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第2時限 特許制度概要(2) 2 2

第2時限 目次 2-1 特許制度と研究・開発者 2-2 特許を受けることができる発明 2-3 新規性について 2-4 進歩性について 第2時限 目次 2-1 特許制度と研究・開発者 2-2 特許を受けることができる発明 2-3 新規性について 2-4 進歩性について 2-5 特許権の効力について 2-6 外国での特許権の取得について 3

特許制度と研究・開発者 2-1 出願 特許権の発生 文献調査 研究立案 発明の完成 実 験 成果発表 (論文・学会) ノウハウとして  特許制度と研究・開発者 研究・開発者と発明とのかかわり 発明の嗅ぎ分け 出願 特許権の発生 文献調査 研究立案 発明の完成 実 験 特許権の利用 (ライセンス契約等) 成果発表 (論文・学会) 出願しない 〔狙い〕 着想から権利化までの流れの中で、研究者・開発者の活動がどのように関係づけられるかをイメージとして理解させるとともに、研究活動から発明が生まれることを確認する。 〔説明〕 発明が日々の研究活動から生じることを実感させるように説明をする。 特許出願をする場合には、 出願後に成果発表を! ノウハウとして 秘密管理 4 4

特許制度の目的 2-1 一定期間独占権の付与 (模倣に対して「やめなさい!」 と言える権利) 特許は発明をオープン にすることが前提 (目的) 第1条 この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を  奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。 一定期間独占権の付与 (模倣に対して「やめなさい!」  と言える権利) 発明の保護 (権利者) 勝手に使ったらダメ! 特許は発明をオープン にすることが前提 〔狙い〕 特許制度の目的を理解する。 〔説明〕  特許制度は、発明を公開することで技術開発の促進を図り、発明の利用の普及による国民生活の利便性の向上を期する。  そのために発明を公開させ、その代わりに、一定期間その発明について独占権を付与するという仕組みをとっていることを説明する。 公開された発明をもとにした改良 技術の開発(改良発明の誘発、 新たな発明の機会)、 発明の利用等の促進 発明の利用 研究開発の無駄 (ロス)をなくす 5 5

特許を受けることができる発明 2-2 技術的 思想 発明であること! ×自然法則以外の法則 →経済法則等 ×人為的取り決め →商売方法等 ×自然法則自体(「利用」にあたらない        →「エネルギー保存の法則」、「万有引力の法則」自体 技術的 思想 高度性 創作性 自然法則の利用 ×いわゆる技能 →フォークボールの投げ方 ×単なる情報の提示 →デジタルカメラの撮影データ ×美的創作物 →絵画、彫刻 〔狙い〕 特許制度により保護される「発明」となるための4つの要件が、具体的にどのようなものであるかを理解させる。 〔説明〕 特許法における「発明」の定義が「自然法則を利用した」「技術的思想の」「創作のうち」「高度のもの」の4つの要件であることを説明。 各要件の具体的な事例を示して、発明該当性を検討させるのが有効である。 Ex. 有機合成により得られた新しい化学物質→○ Ex. アマゾンの奥地で発見した新しい植物→× Ex. 一定の電流をかけたときの電流の値を用いてr=e/iにより抵抗を測定する方法→○ Ex. 一定の電圧をかけた際に流れる電流の値iと抵抗値rの関係がe=irにより表すことができることを発見した→× Ex. 逆上がりの方法→× ※参考事例 事例:黄桃育種増殖法事件(最判平成12年2月29日民集54巻2号709頁) 事例:原子力エネルギー発生装置事件(最判昭和44年1月28日民集23巻1号54頁) ○天然物から人為的に分離した化学物質      ×天然物の単なる発見など 参考: 実用新案法2条1項    この法律で「考案」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作をいう。 特許法 2項1項 この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。 特許要件の詳細は、次のスライドへ

