検定基準に違反す るとの評価等に看過し難い過誤があって、文部大 臣の判断がこれに依拠してされたと認められる場 合には、右判断は、裁量権の範囲を逸脱したもの として、国家賠償法上違法となる」。

効果裁量が認められる場合 (1) 学生に対する処分:最三小判昭和 29 年7月 30 日民集8巻7号 1501 頁 公務員の懲戒処分:最三小判昭和 52 年 12 月 20 日民集 31 巻7号 1101 頁(神戸税関事 件) 国家公務員法に定められた懲戒事由が公 務員について存在する場合に「懲戒処分を 行うかどうか、懲戒処分を行うときにいか なる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任 されている」。

効果裁量が認められる場合(2 − 1) 公務員の懲戒処分:最一小判平成 24 年1月 16 日判時 2147 号 127 頁①および② 卒業式などにおける国歌斉唱の際に起立 斉唱を行わなかった、国歌斉唱の際のピア ノ伴奏を拒否した、国歌斉唱の開始前また は途中で退席したなどの理由で、東京都教 育委員会から3か月の停職処分、1か月の 停職処分、1か月分について1割の減給処 分などを受けたという事件。

効果裁量が認められる場合(2 − 2) 停職処分や減給処分の選択には「事案の 性質等を踏まえた慎重な考慮が必要」であ る。 停職処分や減給処分を選択することが許 されるのは、「過去の非違行為による懲戒 処分等の処分歴や不起立行為の前後におけ る態度等 … に鑑み、学校の規律や秩序の保 持等の必要性と処分による不利益の内容と の権衡の観点から当該処分を選択すること の相当性を基礎付ける具体的な事情が認め られる場合であることを要する」。

「時の裁量」 例、最二小判昭和 57 年4月 23 日民集 36 巻4 号 727 頁 車両制限令第 12 条に基づく特殊車両通行 認定は、許可などと異なり、確認的行為と しての性格を有するもので基本的には裁量 の余地はないが、具体的な事案に応じて裁 量権を行使することが全く許されない訳で はない。 (この認定に附款を付しうることなどが 理由されている。)