特定保健指導における減酒指導 知識編
アルコールと臓器障害 分子の大きさ 消化管:食道炎、急性胃粘膜病変、胃十二指腸潰瘍、肝硬変 悪性腫瘍:食道癌、口腔、咽頭、喉頭癌、大腸癌、 に伴う食道静脈瘤、食道カンジダ症、胃粘膜の萎縮性変化、Mallory-Weiss症候群、蛋白漏出・吸収不良状態 悪性腫瘍:食道癌、口腔、咽頭、喉頭癌、大腸癌、 肝細胞癌、膵臓癌、乳癌 肝蔵、膵臓:アルコール性肝障害、アルコール性膵炎 脳神経障害:Wernicke-Korsakoff症候群、アルコール性 痴呆、アルコール性大脳萎縮、アルコール性筋症 整形外科疾患:骨粗鬆症、大腿骨骨頭壊死 循環器疾患:高血圧、アルコール性心筋症、不整脈 造血器障害:巨赤芽球性貧血、溶血性貧血、血小板減少 代謝障害:高中性脂肪血症、高乳酸血症、高尿酸血症 水(18) エタノール(46) アルコール(エタノール)の大きさは水に近く(分子量46:水の分子量は18で、ブドウ糖になると180になります)、さらに水にも油にも溶ける性質を持っているため、容易に細胞の膜を通過し、細胞の中に入ります。まさに、お酒が「五臓六腑しみわたる」といった感じです。速やかに血液中のアルコール濃度と臓器細胞内の濃度は同じになり、慢性的な多量の飲酒は肝臓のみならず、膵臓、脳、心臓をはじめとする全身の臓器障害を引き起こします。 ブドウ糖(180)
アルコールは小腸(主に空腸)から主に吸収されますが、胃、十二指腸など上部消化管からも一部吸収されます。吸収されると門脈を経て肝臓へ到達し、約90%は肝臓において代謝されます。代謝されずに尿、呼気、汗などから排出される量は数%です。
その多くは精神科やアルコール専門病院でなく、 内科などの一般診療科で治療されている。 1日3合以上の飲酒者 約860万人 問題飲酒者 約300万人 アルコール依存症患者 約80万人 精神科にて治療中の患者数 約2~5万人 アルコール使用障害が原因で入院している患者 約21万人 同 外来患者 約119万人 わが国には、問題飲酒(アルコール使用障害)者は約300-400万人、アルコール依存症患者は約80万人いると推計されていますが、精神科にてアルコール依存の治療を行っている患者数は2~5万人程度です。アルコール使用障害が原因で入院している患者は21万人で、外来患者は119万人と推計されており、その多くは精神科やアルコール専門病院でなく、内科などの一般診療科で治療されています。アルコール使用障害を認める患者が最初に医療機関を受診する場合、身体症状や健康診断での異常値を主訴に内科外来を受診するか、外傷などで救急外来や整形外科を受診することがほとんどです。 その多くは精神科やアルコール専門病院でなく、 内科などの一般診療科で治療されている。
過量飲酒に感受性のある血液検査 1.γ-GTP活性の上昇 2.赤血球容積(MCV)の増加 3.GOT(AST)とGPT(ALT)活性の上昇 4.尿酸値の上昇 過量飲酒の指標にはこの他にも血清トランスフェリンの微少変異(CDT)などがありますが、単一所見でアルコール性肝障害の診断を確定するような有力な検査は存在せず、種々の指標を組み合わせてアルコール性肝障害の診断がつきます。 5.中性脂肪(空腹時)の上昇 6.CPK活性の上昇
アルコール性肝障害診断基準 (アルコール医学生物学研究会 2011年版) アルコール性肝障害診断基準 (アルコール医学生物学研究会 2011年版) アルコール性肝障害とは、通常は5年以上の長期にわたる過剰の飲酒が肝障害の主な原因と考えられる病態で、以下の条件を満たすものです。 1. 過剰の飲酒:一日あたり、アルコール度数5%のビール(またはカンチューハイ)でロング缶(5%)3本以上に相当する飲酒をいいます。※ただし女性や少量の飲酒でも赤くなりやすい体質の人では、1日ロング缶2缶程度の飲酒でも肝障害が起こる可能性があります。 2. 禁酒により、血清AST、ALTおよびγ-GTP値が明らかに改善する。 3. B型肝炎やC型肝炎や、自己免疫性肝炎などが血液検査上否定される。 アルコール性肝障害診断基準(2011年版) アルコール医学生物学研究会(JASBRA) 2012
アルコール性肝疾患の経過 アルコール過剰摂取 脂肪肝 肝線維症 治 癒 アルコール性肝炎 肝硬変 死 亡 肝 癌 節酒、断酒 断酒 重症化 90~100% 脂肪肝 30 ~ 40% 節酒、断酒 肝線維症 治 癒 10 ~ 30% 10 ~ 20% アルコール性肝炎 肝硬変 断酒 アルコールの過飲により最初に起こる疾患は脂肪肝です。脂肪肝とは、肝臓に中性脂肪が大量にたまった状態であり、飲酒以外では肥満でも起こります。脂肪肝は大量飲酒者のほとんどに認められますが、2-4週間の断酒で消失します。アルコール性脂肪肝の状態にある人が、連続大量飲酒を繰り返すと、その約10-20%にアルコール性肝炎が発症します。アルコール性肝炎は、数日間の大量飲酒後に出現し、肝逸脱酵素(特にAST)の上昇、黄疸、発熱、嘔吐、下痢などの症状が見られます。一部のアルコール性肝炎では、禁酒しても肝腫大が持続する例があり、死亡する例もあります。重症化しなくても、長期に大量飲酒をすると、肝の線維化が進み、アルコール性肝線維症から、肝障害の末期であるアルコール性肝硬変に至る場合があります。アルコール性肝硬変では、黄疸や腹水、全身倦怠感などの症状が見られ、日本酒換算で5合程度以上、ビールや缶チューハイ換算でロング缶5本以上を20-30年以上続けているひとに多発します。但し、女性の場合はその3分の2の飲酒量で、かつ飲酒期間も12-20年程度で肝硬変に至る場合が多く、アルコール依存症者のうち10-30%程度のひとに発病します。 重症化 死 亡 肝 癌