同一発明につき、先に特許出願がされていないこと39条 2-2 特許を受けることができる発明 産業上利用 できる 29条1項柱書    新しい (新規性) 29条1項各号 該当しないもの: ①人間を手術、治療、診断 する方法 ②現実に実施することが できないことが明らかなもの ③個人的にのみ実施され、  市販などの可能性がないもの 該当しないもの:            ①特許の申請前にテレビなどで放送され、公然と知られたもの、  ②特許の申請前に製品として販売されるなどして、公然と実施されたもの、                 ③特許の申請前に、書籍やインターネットなどで公表されたもの 容易に考え出すことができない(進歩性) 29条2項 同一発明につき、先に特許出願がされていないこと39条 発明の要件 手続的要件 〔狙い〕 前のスライドで説明した要件である発明の成立性を満たす発明であっても、更に特許となるためには幾つかの要件を満たす必要が有ることを理解させる。 〔説明〕  「発明」であっても、ほかに一定の要件を満たさなければ、特許にはならない。  各要件を表す呼称(新しい→新規性、容易に考えだすことができない→進歩性等)についは後の講義でも使う用語であるので説明が必要である。  新規性、進歩性については、のちのスライドで詳しく説明する。  その他の要件についても新規性、進歩性を説明した後に簡単にスライドを用いて説明する。 <参考条文> 第29条  出願書類が一定の要件を満たしている  36条 公序良俗に反しない  32条 紙幣の偽造機械など、犯罪につかわれるもの等でないこと ★前提: 「発明」であること(1-2.参照)

第2時限 目次 2-1 特許制度と研究・開発者 2-2 特許を受けることができる発明 2-3 新規性について 2-4 進歩性について 第2時限 目次 2-1 特許制度と研究・開発者 2-2 特許を受けることができる発明 2-3 新規性について 2-4 進歩性について 2-5 特許権の効力について 2-6 外国での特許権の取得について 8

新規性について 新規性 2-3 新規性が喪失 しているもの 公然と知られた発明 公然と実施された発明 刊行物等に記載された発明   1.特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明   2.特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明   3.特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明     又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明 (29条1項) 新規性 新規性が喪失 しているもの 公然と知られた発明 公然と実施された発明 新規性喪失の例外(第30条) ・自らが研究会発表 ・自らが博覧会へ出品 ・自らがTVに発表   等 〔狙い〕 特許要件のうち、最も重要である新規性の要件について概説するとともに、その例外規定である新規性喪失の例外について概説する。 〔説明〕  特許法29条1項において規定されている、公然と知られた発明、公然と実施された発明、刊行物やインターネットにより開示された発明に該当するものが新規性がないものとして特許を受けることができないことを確認し、それぞれの具体例を示す。特に、発明者自身が出願前に発表した場合であっても原則新規性を喪失することを強調し、研究発表などにおいて出願前に発表してしまうと、特許をとることができなくなることについて理解させる。  新規性がないものとなる場合については、のちのスライドを用いて事例をあげて説明をする。  新規性喪失の例外については簡単に触れておき、後のスライドで詳しく解説することにつなげる。 刊行物等に記載された発明 ×発表、テレビ放映 ×販売、製造状況の不特定者見学 ×特許公報、論文、CD-ROM、書籍、インターネット 例外的措置!!

新規性(新しさ)とは 「新規性」がない発明とは 2-3 →注意!!! 守秘義務のない第三者に発明の内容を漏らさないように 公然知られた発明 例:口頭発表、TV放送 公然実施をされた発明 例:店で販売、不特定多数の客の前でのデモ 頒布された刊行物に記載された発明 例:特許公報、論文、書籍、パンフレット 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明 例:インターネット上のウェブで公開 〔狙い〕 新規性がない発明となる具体的な事例について説明する。 〔説明〕 公然知られた発明を「公知」、公然実施をされた発明を「公用」、頒布された刊行物等に記載された発明を「刊行物等公知」などということについて必要に応じて説明する。 →注意!!! 守秘義務のない第三者に発明の内容を漏らさないように

