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第6時限 研究活動と知的財産(3) 発明は誰のものか 第6時限 研究活動と知的財産(3) 発明は誰のものか

第6時限 目次 6-1 発明者と特許を受ける権利 6-2 特許を受ける権利の承継 6-3 特許を受ける権利がないとき 第6時限 目次 6-1 発明者と特許を受ける権利 6-2 特許を受ける権利の承継 6-3 特許を受ける権利がないとき 6-4 特許を受ける権利を有する者が複数の場合 6-5 職務発明 6-6 職務著作

発明者と特許を受ける権利 6-1 誰が考えたか 誰が開発したか 誰が完成させたか 誰を発明者として出願するか (★誰が「発明者」となるか) 着想 研究 発明 出願 権利発生 誰が考えたか 誰が開発したか 誰が完成させたか 誰を発明者として出願するか (★誰が「発明者」となるか) 誰が権利者となるか ★着想~発明まで、複数の人間がかかわるとき、いったい誰が「発明した」といえるかが問題となる。 〔狙い〕 発明者とは誰であるか、また発明者ではない者でも特許を取得することができる場合があることを理解させる。 〔説明〕  着想から権利化までのフローチャートにおいて、誰が発明者となるか、誰が権利者となるかが争点になりやすいことについて理解させる。  まず原則として、発明者が最初から最後まで一人である場合を想定し、その場合に発明者が出願人となり特許を取得できることを確認する。  次に、学生の研究室生活を想起させた上で、着想から発明の完成までの間に多くの人が関わることを指摘し、その中で誰が発明者になるのかを考えさせる。  例外(職務発明:特許法35条)については後ほど触れる。 ※研究活動は企業や大学等の団体内で行われることが多い。各団体は研究活動に巨額の投資をしており、投下資本の回収のために、「職務発明」の制度が設けられ、また就業規則等による事前の取り決めなどがなされる。

特許を受ける権利について 6-1 発明の完成 発明者=出願できる 発明は誰のもの?(帰属の問題) 特許を受ける権利は 発明者のもの ・特許を受ける権利(特許権ではない) =発明の完成時に発生 発明は誰のもの?(帰属の問題) 発明の完成 (特許を受ける権利の発生) 特許を受ける権利は 発明者のもの 発明者=出願できる 特許法29条  産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。   特許法33条  特許を受ける権利は、移転することができる。 ☆特許を受ける権利は移転可能 (発明者から権利を承継した者が出願できる) ⇒次スライド ※発明者とは、その発明が解決しようとする課題、すなわち、発明の着想と、その課題を解決するための具体的な手段、方法の創作に貢献をした人をいう。 →ただし、個別具体的な判断となりがち。 〔狙い〕 「発明が誰のものか」という点の基本的な理解を教授する。 〔説明〕 「発明者」  特許を受ける権利は、発明の完成により発生。これを有する者が出願し特許を受けることができる。通常は発明者が特許を受ける権利を有し(特許法29条1項)、出願して特許を受けることができる。  発明は人間の事実的な創作活動であるから、発明者は必ず自然人である「人」に限られ、「会社」等の法人はなり得ないことを質問するとよい。  また、具体的な発明者の基準について、Qを念頭に検討してみること。  いずれも原則として発明者に該当しないというのが通常の考え方である。  特許を受ける権利を譲ることで、発明者以外が出願して特許を受けることができる場合がある、これは次のスライドで説明する。 Q 以下の例について考えてみよう ①発明に関する実験をするために、必要となる研究設備を提供した人 ②研究者に対して、発明についての一般的なアドバイスをした人 ③研究費用を提供した人