なぜ飲酒すると脂肪肝になるのか? (1) 肝臓で合成される脂肪の増加 (2) 脂肪酸酸化の低下による中性脂肪の増加 (3) 末梢から肝臓へ移動する脂肪の増加 アルコール性脂肪肝の成因としては、(1)肝臓における脂肪合成亢進 、(2) 肝臓における脂肪酸酸化の低下 による中性脂肪の増加、(3) 末梢から肝臓へ移動する脂肪の増加 、(4)肝臓から末梢へ移動する脂肪の運搬障害 (4) 肝臓から末梢へ移動する脂肪の運搬障害
AST, ALT, γ-GTP, TGの推移 AST (IU/L) ALT (IU/L) * * 来院時 8週後 来院時 8週後 栄養相談あり(n=19) 栄養相談なし (n=29) AST (IU/L) ALT (IU/L) * * このスライドと次のスライドに示すグラフは、アルコール性肝障害患者さんの管理栄養士による栄養相談受診後の肝酵素の推移です。栄養相談なしの群に比べて、栄養相談を受けた群では、AST,ALTなどが。統計上も明らかに大きく低下しています。管理栄養士による栄養指導が、生活習慣を改善し、アルコール性肝障害も改善すると考えられます。 来院時 8週後 来院時 8週後
AST, ALT, γ-GTP, TGの推移 γGTP (IU/L) TG (mg/dL) 来院時 8週後 来院時 8週後 栄養相談あり(n=19) 栄養相談なし (n=29) γGTP (IU/L) TG (mg/dL) * * 来院時 8週後 来院時 8週後 *p<0.05 vs 栄養相談なし
傷病別年次推移の予測 1996 1999 2002 2005 2008 (千人) 厚生労働省統計より作図 このグラフは、厚生労働省の患者調査での、アルコールを除いた肝硬変の患者数と、アルコール性肝硬変の患者数の推移です。アルコール性を除く肝硬変患者数は近年急速に減少傾向にありますが、アルコール性肝硬変は徐々にではありますが、増加傾向にあります。 1996 1999 2002 2005 2008 厚生労働省統計より作図
肝硬変の成因 平成10年度全国統計 平成19-20年度全国統計 12% 14% アルコール性 12% アルコール+ウイルス性 15% Horie Y, Hepatol Int, 2013 平成10年度全国統計 平成19-20年度全国統計 (n=21769) (n=16244) 12% 14% 肝硬変というと、アルコール以外にも、B型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルスといったウィルス性肝硬変も有名です。 このグラフは、肝硬変の成因の分類を示していますが、HBVがB型肝炎ウィルス、HCVがC型肝炎ウィルス、ALがアルコール性を表しています。HBV,HCVの検査が検診で受けられるようになってから、純粋なアルコール性は微増し、アルコール+ウイルスは著明に減少しました。 アルコール性 12% アルコール+ウイルス性 15% 合計 27% アルコール性 14% アルコール+ウイルス性 6% 合計 20% 12
肝硬変の成因 2007-08(n=16224) 2012(n=9326) AL 13.7% ウィルス+AL 6.2% HBV HBV+AL HCV HCV+AL HBV+HCV AL Other 2007-08(n=16224) 2012(n=9326) しかし、全国調査にて、9326例(男:5768、女:3558)の肝硬変患者のうち、アルコール単独によるものは2293例,24.6 %(男:1979例,34.3%、女:314例, 8.8%)で、肝炎ウイルスマーカー陽性例をあわせると2857例,30.6 %(男:5768例,42.4%、女:411例, 11.6%)に達しました。肝炎ウイルスの関与については、平成19~20年度の調査ですでにウイルス性合併アルコール性肝硬変症例は平成10年度の15%から6%と激減していますが、今回の検討でも6%で、近年はアルコール性肝硬変への進展に肝炎ウイルスの影響は少ないと考えられています。今後はアルコール健康障害対策基本法に基づく対策によって、問題飲酒者数そのものの低減を目指す必要があります。 AL 13.7% ウィルス+AL 6.2% AL Total 19.9% AL 24.6% ウィルス+AL 6.0% AL Total 30.6% 堀江 義則 平成25年度厚生労働科学研究費補助金研究総合報告書(樋口班) アルコール性肝障害の実態調査 2014
アルコール性肝硬変の予後と飲酒の影響 (88%) (35%) 断酒継続 飲酒再開 (%) 100 80 60 40 20 生存率 断酒継続 (88%) 生存率 飲酒再開 (35%) このグラフは、アルコール性肝硬変の生存率を示しています。縦軸が生存率、横軸が年数で、断酒継続群と、飲酒再開群に分けて示しています。 肝臓に回復する能力が残っている代償性のアルコール性肝硬変においては、断酒した群では4.4年後の生存率が88%であるのに対し、飲酒を再開、継続した群では35%にとどまり、アルコール性肝硬変の予後はひとえに断酒できるか否かにかかっていると言えます。 0 1 2 3 4 4.4 (年) (Yokoyama A, et al., Alcohol Alcohol, 1994)