新規性喪失の例外 2-3 本人 他人 発表と出願のタイミング 対 象 期間 6月 必要 1年 不要 日本 新規性喪失の例外の適用 が受けられる場合 (特許法第30条) 発表と出願のタイミング 新規性喪失の例外規定 国際比較 本人 他人 対 象 期間 出願時手続 日本 すべての公知行為 (特許公報等による公開を除く) 6月 必要 米国 1年 不要 欧州 限定された国際博覧会 中国 所定の学術会議または技術会議 韓国 特許を受ける権利を持っている人 (発明者や発明者から権利を譲渡された者) の行為による ○刊行物やインターネットを通じた発表 ○研究集会(学会)での発表  や博覧会への出品 ○TV・ラジオでの公表 ○製品の販売    など 論文等で発表 6月以内 他人の出願 30条適用出願 30日以内 証明書類の提出 その結果 〔狙い〕 新規性喪失の例外規定がどのようなものか、また例外規定により出願することの危険性や限界について理解させる。 〔解説〕  新規性喪失の例外規定について、出願前に、自分で論文発表などにより公表してしまった場合でも、発表から6月以内であれば、出願と同時に申請を行うことで、その発表によって新規性が否定されないという取り扱いがされる制度であることを解説する。  そして、この新規性喪失の例外は、あくまでも例外的救済であって、危険性があることを強調して説明する。  すなわち、発表から出願の間に、第三者が同内容の発明を出願した場合には、特許を取ることができない場合があることや、この制度が各国により異なるものであり、特にヨーロッパには、このような例外がないため、特許を取得できない可能性が高いことを強調して説明をする。 発明が初めて 公知となる ○本人の出願→他人の先出願と同一であれば拒絶される。 ○他人の出願→論文が公知技術となり拒絶されるが、   本人も特許が取れない場合がある。

新規性(新しさ)の判断手法 2-3 発明のパーツ(発明特定事項)の比較による判断 自己の発明 先行技術 A+B+C+D 相違点:DとE 矩形形状の(要件A) ステンレス製ケースに(B) 滑り止めの塗料を塗った(C) デジタルカメラ(E) 矩形形状の(要件A) ステンレス製ケースに(B) 滑り止めの塗料を塗った(C) 携帯電話(D) A+B+C+D 相違点:DとE A+B+C+E 〔狙い〕 新規性要件の判断手法の概略について説明し、新規性がないとはどういうことをいうのかを理解させる。 〔説明〕  特許出願に係る発明がすでに知られている、すなわち新規性ないということの判断がどのようになされるのかについて説明する。  特許出願に係る発明は、特許請求の範囲に記載された事項により認定されること、上記の例では、A+B+C+D、先行技術である発明は、刊行物であれば、刊行物の記載から認定されること、上記の例では、A+B+C+Eであることを説明する。  認定された発明の記載事項を比較して、特許出願に係る発明と公知となった発明の間に差異がなければ、新規性がないものと判断がされ、相違点があれば、新規性があるものと判断される。 新しい!!! 12

新規性の判断手法 上位概念・下位概念 2-3 乗物 上位概念=より抽象的 〔車両(乗物)〕 ・後の発明を「新規性なし」として排除できる可能性が低い ・権利範囲が広い 乗物 車両 電車 〔狙い〕 前のスライドでは、特許出願に係る発明と公知発明との対比について説明したが、各構成要素が同じか否かの判断の具体例について簡単に説明をしておく。 〔説明〕  特許出願に係る発明の概念が上位概念で記載されている場合は、公知発明が、それよりも下位概念で表現できるものであれば、特許出願に係る発明と公知発明は同じものと判断される。(電車について知られているとすれば、乗物というものが知られていたといえる。)  これに反して、特許出願に係る発明の概念が下位概念で記載されている場合に、公知発明がそれよりも上位概念での表現しかできないものであれば、特許出願に係る発明と公知発明は異なるものと判断される。(電車について知られているとしても、モノレールについて知られているとはいえないため)。このように判断されることから、下位概念で発明を表現すれば、それよりも上位の概念の発明を排除できることとなる。  ただし、特許としての権利範囲は、上位概念で記載した方が、有利となる面を持つことも説明する。 下位概念=より具体的 〔電車、車両、乗物〕 ・後の発明を「新規性なし」として   排除できる可能性が高い ・権利範囲が狭い 13

