シリカガラスとは 福井大学工学部 葛生 伸.

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シリカガラスとは 福井大学工学部 葛生 伸

シリカガラスとは何か? シリカ = SiO2 シリカからなる鉱物の代表例 地殻の約 60 % 石英 (水晶) 岩石の主要構成成分 高温で溶融 シリカガラス

シリカガラスの特長 ・ 高純度 ・ 熱的安定性 ・ 優れた光学特性 金属不純物 <数10 ppb~数10 ppm ⇒ 半導体製造関係 高耐熱性 ⇒ 半導体製造関係 ⇒ フォトマスク   精密光学部品 低熱膨張 ・ 優れた光学特性 真空紫外~近赤外まで高透過率 ⇒ 光ファイバー   紫外線用光学材料 ・ 化学的安定性

シリカガラスの名称 英語名 日本語名 Amorphous Silica 非晶質シリカ アモルファスシリカ すべての非晶質シリカに対する総称名。非晶質シリカ薄膜をさす場合が多い。 Vitreous Silica シリカガラス (ガラス状シリカ) すべての種類のシリカガラスに対する総称名。 Silica Glass すべての種類のシリカガラスに対する総称名であるが,シリカ系ガラスの名称と紛らわしい。 Fused Silica (溶融シリカ) 本来は溶融法で作られるすべてのシリカガラスを示す。合成シリカガラスのことをさす場合が多い。不透明なシリカガラスをさす場合もある。 Synthetic Fused Silica 合成シリカガラス Fused Quartz 溶融石英ガラス 溶融石英 石英粉を溶融して作ったシリカガラス。 Quartz Glass 石英ガラス Fused Quartzと同義。 Quartz 石英 シリカの結晶形の一つ。俗にシリカガラスのことを言う場合もある。

シリカガラスの分類 電気溶融 ( I 型) 溶融 火炎溶融 ( II 型) 直接法 ( III 型) MCVD法 シリカガラス OVD法 スート再溶融法 気相 VAD法 PCVD法 合成 プラズマ法 ( IV 型) ゾル・ゲル法 液相 LPD 法

シリカガラスの分類製造方法・特性および主な用途 分   類 溶       融 合     成 種   別 (型) 電気溶融  (I) 火炎溶融 (II) 直接法(III) プラズマ法(IV) スート法 ゾル・ゲル法 LPD法 合成粉末溶融法 原  料 石  英 石 英 SiCl4 アルキルシリケート H2SiF6, シリカゲル 合成シリカ粉末 製造方法 多孔質体合成 ・アークプラズマ スート合成 ゾル→ゲル化→ 乾燥 SiO2+H2SiF6,水溶液からの析出 ガラス化 電気炉 (真空または不活性ガス中) 酸水素火炎溶融 酸水素火炎加水分解による直接ガラス化 高周波誘導プラズマ (O2, Ar+O2) 電気炉  (He中) 不純物 OH (ppm) ~10  100~300 500~1500 < 5 < 1~200 < 2 金属 (ppm) 10~100 <100 <1 < 1 < 0..1 光学的性質 紫外域吸収帯 あり なし 低OH品のみであり 赤外域吸収帯 2.7mm 小 やや大 大 なし~やや大 用   途 半導体製造  用   (炉心管,  治工具) ランプ材 半導体製造用   (炉心管,     治工具,   洗浄槽) ・シリカガラ  ス繊維 フォトマスク 光学材料  (レンズ,   プリズム) ・光ファイ  バー 光ファイー (真空紫外~近赤外) TFT基板 ・ガラス, プラスティック表面コーティング

シリカ結晶のポリモルフィズム (多像) 多数の結晶形態 20 種以上 代表的シリカ結晶の例 計算機シミュレーションで予測されているものも含め40 種以上 代表的シリカ結晶の例 (常温で安定なもの) Si O = SiO4 正四面体構造 石 英 トリディマイト クリストバライト 貫井昭彦,セラミックス20, 266 (1986)

シリカ結晶構造の例 石 英 トリディマイト クリストバライト コーサイト キータイト スティショバイト (SiO6 8面体構造) 石 英 トリディマイト クリストバライト コーサイト キータイト スティショバイト (SiO6 8面体構造) 貫井昭彦,耐火物 44, 497, 533, 596, 728 (1992)

シリカガラスと結晶の違い 結 晶 ランダムネットワーク構造 微結晶モデルによる構造 SiO4正四面体構造 O Si 結 晶 ランダムネットワーク構造 微結晶モデルによる構造 Si O SiO4正四面体構造 (作花澄夫「ガラスの事典」作花澄夫編,朝倉書店 (1935) p.5)

シリカガラスの構造 ・短距離構造 ← 中性子線,X線回折 ⇒ SiO4 正四面体構造 ・中距離構造 ← X線回折,ラマン散乱 ⇒ Si-O-Si 結合角   リング構造 中性子回折による動径分布関数 M. Misawa, J. Non-Cryst. Solids, 37, 85 (1980) Si O

ラマンスペクトルと平面環状構造 D1 495 cm-1 平面6員環構造 D1 D2 606 cm-1 平面8員環構造 D1 200 300 400 500 600 700 Intensity / arb.units Wave Number / cm -1 D1 D2 606 cm-1 平面8員環構造 D1 ●: Si, ○: O

点欠陥 ・常磁性欠陥 ・反磁性欠陥 ← 電子スピン共鳴 (ESR, EPR) ← 光吸収 ← 電子スピン共鳴      (ESR, EPR) ・反磁性欠陥 ← 光吸収 ex. ≡Si-Si≡ (163 nm [7.6 eV]) ≡Si・・・Si≡ (247 nm [5.02 eV]) D. L. Griscom, Nucl. Inst. Meth. Phys. Res, B1, 481 (1984)

常磁性欠陥の構造 R. Weeks, J. Non-Cryst. Solids, 179, 1 (1994) NBOHC パーオキシラジカル

溶融石英ガラスの粒状構造 (グラニュラリティー)

シリカガラスの熱膨張 Q: 石英結晶のα→β転移点 C: 石英結晶のα→β転移点 T1, ・・・, T5: トリディマイトの転移点 Y. Kikuchi, H. Sudo and N. Kuzuu, J. Appl. Phys. 82, 4121 (1997) W. Weiss, J. Am. Ceram. Soc. 67, 213 (1984)

C. H. L. Goodman, Phys. Chem. Glass, 26, 1, (1986) Strained Mixed Cluster Model C. H. L. Goodman, Phys. Chem. Glass, 26, 1, (1986) シリカガラス=数nmの石英,クリストバライト,トリディマイト          が乱れた領域でつながった集合体