移植の有無による非代償性アルコール性肝硬変の予後 (Child-Pugh C) (%) 内科治療 肝移植 生存率 腹水 肝性脳症 黄疸 プロトンビン時間延長 腹水、肝性脳症、黄疸、プロトロンビン時間延長、アルブミン低下などを認める、最も重症の非代償性のアルコール性肝硬変に至ると、断酒しても予後不良で、肝移植も検討されます。 アルブミン低下 (年) Poynard T; J Hepatol, 1999より作図
体重過多と過剰飲酒による肝疾患脂肪率の相対危険度への影響 9.53 (4.98-18.2) 相互作用によるリスクの増加 アルコールによるリスクの増加 BMI(身長2/体重)によるリスクの増加 ベースラインのリスク 3.66 (1.74-7.71) 95 1.29 (0.60-2.80) このグラフは、肥満と過剰飲酒が肝疾患での死亡率をいかに上げるか示した調査結果を示しています。肥満(RR 1.29)とアルコール(3.66)は、ともに肝臓病死の危険因子であり、しかも相加的な関係(一足す一の関係)でなく、相乗効果があり、肥満の過剰飲酒者の肝疾患死亡率の危険度は、約10倍になります。 1 ベースライン ベースライン +BMI ベースライン +アルコール ベースライン +BMI+アルコール(相互作用) Hart CL, BMJ, 2010
下咽頭・食堂がんのリスクと飲酒・喫煙習慣 アルコールと癌 食道癌 (咽頭癌、喉頭癌) 危険因子:高濃度アルコール飲料、喫煙、少量の飲酒でも 赤くなりやすい人、赤血球の大きさ(MCV)が大きい 胃癌 :飲酒との関連については、はっきりしない。 大腸癌 :飲酒との関連あり 下咽頭・食堂がんのリスクと飲酒・喫煙習慣 喫煙なし 30本/日以上 飲酒習慣なし アルコールとがんとの関係です。アルコールは、適正量だと胃酸の分泌を増加させ、食欲増進作用などがありますが、高濃度アルコールは、食道炎、急性胃粘膜病変(出血性胃炎)、胃十二指腸潰瘍を引き起こし、さらに大量飲酒は、肝硬変に伴う食道静脈瘤、食道カンジダ症、胃粘膜の萎縮性変化、Mallory-Weiss症候群、蛋白漏出・吸収不良状態を引き起こします。悪性腫瘍として、食道癌はアルコール依存症患者(男性、40歳以上)の約4%(一般人口では、0.05-0.08%)に認めます。その他に口腔、咽頭、喉頭癌も0.9%.に認められます。高濃度アルコール飲料、喫煙、少量の飲酒でも赤くなりやすい遺伝子型(ALDH2ヘテロ欠損型)が危険因子になります。大腸癌も飲酒との関連が認められます。 1倍 4倍 日本酒換算で 1.5合以上の飲酒 8倍 30倍 アルコールと健康に関する保健指導マニュアル 石井裕正 編 太平社 東京 2010
中年男性の食道がんリスク 調整オッズ比 飲酒量 (合/週) 赤くなりにくい人 赤くなりやすい人 ALDH2のヘテロ失活型が食道癌の危険因子になります。 飲酒量 (合/週) 横山顕 成人病と生活習慣病 39; 473-478, 2009
アルコール摂取量と大腸がんのリスク 大腸がんリスク アルコール摂取量(g/日) 大腸がん 結腸がん 直腸がん 飲酒量と大腸がんの関係を示したグラフです。飲酒量に比例して大腸がんのリスクが増加してます。 アルコール摂取量(g/日) Mizoue T, Am J Epidemiol 2008
急性・慢性膵炎発症における飲酒量別の危険度(オッズ比) 急性膵炎 慢性膵炎 急性・慢性膵炎とも、1日あたり、ビールロング缶2缶に相当する40g以上の飲酒でその発症リスクが容量依存性に増加します。 1日飲酒量 1日飲酒量 アルコールと健康に関する保健指導マニュアル 石井裕正 編 太平社 東京 2010
急性膵炎後の飲酒と合併症の頻度 飲酒状況 膵炎再発 慢性膵炎への移行 糖尿病合併 断酒 19.8% 13.6% 14.1% 飲酒状況 膵炎再発 慢性膵炎への移行 糖尿病合併 断酒 19.8% 13.6% 14.1% 節酒(時々) 18.9% 12.3% 14.2% 節酒(毎日) 36.7% 23.3% 30.0% 継続飲酒 57.7% 40.9% 37.2% 膵炎もアルコールとの関係が深い疾患ですが、急性膵炎後の飲酒動態による合併症の発生頻度では、急性膵炎の再発、慢性膵炎への移行、糖尿病ともに、容量依存性に増加します。 アルコールと健康に関する保健指導マニュアル 石井裕正 編 太平社 東京 2010
アルコール摂取量と各疾患のリスク 死亡率 1日あたりのアルコール摂取量 虚血性心疾患による死亡 脳血管障害による死亡 事故死 全死亡 がんによる死亡 事故死 死亡率 脳梗塞などの脳血管障害、がんによる死亡率は、ビールロング缶1缶程度に相当するアルコール20g程度までは低下し、それ以上の飲酒では増加します。また心筋梗塞などの虚血性心疾患では20g程度までは低下し、60g程度までは死亡率は増えません。事故死は20g程度までは同等で、それ以上だと増加します。 1日あたりのアルコール摂取量 ◆アルコール摂取量の1単位は、日本酒は0.5合、ビール小瓶1本、ウイスキーシングル1杯に相当 Boffetta P, Garfinkel L: Epidemiology 1990;1:342.
