生物学 第14回 氏か育ちか 和田 勝.

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生物学 第14回 氏か育ちか 和田 勝

補足:ニューロンの形態 ニューロンの形態は、さまざまです。模式図で示したのは、脊椎動物の運動ニューロンをもとにしています。

補足:エネルギーが必要 NaイオンとKイオンの濃度差を維持するために、Naイオンをニューロンからくみ出し、Kイオンを取り込むポンプが必要です。 このポンプは、エネルギー(ATP)を使って駆動されています。ニューロンの塊である脳が、多量のエネルギーを必要とするのは、このためです。

補足:エネルギーが必要

シナプス入力の統合 3)軸索を伝導して 4)ここから伝達物質を放出 2)ここで活動電位が発生(ドミノ倒しの最初のドミノを押してやる) 1)ここで多数のシナプス入力が統合

補足:時間的・空間的加重 シナプスに生じる小さな電位変化が加算される様子です。

ニューロンの発火パターン FUNCTIONAL MULTINEURON CALCIUM IMAGING (fMCI) Rat hippocampal slices or slice cultures were loaded with Oregon green 488 BAPTA-1AM, and calcium signals were optically recorded from the CA3 pyramidal cell layer in aCSF consisting of (in mM): 127 NaCl, 26 NaHCO3, 3.3 KCl, 1.24 KH2PO4, 1.0 MgSO4, 1.0 CaCl2 and 10 glucose. Fluorophores were excited at 488 nm and visualized with a 507-nm long-pass emission filter. Images were captured at 10-2000 frames/s with a Nipkow spinning-disk confocal microscope (CSU10, CSU22, and CSU-X1; Yokogawa Electric, Tokyo, Japan), a cooled CCD camera (iXon DU860, DU897, and DV887; Andor, Belfast, Northern Ireland, UK), an upright microscope (ECLIPSE FN1, Nikon, Tokyo, Japan), a water-immersion objective (16X, 0.80 NA, CFI75LWD16xW, Nikon), and Metamorph software (Molecular Devices, Union City, CA).

ニューロンの発火パターン ラットの海馬のニューロンです。 ♪♪♪神経細胞一つをピアノの鍵盤一つに割り当てて、その活動を音に置きかえると、なんとも不思議な音楽ができあがります。神経ネットーワークが紡ぎ出す「自然の音楽」をご鑑賞下さい。(池谷裕二さんのHPより)

もっとも単純な神経回路 さて、もっとも単純な神経系は、感覚ニューロンと運動ニューロンからなります。

膝蓋腱反射

屈筋反射 「痛い」と感じる前に、脚を引っ込めているはずです。

屈筋反射 この時のそれぞれのニューロンの記録です。

感覚ニューロンは脳にも情報を送る 「痛い」という感覚は、このような経路をたどって大脳へ送られます。感覚については後で。

ニューロンの数が増える 神経系が発達すると感覚ニューロンと運動ニューロンの間に、介在ニューロンが入るようになります。 その結果、中枢神経内に介在ニューロンの集合が生まれ、複雑なネットワークが形成され、ここでいろいろな処理が行なわれるようになります。

感覚ニューロン 介在ニューロン 運動ニューロン

ニューロンの数が増える 脊髄と脳

ニューロンの数が増える 中枢神経系(脊髄と脳)の中に介在ニューロンによる神経回路が、つくられるようになります。 特定の神経回路が、定型的行動パターンに対応するようになります(たとえば、歩行運動)。

生得的行動の解発 鍵刺激 鍵刺激 検出機構 プログラム 発生器 行動 プログラム 発生器 行動 鍵刺激 検出機構 行動を引き起こすのは鍵刺激で、最初の鍵刺激は外界からの感覚情報です。

刺激と反応 音、光、匂いなど 外界からの刺激 個体 受容器 中枢神経系 効果器 反応 いろいろな行動

中枢におけるネットワーク形成 遺伝子DNAには、タンパク質のアミノ酸配列の情報が書かれていて、これを基にタンパク質が作られます。たとえば、酵素タンパク質や筋肉を構成するアクチンやミオシンといったタンパク質です。 ヒトの遺伝子の数は、およそ25000個です。脳を構成するニューロン同士のつなぎ方は膨大な数になり、この膨大な数のつなぎ方一つ一つを遺伝子が指示しているわけではありません。

転写調節タンパク質が 神経回路の形成が、どのようにして決まっていくかについては、実際のところはまだほとんどわかってはいません。 遺伝子の働きで、転写調節タンパク質の濃度勾配ができたり、道しるべタンパク質が軸索の伸長を誘導したりして、回路を作るのではないかと考えられています。一方、シナプスの結合は、その回路を使うことによって強化されると考えられています。