特許を受ける権利の承継 6-2 発明者しか特許を受けることはできないの? →特許を受ける権利は移転可能である。 →発明者は、特許を受ける権利を他人に契約または相続その他の一般承継に より移転することがで きる(特許法33条第1項)。 承継人:特許を受ける権利を発明者から購入したり相続したりした者 Ex. 発明家から特許を受ける権利を購入する場合 Ex. 死亡した発明者の財産を子供が相続する場合 Ex. 受託研究の際に成果物を委託者に移転する場合 →承継人として、特許出願をして特許を受けることができる。 〔狙い〕 特許を受ける権利の承継により、発明者以外が特許を受けることができる場面を説明する。 〔説明〕 「承継人」  発明者は、この特許を受ける権利を他人に譲り渡すことができる。発明者から権利を譲り受けたり相続した人のことを「承継人」と呼ぶ。  法人も特許を受ける権利を発明者から譲り受け、特許出願することができる。  これによって、特許権にして売却するよりも早くお金を回収することができる。  ちなみに、特許を受ける権利を譲渡した後の発明者は出願しても特許を受けることができない。これは冒認出願に該当する。 出願 ↑ 発明者 → 承継人

特許を受ける権利がないとき(1) 6-3 →冒認(ぼうにん)出願に該当する。 特許法第29条第1項  産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。 発明者やその承継人が特許を受ける権利を有し、出願して特許を受けることができる 。 →特許を受ける権利がない者が他人の発明について出願したときは? →冒認(ぼうにん)出願に該当する。 冒認出願(特許を受ける権利がないのに出願して特許を受けようとすること)は許されない。 Ex. 発明者が出願した後に、こっそり特許を受ける権利の譲渡契約書等を偽造して権利を譲り 受けたことにしてしまうケース Ex. 発明者の研究資料を盗み見て、発明者の出願前にその内容で冒認者が自ら出願してしま うケース ⇒いずれも、特許を受ける権利の無い者による出願=冒認出願になる。 ⇒冒認出願は拒絶され特許を受けられない(拒絶理由に該当する。特許法第49条第7項) 〔狙い〕 特許を受ける権利の無い者が出願した場合を理解させる。 〔説明〕  ここまで発明者やその承継人等、特許を受ける権利を有する者が出願して特許を受けることができる、というルールについて説明してきたが、では特許を受ける権利を有しない者が出願したらどうなるのか、という問題をここで扱う。  それは冒認出願と講学上指摘され、拒絶理由を有し特許を受けることができないことを指摘する。  したがって、他人の発明を勝手に自己の発明として出願することは許されないことを指摘し、発明者の権利を尊重する意味を法律上の制度からも理解させる。

特許を受ける権利がないとき(2) 6-3 特許法第29条第1項  産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。 特許庁が冒認出願であることに気付かず審査を進めている… ⇒真の権利者(発明者やその特許を受ける権利を承継した者)はどうする!? ※自分も別に出願する ⇒冒認出願の出願公開により新規性を喪失しているおそれがある。 〔狙い〕 特許を受ける権利の無い者が出願し、それに特許庁が気付かず審査を進めている場合について説明する。 〔説明〕  特許庁も完全ではなく、特に冒認の有無のような私人間の事情は把握しづらい。そのため、往々にして冒認出願であることに気付かず審査が進むことがある。その場合に真の権利者としてどのような対応が可能か、学生に議論させつつ、確認訴訟による対応を紹介する。 ◎そこで、冒認出願を自分のものとする ⇒特許を受ける権利を有しているのが自分であることを裁判では っきりさせて、特許庁に出願人の名義を冒認者から真の権利者に 変えるよう申請する。

特許を受ける権利がないとき(3) 6-3 特許法第29条第1項  産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。 特許庁が冒認出願であることに気付かず特許登録してしまった… ⇒真の権利者(発明者やその特許を受ける権利を承継した者)はどうする!? ①冒認出願についての特許は無効にされ得 る(無効理由に該当する。特許法123条1項6 号) ⇒無効審判を請求して、特許権を消滅させる 。 ⇒特許権がなくなるので、誰でも特許発明を 実施できるようになる。 ②冒認出願について登録された特許権を移転 させる(特許法74条)。 ⇒冒認出願に係る今の特許権者に対して、特 許権を真の権利者に移転するよう請求するこ とができる。 ⇒特許権は真の権利者のものとなり、特許権 者だけが実施することができる。 〔狙い〕 特許を受ける権利の無い者が出願し、更に登録されてしまった場合について説明する。 〔説明〕  更に、冒認出願されていることに真の権利者が気付かず、実際に冒認者に誤って特許登録がされてしまった場合にどのような手段があるか、説明する。  無効にするか取り戻すかで結果に差が生じるため、どちらが有利か学生に考えさせることもよい(取り戻し請求の欠点としては、特許料の納付等が考えられよう)。  また、以上のように冒認出願を許すと大変なことになるため、出願まで秘密を守ることの重要性についても再確認させる。