新規性の判断手法 特許発明が包含する技術的範囲による判断 2-3 断面六角形(A) の鉛筆(B) 断面六角形(A) 消しゴム付(C) 発明α(公知発明) 断面六角形(A) の鉛筆(B) 発明β(出願1) 断面六角形(A) 消しゴム付(C) の鉛筆(B) 発明γ(出願2) 断面六角形(A) 消しゴム付(C) のボールペン(D) 上位概念 下位概念(範囲内) 発明αに対して 新規性有り (※)利用発明 上位・下位でない(範囲外) 発明αに対して 新規性有り 発明α 〔狙い〕 先の2枚のスライドによる新規性の判断手法をまとめて再確認をする。 〔説明〕  本願発明が、公知発明と比較して、相違する部分が下位概念である場合には新規性があると判断されるが、そのようなものは利用発明に該当すること、相違する部分が別の概念のものであるときは、利用発明には該当しないことを説明する。 発明γ 発明β 14

第2時限 目次 2-1 特許制度と研究・開発者 2-2 特許を受けることができる発明 2-3 新規性について 2-4 進歩性について 第2時限 目次 2-1 特許制度と研究・開発者 2-2 特許を受けることができる発明 2-3 新規性について 2-4 進歩性について 2-5 特許権の効力について 2-6 外国での特許権の取得について 15

進歩性の判断について 2-4 進歩性 新規性・進歩性の判断 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない 。(29条2項) 当業者からみて、その発明に至る考え方の道筋が容易かを判断  ①公然と知られた発明や実施された発明を単に寄せ集めただけにすぎない発明  ②発明の構成要素の一部を置き換えたにすぎない発明 進歩性 新規性・進歩性の判断 〔狙い〕 特許要件のうち、拒絶理由として最も良く用いられる要件である進歩性についてその概略を理解させる。 〔説明〕  特許法29条2項に規定する進歩性の要件は、29条1項に規定する発明、すなわち出願時既に公知になっている発明に基づいて、当業者と呼ばれる発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたことである点を確認する。  そして、具体的な事例であるペンの事例を用いて、新規性がないということは、出願に係る発明と先行技術に差異がないと判断された場合であり、新規性があるとは、出願に係る発明と先行技術の間に何らかの差異があること(細線と太線用のペンが一体とされている点や、差し替え可能とされている点)、そして、進歩性があるとは、先行技術を組み合わせても、本願発明に到達しない場合であることを説明する。真ん中の例については、差異はあるが、この時点でたとえば、赤鉛筆と青鉛筆とが一本になった鉛筆などが知られていなことを説明して、そのような技術を勘案すると容易に発明できたという風に説明をする。

進歩性とは 当業者(※)が先行技術から容易に考えだせる (=進歩性を有していない)と判断される例 2-4 最適材料の選択・設計変更 単なる寄せ集め 作用、機能の共通性 技術分野の関連性 引用文献中の示唆 課題の共通性 〔狙い〕 進歩性の判断におけるいわゆる「論理づけ」の概念を簡単に説明する。 〔説明〕 本願発明と最も近い先行技術とを対比した結果存在する差異(差異があることが新規性があるということ)が存在する場合に、その差異が先行技術から容易に考え出せるという理屈付けができた場合に、本願発明の進歩性が否定されることとなるが、その理屈付けの例が、スライドに掲示されているものであることを説明する。 ※当業者: その技術分野について通常の知識を持つ者        複数の技術分野の専門家からなる「チーム」

進歩性とは ・同質であるが際立って優れた効果 一見容易とされる場合も… 先行技術と比べて ・異質な効果 2-4 進歩性とは 一見容易とされる場合も…   先行技術と比べて    ・異質な効果   ・同質であるが際立って優れた効果  があり、これらの効果を当業者が予測できない場合は  進歩性の存在が推認される。 〔狙い〕 進歩性判断における効果の取扱いについて理解する。 〔説明〕 本願発明と本願発明と最も近い先行技術とを対比した結果存在する差異が一見容易に考え付くようなものであっても、本願発明の効果が優れていれば、進歩性が肯定されることがあることを説明する。 18

進歩性とは 2-4 進歩性判断の例(携帯電話に以下の工夫をした場合・・・?) 技術分野の関連性 例:雑音除去機能 作用・機能の共通性 例:光触媒材料を被覆 引用文献中の示唆 例:ディスプレイ 単なる寄せ集め 例:音声確認と指紋確認 〔狙い〕 進歩性の判断について具体的事例をもって説明する。 〔説明〕  必要に応じて、以下の具体例を取捨選択して説明する。  各事例について、学生に検討させることにより、進歩性の判断のイメージを体感させる。 課題の共通性 例:ガイド機能付き 最適材料の選択・設計変更 例:ケースの材料