神経管からニューロンが(復習) 神経管から作られた脊髄から赤で示したした運動ニューロンが特定の筋肉とつながります。

成長円錐

軸索の伸長 緑色の誘引物質に反応して、右のほうに向きを変えたところ。忌避物質もあります。

つながりの強化あるいは消去 余分につながりを作って、あとで間引く。

氏か育ちか 氏か育ちかという言葉があります。英語でもNature or Nurtureと言います。 神経細胞が増えていく胎生期と出生後3年から6年の期間の環境は、シナプス結合に影響を与えるものと思われます。 多くの動物ではNature(すなわち遺伝)によって、回路は決められていくのでしょう(生得的な行動)。でもニューロンの数が多いヒトではNurtureの影響が大きいと思われます。

入力は多数ある プラスもあればマイナスもあります。

ニューロンは一個の素子 マイナス プラス 出力 この入力を統合する素子

ニューロン間のつなぎ方 つなぎ方に可塑性があることが、明らかになってきました。ニューロン間の結合の可塑性は学習成立の重要なカギになります。

シナプスの可塑性

シナプスの可塑性 こういうところを見ている

シナプスの可塑性 これらの例は、大人のラットの大脳皮質で起こっていることです。成長している脳ではもっとダイナミックなつなぎ替えが起こっていることでしょう。 Dose-dependent effects of prenatal ethanol exposure on synaptic plasticity and learning in mature offspringという記事がNature(2002)に ありました。

性ホルモンの影響 第二次性徴の発現には、性ホルモン(男性ホルモン、テストステロンと女性ホルモン、エストラジオール)が重要な役割をはたしています。 たとえば、テストステロンとその誘導体が外部生殖器の発達を促します。

外部生殖器の分化

外部生殖器の分化 アンドロジェン受容体が欠損すると、精巣があっても、外部生殖器が女性になってしまいます。

脳の性分化 性成熟 まで 飼育 メス新生仔に出生後10日以内にテストステロン注射

脳の性分化 正常な成熟雌ラットは、4日周期で排卵を繰り返します。 テストステロン投与によって、LHは周期的な分泌を示さなくなり、排卵がおこらなくなってしまいます。メスの脳がテストステロンによってオス化してしまったのです。性行動にも変化が見られます。

脳の性分化 脳下垂体ではなく、視床下部に変化が起こっています 視床下部の神経核(ニューロンの集合)の体積がテストステロンによって増加しています。

子宮の中の環境 胎児は10週を越えるころから、盛んに動いています。運動がシナプス形成を強化するだろうし、薬物が影響を与えることでしょう。 出生後も、脳の成長はしばらくは続きます。この間の環境も様々な影響を与えることになります。

これまでのまとめ 1)ヒトは直立歩行を始めた時から、脳の発達 を妨げていた制約から解放され、脳が大きく  を妨げていた制約から解放され、脳が大きく  なることができた。その結果、中枢神経系が  発達し、単なる生得的行動だけでなく、記憶  や学習による知能の発達がおこった。 2)新しくできた脳は、遺伝子だけでなく生育  環境の影響をより強く受けるようになった。

これまでのまとめ 3)ニューロンは、入力を出力に変える素子の ようなものである。入力は多数あり、プラスも マイナスもある。  ようなものである。入力は多数あり、プラスも  マイナスもある。 4)出力は神経伝達物質(分子である)によっ  て行う。 5)ニューロン間のつなぎ方は固定されたもの  ではなく可塑性が高いことがわかってきた。  特に脳が発達しているときは、様々な影響  を受けてつなぎ方が決まっていく。ホルモン  の影響で決まるものもある。

これまでのまとめ ニューロンは周りをグリア細胞で囲まれ、こ の影響も受ける。 6)子宮内、生後の環境というのは、こういった  ニューロンは周りをグリア細胞で囲まれ、こ  の影響も受ける。 6)子宮内、生後の環境というのは、こういった  ものの総体である。

ビデオの内容の補足 体格だとか目鼻立ちというのはタンパク質によってつくられます。したがってこれらのものは、遺伝子の支配のもとにあります。 受容体やトランスポーターもタンパク質なので、やはり遺伝子の支配のもとにあります。 だからドーパミン受容体が新規探索傾向に関係があるとすれば、この傾向は遺伝します。

ドーパミン受容体 ドーパミン ドーパミン受容体D4は次のようなアミノ酸の配列をしたタンパク質です。 ビデオで述べられていたように、繰り返しの数に個人差があります。