特許を受ける権利を有する者が複数の場合(1):特許を受ける権利の共有 6-4 特許を受ける権利を有する者が複数の場合(1):特許を受ける権利の共有 Ex. 共同研究の場合  発明者の定義の例:発明の着想と、その課題を解決するための具体的な手段、方法の創作に貢献をし た人。 ⇒共同研究に携わった複数人が、この要件を満たすと考えられる。 ⇒全員が発明者に該当する。 ⇒特許を受ける権利は発明者全員の「共有」となる。 Ex. 相続の場合  発明者Aさんが死亡したため、子供のBさんとCさんが特許を受ける権利を相続した。 ⇒特許を受ける権利はBさんとCさんの共有となる。 〔狙い〕 共同発明などを例に、特許を受ける権利を共有する場合を説明する。 〔説明〕  現代の発明は、通常は複数人で創造されるものであることを確認した上で、その場合誰が特許を受ける権利を有する発明者であるかを説明する。  そして特許を受ける権利を共有する場合には、一部の者が勝手に出願したり譲渡したりすることが認められないことを説明する。 ◎特許を受ける権利の共有の場合: ①一部の者のみが出願して特許を受けることはできない(特許法第38条)⇒全員で出願する。 ②持分(共有されている権利についての自分の分け前)の譲渡も、他の共有者の同意が必要(特許法第33 条3項)。 ⇒共有ならではの規制がある。

特許を受ける権利を有する者が複数の場合(2):共同研究の注意点 6-4 特許を受ける権利を有する者が複数の場合(2):共同研究の注意点 共同研究で発明が完成! Q:研究に関わった者 のうち誰が発明者か? でも… Q:いつどのよう に出願するか? 誰が費用を負担 するか? Q:誰がどの程度発 明に寄与したか?( 特許を受ける権利の 共有持分に影響) …etc 〔狙い〕 共同発明において処理に困る点を理解させる。 〔説明〕  今までの知識を駆使して、発明者の認定や共有に係る問題点等を列挙した上で、共同研究においてそれらの事項を決めずに開始することが危険であることを理解させる。  その上で、事前の契約においてそれら(あるいはその決定方法)を明らかにしておくことの重要性を指摘する。 ⇒共同研究を始める前に、契約によってこれらの決定(あるいは決定方法)を明らかにして おくことが望ましい。 ⇒共同研究契約の重要性

特許を受ける権利を有する者が複数の場合(3):先願 6-4 特許を受ける権利を有する者が複数の場合(3):先願 複数人が各人独自に同じ発明をした場合   ⇒特許を受ける権利はそれぞれにある。 ⇒全員が同じ発明について出願して特許を受けることができる? ×特許は排他的な権利(自分だけが 独占し、他人に実施させない権利) ⇒複数人が同じような権利を持つわ けにはいかない。 ⇒先に出願した者のみが特許を受けることができる(特許法39条) =先願主義 同一発明について、2以上の出願があったときには、先に出願した 者に対して特許が付与される(先願主義)。 ※ 先に発明した者を優先する先発明主義もあるが、採用されていない。 ※ なお同日出願のときは協議して一人を決める。 〔狙い〕 同じ発明を複数人が別個に行った場合について理解させる。 〔説明〕  色々な研究機関が同様の研究について競争している場合、同様の発明に至ることもある。そのような場合に誰が特許を受けることができるのか、という点について説明する。  もちろん、全員が特許を受けることができるとする回答もありうるが、その場合の不都合を指摘し(ダブルパテント)、一人に権利者を決める必要性があることを理解させる。  その上で先願主義について説明し、必要に応じて先発明主義と対比させる。