進歩性が否定される事例 -最適材料の選択・設計変更- 2-4 最適材料の選択、数値範囲の最適化、具体的適用に伴う設計変更 【本願発明】 ケースを厚さ0.5~0.8mmの FRPとした携帯電話 ※繊維強化プラスティック 【本願効果】 FRPを用いることにより、 強度を維持しつつ携帯電話の 小型化を図る 【文献1】 携帯電話のケースは 厚いほど強度が高いが、 全体の寸法を考慮すると 1.0~1.5mmの厚さが好ましい 【文献2】 ケースにFRPを用いた電子手帳 FRPは強度が強いため、 厚さを0.9~1.2mmと 薄くすることができる 〔狙い〕 進歩性の判断について具体的事例をもって説明する。 〔説明〕 文献2には、FRPを用いれば、ケースの厚さを薄くしても強度を維持できることが文献2に記載されているから、FRPを用いてケースを薄くするという技術は知られていたといえる。 数値が0.5~0.8mmとすることは文献1や2には記載されていないとしても、数値範囲を最適化することは当業者であれば通常行うことにすぎない。 ⇒進歩性は否定される。 公知の材料からの選択 FRPを用いることにより ケースを薄くすることができる 数値範囲の最適化 強度と小型化の両立のための ケースの厚さを決定する

進歩性が否定される事例 -単なる寄せ集め- 2-4 各々が機能的又は作用的に関連していない 指紋確認手段と音声確認手段に 【本願発明】 指紋で本人確認する指紋確認手段と 声紋で本人確認する音声確認手段と を備えた携帯電話 【本願効果】 指紋の他に声紋により本人 確認を行うことで一層厳密な 確認をすることができる 【文献1】 指紋で登録者を確認する 指紋確認手段を備えた携帯電話 【文献2】 声紋で登録者を確認する 音声確認手段を備えた携帯電話 〔狙い〕 進歩性の判断について具体的事例をもって説明する。 〔説明〕 文献1と文献2にそれぞれ記載されている指紋確認手段と音声確認手段には、共に登録者を確認するための目的を有するものであるが、指紋確認手段と音声確認手段の間には、技術的な機能、作用に関連がない。 しかしながら、携帯電話において登録者を確認するための手段として共に知られている、指紋確認手段と音声確認手段を単に両方備えるようにすることには、一般的に困難なことではない。 ⇒進歩性が否定される。 指紋確認手段と音声確認手段に 機能的、作用的な関連がない

進歩性が否定される事例 -作用・機能の共通性- 2-4 分野が異なっても作用、機能が共通することは、有力な根拠となる 作用・機能が共通 【本願発明】 本体表面を 光触媒材料で被覆した 携帯電話 【本願効果】 本体表面に抗菌性を 付与したため衛生的である。 【文献1】 本体表面に 銀イオンを担持させた 携帯電話 【文献2】 本体を 光触媒材料で被覆した筆記具 〔狙い〕 進歩性の判断について具体的事例をもって説明する。 〔説明〕  文献1は携帯電話についての技術であり、文献2は、筆記具についての技術であるが、表面に抗菌性を付与するという作用・機能の共通性に着目すれば、文献1に文献2の技術を用いることの有力な理由づけとなり得る。  文献1の銀イオンも文献2の光触媒材料の被覆も共にそれらを形成した表面に抗菌性を付与するためであるから、文献1の本体表面に銀イオンを担持させる代わりに光触媒材料の被覆を形成するようにしても、携帯電話の本体表面に抗菌性が付与されることは明らかである。 ⇒進歩性が否定される。 作用・機能が共通 (抗菌性を付与)