虚血性心疾患とアルコール 1.アルコールは血小板凝集抑制作用を持つ 2.アルコール摂取は、線溶系を亢進させる。 1.アルコールは血小板凝集抑制作用を持つ 2.アルコール摂取は、線溶系を亢進させる。 3.アルコール摂取により、HDLコレステロール(善玉コレス テロール)が増加し、それぞれが、虚血性心疾患の発症 頻度と逆相関する。 飲酒が虚血性心疾患のリスクを下げる理由としては、血小板凝集抑制作用、線溶系の更新など、いわゆる血液をサラサラにする効果や、HDLコレステロールの増加 などによる動脈硬化を防ぐ効果などが関与している可能性があります。アルコール以外の含有物の効果を指摘する報告もあります。 4.赤ワイン中には、抗酸化物質、血小板凝集抑制物質が含 まれており、このようなアルコール以外の含有物の効果も 指摘されている。
アルコール摂取量と血圧の関係 収縮期 拡張期 血圧 1日あたりのアルコール摂取量 血圧は収縮期も拡張期も、10g以上の飲酒で上昇し、飲酒量が増えると血圧もそれに比例して上昇します。 1日あたりのアルコール摂取量 Criqui MH,Ranger RD,et al: Circulation 1989;80:609
節酒による血圧低下(非服薬男性高血圧患者) 収縮期血圧の変化(mmHg) 3週まで節酒 3週から節酒 このグラフは、最低週4日以上にわたり1日平均あたりビールロング缶2缶程度に相当するアルコール40gを飲酒している高血圧患者さんにおいて、節酒による血圧低下をみた研究の結果で、実験開始後3週まで節酒(ビールロング缶1缶減らし、つまり半分に)し、その後元の飲酒(ビールロング缶2缶)に戻した群と、実験開始後3週目から節酒を開始した群に分けています。縦軸が、実験開始前後での収縮期血圧の変化で横軸が実験開始を0週とした時間経過です。3週目まで節酒した群では一旦血圧が下がっていますが、その後の過剰飲酒によりもとに戻っているように、過剰飲酒による収縮期血圧の上昇は、節酒により低下し、再飲酒により再び上昇します。 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 Ueshima H, et al, Hypertension, 1992
年齢別の飲酒と冠動脈石灰化の危険度 RR アルコールと健康に関する保健指導マニュアル 石井裕正 編 太平社 東京 2010 40歳代および60歳代の男性において、少量飲酒が冠動脈石灰化に予防的な可能性が示唆されますが、40歳代では日本酒換算で2合以下に対し60歳代では1合以下で最も相対危険度が低く、適量が年齢層によって異なる可能性も示されています。 アルコールと健康に関する保健指導マニュアル 石井裕正 編 太平社 東京 2010
アルコール摂取量と脳卒中のリスク 脳卒中リスク アルコール摂取量(g/週) 脳出血 脳梗塞 脳血管障害による死亡率は、脳梗塞では1日20g程度までは低下し、それ以上の飲酒では増加します。出血性脳卒中は1日20g程度でも増加します。 アルコール摂取量(g/週) JPHC Studyより 津金 昌一郎 アルコールと健康 アルコール健康医学協会
アルコール摂取量とがん死亡のリスク 相対リスク アルコール摂取量(g/週) 世界保健機構 (WHO) のがん研究の部門であるInternational Agency for Research on Cancer (IARC) によると、アルコール性飲料は、口腔、咽頭、喉頭、食道、肝臓の癌の原因であり、それに加え、乳癌、結腸直腸癌もその因果関係があると認められています。癌による死亡率も、1日20g程度までは低下し、それ以上の飲酒では増加します。 アルコール摂取量(g/週) JPHC Studyより 津金 昌一郎 アルコールと健康 アルコール健康医学協会
アルコール摂取量とがん死亡のリスク耐糖能異常ならびに 2型糖尿病の発症率 耐糖能異常ならびに2型糖尿病の発症率 10 20 30 人口1,000人 × 年あたりの発症率 (n=2,953) 耐糖能異常 2型糖尿病 飲酒はダイエットや糖尿病の発症には悪玉のように言われてきましたが、実はアルコールを毎日適量に飲んでいる人の方が全く飲まない人よりも、2型糖尿病になる危険性が少ないとの報告もあります。グラフのようにアルコールを適量(日本酒換算で1-2合)に飲んでいる人の方が全く飲まない人よりも、2型糖尿病になる危険性が少ないのです。ただし、この効果は健康な人からの糖尿病の発症を予防するということで、すでに糖尿病にかかっている患者さんの耐糖能をよくするというものではありません。また、60g以上ではこの効果はありません。 0.1-22.9 23-45.9 46-68.9 69 エタノール消費量 (g/day) (N Nakanishi, Diabetes Care, 2003;26:48-54)
飲酒量別に見た高尿酸血症患者の割合 1日の平均飲酒量(日本酒換算) 25.0% 尿酸7mg/dl以上 高 20.0% 尿 10.0% 15.0% 20.0% 25.0% 飲まない 1合未満 1-2合 2-3合 3合以上 尿酸7mg/dl以上 尿酸9mg/dl以上 1日の平均飲酒量(日本酒換算) 高 尿 酸 血 症 患 者 の 割 合 山中寿他 日本臨床 55:201,1997 痛風はお酒をよく飲む人に多く( 94%が飲酒者)、少量の飲酒量でも上昇します。 飲酒(アルコール)による高尿酸血症の機序の説明としては ・ アルコール飲料自体の尿酸 ・ 酢酸代謝に伴う肝臓でのプリン体合成促進 ・ 尿酸排泄抑制 (高乳酸血症による乳酸との拮抗) ・ アルコール利尿による脱水 ・ 食欲増進 などがあげられます。 飲酒(アルコール)による高尿酸血症の機序 ・ アルコール飲料自体の尿酸 ・ 酢酸代謝に伴う肝臓でのプリン体合成促進 ・ 尿酸排泄抑制 (高乳酸血症による乳酸との拮抗) ・ アルコール利尿による脱水 ・ 食欲増進
飲酒による生活習慣病 → J ↑ ↑ J J ↑ J ↑ J 肥満 → がん J 高血圧 ↑ 脳出血 ↑ 高血糖 J 脳梗塞 J 肥満 → 高血圧 ↑ 高血糖 J 高脂血症 ↑ HDL ↑ がん J 脳出血 ↑ 脳梗塞 J 心疾患 J 糖尿病 J → J ↑ ↑ アルコール J J ↑ J ↑ J 飲酒は、肥満には直接的には関与しませんが、血圧を上昇させます。しかし、HDLは増やし、血糖値は少量飲酒で予防、大量飲酒で増悪させ、結果として脳出血以外、がんや脳梗塞、虚血性心疾患、糖尿病などは、少量飲酒で予防され、大量飲酒で増悪します。 → :飲酒と病気のリスクとの関係が確認できない ↑ :少量の飲酒でもリスクが増加 ↓ :飲酒によりリスクが低下 J :少量飲酒でリスク低下するが大量飲酒でリスク増加 ( J カーブ)
特定保健指導における減酒指導 介入編
アルコールと死亡率 女性 死亡率 男性 飲酒量 ビール1.5ℓ以上 女性:1.6倍 男性:1.4倍 ビール(5%)換算 0.25ℓ未満 女性:0.88倍 死亡率 男性 1 ビール(5%)換算0.25ℓ~0.5ℓ未満 男性:0.84倍 アルコール消費量と、虚血性心疾患などの病気のリスクや全体の死亡率の関係は、一定量までは、リスクや全体の死亡率を下げ、それを超えると右肩上がりで上昇します。この関係をグラフにすると、アルファベットのJに似ていることからJカーブと呼ばれます。このことに示されるように、アルコール指導では、依存症など、お酒の量や問題をコントロールできない人を除いては、飲み過ぎの人であっても、禁酒ではなく、飲酒量の低減が目標となります。 飲酒量 出典:Holman CD et al. Meta-analysis of alcohol and all-cause mortality. MJA. 1996.