第6時限 目次 6-1 発明者と特許を受ける権利 6-2 特許を受ける権利の承継 6-3 特許を受ける権利がないとき 第6時限 目次 6-1 発明者と特許を受ける権利 6-2 特許を受ける権利の承継 6-3 特許を受ける権利がないとき 6-4 特許を受ける権利を有する者が複数の場合 6-5 職務発明 6-6 職務著作

職務発明制度の意義 6-5 職務発明制度 本来、発明者(=従業者)が特許を受ける権利を有する      使用者(=会社)が特許を受ける権利を有するのではない。 しかし、発明・実用化には、使用者も研究費、研究設備の提供等で発明の完成に貢献 使用者 (会社) 従業者 発明 研究費、研究設備等の提供 (発明に対する一定の貢献) 〔狙い〕 職務発明制度の意義について理解させる。 〔説明〕 研究について企業や大学等の使用者はリスクを引き受け、当該研究はその使用者の資本(研究施設、研究材料等)を用いてなされることから、研究の成果である発明、その特許を受ける権利の帰属について、調整がなされていることを理解させる。 発明から生じる権利、利益を従業者、使用者でバランス良く配分することが必要 利益の配分の観点からは、発明による技術的優位だけでなく、営業による寄与、企業のブランド価値による影響も考慮する必要がある。 職務発明制度

再掲:特許を受けることができる者 (発明は誰のものか) 6-5 再掲:特許を受けることができる者 (発明は誰のものか) 発明の完成 =「特許を受ける権利」 の発生 「特許を受ける権利」は 発明者が持つ 原則 発明者が出願し、 権利者となる ※「特許を受ける権利」は譲り渡すことができる。 研究・開発に業務として従事する、企業や大学等の研究者の場合 Q. 職務発明(特許法35条)にあたるか ・従業者等が権利を取得する。 ・使用者等は特許を利用する権利(通常実施権)を取得する。 NO YES NO 〔狙い〕 特許制度において発明をした人がどのような権利を取得するのか、またその調整規定について理解させる。 〔説明〕  概論で一度触れた点であるが、ここではより詳細な説明を行う。  まず、上段で再度、発明者が特許を受ける権利を有し、出願という手続きを経て特許権者となるという原則を確認させる。  その上で、例外としての「職務発明」という概念を理解させる。  ここでは、職務発明の要件等(特許法35条)については企業の従業員がなした発明を念頭に置きつつ説明する。 ※参考事例 事例:オリンパス光学事件(最判平成15年4月22日民集57巻4号477頁) 職務発明 Q. 特許を受ける権利の使用者等への承継に関する定めがあるか(例:職務発明規程、就業規則等) ・使用者等が権利を取得できる。 ・従業者等は、使用者等に対し、相当の対価を請求できる。 ※大学と雇用関係のない学生は   職務発明にはあたらない YES

職務発明となるには 6-5 ①従業員がした発明 ②会社の業務範囲に属する発明 ③従業員の職務に属する(または属した)発明 具体例 薬品会社C社で働くDさんがC社研究所で新たな薬品物質を発明 ①発明したのはDさん ②薬品の開発は薬品会社Cの業務範囲 ③Dさんは研究所勤務なので薬品開発はDさんの職務範囲 〔狙い〕 職務発明に該当するための要件を理解させる。 〔説明〕  企業に勤めている者がなした発明の全てが職務発明に該当するわけではなく、職務発明に該当するためには、3つの条件を満たす必要があることを説明する。  また、使用者等からの具体的な指示がなくても職務発明になりうることなどに言及する事も考えられる。  (大学での発明について検討する事も考えられるが、研究室内の処理を確認してから行うこと。) 職務発明

