地下水班 最終報告レポート 51 − 158058 大津 卓也. 目次  1. 本レポートの趣旨  2. 地下水と地盤沈下の関連性  3. 政策評価  3.1 消費者余剰による費用の測定  3.2 工業用水供給による社会的費用  3.3 固定資産価格と政策便益  4. 考察と後期に向けた課題.

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地下水班 最終報告レポート 51 − 158058 大津 卓也

目次  1. 本レポートの趣旨  2. 地下水と地盤沈下の関連性  3. 政策評価  3.1 消費者余剰による費用の測定  3.2 工業用水供給による社会的費用  3.3 固定資産価格と政策便益  4. 考察と後期に向けた課題  5. 参考文献

1. 本レポートの趣旨  20 世紀日本の近代化以降 、 工業の発展に伴って地下水揚 水量は増加し続けた 。 その環境への影響は高度経済成長 期の地盤沈下の多発という形で現れ行政は対応を迫られ た 。  当時の行政は工業用水法のもと 、 地下水の使用を禁止し 代替的に工業用水供給を行った 。 その結果 、 地盤沈下は ほぼ治まったといえる 。  しかし近年 、 地盤沈下の防止および地下水の保全に対し て市場メカニズムを用いた新しい手法が取り入れられつ つある 。 本レポートではまず従来の政策の分析を行う 。

2. 地下水と地盤沈下の関連性 ここでは政策を行う上での前提となる地下水揚水量の増加 が本当に地盤沈下を招いたのかどうかを調べる 。

東京都水道局 (2014) 工業用水の供給と地盤防止の効果

環境省 (2014) 地盤沈下の経年変化

STATE による解析 非説明変数を地盤沈下量 / 年 lands (cm) 。 説明変数に地下水 揚水量 / 日 grwa (m3) 、 ガス採掘量 / 日 gas(m3) 、 宅地面積 build ( ヘクタール ) を用いて解析を行った 。 なお地盤沈下量に 関しては台地 、 地下水揚水量は江東区と墨田区 、 ガス採掘 量は荒川河口付近 、 宅地面積は東京都全体の時系列データ を用いた 。 lands=B 0 +B 1 *grwa+B 2 *gas+B 3 *build

表より地下水揚水量は地盤沈下量と正の相関関係 にあることがわかる 。 そして宅地面積の増加は地 盤沈下に影響を与えていないという結果となっ た 。 本来宅地面積の増加は雨水の地下への浸透を 妨げて地下水位を減少させ地盤沈下を引き起こす と考えられている 。

3. 政策評価  地下水の使用を禁止して地盤沈下を防いだことにより 、 以下の費 用と便益が発生したと考える 。  ( 費用 ) 企業は地下水の代替物を用意しなければならない 。 行政は代替物として工業用水を供給する義務が発生 。  ( 便益 ) 政策が行われなければ損失していたであろう固定資産価格 。

3.1 消費者余剰による費用の測定 1964 年に地下水使用が禁止される以前に企業は地下水 を固定費を除いてほぼ無料で使用していた 。 地下水の使用 禁止により企業は消費者余剰の減少を経験した 。

需要曲線の導出 工業用水 / 日と価格の PQ 図 決定係数から不特定要因が多すぎるため正確性に不安 が残る 。 また工業用水の供給価格は 5 回ほど改定され ているが 、 それ以外の年度の供給価格は据え置きで物 価変動を考慮していないため 、 単純に時系列データを デフレーターで除すことはできない 。

DID を用いた需要曲線の導出 先ほどの問題を取り除くため 、 本レポートでは DID(difference-in-differencies) を用いて 、 工業用水需要量の 価格に対する弾力性を求める 。

以下の式を用いた 。 y は工業用水需要量 、 B 0 は切片 、 B 1 は処置群の価格以外の固有要因 、 d2 は価格改定後ダミー 、 dT は処置群ダミー 、 δ0 は価格改定後に全体に及んだ外的要 因 、 δ 1 は価格改定後に処置群のみに及んだ影響である 。 Wooldridge(2009)

今回は処置群に東京都 、 神奈川県 、 三重県を対照群には 福島県 、 千葉県 、 大阪府を設定した 。 価格改定年は昭和 56 年度でありその前後 2 年度を用いて推定した 。 unit m3/day 昭和 54 年度昭和 55 年度昭和 57 年度昭和 58 年度 処置群 三重県 神奈川県 東京都 対照群 大阪府 千葉県 福島県