飲酒指導のポイント 危険の少ない飲みかたを知ってもらう “節度ある適度な飲酒” 自分の飲みかたの危険度を知る “AUDIT” 飲酒量の減らし方を学ぶ “簡易介入” では、具体的にどのような指導を行えばよいでしょうか。飲酒指導を行う際のポイントとしては、①危険の少ない飲みかたを知ってもらう、②自分の飲みかたの危険度を知る、③飲酒量の減らし方を学ぶということです。 ①を具体的にいうと、節度ある適度な飲酒や生活習慣病のリスクのある飲酒の量を知ってもらうこと、②は、スクリーニングテストを用いて、自分の飲酒の危険度を測ること、③は簡易介入を通して、具体的な飲酒量の減らし方を習得することです。
節度ある適度な飲酒 節度ある適度な飲酒(第一次健康日本21) 5% 500ml 男性 女性 1日平均20g程度 男性の1/2~2/3 ビール 4% 発泡酒350ml 厚生労働省の健康日本21(第一次)では、男性については、節度ある適度な飲酒の目安として、5%のビールロング缶(500ml)1缶程度のアルコール量に相当する1日平均20g程度となっています。女性については、男性より少ない量が適当としか書かれていないのですが、諸外国では男性の1/2から2/3程度としていることからすると、アルコール度数の低めの発泡酒(4%)のレギュラー缶1本程度と考えられます。ただし遺伝的にお酒に弱い体質を持つ、少量の飲酒で顔が赤くなる人や、65歳以上の高齢者においては、より少量の飲酒が望ましく、また飲酒習慣のない人に対してこの量の飲酒を推奨するものでもないことについても留意する必要があります。もちろんアルコール依存症では完全に酒を止めることが必要です。
自分の飲み方の危険度を知る ~AUDIT~ Alcohol Use Disorder Identification Test 自分の飲み方の危険度を知る方法としては、通常AUDIT(オーディット)が用いられます。AUDITは、アルコール衣装障害同定テスト( Alcohol Use Disorders Identification Test)の頭文字から命名された、アルコール問題のスクリーニングテストテストです。
AUDIT 世界で最もよく使われているスクリーニングテスト 治療効果判定の指標としても使われる。 アルコール依存症以外にも広く有効 特定保健指導でも日本酒換算で1~2合以上のアルコールを「毎日」又は「時々」飲むと答えた人に活用することが勧められている。 日本人では15点がカットオフポイント(廣) 最初の3つの質問のみのAUDIT-Cもよく使われている。 AUDITは、WHOが飲酒問題を早期に発見するために作成したもので、アルコール関連のテストの中では、世界中で最もよく使われています。特定保健指導でも日本酒換算で1~2合以上のアルコールを「毎日」又は「時々」飲むと答えた人に活用することが勧められています。
AUDIT(アルコール使用障害スクリーニング)① 質問1 あなたはアルコール含有飲料(お酒)をどのくらいの頻度で飲みますか? 0 点 飲まない 1 1ヶ月に1度以下 2 1ヶ月に2~4度 3 週に2~3度 4 週に4度以上 ぴったりの選択肢がない時は 近いほうを選ぶ 質問2 飲酒するときには通常どのくらいの量を飲みますか? 0 点 0~2ドリンク* 1 3~4ドリンク 2 5~6ドリンク 3 7~9ドリンク 4 10ドリンク以上 (注) ○「ドリンク」は純アルコール換算の単位で、 1ドリンクは純アルコール換算で10グラムです。 ○1ドリンクは、ビール中ビン半分(250ml)、 日本酒0.5合、焼酎(25度)50mLに相当します。 *通常のAUDITは「1~2ドリンク」ですが、すべてを分類できるよう、「0」の場合を含めています。 AUDITの質問1から3は飲酒量に関するものです。質問1は、あなたはお酒をどのくらいの頻度で飲みますかというもので、全く飲まない人は0点、一か月に一度以下は1点、一か月に2~4度は2点、週に2~3度は3点、週に4度以上は4点となっています。対象者の飲酒頻度に、ぴったり当てはまる選択肢がない場合は、より近い方を選択しましょう。質問2は飲酒するときの一回当たりの量です。飲酒量の計算には通常“ドリンク”という単位を使います。ドリンクは純アルコール10gを指しています。たとえば、ビール500mlの場合、500ml×5% (アルコール度数)×0.8(アルコールの比重)=20g=2ドリンク、ということになります。また質問3は、一度に6ドリンク以上飲む頻度の質問です。こちらも、質問1と同じようにより近い方を選択します。 質問3 1度に6ドリンク以上飲酒することがどのくらいの頻度でありますか? 0 点 ない 1 月に1度未満 2 月に1度 3 週に1度 4 毎日あるいはほとんど毎日 焼酎 2合(弱) 日本酒/ロング缶 3合/3本 中ジョッキ/レギュラー缶 4杯(本) ワイン 5杯
“drink”換算 ビール・発泡酒(5%) コップ1杯(180ml) 0.7 ドリンク 中ジョッキ(350ml) 1.4 ドリンク お酒の種類 お酒の量 ドリンク数 (1ドリンク=アルコール10g) ビール・発泡酒(5%) コップ1杯(180ml) 0.7 ドリンク 中ジョッキ(350ml) 1.4 ドリンク レギュラー缶(350ml) ロング缶(500ml) 2 ドリンク 焼酎・泡盛(25%) 1合 3.6 ドリンク 水割りコップ1杯 1.8 ドリンク チューハイ(7%) レギュラー缶 ロング缶 2.8 ドリンク 日本酒(16%) 2.3 ドリンク ワイン(12%) グラス1杯(120ml) 1.2 ドリンク ボトル1本(750ml) 7.2 ドリンク ドリンク数については、毎回、酒の種類と量から計算するよりも、換算表を使ったほうがより簡単です。この表を利用して計算していきましょう。