発明をするに至った行為が従業員の現在または過去の職務に属する発明 6-5 従業者による発明の種類 会社の業務範囲に属し、職務発明でない発明 (例)自動車会社の営業マンがエンジンの発明をした場合 <従業員の発明> 職務発明 会社の業務範囲に属し、 発明をするに至った行為が従業員の現在または過去の職務に属する発明 職務発明 業務発明 会社の業務範囲に属さない発明 (例)自動車会社の従業員が勤務時間外に楽器の発明をした場合 〔狙い〕 職務発明に該当する範囲について、特に自由発明等との関係で説明する。 〔説明〕  1つ前のスライドにて職務発明に該当するための要件について説明したが、企業の従業員となる学生が多いことに鑑みて、企業の従業員が行った発明の内何が職務発明制度の対象になるのかを具体的に検証する。 ※なお企業によっては、業務発明については、発明の届出義務を課し、当該業務発明をなした従業者との間で発明の取扱いに関し優先的に交渉を行うこととしている例も。 自由発明 ●職務発明か業務発明か判断は困難な場合も多いので、業務範囲に属する発明をした場合は届出をさせ、職務発明か否かの審査をする企業も多い。

職務発明に該当した場合の効果 6-5 使用者等 従業者等 ポイント! 〔狙い〕 職務発明に該当した場合の効果について理解させる。 〔説明〕 ポイント!                                                        1. 職務発明に係る「相当の対価」を使用者・従業者間の「自主的な取決め」にゆだねることを原則 2. 対価の決定プロセスで、実質的手続が履行・実践されていないなど、「自主的な取決め」によることが   不合理であれば、従前どおり、裁判所が「相当の対価」を算定 3. 裁判所による「相当の対価」の算定にあたっては、実質的な手続をはじめとして様々な事情を考慮   可能とする       職務発明に係る権利の包括予約承継が可能 従業者等 職務発明に係る権利を 原始的に有する 使用者等 無償の通常実施権を有する 契約、勤務規則、 その他の定めを策定 ・包括予約承継手続 ・対価の支払い 策定に関与 策定 〔狙い〕 職務発明に該当した場合の効果について理解させる。 〔説明〕 ①無償の通常実施権 ②勤務規則等による権利の予約承継 ③相当の対価の支払い の三点が効果として規定されていることを指摘する。 当事者間で、 対価を決定 定めによる対価を支払う

使用者は一方的に権利の取得を規定できる。 6-5 職務発明規程・就業規則 大学・企業内 使用者は一方的に権利の取得を規定できる。 ↕ 従業者は対価の取得 研究・開発 発明の完成 →特許を受ける権利の発生 職務発明規程 就業規則  その 帰属が問題となる 〔狙い〕 職務発明における職務発明規程・就業規則等の定めの意義について理解する。 〔説明〕  職務発明規定等により、使用者による一方的な承継が可能である点に注意しなければならない。従業者の同意は不要である。  他方で、従業者は相当の対価を取得することができ、これによって企業に権利が移転し、従業員は金銭的に報われるという調整がなされていることを確認させる。  その対価の額について、使用者と従業者に与える影響について議論させる事が考えられる。 ※参考事例 事例:青色発光ダイオード事件終局判決(東京地判平成16年1月30日判時1852号36頁) →特に莫大な賠償金額:一部請求であることを前提に200億円