進歩性が否定される事例 -技術分野の関連性- 2-4 課題解決のために、関連する技術分野の技術手段を適用したもの 【本願発明】 周辺の騒音と逆位相の音波を 発するノイズキャンセル機能を 備えた携帯電話 【本願効果】 周辺の騒音の影響を軽減できる 【文献1】 携帯電話 【文献2】 周辺の騒音と逆位相の音波を 発するノイズキャンセル機能を 備えたトランシーバー 〔狙い〕 進歩性の判断について具体的事例をもって説明する。 〔説明〕 文献1は携帯電話、文献2はトランシーバの技術のものであるが、両者は共に音声を送受信する技術である点で共通するものであって、相互の技術を転用できることの有力な理由づけになる。また、音声を送受信する装置においては、周辺の騒音の影響を軽減するという課題は、共に有するものといえ、両者の技術を転用でいることの有力な理由づけとなる。したがって、文献1の携帯電話に文献2の技術を適用することは、当業者が容易に考え付くものといえる。 ⇒進歩性が否定される。 関連する技術分野の技術を適用 (音声を送受信する装置)

進歩性が否定される事例 -引用文献中の示唆- 2-4 引用発明の内容に示唆があれば、有力な根拠となる 引用文献中の示唆 【本願発明】 ディスプレイに発光ダイオードを用いた 携帯電話 【本願効果】 省エネ性に優れた携帯電話 【文献1】 ディスプレイに液晶を用いた携帯電話。 なお、発光ダイオードを用いることにより、 更に省エネ性に優れたものとなるが 現在、青色は未開発である。 【文献2】 街頭のディスプレイには、 発光ダイオードが 用いられている。 〔狙い〕 進歩性の判断について具体的事例をもって説明する。 〔説明〕  文献1には、発光ダイオードを用いれば省エネ性が優れるものとなることは示唆されているが、青色発光ダイオードが未開発であるので、実現できないことが記載されているから、文献1のみで本願発明の新規性を否定することはできない。しかしながら、文献2には、ディスプレイに発光ダイオードを用いたものが記載されている(当然青色発光ダイオードが開発されており、それが用いられていることが前提)。  そうすると、文献1に、携帯電話で発光ダイオードを用いたディスプレイにより省エネ性に優れたものが得られるという示唆があれば、文献2に記載されている技術を適用して、本願発明のように構成することは容易に考えられるものといえる理由づけとなる。 ⇒進歩性が否定される。 引用文献中の示唆

進歩性が否定される事例 -課題の共通性- 2-4 課題が共通することは、有力な根拠となる GUIDE 技術分野は異なるが 課題が共通する 【本願発明】 操作キーが操作された際に 操作内容を音声で教示する 携帯電話 【本願効果】 目の不自由な使用者の 操作を容易にする 【文献1】 操作キーに点字を付設した 携帯電話 【文献2】 操作キーが操作された際に 操作内容を音声で教示する エアコン用リモコン 〔狙い〕 進歩性の判断について具体的事例をもって説明する。 〔説明〕  文献1は携帯電話についての技術であり、文献2はエアコン用リモコンについての技術であるが、両者は目の不自由な使用者の操作を容易にするという課題の共通性に着目すれば、文献1に文献2の技術を用いることの有力な理由づけとなり得る。   文献1と文献2は、技術の分野が相違するものであるが、文献1には、携帯電話の操作キーに点字を付設したことにより目の不自由な使用者の操作を容易にする技術が記載されているのであるから、文献1には、携帯電話において、目の不自由な使用者の操作を容易にしなければならないという課題を有することが記載されているといえる。そして、文献2には、そのような課題を解決するためには、操作内容を音声で教示すれば良いことが記載されているのであるから、文献1に、文献2に記載の操作内容を音声で教示するようにすることで目の不自由な使用者の操作を容易にできることは明らかである。 ⇒進歩性が否定される。 技術分野は異なるが 課題が共通する GUIDE

進歩性の判断 数値限定を伴った発明の考え方 2-4 臨界的意義とは・・・ 数値を限定した場合 数値範囲内の全ての部分で効果がある 臨界的意義(※)がある の両方を満たす必要がある 臨界的意義とは・・・ 発明が先行技術の延長線上にあるときに、 (課題が共通し、装置が数値限定の有無のみの場合) 効果がその数値限定の内と外で量的に顕著な差異があること 〔狙い〕 本願発明と本願発明に最も近い先行技術との差異が、数値限定の範囲や数値限定の有無のみである場合の進歩性の判断について説明する。 〔説明〕 本願発明と先行技術との差異が数値限定の範囲のみである場合は、当該数値範囲内のすべての部分で先行技術と比べて顕著な効果が認められることが必要である。更に、数値範囲の内部と外部でその効果に量的に顕著な差があるという条件が揃う必要がある。これを臨界的意義と呼ぶ。