東京都水道局 (2015)

推定結果 計算の結果 、 δ の推定量は ( 2181879 ー 9224416 ) ー ( 1808606 ー 8 535081 )= ー 316044 価格変化は東京都 11.8 円 、 神奈川県 5.2 円 、 三重県 3.6 円から需要量で加重平均を取り 10.49 円となっ た 。 昭和 55 年度東京都の需要量は 5778580 m3/day 、 価格は 26.2 円 。

abc d e f

余剰の結果 DID によって需要曲線を導出したが価格を 0 と仮定したと きの需要量が約 656 万 m 3 となり 、 地下水を使用してい たときの最大値約 60 万 m 3 とはかけ離れたものとなっ た 。 余剰の合計は日量を年換算にして合計約 5 千億円 ( データの都合で今回は 1990 年度までの総計 。 残りの データは東京都水道局事業年報より後日追加予定 )

3.2 工業用水供給による社会的費用  工業用水導入の経緯から供給価格は上水道に比べて安い 水準に設定された 。 そのため供給主体である東京都水道 局の工業用水部門は慢性的に赤字である 。  財務諸表の収益的収支から 、 工業用水供給とは関係なし に得られ赤字の補填に当てられている営業外収益を供給 による社会的費用とした 。 また資本的収支において工業 用水供給による収益は皆無のため費用項目である工業用 水道改良費等を社会的費用に計上した 。

予算決算対照表 収益的収入及び支出

資本的収支及び支出

社会的費用総計 それぞれの年度の社会的費用を実質化および割り引くこと で 1964 年基準の総計は 1048 億円と算出された 。

3.3 固定資産価格と政策便益  工業用水の供給により地下水の推移が保たれた結果 、 地 盤沈下は平成 27 年現在ほぼ治まったと考えられる 。  政策が行われなかった時に地盤沈下で損失していたであ ろう経済的損失を政策便益とする 。  経済的損失として固定資産 ( 不動産 ) 価格を用いた 。

東京都環境局 ( 昭和 56 年撮影 )

東京都の不動産価格 総務省統計局のデータより平成 26 年度東京都の不動産価 格は約 144 兆円である 。 全国で一番不動産価格の低かっ た鳥取県は約 1.6 兆円 。1964 年に割り引くとそれぞ れ約 37 兆円 、 約 2739 億円となった 。

4. 考察と後期に向けた課題 2 章の地盤沈下に関して STATE の解析の結果が予想と反して宅地面積の増加が地盤 沈下に影響を与えていないとなった 。 本当に影響を与えな いと結論づけるのは早計である 。 宅地面積の増加には土壌 の舗装によるもの意外に海の埋め立てによる増加も含まれ ている 。 そのためアスファルトによる舗装面積のデータを かわりに用いたり 、 埋め立て面積を新たに加えることで詳 しく調べる 。 また定常性テストも必要 。

4. 考察と後期に向けた課題 3 章 消費者余剰 データ不足により半分ほどしか統計していな いが 、 おそらく 1 兆円弱ぐらいになるだろう 。 DID による 需要曲線の導出を行ったが前述のように低い価格帯での需 要量に疑問が残る 。 価格弾力性がゼロと想定した場合の消 費者余剰の減少は約 4657 億円と約 5685 億円から極 端に差がなかったため 、 今回はそのまま用いた 。 生産者余剰 約 1048 億円 。 不動産価格 1964 年度基準で約 37 兆円 。

4. 考察と後期に向けた課題 レポート作成前の予想通り政策費用に比べて政策便益が膨 大であり 、 当然政策を行うべきという結論になった 。 しかし 、 単純に比較はできないが不動産価格の低い鳥取県 で同じ手順を踏んで分析を行った場合には政策の是非は変 化する可能性がある 。 また地盤沈下防止および地下水の保 全を行うための政策は地下水使用の禁止のみではない 。 近年 、 熊本市などの一部地域で行われている市場メカニズ ムを用いた新しい政策に注目し 、 既存の政策と比較するこ とで改めて政策の優位性を確認すべきだと考える 。

熊本市の政策概要  地下水使用量に対して課税徴収する  徴収金を資金源に水稲 、 植林を推進し地下水涵養  地下水が増えた分地下水の使用が可能に  工業用水を供給する必要性が減る 。 稲作や植林などの他 産業が正の外部性の内部化で潤う 。

参考文献