(参考)事例 日亜化学:青色発光ダイオード事件 6-5 (参考)事例 日亜化学:青色発光ダイオード事件  200億円支払い命令(相当の対価は604億円) 判決における「相当の対価」の計算 ①1997年(設定登録)~平成2010年(期間満了)までの日亜化学の青色LEDの推定売上高:1兆2086億円 ②本特許を競合他社にライセンスした場合、競合他社による売上高(本特許の貢献度):①の50% ③ライセンスした場合のロイヤリティ(実施料率):売上高の20% ④本特許による独占によって得た利益:①×50%×20%=1208億円 ⑤中村氏の貢献度:50% ⑥相当の対価:④×50%=604億円 押圧ガス(不活性ガス) 反応ガス サファイア基板 この間、日亜化学は、米Cree社、ローム社とも特許紛争 1989年    日亜化学 中村修二氏 青色LEDの開発、量産技術の確立に成功 ~1993年   製造方法、素子構造等について相次いで特許出願 1996年 8月 青色LEDの特許権を巡り、日亜化学と豊田合成の訴訟合戦が始まる(侵害           訴訟、無効審判) 1999年12月 中村氏 日亜化学を退社し 米UCSB校教授へ 2000年12月 日亜化学 中村氏を企業秘密漏洩の疑いで米連邦地裁へ提訴 2001年 8月 中村氏 日亜化学に対し、特許権(特許2628404号)の中村氏への帰属と相当の対価(20億円)の           支払い求めて提訴  2002年 9月 日亜化学と豊田合成の特許紛争が和解 2002年 9月 東京地裁 404号特許は日亜化学に帰属するとの中間判決(中村氏の主張を却下) 2002年10月 米連邦地裁 中村氏を企業機密漏洩で訴えた日亜化学の請求を棄却 2003年 1月 東京地裁 日亜化学に対して200億円の支払命令 〔狙い〕 実際の事例を見て職務発明制度について理解してもらう。 〔説明〕 なお、改正前職務発明制度の適用事案であることに注意すべきである。

(参考)事例 日亜化学:青色発光ダイオード事件 6-5 (参考)事例 日亜化学:青色発光ダイオード事件  2004年12月 東京高裁 双方へ和解勧告(和解が成立しなければ、判決) 2005年 1月 東京高裁 和解成立(日亜社員時代の全ての特許に対し、6億800万円+遅延損害金 約2億3千円=8億4000万円を支払う) 発明者(中村修二氏)の履歴など(東京地裁判決より) 1979年  徳島大学工学部修士課程卒業後,日亜化学工業(株)に就職 1988年  米国留学(有機金属気相成長法(MOCVD)の研究)。 1989年  帰国(MOCVD装置を用いて,GaN(窒化ガリウム)の結晶膜成長に関する         研究をスタート) 1990年  本件発明(ツーフロー方式MOCVD)を完成、出願 1990年  出願補償金(1万円)の受領 1991年  GaN系化合物半導体の結晶成長方法に係る発明         p型GaN系化合物半導体の製造方法に係る発明 1993年  ダブルへテロ構造の青色LEDの製品化 1995年  量子井戸構造の発光層を有する高輝度LED及びLDの製品化 1997年  本件特許の登録補償金(1万円)の受領 1999年  退職、米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授 2001年  職務発明に対する「相当の対価」200億円の支払いを求めて東京地裁に提訴 〔狙い〕 企業における発明の現実を紹介する。(以降ページに、地裁判決や新聞記事出典を記載) 〔説明〕 事件の流れを紹介しながら、企業で発明することのインパクトを紹介する。

(参考)事例 日亜化学:青色発光ダイオード事件 6-5 (参考)事例 日亜化学:青色発光ダイオード事件  参考記事:2004/01/31  日本経済新聞 朝刊  3面         2004/01/31  日本経済新聞 朝刊  35面  東京地裁判決(抜粋)平成16年1月 ・ 「本件は,当該分野における先行研究に基づいて高度な技術情報を蓄積し,人的にも物的にも豊富 な陣容の研究部門を備えた大企業において,他の技術者の高度な知見ないし実験能力に基づく 指導や援助に支えられて発明をしたような事例とは全く異なり,小企業の貧弱な研究環境の下で, 従業員発明者が個人的能力と独創的な発想により,競業会社をはじめとする世界中の研究機関 に先んじて,産業界待望の世界的発明をなしとげたという,職務発明としては全く稀有な事例であ る。このような本件の特殊事情にかんがみれば,本件特許発明について,発明者である原告の貢 献度は,少なくとも50%を下回らないというべきである。」 ・ 「被告会社が本件特許発明を独占することにより得ている利益(独占の利益)は,1208億6012万 円と認められる。」 ・ 「本件特許を受ける権利の譲渡に対する相当対価の額(特許法35条4項)は,被告会社の独占の 利益1208億6012万円に発明者の貢献度50%を乗じた604億3006万円となる。 〔狙い〕 企業における発明の現実を判決や新聞記事などから読み解く。 〔説明〕 金額等を紹介しながら、企業で発明することのインパクトを紹介する。