AUDIT(アルコール使用障害スクリーニング) ② 質問4 過去1年間に、飲み始めると止められなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか? 0 点 ない 1 月に1度未満 2 月に1度 3 週に1度 4 毎日あるいはほとんど毎日 質問5 過去1年間に、普通だと行えることを飲酒していたためにできなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか? 0 点 ない 1 月に1度未満 2 月に1度 3 週に1度 4 毎日あるいはほとんど毎日 質問4以降は、飲酒に関連した問題が続いています。 質問6 過去1年間に、深酒の後体調を整えるために、朝迎え酒をしなければならなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか? 0 点 ない 1 月に1度未満 2 月に1度 3 週に1度 4 毎日あるいはほとんど毎日
AUDIT(アルコール使用障害スクリーニング) ③ 質問7 過去1年間に、飲酒後罪悪感や自責の念にかられたことが、どのくらいの頻度でありましたか? 0 点 ない 1 月に1度未満 2 月に1度 3 週に1度 4 毎日あるいはほとんど毎日 質問8 過去1年間に、飲酒のため前夜の出来事を思い出せなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか? 0 点 ない 1 月に1度未満 2 月に1度 3 週に1度 4 毎日あるいはほとんど毎日 質問9 あなたの飲酒のために、あなた自身か他の誰かがけがをしたことがありますか? 0 点 ない 2 あるが、過去1年にはなし 4 過去1年間にあり 質問8の、飲酒のために前夜の出来事を思い出せない、というのは、通常black outと呼ばれています。 質問10 肉親や親戚、友人、医師、あるいは他の健康管理にたずさわる人が、あなたの飲酒について心配したり、飲酒量を減らすように勧めたりしたことがありますか? 0 点 ない 2 あるが、過去1年にはなし 4 過去1年間にあり
症例 名前:山田太郎 性別:男性 年齢:48歳 職業:大手電機メーカー勤務(課長) 身長:160cm, 体重:82㎏, BMI:32.0,腹囲:90cm(保健指導判定値:男性85㎝,女性90cm),血圧:146/90(135/85) 検査データ:(基準値) TG:459↑ (150),HDL-Cho:41(39),LDL-Cho:85(120) AST:46↑ (31),ALT:38 (31), γGTP:72↑(51), FBS:116(100), HbA1c(NGSP):6.1(5.6) 尿蛋白:-(-) では、この症例を参考にして、AUDITをつけてみましょう。症例は48歳男性で、スライドに示すような検査データを示しています。
生活歴 大学卒業後、電機メーカーに就職し、主に営業を担当する。35歳で係長になったころより、自宅で毎日飲酒(ビールロング缶2本/日)するようになる。それ以外でも、週に2回は仕事帰りに飲みに行き、ビール中ジョッキ2杯と、日本酒3合を飲酒している。それ以上飲む事はないが、一度だけ、半年前の忘年会でお酒が止まらなくなり、ブラックアウトとなり、妻に飲み過ぎと怒られた。朝酒はなく、けがをしたり喧嘩をするなどのトラブルや、日常生活や仕事への影響はなく、飲酒後の自責感や罪悪感を感じたことはない。 体重は、大学卒業時は50kgだったが、徐々に増加し40歳頃には70㎏となる。この頃より、健康診断で肥満と、肝機能障害を指摘されるようになる。 42歳、20歳から吸っていたタバコを止めたあとから、急激に体重が増加し現在の体重となる。肥満解消のために、一時スポーツジムに通うもすぐに挫折し、現在はたまに接待でゴルフを行う程度の運動しかしていない。 今回は、会社の健康診断で、血糖、脂質、血圧の3つが該当し、且つ受療しておらず、年齢も40~64歳に相当することより、特定保健指導の積極的支援の対象者として健康保険組合保健師へ紹介となった。 生活歴についても、このスライドのようになっています。(クリックして赤でハイライトさせる)最初の部分が、AUDITに関係した部分です。では、5分くらいでつけてみましょう。わかりにくい場合、自分自身のAUDITをつけてみても結構です。
14点 AUDIT計算 毎日飲酒: 質問1: 週に4度以上 4点 ビールロング缶2本/日: 質問2: 3~4ドリンク 1点 質問1: 週に4度以上 4点 ビールロング缶2本/日: 質問2: 3~4ドリンク 1点 週に2回はビール中ジョッキ2杯と日本酒3合 (1.4×2+2.3×3=9.7ドリンク) 質問3: 週に1度 3点 半年前お酒が止まらなくなり、ブラックアウト 質問4&質問8: 月に1度未満 1点+1点 妻に飲み過ぎと怒られた 質問10: 過去1年間にあり 4点 回答です。“山田太郎”さんの場合、毎日飲酒していることより、質問1が“週に4度以上”の選択肢に該当し、4点。普段、家で飲酒するときはビールロング缶2本(=4ドリンク)を飲むことから、質問2は、“3~4ドリンク”に該当し、1点。週に2回はビール中ジョッキ2杯と日本酒3合を飲んでおり、この場合のドリンク数が9.7ドリンクと、6ドリンクを超えていることから、質問3の6ドリンク以上の頻度は、“週に1度”と“毎日あるいはほとんど毎日”の、より近い方で、“週に1度”を選択して、3店となります。また半年前にお酒が止まらなくなったことから、質問4の“飲み始めると止まらなかった”が1点、このときに記憶もなくしていることから、質問8“記憶を思い出せない”が1点となります。また、このとき妻に怒られていることから、質問10の“飲酒について心配された”に該当し、より近い選択肢から1点となります。すなわち合計で14点になります。 14点