ドーパミン受容体D4 下線部分は膜貫通αへリックス5と6の間のサイトゾールへ伸びた部分。この例では7回の繰り返しがある。 10 20 30 40 50 60 1 MGNRSTADAD GLLAGRGPAA GASAGASAGL AGQGAAALVG GVLLIGAVLA GNSLVCVSVA 61 TERALQTPTN SFIVSLAAAD LLLALLVLPL FVYSEVQGGA WLLSPRLCDA LMAMDVMLCT 121 ASIFNLCAIS VDRFVAVAVP LRYNRQGGSR RQLLLIGATW LLSAAVAAPV LCGLNDVRGR 181 DPAVCRLEDR DYVVYSSVCS FFLPCPLMLL LYWATFRGLQ RWEVARRAKL HGRAPRRPSG 241 PGPPSPTPPA PRLPQDPCGP DCAPPAPGLP RGPCGPDCAP AAPGLPPDPC GPDCAPPAPG 301 LPQDPCGPDC APPAPGLPRG PCGPDCAPPA PGLPQDPCGP DCAPPAPGLP PDPCGSNCAP 361 PDAVRAAALP PQTPPQTRRR RRAKITGRER KAMRVLPVVV GAFLLCWTPF FVVHITQALC 421 PACSVPPRLV SAVTWLGYVN SALNPVIYTV FNAEFRNVFR KALRACC 下線部分は膜貫通αへリックス5と6の間のサイトゾールへ伸びた部分。この例では7回の繰り返しがある。

ドーパミン受容体D4 ここに繰り返し

ドーパミン受容体D4 繰り返し部分を比較しやすいように縦に並べてみると、 遺伝子は、染色体11p15.5にある。 PAPRLPQDPCGPDCAP PAPGLPRGPCGPDCAP AAPGLPPDPCGPDCAP PAPGLPQDPCGPDCAP PAPGLPPDPCGSNCAP 遺伝子は、染色体11p15.5にある。

ドーパミン 受容体D4 遺伝子 染色体11p15.5

セロトニントランスポーター セロトニン ドーパミントランスポーター(シナプス前膜にあって、シナプス間隙に放出されたセロトニンを取り込み、セロトニンの働きを止める)は次のようななアミノ酸の配列をしたタンパク質です。 プロモーター部分の繰り返しの数に個人差(民族差)があります。

セロトニントランスポーター タンパク質をコードしている部分ではなく、プロモーター部分(遺伝子のスイッチにあたる部分)に多型が見られる。 10 20 30 40 50 60 1 METTPLNSQK QLSACEDGED CQENGVLQKV VPTPGDKVES GQISNGYSAV PSPGAGDDTR 61 HSIPATTTTL VAELHQGERE TWGKKVDFLL SVIGYAVDLG NVWRFPYICY QNGGGAFLLP 121 YTIMAIFGGI PLFYMELALG QYHRNGCISI WRKICPIFKG IGYAICIIAF YIASYYNTIM 181 AWALYYLISS FTDQLPWTSC KNSWNTGNCT NYFSEDNITW TLHSTSPAEE FYTRHVLQIH 241 RSKGLQDLGG ISWQLALCIM LIFTVIYFSI WKGVKTSGKV VWVTATFPYI ILSVLLVRGA 301 TLPGAWRGVL FYLKPNWQKL LETGVWIDAA AQIFFSLGPG FGVLLAFASY NKFNNNCYQD 361 ALVTSVVNCM TSFVSGFVIF TVLGYMAEMR NEDVSEVAKD AGPSLLFITY AEAIANMPAS 421 TFFAIIFFLM LITLGLDSTF AGLEGVITAV LDEFPHVWAK RRERFVLAVV ITCFFGSLVT 481 LTFGGAYVVK LLEEYATGPA VLTVALIEAV AVSWFYGITQ FCRDVKEMLG FSPGWFWRIC 541 WVAISPLFLL FIICSFLMSP PQLRLFQYNY PYWSIILGYC IGTSSFICIP TYIAYRLIIT 601 PGTFKERIIK SITPETPTEI PCGDIRLNAV タンパク質をコードしている部分ではなく、プロモーター部分(遺伝子のスイッチにあたる部分)に多型が見られる。

セロトニントランスポーター 遺伝子は、染色体17q11.1-q12にある。

セロトニントランスポーター セロトニンは、情動(不安など)に関係しているといわれ、この遺伝子は自閉症と関係があるといわれています(確定しているわけではない)。

セロトニントランスポーター遺伝子 染色体17q11.1-q12