(参考)事例 日亜化学:青色発光ダイオード事件 6-5 (参考)事例 日亜化学:青色発光ダイオード事件  東京高裁の和解見解 平成17年1月 ・被控訴人の控訴人に在職中のすべての職務発明の特許を受ける権利の譲渡の相当の対価に関す る将来の紛争も含めた全面的な解決をするため,和解の勧告をする次第である。 ・職務発明の特許を受ける権利の譲渡の相当の対価は,従業者等の発明へのインセンティブとなるの に十分なものであるべきであると同時に,企業等が厳しい経済情勢及び国際的な競争の中で,こ れに打ち勝ち,発展していくことを可能とするものであるべきであり,さまざまなリスクを負担する企 業の共同事業者が好況時に受ける利益の額とは自ずから性質の異なるものと考えるのが相当で ある。 ・これまでの裁判例等において,職務発明の特許を受ける権利の譲渡の相当の対価が1億円を超えた 事例は現在までに2例(①東京高裁日立製作所事件判決:相当の対価1億6516万4300円,た だし,使用者の貢献度8割,共同発明者間における原告の寄与度7割,②東京地裁味の素事件判 決:相当の対価1億9935万円,ただし,使用者の貢献度95%,共同発明者間における原告の寄 与度5割)があり,……裁判所も,被控訴人の職務発明の全体としての貢献度の大きさをこれまで に前例のない極めて例外的なものとして高く評価するものであり,同時に,それでもなお,その「相 当の対価」は,特許法35条の上記の趣旨及び上記2例の裁判例に照らし,上記金額を基本として 算定すべきであると判断するものである。 ・「発明がされるについて使用者等が貢献した程度」については,特許法35条の上記立法趣旨,上記 2例の裁判例,及び本件が極めて高額の相当の対価になるとの事情を斟酌し,95%を相当とした ものである。

補論:職務著作 6-6 著作者とは、著作物を創作したものをいう 原則、創作したものが著作者となる。 職務著作 要件① 法人等の発意に基づく 例外として、         (企業内創作に顕著)の場合、企業等が著作者となる。 職務著作 要件① 法人等の発意に基づく 要件② 法人等の業務に従事する者 要件③ 職務上作成 要件④ 法人等が自己の著作の名義の下に公表する Ex 〔狙い〕 著作者は著作物を創作した者であることを前提に、職務著作(著作権法15条)を説明する。 〔説明〕 例えば、新聞記者によって書かれた新聞記事や、公務員によって作成された各種の報告書などのように、会社や国の職員などによって著作物が創作された場合などは、その職員が著作者となるのではなく、会社や国が著作者となる場合がある。特にプログラムの著作物に関しては、公表が不要であることを学生に意識させる。 ※参考事例 事例:RGBアドベンチャー事件(最判平成15年4月11日判時1822号133頁) 新聞社が記者に記事の執筆を指示した場合 ①新聞社が指示したことから、新聞社の発意といえる。 ②記者は新聞社に雇用されている ③記者の職務は記事執筆 ④新聞記事は新聞社の名義で公表される (プログラムの場合④は不要) 24

補論:職務著作 職務発明 職務著作 6-6 対象 発明 著作物 要件 発明者・著作者 従業員 会社 就業規則等の定め 必要 不要 相当の対価 従業者が発明 使用者の業務範囲 従業者の職務範囲 法人等の発意 従事者が職務上作成 会社の名義で公表 (プログラムを除く) 発明者・著作者 従業員 会社 就業規則等の定め 必要 不要 相当の対価 〔狙い〕 職務著作と職務発明の違いを理解させる。 (ただし、著作権制度の概論を勉強してからのほうが良い場合は、後回しにする) 〔説明〕  職務発明と違い、職務著作の場合、規則等がなくとも自動的に法人等が著作者となることに注意する(著作権法15条)。  職務著作には特許法35条4項、5項(相当対価請求権)に対応する規定がないことも説明する。