AUDITでよく引っかかる点① ドリンク数の計算が大変 簡易的に、強いお酒(日本酒、ウィスキー)や大きな容器(ジョッキのビール、ロング缶)の1杯は2ドリンク 弱いお酒や小さな容器(ビールグラス1杯、ワイン1杯)は1ドリンクで計算しても良いでしょう AUDITで、一番引っかかりやすいのが、ドリンク数の計算が大変ということです。飲酒に対する意識を高める意味では面倒でもしっかりと計算してほしいのですが、実際の保健指導では難しい場合もあります。その場合、簡易的に強いお酒(日本酒、ウィスキー)や大きな容器(ジョッキのビール、ロング缶)の1杯は2ドリンク、弱いお酒や小さな容器(ビールグラス1杯、ワイン1杯)は1ドリンクで計算しても良いでしょう
AUDITでよく引っかかる点② 質問5「普通だと行えることを飲酒していたためにできなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか」 ⇒二日酔いなどで遅刻・欠勤する。 ⇒休日も昼から飲んでいて、子供を遊びに 連れていけなかった。 など・・・ また、もぅひとつ引っかかる点としては、質問5の「普通だと行えることを飲酒していたためにできなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか」が何を指しているのかわからないということがあります。これについては、「二日酔いなどで遅刻、欠勤する」「休日も昼から飲んでて、子供を遊びに連れていけなかった」など、お酒によって生活に支障をきたしたエピソードが該当します。
「今のままお酒と上手に付き合っていきましょう」と伝える(介入不要) AUDITの判定方法 質問1 点 【判定】 問題飲酒は ないと思われる 「今のままお酒と上手に付き合っていきましょう」と伝える(介入不要) 質問2 点 質問3 点 ~7点 質問4 点 減酒支援 対象者自らが減酒目標を立て、飲酒日記をつけて減酒に取り組むことを支援する。 合計 質問5 点 【判定】 問題飲酒はあるが 依存症には至らない 点 8~14点 質問6 点 (0~40点) 質問7 点 これらの点に気を付けて、AUDITを計算してみましょう。特定保健指導ではAUDIT8点~14点の対象者が、問題飲酒者だがアルコール依存症までは至っていないとして、減酒支援の対象になります。15点以上の対象者は、アルコール依存症の可能性が高く、減酒は難しいため、専門医療機関での断酒治療を勧めています。7点以下の対象者は、AUDIT上は問題飲酒のリスクが低いと判断されるため、ほかに問題がなければ介入不要となります。 15点~ 質問8 点 アルコール依存症の疑いがあるため、可能なら精神保健福祉センター等と連携し、専門医療機関での治療(断酒等)につながるよう支援する。 質問9 点 【判定】 依存症が疑われる 質問10 点
【参考】一般住民におけるAUDITの点数別分布 【参考】一般住民におけるAUDITの点数別分布 8~14点 15点~ 15点~ 約5% 約3% 約1% 8~14点 約19% ~7点 ~7点 では、特定保健指導の減酒指導の対象者となるのはどのくらいいるのでしょうか。一般住民を対象にした調査では、AUDIT8点から14点の群は、男性で19%、女性で3%となっています。 男 性 (n=1,184人) 女 性 (n=1,363人) 出典:成人の飲酒実態調査(2003年) 樋口ら
AUDITを全部やるのが大変な場合 AUDIT最初の3つで 男性5点以上、女性4点以上 週の飲酒量が、生活習慣病のリスクを高める量【男性280g、女性140g】を超えている 上記の対象者に減酒指導を行う (アルコール依存症は除く) 一方で、特定保健指導の限られた時間の中でAUDITをすべて行うのが困難な場合も考えられます。その場合、AUDITの最初の3つの質問だけでも行いましょう。これらの合計点が、男性では5点以上、女性では4点以上の場合、問題飲酒の可能性が高いことから減酒指導の対象となります。また、健康日本21(第二次)で、生活習慣病のリスクを高める量に相当する、男性では、1日平均40g、週換算で280g、女性では1日平均20g、週換算で140g以上の飲酒者にも減酒指導を行いましょう。
減酒指導 ~簡易介入~ 短時間の個別カウンセリング(5~30分) 通常、1~数回のフォローアップカウンセリングを行う 減酒指導 ~簡易介入~ 短時間の個別カウンセリング(5~30分) 通常、1~数回のフォローアップカウンセリングを行う 対象は多量飲酒者、依存症者は専門治療が必要 治療の目標は、断酒ではなく減酒のことが多い 教育を受ければ、簡易介入は誰でも実施可能である ワークブックなどの教材を使用すると効果的である 飲酒日記をつけることが推奨される 減酒指導には、通常、簡易介入というやり方が使われます。簡易介入は、短時間の個別カウンセリングで、通常1回から数回程度のカウンセリングです。対象は多量飲酒者で、依存症者は専門治療が必要となっています。そのため、治療目標は、断酒ではなく減酒となることが多いです。教育を受ければ、誰でも実施可能ですが、より効果を上げるためには、 ワークブックなどの教材を使用すること、特に飲酒の記録である飲酒日記をつけることが推奨されています。
簡易介入の効果 過去7日間の飲酒量(ドリンク) (ドリンク数) ** ** ** このように減酒指導は特殊な技術や難しい訓練が必要なものではありません。それでも減酒に有効であることが証明されています。これは日本で行われた調査ですが、インターネットで募集した集団に、片方はパンフレットを渡すだけの介入を行い、もう片方のグループには、最初と1か月後の2回、簡易介入を行った結果です。これで見てわかるように簡易介入を行った群では、1年後たっても、1週間の飲酒量が約半分になっています。 ** P < 0.01. 介入前との比較.
過去4週間の多量飲酒日数 (多量飲酒日数) ** ** ** ** P < 0.01. 介入前との比較. 同じ調査の多量飲酒日数の変化を示したグラフです。簡易介入を行った群では、介入前に比べて約2/3に多量飲酒日数が減少しています。 ** P < 0.01. 介入前との比較.
