所属集団を変更できる 社会的ジレンマ実験(1) その意義と実験手続き 大浦宏邦(帝京大学) ○石原英樹(早稲田大学) 小林盾(シカゴ大学)
社会的ジレンマ 社会的ジレンマ:囚人のジレンマのn人版 個人の利益最大化行動 集団で望ましい結果 ・・・一致しない 利得 非協力者の利得 協力者数
選択的プレイ Dawes (1991) cognitive miser →プレイ履歴と関係なく、C傾向ある人は「ゲームをする」選択をする可能性大 林(1993) out-for-tat →プレイ履歴をもとにつきあう相手を指名 集団内のPDで協力が進化する可能性
コメント これらのモデルの前提は 「2者PD関係の集合」=社会 非協力者の侵入可能性(サンクション十分に機能しない) →社会的ジレンマではない 非協力者の侵入可能性(サンクション十分に機能しない)
仮説 3者以上のPD(社会的ジレンマ)状況でも (1) 選択的プレイが可能ならば (2) サンクション有効でなくても (1) 選択的プレイが可能ならば (2) サンクション有効でなくても 協力を進化させる戦略が存在?
スクランブル・トリガー戦略(ST) 二つの戦略を統合した戦略が存在? 一つの集団内で ・最初は協力 一つの集団内で ・最初は協力 ・協力率がある程度以下に下がった ら非協力 (tit for tat あるいは trigger) 移動可能時には・・・ ・現在の集団の協力度が低いと、他に移動
procedures, sample sizes CGIを用いた実験(PC端末/既存ブラウザ)でn人PD+選択的プレイ状況 2大学で2002年冬に実施(被験者:学生) 1回の実験の被験者数:15人~20人 被験者には、ゲームでの得点に比例した報酬を金銭で支払う (最初に予定した報酬総額を比例配分) 「企業で働く・転職する」と言う「カバーストーリー」を提示 匿名性
Sample pool 実験情報を大学に掲示し、大学生を被験者とする 「意思決定にかんする社会心理学実験」 1時間30分 実験情報を大学に掲示し、大学生を被験者とする 「意思決定にかんする社会心理学実験」 1時間30分 1500円~2000円 (時給1000円以上)
事前質問紙 問1 次のような考え方についてあなたはどう思いますか。あなたの考えにもっとも近い数字に○印をつけてください。 問1 次のような考え方についてあなたはどう思いますか。あなたの考えにもっとも近い数字に○印をつけてください。 全くそう思わない そう思わない そう思う 強くそう思う 1.ほとんどの人は基本的に正直である 1 2 3 4 5 6 7 全くそう思わない そう思わない そう思う 強くそう思う 2.私は人を信頼するほうである 1 2 3 4 5 6 7 3.他人との付き合いでは、いくら用心しても 1 2 3 4 5 6 7 しすぎることはない
事後質問紙 5.あなたが実験中にとくに長く続けて働いたと思う会社の人たちについて、質問します。その人たちはどんな人たちだと思いますか。それぞれあてはまる数字に○印をつけてください。 1)信頼できない 信頼できる 1 2 3 4 5 6 7 2)非協力的 協力的 3)好ましい 好ましくない 4)熱心な 不熱心な
実験風景
インストラクション(抜粋) 「ビジネスゲームについて」 パソコンの画面上で,マウスだけを使った「ビジネスゲーム」をしてもらいます. 他の人と相談できません.会話やひとりごとは,しないでください.他の人の画面も,見ないでください. (→プロトコル・データはとっていない)
シム・アイランドは今話題のビジネスアイランドで,あなたはここで一旗あげようと約3年の予定でやってきました.島には現在4つの会社があって,社員を募集しています.(略) 島に着くとまず,A社,B社,C社,D社と4つある会社のどれかに,コンピュータがあなたを配属します. 1年目の4月から,勤務が始まります.あなたは毎月,熱心に働くかあまり熱心に働かないかを選びます.どちらを選ぶかで,あなたの成績が変わります.