第2時限 目次 2-1 特許制度と研究・開発者 2-2 特許を受けることができる発明 2-3 新規性について 2-4 進歩性について 第2時限 目次 2-1 特許制度と研究・開発者 2-2 特許を受けることができる発明 2-3 新規性について 2-4 進歩性について 2-5 特許権の効力について 2-6 外国での特許権の取得について 27

特許権の効力 2-5 ①積極的効力と消極的効力 積極的効力 消極的効力 ②特許権の保護期間および発生・消滅 特許権者が、特許発明を独占的に実施することができる効力。 他人による実施を排除できる効力(排他性)。 独占的に実施 他者を排除 特許権の範囲 「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する」(68条)  特許権者自身による実施のみならず、実施許諾した者を通じて特許発明を実施することも積極的効力といえる。 〔狙い〕 特許権が発生した場合の効力について説明する。 〔説明〕  特許権が成立した後、その権利にはどのような効力があるかを説明する。  権利が成立すると、その発明を業として(事業として特許発明を実施すること)実施する権利をもつことになる。  これらの効力には、大きく2つ挙げられることを説明する。 積極的効力:独占的に実施できる。 消極的効力:他者の実施を排除できる。(排他的効力)  また、特許権を取得しても、永遠に続くわけではなく、特許制度には、保護期間が定められており、権利の発生する日が設定登録の日であること、保護期間は出願から20年とされていることを説明する。  しかし、権利者が特許権を放棄する場合には、20年よりも早い時期に権利が消滅し、自由に実施することや、医薬品分野においては、存続期間延長制度が認められており、利用した場合最大25年まで保護されることについても触れる。 ②特許権の保護期間および発生・消滅 「産業の発展」に必要かつ適切な期間に限って保護される。→ 出願から20年 権利の発生は、設定登録の日                    (特許権の存続期間の延長制度利用の場合                                          最大25年まで可能)

第2時限 目次 2-1 特許制度と研究・開発者 2-2 特許を受けることができる発明 2-3 新規性について 2-4 進歩性について 第2時限 目次 2-1 特許制度と研究・開発者 2-2 特許を受けることができる発明 2-3 新規性について 2-4 進歩性について 2-5 特許権の効力について 2-6 外国での特許権の取得について 29

外国での特許権の取得について 2-6 ①直接各国に出願をするルート(パリ優先ルート) ②国際出願経由で各国へ移行するルート(PCTルート) Q.どうして外国で特許を取る必要があるのか? 特許権はそれを取得した国でしか効力がない(各国特許独立の原則) 特許権等の効力は権利を取得した国の中でしか及ばない(属地主義)。 特許に係る製品が外国で製造・販売等される場合は外国出願を検討する必要がある。 Q.外国出願するとき、どのような方法があるか? 〔狙い〕 特許制度は、属地主義であって日本の特許権は、海外には及ばないこと、外国で特許権を取得するためには、それぞれの国で特許権を取得することが必要であることを理解させる。 〔説明〕 属地主義の内容、および、外国に出願する場合には、2つのルートがあることを説明する。 ①直接各国に出願をするルート(パリ優先ルート) ②国際出願経由で各国へ移行するルート(PCTルート) 30

外国での特許権の取得について 2-6 受理官庁 パリ条約ルート PCTルート 米 国 EPO 各国の法令にしたがって権利を付与 米 国 基礎出願=日本特許庁 受理官庁 優先権主張をし、     12月以内に外国出願 国際調査 各国の法令で定められた 様式、言語によりそれぞれ出願 国際公開(18月) 予備審査請求 米 国 EPO 〔狙い〕 パリ条約ルート、PCTルートについて説明する。 〔説明〕  パリ条約ルートでは、各国の法令に規定された様式・言語で出願しなければならないことから、それぞれの国の言語への翻訳を1年以内に終えなければならない。  PCTルートでは、受理官庁、すなわち1国においてPCT出願をすることで、各国へ「出願」したこととなること、翻訳文の提出が出願から30月以内となることなどのメリットがある点を説明。  ただし、PCTルートでも、特許権は各国がそれぞれ審査を行なった上で付与されるものであること。(国際的な統一特許は現在はない点)について説明する。 各指定国に翻訳文を提出 (出願から30月) 各国の法令にしたがって権利を付与 米 国 EPO 各国の法令にしたがって権利が付与 31