減らすための方法 1.飲酒目標を決める 2.飲んだ量を記録する (+血圧や血液検査の結果も記録する) 1.飲酒目標を決める 2.飲んだ量を記録する (+血圧や血液検査の結果も記録する) 減酒指導の柱は、一つが飲酒目標を立てることと、もう一つが飲んだ量を記録することです。
飲酒日記 自分の飲酒習慣を変えたいと思っている方は、毎日の飲酒を正直に記録していくことが手助けになります。 自分が立てた目標を記録することで、少しずつ目標に向かっていることが確認でき、励みにもなります。 ここでまず、あなたが立てた飲酒目標を確認しましょう。 私の飲酒目標は です。 ( ) 週目 飲んだ種類と量 飲んだ状況 飲酒目標 達成 月 日( ) 月 日( ) 月 日( ) 月 日( ) 飲酒日記の例を示します。対象者に合わせてアレンジしていきましょう。
うまくいく目標の立て方 具体的な目標 (例: 1日缶ビール2本など) 無理はしない ・γGTPは1か月やめると約半分に減ります。 具体的な目標 (例: 1日缶ビール2本など) 無理はしない ・γGTPは1か月やめると約半分に減ります。 ・血圧も飲酒量を減らすと3週間で約10下がります。 ・3週間でぐっすり眠れるようになります。 うまくいく目標の立て方としては、飲酒量や頻度などの数値目標のほうが、評価や判断がしやすく、より好ましいでしょう。目標は、対象者ご本人に立ててもらいますが、介入する側からも、減酒目標を達成することにより対象者の健康にどのような変化があるか、具体的なアドバイスを行い、対象者のモチベーションを上げていきましょう。
BIの6要素(FRAMES) 要 素 説 明 Feedback アルコール関連問題の正確な現実を、本人にフィードバックする。 要 素 説 明 Feedback アルコール関連問題の正確な現実を、本人にフィードバックする。 Responsibility アルコール関連問題の改善に関する責任が本人にあることを強調する 。 Advice 明確な助言をあたえる 。 Menu 複数の飲酒行動改善方法を紹介する 。 Empathy 介入者が対象者に対して共感的態度をとる 。 Self-efficacy 飲酒行動の改善に関して、自己達成が可能であることを理解させ、支援する。 また簡易介入ではフレームス(FRAMES)という要素を重視しています。FRAMESとは、Feedback,Responsibility,Advice,Menu,Empathy,Self-efficacyの頭文字をとったものです。
FRAMES法 ブリーフインターベンションの基本要素 1) Feedback (フィードバック) スクリーニングテストで明らかになった飲酒及びそれに 関連した問題について 飲酒に関連した対象者自身の危険について 飲酒に関連する危険や害についての一般的な事柄 対象者の悩みと飲酒が関連していれば、その関連について 最初はFeedbackのFです。「Feedback」とは、この場合、対象者にスクリーニングテストで明らかになった飲酒の問題や、飲酒に関連した対象者自身の危険、飲酒に関連する危険や害についての一般的な事柄などについて対象者に説明し理解してもらうことを指しています。特に対象者の悩みと飲酒が関連していれば、そのことを重点的に説明していきましょう。スクリーニングテストで明らかになった飲酒及びそれに関連した問題、飲酒に関連した対象者自身の危険、飲酒に関連する危険や害についての一般的な事柄、対象者の悩みと飲酒が関連していればその関連について対象者にフィードバックしていきましょう。その際には、脅しにならないように、冷静な口調で事実のみを淡々と伝えるようにしてください。また対象者が気にしていることがありましたら、そのことと飲酒との関連についてより重点的に伝えるようにしましょう。たとえば、血圧を気にしている方でしたら、アルコールも原因ということを伝えていきましょう。
FRAMES法 ブリーフインターベンションの基本要素 2) Responsibility (自己責任) 行動に関する責任は、対象者自身にある 飲むも飲まないも決めるのは、対象者自身である 次はResponsibilityのR、自己責任です。飲酒に関する責任と決定権は本人にあります。飲むも飲まないも決めるのは対象者自身であり、医療や保険の側には決定権もなければ責任もありません。保健指導というと、ともすれば、目標を押し付ける形になりがちですが、それでは、対象者自身の責任感は得られず、その場をどうしのぐかで終わってしまいます。対象者の行動に責任を持てるのは、対象者自身しかいないわけですから、そのことを強調しましょう。つまり飲むか飲まないかは対象者自身が決めることなのです。
FRAMES法 ブリーフインターベンションの基本要素 3) Advice (アドバイス) 飲酒を続けたらどのような害が生じるかはっきり伝える 酒量を減らしたり止めたりすれば、どのようなメリットが 期待できるかについても積極的に伝えましょう 3番目が、AdviceのAです。 飲酒を続けたらどのような害が生じるかはっきり伝えていきましょう。ただ、それだけでは、単なる脅しととらえがちなので、酒量を減らしたり止めたりすれば、どのようなメリットがあるかについても積極的に伝えましょう。対象者はネガティブなメッセージに対しては、これまでさんざん聞かされており、反応が乏しいことが多いですが、ポジティブなメッセージには興味、関心を示してくれることが多いです。
FRAMES法 ブリーフインターベンションの基本要素 4) Menu of alternative change options (他の選択肢) 飲酒を減らしたり止めたりするための代替え方法を提示する 対象者には最も自分の状況に適した方法を選ばせる 対象者は自分で選ぶことで責任を感じる 次はMenu of alternative change optionsのM、他の選択肢を表しています。。対象者にとって、飲酒は、単なる嗜好品ではなく、ストレス解消法だったり、娯楽だったり生活の中で重要な役割を果たしています。飲酒に変わる方法を見つけてもらいましょう。その際には、こちらから押し付けるのではなく、複数の選択肢の中から、対象者の状況に適した方法を対象者自身に選んでもらいましょう。そのことで責任も感じ、意欲も高めることができます。
FRAMES法 ブリーフインターベンションの基本要素 5) Empathy (共感) 介入を行う者が、理解や同情を示しながら接すること 次がEmpathyのE、共感です。保健指導というと、介入する側が上から目線で、対象者に指導を行う形になりがちですが、それでは、表面的なやり取りに終わってしまいます。介入を行うものが、対象者に対し、対等の立場で理解や同情を示しながら接することで、対象者もこちらの話に耳を傾けてくれます。共感はあらゆる指導の基本であると同時に、最も難しい要素でもあります。対象者に共感できるポイントがないか、常に意識していきましょう。
FRAMES法 ブリーフインターベンションの基本要素 6) Self-efficacy (自己効力感) 変わることができるという対象者の自信を高めること 自分にできそうだという自信がある程、変化することが できる 最後が、Self-efficacyのS,自己効力感です。人が、これまでの習慣を変えるためには、できる!という感覚、自信がとても重要です。減酒指導の研究でも、減酒に成功するかどうかは、自己効力感が最も重要であることが報告されています。自己効力感を高めるために、対象者を積極的に肯定し、褒めることが重要です。また、そのためのテクニックとして、過去の成功体験について質問するのも有効です。たとえば、ダイエットや禁煙の経験があれば、それについても聞いてみましょう。
減酒支援のポイント ◆FRAMES ◆フォローアップ支援は2~4週間後。 必要なら追加支援 ◆減酒できてなければ、再度のチャレンジを 支援