半年に一度転職のチャンスが訪れて,自由に所属会社を変えることができます.(・・・) 3年目を過ぎると,(・・・)島での成績(1シム = 約10円)と退職金を手にして,気をつけて帰国してください(謝礼はゲームの成績に比例します). つぎの2つの意思決定だけをしてもらいます. 毎月...熱心に働くか,そうではないか. 半年に一度...A社,B社,C社,D社のどこで働くか.
毎月の利益 毎月,下の「今は何年何月です」という画面が出ます. まず働き方を選ぶ つぎに送信する
左画面と右上画面のデータを参考にして,右下画面で熱心に働く(熱心度4)かあまり熱心に働かない(熱心度0)かを,選んでください. 毎月のあなたの給料は,あなたの会社で何人が熱心に働くかで,決まります. 熱心に働くと疲れが残りやすく,疲労回復のために出費が2シムかかります.不熱心なら出費は0シムです.この出費を引いた利益が,画面に出ます.
あなたの利益 = 給料 - 出費 社員の熱心度の平均 熱心なら... 2, 不熱心なら...0.
一旦ストップし指示があるまで待つ
半年に一度の転職チャンス 3月か9月が終わると,「転職チャンス!」の画面が現れます.
左画面と右上画面のデータを参考にして,次の半年にどの会社で働くかを,選んでください.
実験の内容(通常時) 被験者は4集団のどれかに所属(最初はランダム) それぞれが個別にゲームをプレイ →結果に応じて利益 それぞれが個別にゲームをプレイ →結果に応じて利益 ゲームの選択肢:協力(C)/非協力(D) 各プレイヤーのゲームでの得点: NC:グループ内で協力を選択した人数 ND:グループ内で協力を選択した人数
実験の内容(転職時) 6回のゲームごとに1度、プレイヤーは好きな集団へと移動できる 参照できる情報: 通常の意思決定時 前集団変更後の、各集団平均利益
意思決定時に参照できる情報 各集団の所属人数 直前の回の自分の利得 自分の集団内のみ 各集団の先月の平均利益 前回のC選択者数 前回のD選択者数 各集団の先月の平均利益 前回の集団変更時から今までの各集団の平均利益
実験のプロセス 座席番号指定画面 意思決定画面(通常) 意思決定画面(転職) 終了画面 参加承諾画面(起動画面) 一定数(6回) 繰り返し (ほぼ9回) 座席番号指定画面
デブリーフィング (・・・) 社会的ジレンマは、皆が協力するとうまくいくけれども、手を抜くほうが楽である。でも、皆が手を抜くとうまくいかない状況です。(・・・) この実験は、この社会的ジレンマの解決策を探ることを目的としています。 これまで、社会的ジレンマは、頑張った人に褒美を、手を抜いた人に罰を与えると解決すると考えられてきました。確かにそれは有効な方法ですが、褒美をあげたり罰を与えたりする人が、人々の行動をよく見ていないと効果をあげることができません。
デブリーフィング(続) でも、人々が自由に自分の属するグループを変えることができるときにはうまく行っているグループに人があつまり、うまく行っていないグループからは人がいなくなって、特に褒美や罰を与えなくてもうまく行っているグループが残るかもしれません。もし、この予想が正しいなら、褒美や罰にたよらなくてもうまくいくような制度の設計ができるようになるかもしれません。 今回の実験は、この予想を確かめるために企画されました。 (・・・)
実験結果 Mean SD C .40 .24 Move .54 Payoff .80 .38 6 Sessions 111 Subjects
まとめ ST的戦略を採るプレーヤーは1/3程度存在 → ST採用によるジレンマ回避の可能性 ただし、AllDより利得は低かった。 → ST採用によるジレンマ回避の可能性 ただし、AllDより利得は低かった。 → 集団数、移動回数が少なかった可能性 tit for tatとtriggerどちらが有効か?
いくつかの課題 移動のコストは?(導入予定) 移動のタイミングが流動的ならどうなる?(シミュレーション等予定) 戦略抽出、実験システム、質問紙の分析は以降の発表参照