2-6 補論:パリ条約の優先権  パリ条約による優先権の主張を伴う出願である場合、第一国出願の明細書等と我が国への出願時の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)とに共通して記載されている発明に関しては、第一国出願日に我が国へ出願があったものとして扱う。 第1国出願 日本出願 出願公開 1年以内に日本へ出願 第1国出願より1年6ヶ月で出願公開 〔狙い〕 パリ条約の優先権主張の内容について説明する。 〔説明〕  外国での出願についての事務負担や翻訳文作成負担により、出願日が遅れるという不利益を防止するために優先権制度があること、これにより、1年間の準備猶予期間が確保されることを説明する。  また、先願主義の立場から、第1国に記載されていない内容を追加した場合には、追加部分については出願日のみなし効果が生じないこととされている点については、必要に応じて説明する。 発明 A、B、C 発明 A、B、D A、Bは第1国出願日に日本出願、Dについては日本出願日に出願されたものと扱う。 32

主要五か国の近年の出願件数の推移 2-6 ※特許行政年次報告書<統計・資料編>2010年版、2011年版、2012年版を基に作成 〔狙い〕 〔狙い〕   出願件数の推移を説明することで、近年の中国の台頭を理解するとともに、我が国の発明件数が相対的に減少しつつある傾向を説明し、この状況がどのような意味を持つかを考察させる。 〔説明〕  数字を指摘しながら、我が国がかつて世界一の出願件数を誇ったこと、及び、近年の状況を比較するとともに、我が国の技術開発力の低下の現実を認識させる。  日本は、2005年までは世界一の特許出願件数であったが、2006年には米国に抜かれ、2010年からは中国にも抜かれて世界3位に。  中国は、2010年にわが国を抜き、さらに2011年には米国を上回って世界第一位の出願件数となった。 2011年各国の出願件数:中国(52.6万件 前年比34.6%増) 米国(50.4万件) 日本(34.3万件) 韓国(17.7万件) 欧州(14.3万件) ※出願件数は特許庁年報2012より ※特許行政年次報告書<統計・資料編>2010年版、2011年版、2012年版を基に作成 33

海外から主要五か国への出願件数の推移 (主要五か国への外国人出願) 2-6  海外から主要五か国への出願件数の推移         (主要五か国への外国人出願) 〔狙い〕 海外出願人がどの国に多く出願しているかを説明し、特許取得上重要である国がどこなのかということを、理解させる。 〔説明〕  グラフの通り、米国は一貫して増大していることから、全世界の出願人が重要視している領域であることがわかる。  他方で、近年我が国への出願件数は減少しており(日本パッシングなどとも言及される)、それに対して中国への出願件数が上回っていることから、世界は中国を重要視しつつあることを説明する。 ※特許行政年次報告書2012年版、USPTO、EPO、SIPO、KIPO各ホームページを基に作成

主要五か国各国への他の四か国からの出願件数 (2010年度) 2-6   主要五か国各国への他の四か国からの出願件数             (2010年度) 〔狙い〕 海外からの出願数から、国際的に重視されている国を理解させる。 〔説明〕 自国外からの特許出願件数を表すグラフ。 日本への出願件数は五極の中では欧州に次ぐ4番目。 アメリカへの出願件数:197043件 中国への出願件数:94179件 欧州への出願件数:68107件 日本への出願件数:50240件 韓国への出願件数:36231件 ※特許行政年次報告書2012年版を基に作成

主要五か国(日本除く)から他の4か国への出願状況 (2010年度) 2-6  主要五か国(日本除く)から他の4か国への出願状況             (2010年度) 〔狙い〕 前のスライドについて、各国別の出願先を示している。 〔説明〕 各国の出願割合から見てもアメリカが中心であり、我が国への出願はそれほど重視されていないことに注目する。 ※特許行政年次報告書2012年版を基に作成